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影さんと2人で

昼食は適当な店で済ませ、俺たちは王都から出た。もう昼過ぎだから、あまり遠くまで行くことは出来ないけど...。まあ、ルウとリンの足は速い。普通の馬よりは遠くに行けるだろう。


「とりあえず、最寄の森に入ってみようか。基本は俺と影さん2人で戦うから、皆は自由行動な」


門から少し離れたところで飛び立ち、王都から数キロ離れた位置にある森へと降り立つ。そこまで大きな森じゃないし、王都の近くってだけあって魔獣もあまり強くない。新米冒険者が行くような、チュートリアル的な森だね。まあ、いくら雑魚だからって舐めちゃいけない、不意をつかれたらどんなに強い奴だって死ぬんだからな。


「よし、んじゃ行こうか」


影さんが俺の隣に立ち上がる。相変わらず、不思議な感じの子だな。あまり口数が多いほうじゃないのに、何を考えているかはハッキリと分かる。いや、考えが分かるからあまり話す必要がないだけか。ライムとはよく話してるもんね。


こういう場所で狩りをする場合、ルウたちとは別行動することにしている。あまりに実力が離れてると、魔獣たちが寄り付かなくなるからな。ライムならまだ大丈夫だろうけど、経験を積むにはルウたちと一緒のほうがいいだろうしな。俺たちがいると、あまり遠くまで行けないだろうし。


「ん、来たね」


俺が降りた場所は、森の中ほど辺り。大体入り口から中心まで中間地点くらいだろう。こういう所は中に行けば行くほど、出てくる魔獣が強くなるはずだけど...。ダンゼ島みたいにね。あそこなら、影さん育成にもちょうど良かったな・・・まあ、精霊さんも忙しいみたいだし、わざわざ邪魔しにいくのも何だ。王都に来てなければユクリシスさんにも会わず、魔物帝国の事情に関わる必要もなかったのだが...。今更言っても仕方ないか、今度の作戦には参加する必要もないんだし、戦争が終わるならそれでいいしね。ユクリシスさんには、無理をしない範囲で頑張っていただきたい。


まあ、そんなことを考えている途中にも、魔獣と遭遇したわけだ。影さん、生き物の生命力を吸うためか、生命力を感じることが出来るのだ。あまり範囲は広くないけど、奇襲される心配はない。死霊系には反応しないけどね。


俺たちの前に現れたのは、数体の狼たちだ。涎をダラダラと垂れ流し、牙をむいて威嚇している。俺たちを囲もうとしているが、それを待ってやる義理はないな。


俺は左の狼たちの足元に符を投げ、影さんは正面から黒い刃を放ってから木陰に潜む。足元から突き出た土槍に、1体を残して狼たちは貫かれた。残った狼は突っ込んできたが、木陰から飛び出した影さんに呑み込まれる。

黒い刃に斬られながらも、俺を襲おうとする狼たち。だが、突然目の前に壁が発生し、正面からぶつかってしまう。後続の狼は壁を迂回するが、目の前には戻ってきた影さんが。腕を一振りし、狼の足を斬り飛ばした。


「ありがと、全部食べちゃっていいよ」


俺がそう言うと、影さんは地面に転がっている狼たちを次々に呑み込んでいった。土槍に突き刺さっている狼たちも、1体1体丁寧に引っこ抜いて呑んでゆく。

しばらく体をモゾモゾさせていると思ったら、ペイッと骨だけを吐き出した。地面へ落ちると、サラサラと風で飛ばされてゆく。生命力を全て吸われると、こんなふうになっちまうんだな...。いつも俺から生命力を吸う時、どれだけ加減されているのか良く分かるよ。影さんさえいれば、完全犯罪も夢じゃなさそうだ。


けど、やっぱ狼はおいしくないか...。生命力って言うくらいだし、やっぱり強い魔獣のほうがおいしいのだろう。もっと奥に行かないと、強めの魔獣は出てこないのかな。


「ねえ影さん、いい加減影さんって呼ぶのも他人行儀だし、ちゃんとした名前を考えようよ」


森の中を歩きつつ、影さんの名前を考えることにする。口に出さなくてもいいかもしれないのだが、こうやって影さんと会話する機会ってなかったからな。


「皆に名前をつけるときは、基本種族とかから文字ってるんだよね。ルウだったら、竜が訛ってルウ。ライムはスライムから取ってライム。リンは麒麟のメスのほう、麟から取ってるんだ」


