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14話 期待どおり

 そして、アーバンには言えないけれど、本当はもうひとつ理由があった。

 あの実を採りにあのおおかみも山に入っていたんだから、ひょっとしたら山でばったりおおかみに会えるかもしれないということだ。

 変な話だけれど、僕はあのおおかみが市場で言われるような、気の荒い嫌なおおかみだということを信じたくない気持ちがあった。もう一度会えたら、ちゃんとしっかりわかるかもしれない。

 ただ、会えたとして、ひとつだけ問題があった。

 その時、おおかみがお腹をすかせていたらどうしようということだ。僕とアーバンは、おおかみが本当はどんなおおかみなのか確かめる間もないうちに、あのおおかみの胃袋に消えているかもしれない。

 いや、ちょっと待てよ。アーバンをそんな危険な目に遭わせるわけにはいかない。この計画は、全くとんでもない話なのかもしれない。あのおおかみのことなど気にかけなければいいのに。

 僕は何を考えているのだろう。


 僕は、庭先で朝方採ってきた薬草の選別をしながら、あれこれと思いを巡らせた。

 あらかたそれが済むと手を休め、顔を上げて丘の方向を眺めると、はてさて、丘の向こうからお馴染みの顔が見えてきた。

 アーバンだ。

「やあ、アーバン。」

「クロム。冬の準備はどうだい?進んでる?」

「まあ、ぼちぼちだね。」

 僕は手早く薬草を包んだ風呂敷をしまうと、アーバンをポーチのベンチへと誘った。

 ふたりで並んでベンチに腰掛けると、秋の黄金色の風が向こうの丘に吹いていくのが見えた。

「しかし、秋もあっという間だね。山の紅葉もそろそろ終わりだ。紅葉が終わるとあっという間に冬がやってくるんだよね。」

「ああ、そうだ。早く冬の準備をしないといけないとあせってくるよ。」

「そうだね。僕の方はあらかた終わりそうなんだ。」

 アーバンはいつも早めに行動を起こすタイプで、のんびりおっとりしている僕とは違って、何をするにも手が早く、あっとういまにいろんなことを片付けてしまうんだ。

 そうか、冬の準備もあらかた終わりか。それなら道案内の話も頼みやすいな。

 僕は話を振ってみた。


「それはそうとアーバン。以前、モラウル山に実を採りに行って、迷った話なんだけど。」

「ああ、そうだったよね。ん?もう一度行ってみるつもりかい?」

「うん。そうなんだ。アーバンが教えてくれた赤い実だけど、先日、市場に行ったらとっても高く売れそうなんだ。あの実が採れたら今年の冬は楽に越せそうだなあ、なんて思って。」

 アーバンは、ふふっと笑って

「一緒に行ってみるかい?僕もあの実は狙っていたんだ。」

「そうなら、話は早い。ガイド料ははずむからね。」

「いや、そんなことは気を使わなくていいよ。」

「じゃあ、冬の間にとびっきりおいしいワインとチーズを仕入れておくから、暖炉の傍で一杯なんてどう?」

「ああ、それでいいよ。クロムのワイン通は有名だからね。リーフとフォレストや、モーブも呼ぼうよ。」

「ああ、楽しみだ。」

 そんな感じであっという間に、話がまとまった。

 2日後がお天気が一番良いだろうということで、2日後に僕たちは出かけることにした。


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