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目が覚めたら...

腹にかかる重さで、俺は目が覚める。身を起こすと、床に敷いてあった毛布が音を立てた。影さんにこんなん持たせてたっけ・・・まあ、影さん勝手に色々入れてるから、何が入ってるのか俺は把握してないんだよね...。影さん自身が分かってるなら、それでいいけれど。


それにしても、さっきから俺の腹に乗っかってるのは・・・ライムか。どうやら、俺に抱きついたまま寝入ってしまったらしい。蛇から受けた怪我も、ちゃんと回復している。起こすのも悪いし、しばらくはこのままにしてやろう。1人で頑張ってくれたんだしな。


えーっと・・・そうだ、キマイラを倒して寝ちゃったんだ。キマイラの骨は見当たらないけど、腐り落ちた肉は残ってる。皆はいないけど・・・どこに行ったんだろう?とりあえず、探しに行こうかな。ライムを起こさないようにして抜けだそうとしたのだが、服をしっかりと掴んで離さない。うーん、ライムを起こしたくはないし、しょうがない。このまま、ルウたちが帰ってくるのを待つか。


体を起こしたまま、未だに俺の腹に顔を埋めているライムの頭を撫でる。こうやって撫でるのも、ずいぶんと久しぶりな気がするな...。最近は影さんやらユクリシスさんやら・・・色々と忙しかったもんなー。ライムやリンには、寂しい思いをさせたかも。帰ったら存分に可愛がってあげないと。


しっかし、見ない間にずいぶんと髪が伸びたな。フワフワと横に広がっているそれは、実験室の明かりをうけてキラキラと輝いている。きっと、銀糸はこんな感じなんだろうな・・・ライム自体が銀っぽいから、あながち間違っていないかもしれない。・・・あれ、ライムの髪ってこんなんだっけ。こんな人間みたくサラサラとしてなくて、影さんみたもっと液体金属っぽくなかったっけ?


そう思っていたところ、ライムがモゾモゾと体を動かし顔を上げた。ああ、起こしちゃったか。そう謝ろうとしたのだが・・・ライムの顔を見て、固まった。


クリクリとした大きな目、すらっと伸びた鼻、プリンという擬音が最も似合う小ぶりな唇、まだあどけなさが残るものの、逆にそれが妖艶さを醸し出している美少女がそこにいた。


「・・・」

「・・・」


しばらく見詰め合っていた、俺とライム(?)。よくよく見ればこの子、肌が銀に紫が混じった色だ。目だけは、透き通った紫色だけど。

突然、俺の首へ腕を回してくるライム(?)。思わず身構えた俺、その行為はある意味適切だった。その子は、あろうことか俺へキスをしてきたのだ。


「ちょ、むぐぅ!?」


歯を閉じる直前に、その子は舌を口内へと滑りこませる。自分の舌で押し返そうとしたものの、逆に絡め取られて抵抗する手段を失ってしまった。

俺の口を、彼女の舌が蹂躙していく。ちょ、やばいやばいやばい!これやばいって、色んな意味で蕩けちゃうって!唾液を流しこまれ、歯茎を舐められ、容姿とは真逆に貪るようにキスをしてくるライム(?)。


何とか首を固定していた腕を外し、ライム(?)を押し返す。口に残った唾液を飲み込んでから、膝の上にちょこんと座っているライム(?)を見る。唾液って甘いんだな...。


「おはようございます、お父様。ごちそうさまでした」

「あ、お粗末様でした...」

「粗末なんかじゃありません!お父様の唇には、何物にも変えられないほどの価値があります!いかにお父様といえども、貶めるのはいけません!」

「ご、ごめん・・・って、そうじゃない!お前は・・・ライム、なんだよな?」

「はい、お父様の忠実なる下僕、ライムです」

「いや、下僕じゃなくて従魔だよ、似たようなものだろうけど。というか、お父様?」

「お父様はお父様です。私は、お父様に育ててもらったんですもの」


まあ、育ての親って意味じゃ、確かに俺が当てはまるだろうな...。


「それじゃあ、お父様。子作り、しましょ?」

「はい?」


俺を毛布の上に押し倒すライム。俺の腰に馬乗りになり、何やらモゾモゾとしているな・・・って!


