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帝国へ

ザクリオン帝国動乱編に突入です。

『もしもしツチオ、ご機嫌は如何ですの?』

『まあまあです。4年生にもなると、さすがに授業も難しくなって大変です。でもまあ、授業自体は楽しいですし苦じゃないですよ』

『それは重畳ですわ。今日連絡したのは他でもありません、夏季休暇がいつから始まるのか教えてほしいのですわ。それに合わせて、こちらも休みに入りますので』

『えっと、明々後日から夏季休暇に入りますね。でも、今から休みを決められるもんなんですか?もっと前から決めておく必要は...』

『大丈夫ですのよ、ここ1週は帝都内で済ませられる仕事だけですし。それらも、前倒しや後回しが出来るものですの』

『へー、王様って案外自由なんですね。仕事量は多そうですけど』

『そうなんですのよね...。まだ独身ですから、言い寄ってくる殿方も多いですし』

『まあ、仕方ないですよ。帝王で美人なんですから』

『はあ、その言葉も聞き飽きましたわ。口を開くたび、天女の如き美しさだの現世に舞い降りた天使だの・・・ごてごてとした言葉を重ねていますけど、結局は見た目のことしか言わないんですのよね。魔人としての顔と、帝王としての肩書き。王女だった頃にも結構いましたが、帝王になると一気に増えましたのよ』

『まあ、有名税ってやつですね。そうじゃない人も、沢山いるでしょう?』

『そうですわね、不幸中の幸いというやつですわ。ツチオのいるところから王都まで、どのくらいかかります?』

『大体、3日か4日ってとこですね。俺たちなら、移動も速いので3日目の夕方に着くと思います』

『それでは、6日後に王都の北門に来てください。私が迎えに行きますわ。そして、翌日から帝国観光ですわよ!』

『楽しみにしてます。どんな所に連れて行ってくれるんですか?』

『ふふふ、それは行ってみてのお楽しみですわ!でもまあ、そちらの王国とは違った感じですわよ』

『国が違えば文化も違いますしね。それでは、明日はまだ授業がありますので。おやすみなさい、ユクリシスさん』

『ええ、おやすみなさい』


今年の夏休みはザクリオン帝国に旅行かー・・・狩りとかは出来なさそうだけど、かなりおもしろそうな休みになりそうだね。






 相変わらず、時間が経過するのが早い今日この頃。4年生になるのも早かったが、夏季休暇が来るのも早かった。日々の授業が難しくなったから、時間が経つのも早くなったのかもね。


ニクロムも、従魔になりたての頃よりは大分雰囲気が柔らかくなったと思う。前はずっと無表情だったけど、今では時折笑うようになった。ニクロム自身は前と変わりないって言うけど、明らかにルウたちに絆されている。それをニクロムが認めれば、もっと感情を表に出せるようになると思うんだけどねー...。まあ、そう簡単に変えられるものではないし、時間をかけて変わっていけばいいか。


影さんは、今まで通りの影さんのまま。休日は出来るだけ狩りに行くようにはしているんだけどなー・・・まあ、ルウたちもこんなもんだったか。毎回、強力な魔物を倒して進化するんだもんな。今のところ、地道に魔獣を倒して積み重ねているだけだし・・・平和なのはいいことだけど、進化するには強い魔物と戦わないといけない。うーん、難しいね。


「ツチオ殿、今年もシアノ諸島へ行かれますかな?」

「いえ、今年は知り合いがいる他国へ旅行に行くことになりました。わざわざ出向いてもらい、申し訳ないのですが...」

「それなら仕方ないですな。しかし、ツチオ殿に他国の友人とは・・・いやはや、喜ばしいことで」

「確かに、ツチオは友人が少なそうだもんね。見た限りじゃ、生徒とじゃ数人程度だろ。教員とか、大人の知り合いはまあいるんだけどね」


そういや、生徒の友人ってリュカたちくらいか?まあ、友人ってのは量より質が重要だと思うわけですよ。それに、人外の知り合いだっているわけだしな。彼彼女らを入れれば、友人も少なくはないだろうよ。


