12話 思い悩む
家に帰ってきた頃にはすっかり秋の日も落ちて、周りが闇に包まれつつある時刻になっていた。
僕は買ってきたマテ茶をポットで沸かし、市場で買ってきたブロックのベーコンを、ゆでたジャガイモと一緒にオーブンで焼き、ライ麦パンにブルーベリーのジャムとバターを乗せ夕ご飯を食べ始めた。
なんだか味気ない食事。いつもと同じひとりの食事。
でも、それは馴れたはずだった。母さんが亡くなってから、僕はこのあまり人気のないモラウル山の麓でひとりで生活しているんだから。僕がここにいるのは母さんと一緒に過ごしたこの家を離れたくないのもあったかもしれないし、どこか新しいところへ出て行く勇気がなかったのかもしれない。いつでもどこへでも行ける自由の身なのに、同じ環境で、同じ日常にとっぷり浸かって。
でも、それで満足しているのかというと、そうではないと思っている自分がいる。僕の性格のせいもしれない。
僕は昔からどちらかというと引っ込み思案で、心配性で、いろんなことにチャレンジしたいのに二の足を踏んで、そんな自分でいいのかと、自分で自分のことがいらいらする時もあるくせに、それでも一歩も先に踏み出せない。
例えば皆がこぞって出て行く街に行ってみれば、楽しいことやわくわくすること、何か自分に足りないものがそこにはあるのかもしれない。
でも、僕はやっぱりどこへも行かずここで過ごしている。
特に今日はあれこれと考えて、思い悩んでしまった。
それは市場でのあの出来事のせいかもしれない。
おおかみのことが気にかかっているのかもしれない。
僕は山での出来事を思い出してみた。
僕はあの心わくわくするようなあの出来事を忘れないでいる。
山に登ったのも初めてだった。あんな高いところから下の世界を見たのも初めてだった。美しくて雄大で、言葉に出来ない素敵な景色だった。
そして、おおかみ。僕はおおかみと話をしたことが最初は空恐ろしかったが、だんだんとおおかみと話している自分が新鮮で、いつもの引っ込み思案でもじもじしている自分ではなく、ぜんぜん違う新しい自分がそこにはいて、そんな体験が何だか貴重で、大切で嬉しかった。
だから、あのおおかみが市場で見た気の荒く、みんなが悪く言うおおかみであって欲しくなかったんだと思う。
どっちのおおかみがホントのおおかみなんだろう?
市場でのおおかみ?
僕をおぶって山を下ってくれた親切でけったいな、でも楽しいおおかみ?
僕は大きなため息をついた。