「お、おいライム!お前、素っ裸じゃんか!さっきまでは、俺の体で隠れて見えなかったけど!」

「?だって、子作りの時には邪魔でしょう?・・・あ、お父様は着たままのほうがいいんですね。気が利かず、申し訳ありません」

「違う!そもそも、親と子作りする娘がどこにいる!」


一瞬目に入ってしまったもの、すぐさま目を逸らし頭から振り落とす。・・・体全体、銀色なんだなー。天辺までとは、さすがスライム。ルウほどではないが、この身長なら大きいほうだろう。それより重視すべきは、絶妙なバランスで整っている脚だな。


「全然振り落とせていないだと...!」

「うふふ、お父様、ここ数日はご無沙汰でしたものねー。生命の危機の時に、生き物は子孫を残そうとすると聞きますし。それに、さっき飲ませた私の唾液。あれ、ちょっとした興奮剤になってるんです」

「そんな毒まで作れるようになってたのか!?」

「はい、神経系の毒です。親と子作りする娘はいないと言いますけれど、私とお父様の血は繋がってません。子作りするのに、まったく問題はありませんよ?お父様って呼んだほうが、お父様も好きでしょうし」


・・・っく、否定できない!日本にいた頃じゃ、そういったモノも読んでたからな...。やばい、このままじゃなし崩しにヤっちゃいそうだ。


「今なら誰にも邪魔されず、2人っきりでしっぽりと楽しむことが出来ます。こんな機会を逃す私じゃないですよー。それでは、いただき...」

「させるかー!!!」


入り口から一足飛びに来たルウが、ライムにとび蹴りをかます。吹き飛ぶライムだったが、空中で一回転して床を削りながら着地。そのままルウへと飛び掛ると思われたが、上空から落ちてきたリンに踏みつけられる。蹄が青白く光っているが、ライムは腕を楯状に変形させて防ぐ。部分的に魔力で障壁も張っているのか、電撃も通していない。


「お姉様、リンちゃん...。人の恋路を邪魔する者は、ドラゴンのブレスで消し炭になりますよ!」

「邪魔はしないけど、時と場所と場合を弁えて!影さんが教えてくれなきゃ、後1時間は戻ってなかったんだから!」

「ブルルルゥ!ブルルルルル!」

「影さん、あんがと...」


俺が起きたのを影さんが分かってくれてなきゃ、ルウたちが戻った頃にはドロドロになってたぞ。よかった、影さんがいて。そしてリン、鼻息が荒いぞ?真面目に怒ってないか?まあ、ライムだけ人化して自分はユニコーンのままだもんな・・・リンだって生き物だ。妬み嫉み僻み、そういう感情を持つのが普通だ。


「・・・まあ、お父様もお疲れですしね。今日のところは、ここらで諦めましょう。ですが、お父様」

「は、はい。何でしょうか?」

「学院に戻ったら、真っ先に私と2人っきりで子作りしてください。お父様には、全てを捧げたいのです。私の純潔、受け取っていただけますね?」

「分かった、学院に帰るまで待っててくれ」

「はい!本当はその後も、ずっと2人っきりでいたいのですが...。1人じめはいけませんよね」


うっわー・・・ルウとライムとリンの間に火花が散ってる。ここで「止めて、私のことで争わないで!」とか言う奴、相当図太いのかただの空気読めない馬鹿なのか...。恐らく、後者なんだろうな。


「1番理想的なのは、身も心も1つになってしまうことなのですけど。今のお父様なりの良さもありますからね。私1人では、出来ることが限られてしまいますもの」

「わ、私だってツチオを食べたいなーって思うことあるけど我慢してるの!ライムも我慢しないと駄目!食べるのは最後の最後!」

「ブルル!」

「分かってます。子作り出来なくなるのは、寂しいですもの」


・・・俺は何にも聞いていない、ルウたちが俺を食いたいとか言ってるなんて、ただの幻聴だよなー。


「マスター、あれは何を話しているのですか?マスターに関することだとは、分かるのですが...」

「ああ、ニクロム。俺の扱いについて話合ってるんだよ。皆は俺と一緒にいたいけど、体は1つしかないからね」

「子作りとは、繁殖行為を指す言葉です。魔物と人の間に子どもは出来ますが、それは人が雌の場合。雄である魔物の、苗床としてです。魔物の雌が人の子を孕むなど、データベースにはそのような事例は存在しません。どういうことなのですか?」

