対竜戦、有志で倒すよ!
突然だが、竜種の話をしよう。一括りに竜と言っても、大きく2つの括りに分けられる。翼を持たない下位の地竜と、翼を持ち空を飛ぶことのできる飛竜だ。海竜や最上位に人語を介し高い知能を有する奴らもいるのだが、今はとりあえずおいておこう。
一般的に、地竜は飛竜の劣化版だと考えられている。飛竜の方が保有する魔力が多いというのもあるが、1番はやはり空が飛べるからであろう。
どこの世界でも、人は空を飛ぶ鳥に憧れを抱くものだ。空を自在に駆け回り、単体で街1つを壊滅せしめる力。畏敬を植えつけるには、十分すぎる材料だ。だが、地竜の場合はそこまでではない。特に魔法を使うわけでもなく、ただ大きくて力が強いだけの蜥蜴。そういう認識だ。ナメていい相手ではないが、飛竜に比べたらかなり侮られている。
だが、今俺たちの前にいる竜は、既存の地竜の体格とは大きく違っている。体も脚も引き締まっていて細い、前脚と後ろ脚は似たような形状だ。腕に刃がついている竜も、俺が見た中では始めてだ。そして、まだ見ていないから何ともいえないが、膂力では飛竜を上回っているだろう。ルウの見立てだ。
地竜は飛竜の下位互換、飛竜から翼を取ったら地竜だと考えられていた。こいつは、それを大きく覆す竜である。飛竜とは別の体系で進化した魔獣、さしずめ駆竜とでも呼んでおこう。
俺たちの前に現れた駆竜。目の前の冒険者たちを見据えて、
「GAAAAA!!!」
大気を震わす咆哮を、威嚇として放つ竜。そのまま体を捻り、一気に体を回転させる。追随してきた尻尾が、前にいた冒険者たちを吹き飛ばした。
「あぎゃああああ!!!」
「ひ、ひいぃぃぃぃいてぇよおおぉぉぉ!!!???」
「ぎゃあああああ!!!」
吹き飛ばされた冒険者たちの、腕や体の肉が削り取られている。恐らく、あのやすり状の鱗の仕業だろう。血がこびりついているから間違いない、あれには要注意だな。
「ど、どうするんだよ!あんな奴がいるなんて聞いてねぇぞ!」
「調査目的だから、全員軽装だぞ!軽くて竜に効く武器なんていったら、ミスリル製の武器ぐらいじゃなきゃ、まともにダメージを与えられねぇぞ!」
「Cランクと傭兵たちは、全員まとまって退却しろ!戦い方は分かってるだろ、とにかく急いで引くんだ!・・・Bランクの冒険者で、あいつと戦う覚悟がある奴らは、ここに残って足止めだ!自分で決めてくれ」
「だ、だがいくらあんたでも...」
「大丈夫、俺のパーティーの武器はミスリル製だ。早くしろ!すぐに来るぞ!」
大部分の冒険者たちが、背後の森へと消えていく。残ったのは、十数人の冒険者のみ、傭兵たちは全員去っていった。ったく、これだから傭兵は信用ならんと言われるんだよ...。
「君は、引かなくてもいいのかい?」
「ええ、あんな魔獣は見たことがありません。テイマーとして、黙って引くわけにはいきません」
「そうか、少しでも戦力は多いほうがいい。助かるよ」
そうはいっても、こっちが圧倒的に不利なのは間違いない。相手の情報がない以上、戦闘中に集めていくしかあるまい。だけんど、それを許してくれるような敵なのか...。とりあえず、生き残るために死力を尽くして戦うしかない。
「盾持ちは前に出て、相手の攻撃を受け止めろ!どんだけ威力があるのか分からない、魔術で防御をしっかりと固めろよ!他の奴らは、包囲しながら波状攻撃だ!魔術士は、強化魔術で前衛を強化後、魔術で攻撃するんだ!」
前に出た盾持ちの冒険者たちに、竜が襲い掛かる。両腕の刃で薙ぐが、さすがはBランク冒険者たち。切り裂くための刃だったのもあるだろうが、しっかりと受け流している。そこへ、左右から飛び出した人たちが己の武器を振るう。どうやら鱗は硬化魔術で強化されているらしいが、ミスリル製の武器はすごい。鱗を裂いて肉を斬るが、その傷は浅い。くそっ、やはり長剣とかじゃ難しいか。斧とか、重量級の武器がほしいところだな。
自分を攻撃してきた奴らを、追撃する駆竜。だが、そこへルウを突っ込ませ顔面を殴りつける。さらにリンの魔術が飛来、横っ腹に雷の槍が突き刺さる。
そのもまま首を締め上げて、空いた片手で腹に拳をめり込ませる。
「いいぞ、そのまま動きを止めてくれ!」
「ちょっとそれは・・・難しいです」