今考えてみると、中々に安直だな・・・もうちょっと工夫してやれば良かったかも。本人たちが満足しているから、これでいいかなと思ってたけどね。


「あ、麒麟って分かる?分かるの!?ならいいんだけど...。そんで影さんの名前も決めたいんだけど、なんせ影魔だからねぇ...。どこから取ればいいんだか...」


なんかあったかな。影を使う奴って。あんまり思いつかない。


「うーん・・・影魔だから、エイ?それともエマ?何か絵馬みたいで嫌だな...。え、プライド?いやいや、駄目でしょ。それって傲慢ってことだからね」


色々と話し合いながら歩いていると、突然正面から何かが突っ込んできた。慌てて左右に分かれて避ける。俺たちの間を通り抜けていった奴は、十数m先で地面を削りながら止まり、こちらに振り返る。反り返った角、大きな鼻から噴出す白い息。全長で3mはあろう大猪だった。


「っち、ルウたちがいれば何てことはない相手なんだがな...。影さん、名前を決めるのはまた今度な」


再び俺目掛けて突っ込んでくる猪。横っ飛びで回避した俺のすぐ側を通り過ぎ、真正面から木にぶつかった。衝撃耐え切れず、幹のど真ん中からメキメキと折れる木。ありゃ、引っ掛けられただけでも危険だぞ...。


後ろから影さんが黒い矢を放つが、筋肉の阻まれているのか深く刺さらない。逆に猪を怒らせるだけで、今度は影さんへと突っ込んでいく。近くの木陰に飛び込んでかわす影さんだったが、このまま長期戦にもつれこんだら、俺のスタミナが切れるほうが早いぞ。ルウたちに助けてもらうってのもアリだが、それは最終手段だ。俺と影さんだけで倒せないか、やるだけやってみよう。


「俺が引きつけるから、影さんが仕留めて」


そう言って、猪に符を投げつけ影さんから離れていく。森の中に入っても、あの調子じゃ木々をなぎ倒してでも突っ込んでくるだろうし...。とりあえず、付かず離れずの位置をキープするか。見失われて影さんのほうに行かれても困るし。


後ろから突進してくる猪を、またもや横っ飛びにかわす。さっきより遅いので、かわすこと自体は簡単だった。が、体勢を立て直す前にスピードを落とさずターンした猪が、俺目掛けて最初の速さで突っ込んできた。そんな芸当が出来るなら、最初から使っとけっつーの!


正面に符をばら撒くと、光線で符と符を結び格子となって俺の前に立ちはだかる。ハロさんの符術、真似させてもらいました!そのまま突っ込んだら、映画版バイオ1作目よろしくバラバラだ!ここには通気口はないし、あの図体で素早い動きは出来まい。

そう思っていたのだが・・・猪は格子を避けて、俺に突っ込んできた。これは予想外、慌てて土柱に乗って空中へと避難する。あんな滑らかな動きでかわされるなんて・・・ちょっと猪、甘く見てたな。


俺の乗っている土柱へと頭をぶち込む猪、耐え切れるはずもなく粉砕される柱。大きく後退し、影さんの隣へ着地する。あんまり離れられないのが欠点だが・・・準備は出来ているようだ。影さんの視線が痛い、目はないんだけど。あんだけ偉そうに舐めるなって言ってたもんなー・・・顔にはあまり出さないようにしてたんだけど、影さんにはお見通しか。


「んじゃ、足を止めるぞ!」


俺と影さんを補足し動かないのを見て、地面をかき力を溜める猪。時間が出来るのは都合がいい、俺も符を用意し影さんも魔力を集中させている。


「ブルッヒーーー!!!」


大きな雄たけびを上げて、今まで以上の速さで突進してくる猪。その勢いは脅威だけど、それを逆手に取ってやろう。


数枚の符をセットにし、猪の進路上へと投げ込む。数本の土槍が捻じれ混ざり、1つのぶっ太い錐となって立ちはだかる。何もしなくても向こうから突っ込んでくるんだから、待ち構えてればいいんだな。ちゃんと土柱で補強するのも忘れないよ。


岩錐を見ても、猪は止まるつもりはないようだ。真正面から粉砕するつもりなんだろう。確かに、あれじゃ深く刺さる前に錐が壊れてしまうな。それが狙いでもあるんだけど。もう目の前にあるから、かわすのも難しいしね。


案の定、真正面から錐に衝突する猪。切っ先が胸に食い込むが、猪を力を入れると支えの土柱にひびが入る。

そんな中、影さんは猪の影へと飛び込み背後へ身を躍らせる。両脇には2つの黒丸が浮き、そこから真っ黒な光線を放った。頭と首に穴が開き、猪は地面へと倒れこむ。見ると、ビクビクと痙攣し今にも死にそうだ。