「他国に旅行って言ってたけど、どこの国に行くんだい?ツチオが興味ありそうなのは・・・妖精領かな。同室の生徒が、女みたいな男のエルフだったし」

「リュカって、エルフの中でも女っぽいんですね...」

「エルフの男は皆中性的だけど、あそこまで女っぽいのはそうそういないよ。それで、どこに行くんだい?」

「えっと・・・帝国ですね」

「へえ、レギットにでも誘われたのか?」

「いえ、レギットさんではないです。別の知り合いに」


嘘は言ってないよ、どの帝国か言ってないだけで。休戦したとはいえ、そう易々と行っていい場所じゃないだろうしね。


「まあ、あそこは力がある奴にとっては居心地のいい国だし、案外ツチオたちには合ってるんじゃないか?くれぐれも、問題は起さないように」

「いつも、俺が問題を起しているような言い方は止めてくださいよ・・・最近、いえ昔から俺は大人しいです」

「遺跡調査で数時間失踪してたのは、どこのどいつだい。あんだけ騒ぎを起しといて、よく大人しいなんて言えるね」

「あ、あれはしょうがないんですって!騎士団が調査したのに、罠が解除されてなかったんですから!」

「一度侵入者が来たら、発動する罠だったのかもしれないじゃないか。騎士団を責めても仕方ない」


まあ、嘘なんだけどね。どこに行ってたのかを誤魔化すための。嘘で評判を貶めちゃって、申し訳ないとは思ってる。


「実習時のは事故みたいなもんですし、ほら、最近は大人しくなってますよ」

「なら、そのまま大人しくしといてくれ、いいね」


まったく、人をトラブルメーカー扱いして...。まあ、確かに昔何度かトラブルは起したけど、今じゃすっかり落ち着いたぞ。


「それでは、そろそろ儂はお暇しましょう。出航の準備もありますしな。ツチオ殿、良き休暇を送られますよう」

「はい、ありがとうございます」


それじゃ、俺も準備を済ませとこうか。荷物をまとめる必要はないけど、たりない物は補充しとかないといけないしね。購買部に売っていないものもあるから、早めに町に買いに行かないと。






 そして、6日後。細々とした準備を終えて、俺たちは王都へとやって来た。夏なので日は高いものの、既に傾き辺りは夕日に包まれている。えっと、北門に来てるんだったよな。そういや、この大陸と向こうの大陸に時差ってあるのか?この世界が亀の上にあるのなら、時差はないんだろうけど...。まあ、行ってみれば分かるか。どうせ、あと30分もしないうちに行けるんだし。


ユクリシスさんは、北門に設置されている検問所の側で、壁に寄りかかって待っていた。柄の悪そうな奴らが遠くから見ているけど、話しかける気配はない。1の壁近くは治安が悪いからな、騒ぎになってなくてよかった。


「ユクリシスさん!お待たせしてすみません!絡まれませんでしたか?」

「そんなに待っていませんよ、ツチオ。検問所の近くで、絡んでくる馬鹿はそうそういませんわ。それじゃ早速ですが、帝国へ転移しちゃいますわよ」

「そうですね、もう夕方ですし。ああそうだ、こっちの大陸と帝国で時差ってあるんですか?」

「ありませんわよ、向こうは今も夕方ですの。向こうに着いたら、すぐに夕食ですわ」


時差がない・・・ってことは、この世界は惑星じゃないのか?まあ、そんなことはどうでもいいか。そんなことを知っても、俺には関係ないしね。もし惑星だったら、隕石が落ちてくるかもしれないけど。


「ほらツチオ、さっさと外に出て転移しますわよ。こんな人ごみの中じゃ、転移出来ませんの!」

「ああ、すみません。今行きます!」


はてさて、ザクリオン帝国とはどんな所なのか。見に行くとしますか!



気持ち悪い浮遊感を覚えつつも、地面に両足をついていることを確認。ルウたちの様子も見てみるが、これといった異常はなさそうだ。


「さすがに、この距離を転移すると疲れますわね...」

「・・・えっと、何ですかこの俺が寝泊りしている部屋が豚小屋のように思えてしまうほど、豪華絢爛な部屋は」

「まあ、確かに金は掛かってますわね。ここは帝王の私室、つまり私の部屋ですわ。もう帝国に着きましたのよ」


ユクリシスさんの私室・・・ザクリオン帝国王の部屋。俺なんかが入って大丈夫なのか?もし何も知らない人に見つかったら1発で牢屋行きって、あれ?これってフラグ建てちゃった?