ジタバタと暴れる竜の力はすさまじく、ルウでも抑えていられない。拘束を振り解かれ、振り返りざまに斬りつけられる。咄嗟に後ろに飛んでかわそうとするが、軽く腹を斬られてしまう。
さらにリンは魔術で追撃、ルウもすぐさま反撃を試みるが、大きく後ろに下がって避けられる。着地した途端、再び地面を蹴って一気にルウを肉薄する。右左と振られる刃を紙一重でかわし、噛み付いてきた顔を上から殴りつける。それでも動きは止まらず、流れるように尻尾を振るってくるのでバックステップで距離を取る。
そこへ、今度は駆竜の追撃がかかる。軽く力を溜めたかと思ったら、その場で空振り。かと思ったら、斬撃が空を切り裂いて飛んできた。たまらず空に飛び上がるが、それを駆竜は狙っていたのだ。向こうも大きくジャンプして、まだ低い位置にいたルウの上を取り、そのまま地面へと叩き落した。何とか脚から着地したルウだったが、空中から落ちてきた駆竜に馬乗りされ、顔を食いちぎろうと伸ばす首を必死でかわしていく。雷の槍が迫ってきたことで、攻撃を中断し後ろへと飛び下がる駆竜。そこへ土と火の槍、カマイタチが放たれ駆竜の鱗を貫き、切り裂く。
・・・こりゃ、相当厳しいな。完全に不意をついたのに、大したダメージが与えられていないし、むしろやり返されている。軽い攻撃じゃ駄目だ、もっと重く一撃で倒せるくらい強力な攻撃じゃないと...!
「あいつの動きを止められませんか?」
「・・・倒せる算段があるのか?」
「一応、溜めが長いですけど、正真正銘全力渾身の攻撃があります。それで無理なら、恐らく倒せないかと思います」
「・・・分かった、任せよう。支援は?」
「出来るだけ、こいつにかけてください」
「よし、おい!この竜の支援魔術を出来るだけかけてやれ!出来るだけだけだ!」
ルウにどんどん支援魔術がかけられるのを見ながら、遠くにいるリンに魔力を介して俺の意思を伝える。
そして、あの駆竜が出てきてからずっと隠れてジリジリと近づいている、ライムにも作戦内容を伝達。よし、仕込みは流々、残りはルウだけだ。
「ルウ、ちょっと負担が大きい技だけど、我慢してくれ」
「グルゥ、グルルル」
「・・・ありがとうな。ルウ、俺なんかがお前の婿なんてもったいないよ」
「グル・・・グルル」
そんなこと言わないで、あなたは私の婿なのだからか...。絶対の信頼を寄せてくるルウたちがいれば、あの竜なんかに負けるはずがない。
ルウの体内で魔力が膨れ上がり、両の拳から炎が噴出す。ルウは加護のおかげで一気に多くの魔力を獲得したが、未だにそれを操ることは出来ていない。元々強化魔術しか使えなかったので、魔力で操る火は使いづらいんだろう。
だから、その役目は俺がやる。ルウが苦手なことを俺がやり、俺ができないことはルウに任せる。それが俺の、テイマーとしてのスタイルだ。
他の部分には最低限の魔力のみ残して、拳と翼、脚に魔力を集中させる。拳に集まった魔力をさらに凝縮、1点に絞り込んでいく。イメージはブラックホール、炎がルウの手の中で渦巻き紅く輝く火の玉が現れる。これで準備は完了、後は動
きを止めるだけだ!
「動きを止めてください!」
「分かった、魔術士隊!」
駆竜の攻撃を受け止めていた冒険者たちが下がると、追撃がかかる前に魔術士たちが準備していた魔術を放つ。地面から土や蔦の縄が生え、駆竜を雁字搦めに拘束する。暴れられたら数秒も持たないが・・・ルウが攻撃するには十分だ。
地面を砕くほどの力で、ルウが駆竜に向かって飛び出す。瞬間で最高速へ到達、そのままの速度を維持して敵へと迫る。拘束を振り払った駆竜は、迫り来るルウを見て右腕を振りかぶった。そうくると思ってたよ!
横一文字に振られる刃。だが、俺たちは身を屈めてその下を潜り、腕を振り切ってしまっている駆竜の懐へと入る。この距離なら、ルウの拳のほうが早い。
手のひらにある火の玉を、駆竜の顔面へと殴りつける。そうだな...。
「俺の拳が真っ赤に燃える、勝利を掴めと轟き叫ぶ!」
「グラアアアアアアア!!!」
最後にルウが一押しした瞬間、駆竜を熱線が飲み込み数十m先の空間まで焼き尽くす。中心に炎のレーザーのような状態の核があり、その周りを火炎が渦巻いている構造になっているから、駆竜の顔にはそのレーザー部分が直撃しているはず。やったか!?