「えーあー・・・愛を確認し、深める行為なんじゃないかな?」


ニクロムも俺も、何を言っているんだろう・・・恥ずかしくなってきた。


「愛・・・愛とは、異性との仲を深め子孫を残すための、繁殖の補助となるもののことです。優先順位がおかしいです、愛を確かめるために子作りするなんて」

「まあ、感情ってのはそういうものなんだ。愛を確認できて子孫も残せて、一石二鳥じゃんか」

「順番が逆です。それに、子作りに愛を確認するという意味は存在しません」

「うーん、理屈で説明するとそうなんだけどね...。感情ってのは、理屈を超えちゃってるからさ。説明しようがないんだよ。ニクロムにだって、感情はあるんだろ?」

「・・・はい。人間の体には限界があり、その限界が思考を生み戦術を生み出す。私の製作者が、そう教えてくれました。その限界を感じるため、私には感情があるのだと。ですが、兵器に感情など無駄以外の何物でもありません。兵器というのは敵を倒すための道具、感情なんて邪魔なだけです」


おお、随分と饒舌だな・・・感情は邪魔か。確かに、兵器にとって感情というのは必要ないし、余計なノイズを生む原因となるだろう。


「確かにニクロムは兵器だ。だけど、それだけじゃないだろ?」

「私に、兵器以外にどのようなステータスがあるのです」

「俺の従魔さ」


実際、俺とニクロムは魔力で繋がっている。ニクロムが、俺の従魔である証拠だ。


「それが何です?私はマスターの従魔でも、行うことは兵器と変わりありません」

「変わりあるさ。俺にとって、従魔ってのは家族だからな。まあ、感情がある以上、そのうち兵器じゃいられなくなる。そういう奴を、俺は今までに何度も見てきた」

「・・・私は兵器です。それは、今までもこれからも変わりません」


ニクロムがどういうふうに感情を受け入れ、理解し、1人の人間となっていくか。様子を見ていくことにしよう。アニメやらマンガやら、恋をして変わっていくのだが・・・これは現実だ、さすがにそれはないだろう。どこで感情が動くか、これからのニクロムから目が離せないね。


「まあ、それはともかく。俺とライムを置いて、皆はどこに行ってたんだ?」

「地下1階、2階、3階の全フロアを見回り、必要な物を回収していました」

「索敵機はいなかったの?」

「今現在、この研究所内の全権限は私に移っています。全ての索敵機の行動を停止させ、影さんに入れました」


はあ、行動停止プログラムでもあるんかね。便利なもんだ、結局索敵機とは戦わなかったな。一方的に壊しはしたけど。


「2107号を倒してから、何時間経ってる?」

「およそ5時間です。誰か1人がマスターの警護につくことなり、くじの結果ライムが選ばれました」

「そうか。骨を処理したのはライムか」

「はい、消化してしまいました。この後はどうするのですか」

「そうだな・・・調査隊に人に黙って来ちゃったから、きっと心配しているだろうな。さっさと戻って、無事を報告しないと。ここから地上への道はあるのか?」

「ここへ来るのに、乗ってきたエレベーターで戻り、扉を私が開けます。私なら、内側からでも開けられるはずです」

「それなら良かった、どうやって帰ろうかと思ってたんだ。あと1時間は帰らないって言ってたんだし、まだ用事が残ってるんだろ。それを済ませてから、地上に戻ろう」

「了解しました。用事と言っても、この3階に残っている物がないか、確認するだけです。実際は、1時間もかからないでしょう」

「よし、そんじゃさっさと済ませちゃおう。・・・皆、疲れてない?強敵だったしさ」

「休息を挟みつつ探索を行ったので、体力・魔力ともに回復しています。問題ないでしょう」


それなら良かった、俺だけ寝てたんじゃ悪いしな。それじゃあ、未だに火花を散らしている3人を宥めないと。早く戻らないと、さすがにマズイしな。多分、もう夜中だろう。


「ほら3人とも、3階をさっさと確認して地上に戻るよ!喧嘩をするなら、広い所でやろう!」

「・・・そうだね。別に喧嘩してないけど」

「お父様がそう言うなら。喧嘩ではないですけど」

「ブルル、ブルルゥ」


何で全員、喧嘩じゃないと主張するんだろう...。まあ、3人の間は険悪って感じじゃないしね。何て言えばいいんだろう・・・流行のおもちゃを持ってる子ども1人と、持ってない2人みたいな感じかな。羨ましいけど、自分は持ってないからしょうがないみたいな。


毛布を影さんの中へ入れて、俺たちは実験場を後にした。あのキマイラ、ニクロムより番号が若かったし、ニクロムより前に作られたんだろう。ここで何を研究していたのか、後で聞いておこうか。とりあえず、地上に戻んないとね。


人化したのは、リンではなくてライムでした。1人でずっと蛇の相手をしている間に、毒霧を吸い取ったりした影響ですね。止めを刺したのはリンですけど、元々がユニコーンですから進化も遅いです。まあ、リンが拗ねる様子を書きたかっただけですけどね。

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