そんな猪を、影さんが呑みこんでいく。あんだけ大きな猪を呑んだにも関わらず、見た目はまったく変わっていない。影さんの中は、やっぱり四次元なんだろうか?まあ、あんだけの猪の生命力を吸い取りきるには、結構な時間がかかるんだろうな。猪だし、狼よりはおいしいだろう。


「まだまだ進化への道は遠そうだな・・・ここらで一旦、休憩としようか」


ルウたちよりは全然進化が早いんだろうがな...。やっぱり、雑魚をいくら倒しても埒が明かない。この猪は結構強かったが、こいつだけを狩れるわけじゃないしね。もっと強い奴を相手に、経験を積ませたいもんだ。あんまり強すぎると戦わせるわけにもいかなくなるし、そこらへんの加減が難しいな...。






 猪の生命も吸いきり、骨を吐き出す影さん。結構時間がかかったから、もうそろそろ進化してもいいんじゃないだろうか。どんな感じになるのかな・・・やっぱり、あまり変わらなさそうだ。


強い魔獣というのは、往々にして生命力も高いもんだ。死霊系は別として。あまり時間もないことだし、雑魚は襲ってくる奴だけを倒すことにし、強い魔獣を探すことにする。あの猪はここらへんに生息しているだろうし、他にもあの猪を食べる魔獣だっているかもしれない。魔獣の中に食物連鎖があるのかは知らないけど、ダンゼ島にはあったがな。あそこは閉じられた環境だし・・・分かりやすかったな。あのカブトたちは、きっと被捕食者なのだろう。大きいというのは、それだけで脅威だ。カブトたちには、質より量で頑張ってほしい。


そんな馬鹿なことを考えていると、茶色い熊と遭遇してしまった。茶色い熊って、どんくらい危険なんだっけ...。灰色はヤバい、黒色は臆病。ファルの熊耳、帰ったらまた触らせてもらおう。


しばらく睨み合いを続ける俺と熊。先に動いたのは、熊のほうだった。彼我の距離を一気に詰めて、その鋭い爪で殴りかかってくる。熊って意外に足が速いんだよな、体も大きいから迫力もある。

後退しながら火蜂を投げる。二本足で立っている熊に直撃し、体を大きくよろめかせる。さすがは魔獣といったところか、少し焦げているだけで大した傷は負っていない。元々爆発で殺すことを目的にしていないとはいえ、少しは改良の余地ありか。衝撃で体内は傷ついているのか、口から血を流している。


その場で爪を振り回す熊、辺りに乱射される風の刃。壁で防ぎつつ、俺の後ろから影さんも黒い刃で応戦する。


いくつかの刃が命中して、戦意喪失したのか逃げ出そうとする熊。火蜂を放ち、横殴りに突撃してもらう。爆発の衝撃で、吹っ飛ばされて木へと叩きつけられる熊。木の影に入り込み、生きたままズブズブと影の中へと熊を沈めていく。もがいて抵抗を試みる熊だが、黒い縄が体中に絡み許さない。そのまま、沈んでいってしまった。


「さっさと吸収しちゃってよー。あまり苦しめちゃ駄目だからね」


ああやって自分の中に取り込む影さん、中は真っ黒な空間らしい。まあ、影さんの中だし当然ちゃ当然だ。生命を吸い取るかどうかは影さんが決めることだから、中に入っても大丈夫なのかな?熊だって入れるんだし、その気になればリンくらいなら・・・ああそうか、空気がないと無理か。進化すれば、もっと細かく分けたり中の環境を弄くったり・・・色々出来るのか。便利だな、影収納。これは早く進化させねば!


そう思ったのだが、日も傾いてきたし今日はここらへんにしておこう。そろそろルウたちも戻ってくるだろうし、帰りの時間も考慮しないと。結構移動しちゃってるけど、ルウたちなら場所は分かるはず。お、来た来た。


「結構動いたね、魔獣は一杯狩れた?」

「まあそこそこ、全部影さんが食べちゃうから、素材は取れないんだよね。ルウたちは、どこまで行ってたの?」

「あまり離れたところまでは行ってないよ。皆で空を飛んでる魔獣を倒してた」

「こくこく」

「ブルルゥ」

「そうだったのか。それじゃ、さっさと王都に戻ろうか」


やっぱり王都の周りじゃ、あまり影さん育成も出来ないな...。オスニールさんだけでも、先に要塞に行かないのかな。


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