そんなことを考えた時、コンコンと扉がノックされる。・・・ふう、クールになるんだ俺。慌てても仕方ない、とりあえず扉から見えないところに皆で隠れなければ...。


「入っていいですわよ」

「ちょ、ユクリシスさぁん!?大丈夫なんですか、俺たちが私室に入っちゃってて!こう、不敬罪みたいな!」

「大丈夫ですわよ、友人を連れてくると従者たちには伝えてありますから。それに、来ているのは恐らく...」

「失礼します、お嬢様。そしてツチオさん方々、ようこそザクリオン帝国へ。従者一同、お待ちしておりました」

「あ、ウォーさんだったんですね。メイドさんかと思って、隠れる場所を探しちゃいましたよ」

「別に見つかっても大丈夫ですよ、全員にツチオさん方のことは伝えてありますから。必要な物があれば、何でも申しつけください。ちょうどさっき夕食が出来上がったので、すぐに食事にしましょう。荷物を預かります」

「あ、荷物は全部影の中に入っているので大丈夫です。それでその・・・俺、マナーとかには疎いんですけど、大丈夫ですかね?」


一応、マナー講座みたいな集まりには言ったことがあるけど、本当に簡単なものだったからな...。こっちの世界のマナーとかは、まったく触れる機会がなかったから何にも知らないし。


「公式な場ではないので、そこまで気にする必要はないですわ。常識的な行動が出来ていれば、それで十分ですわ」

「それなら良かったです。ルウたちも、いつも通り振舞えば大丈夫だからね」

「わ、分かった!」

「一応、図書館で礼儀について書いてある本は読みましたけど・・・この国の礼儀とは、また違ったものでしょうね」

「普通に食事をすればいいんでしょ、簡単よ」

「データベースには、一応各国の礼儀作法がありますが...。ルウの言う通り、ここでは気にする必要はなさそうですね」

「そうだな。一緒に食事をする人はいるんです?」

「ええ、弟と妹が1人ずつ。2人には既にツチオの話はしてあるので、特に礼儀とかは気にしませんわよ。そもそも、そこまで口うるさくはないですし」

「へー、弟さんに妹さん。どっちが上なんです?」

「弟のほうが年上ですわよ。まあ、そこまで差はありませんわ。どちらも、ツチオくらいの歳だと思ってください」


俺と同い年くらいの兄妹か・・・それでも、実年齢は俺より遥かに上だろ?大体200歳位なんだろうし...。


「まあ、軽く紹介して一緒に食事をするだけですから、そんなに緊張する必要はないですわよ。明日からは、私とウォーとツチオたちだけで観光ですし」

「それを聞いて、少しは気が楽になりました・・・でも、やっぱり王族と食事となると、どうしても緊張しちゃいますねー...。ユクリシスさん相手には、そこまで緊張しないんですけど」

「それはきっと、私の親しみやすい雰囲気のおかげですわよ!」

「というより、お嬢様が平民に染まりすぎているだけですね。暇さえあれば、城を抜け出していましたからね」

「昔は、私もやんちゃだったんですわよ・・・今ではすっかり落ち着いた淑女ですわ」

「落ち着いたというより、そんな暇がなくなっただけなんじゃ...」

「そんなことありませんわよ!ほら、ここでしゃべっていては夕食が冷めてしまいます。とりあえず、食事に向かいますわよ!」

「それでは、私の後についてきてください」


先導するウォーさんの後に続いて部屋を出る。外の廊下には艶やかな布がしかれ、壁についている燭台は金色。光を受けて輝いているが、目に優しい上品な金色だね。


しばらく廊下を歩くと、いくつか窓が廊下の壁にある。外を見ると、そこから帝都を一望出来た。

俺がいるこの廊下は王城のかなり上の方にあるらしく、遥か下に帝都の町並みが広がっている。王都と同じように壁があるが、帝都には一番外側に1つしかない。だが、厚さは王都の倍に近い。少し窓から身を乗り出すと、左側に海らしきものが見える。町並みは、ごちゃっとしている所とキッチリしている所で分けられている。境目はキッチリしているようで、よく見るとごちゃごちゃしている感じだな。空にはいくつもの影が飛び交い、ここが魔物の国なんだなーと思わされる。


「どうです、これが帝都ですのよ。元は大きな入り江だったんですけど、大昔の大戦争で水が全て吹き飛んだんですの。同時に底の土も吹き飛ばされ、それが周りに積み重なり盆地となって壁の元になったそうですわ」

「へー・・・ってことは、中心に斜めっているんですね。雨の日は大変そうです」

「そこらへんは、しっかりと設備が整っていますのよ。排水路を掘り、海へ流しているんですの」


どうやって水を動かしているんだろう・・・やっぱり魔術具?それとも、水車みたいな物でもあるのかな。


「帝都の説明は後でしてあげますわ。ほら、行きますわよ」

「あ、はーい」


この王城が、どんなふうになっているのか見てみたいなー。明日はさっそく、帝都観光だね。


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