12.どんな相手が立ちはだかろうとも
side レティシア
ふふ。あんなに嬉しそうなお顔が見られて、本当に良かったわ。スヴェイン様には大好きなものを、思いっきり召し上がっていただきたいもの。スープの野菜を一つ一つ丁寧に味わうその姿に、私まで幸せな気持ちになったわ。
そもそも、スヴェイン様の野菜好きを馬鹿にするなんて! 何様なのかしら。
第1王女の近衛隊。王女の好みのやたらと綺麗な顔をした騎士ばかり揃えて……。はっ! 肉ばかり食べて、便秘や肌荒れでも起こせばいいのよ! 本当に許せないわ。
……今回のことだけじゃない。第1王女の近衛隊は、なにかとスヴェイン様に嫌がらせをしてくる。
以前もそう。
第1王女の近衛隊の元隊長のマグナスが、スヴェイン様の大切にしている小さなウサギ、ルナちゃんを誘拐したことがあったわ。
人々はスヴェイン様が、猛獣のような狼を飼っているなんて噂を立てているけど、そんなの全然違う。スヴェイン様が溺愛しているのは、小さなふわふわのルナちゃん。あの柔らかい毛並みとつぶらな瞳を見ている時のスヴェイン様の表情は、本当に優しくて穏やかなんだから。
そもそも、王都で狼を飼うわけがないじゃない。
そのマグナスが、「強面の騎士であるスヴェイン様がウサギと添い寝している」という噂を広めようとしていることを耳にした。
……呆れながらも放っておいたわ。だって、根拠なんてあるはずないし、そんなくだらない噂に惑わされる人なんているとは思えなかったから。
別に、本当に添い寝していてもいいじゃない。私だったら絵師を呼ぶわ。
でも、それだけでは済まなかった。
ある日、庭で遊んでいたルナちゃんが忽然と姿を消した。
ルナちゃんが行方不明になったことを知ったあの時のスヴェイン様の落胆と憔悴した表情。今、思い出しても胸が締め付けられるわ。
そう、マグナスの狙いは明らかだった。ルナちゃんを見つけた時のスヴェイン様の喜びようや溺愛ぶりを周囲に見せつけ、噂に真実味を持たせようとしていたに違いない。
スヴェイン様が、訓練中も心ここにあらずで、落ち込んでいる様子を笑って見ていた連中、その姿はまるで「自分たちがやりました」と言っているも同然だったわ。
そこで私はすぐに影を付け、調べさせた。ルナちゃんの居場所を掴むと同時に、マグナスが黒幕である証拠もつかんだ。
この件を団長様に報告し、ルナちゃん救出に向かってもらった。見つけたルナちゃんは、葉物野菜をもぐもぐしていたそう。野菜好きはスヴェイン様そっくりね。
団長様から直接、スヴェイン様にルナちゃんを返してもらった。団長室でこっそりと。その時のスヴェイン様の表情……涙ぐみながらルナちゃんを抱きしめる姿に、私まで涙が止まらなかった。
その後は、ウサギの可愛らしさを知るがいいと、総力を挙げウサギブームを作ってやったわ。ウサギは愛でるものよ。何もおかしくはないのだから。
マグナスは、罪に問われ左遷された。誘拐は投獄と思ったのだが、ウサギだとだめだと言われた。
ルナちゃんは家族なのに!!
マグナスが去り、新しい隊長に代わった後も、第1王女の近衛隊がスヴェイン様に絡むのは一向にやまない。原因は、どう考えても王女自身にある。
近衛隊長たちが集まる場では、スヴェイン様にだけ苦々しい顔を向ける。どうやら彼女の「好み」には合わないらしいけど、一国の王女があんなにも感情を露骨に表に出すなんて……本当に呆れるわ。
あの様子を見ると、きっと裏でスヴェイン様のことを悪く言っているに違いない。そんな王女が選んだ「顔だけの騎士」たちで固められた近衛隊なんて、いざという時に役に立つはずがない。本当に襲撃を受け……全滅したらいいのに。