黒煙が晴れると、そこには体中を焼き焦がし爛れさせている駆竜が立っていた。頭の損傷が特にひどく、半分は完全に融解している。だが、その状態においても駆竜の目には光があり、まだまだ動けるようだった。その目が語るのは、もう自分を倒す手段はないだろうという、勝利を確信している表情だ。そうだな、多分今のがこの中で出せる最大威力の攻撃だろう。
突如、横から大きな衝撃を受けたように揺れる駆竜の体。さらに地面から1本の針が飛び出て、鱗のない腹を突き破った。そう、俺はあの一撃でこいつを倒せるなんて、はなから思っていない。そこまで慢心はしないし、確実に倒せると言い切れるだけの材料はなかったしな。だから、ライムとリンには追撃を頼んだ。顔を攻撃し鼻や耳を潰して、ライムが接近しているのを気づかれないように。防御が薄くなったところで、リンに腹を貫いてもらう。これで、俺の勝ちだ。
ライムたちが離れると、地面に倒れこむ駆竜。目に光はなく、数十秒待っても動きはない。よし、これで完全に倒しきったな。
「・・・倒したのか?」
「はい、主を倒しましたよ」
「よし、俺たちの勝利だ!」
『オオオオオオ!!!!』
戦っていた冒険者たちが、勝ち鬨を上げて喜んでいる。そして、俺を囲んで背中をバシバシと叩いてきた。まあ、ここまで来るのに時間もかかったし倒すのも苦労したけど、それだけの価値はあったかな。とりあえず、少し休憩させてくれ...。
「それで、こいつの取り分なんだが...。俺は、最優先でこのテイマー君に分配して良いと思う。皆はどうだ?」
全員で休憩した後、駆竜の素材の取り分を決めることとなった。倒した魔獣の素材は倒した冒険者等の物だが、今回は全員で協力して狩ったのだから、取り分を決めなければならない。それに、資料としてギルドに提出しなければいけないものもあるしな。
俺が最優先で分配されることに、異議を唱えるものはいない。おお、もっと反対があるものだと思ってたんだが・・・さすがBランクだな。
「よし、それじゃあどの部位がほしいのか言ってくれ。とりあえず、ほしい部位を全部言ってくれないか」
「全部ですか・・・とりあえず、腕1本・心臓・牙・鱗・あと肉、骨でしょうか」
「ふむ、腕1本か・・・爪はそこについているのでは駄目かい?」
「あ、それでいいですよ」
「それはよかった。肉と骨は、あまり持ち帰らないから残った所を全部取っていいよ。心臓もね。牙と鱗は、他の人の取り分を決めてから伝えるよ」
「了解です」
それからしばらく、取り分の議論は続いた。そしてその後、
「解体は後でやるとして、まずはあの大樹を調べてしまおう。主がいなくなったことが知られて、他の魔獣が来てからじゃ遅い。魔術士は、あの死体を冷却してくれ」
肉が腐るのを防ぐためだね。魔術士の仕事が終わるのを待ってから、俺たちは大樹へと歩き出した。
ルウたちの鼻にも探知にも魔獣が引っかからないのを確認しつつ、ゆっくりと樹に近づく俺たち。そしてついに、大樹の根元へと到着した。
「近くで見ると、さらに大きいな...。とてもじゃないが、葉っぱを取ることは出来そうにないぞ」
「というか、この樹は触ってもいいものなのか?何となく、近づいてはいけない雰囲気なんだが」
「・・・確かにな。エルフは・・・いないか。しょうがない、大体の大きさと周囲の状況を確認して、落ち葉を集めて戻るとしよう。主はいなくなったんだし、また来ることは出来るだろう」
ヘイスさんの号令と共に、周囲に散開して調べだす冒険者たち。俺も手伝おうとしようとしたら、ルウたちに止められた。どうやら、上のほうに何かがあるらしい。ちょっと気になるらしく、上にいきたいみたいだ。
ヘイスさんに断ってから、ルウに乗って葉が生い茂っているところまで飛び上がる。ルウたちが気になっている場所というのは、枝ヶが一箇所に集まって幹と繋がっているところだ。そこまで飛んでみると、枝が分かれるところに出来た窪みの中に鳥の巣のようなものがあり、その中に1つだけポツンと大きな卵が置かれていたのだ。
樹に近づいてもらい、巣の中に降りる。どうやらあの駆竜の巣みたいらしく、ルウたちが降りても全然問題ないみたいだ。
置いてあった卵を手に取る。大きさは大体30cmくらい、けっこうな大きさだ。
「・・・あの竜の卵か。あいつは、これを守ろうとしていたのか?」
『はい、その通りでございます』
突然、どこからか声が聞こえてきたかと思ったら、樹の中から緑っぽいお姉さんが飛び出してきた。体は葉っぱや蔦で覆われていて、いかにも森の人という印象だな。
「えっと・・・どちらさまで?」
『私はこの大樹に宿る精霊でございます』
「精霊っていうと、大地に宿る魔力の源?」
『そうでございます。精霊とは自然そのもの、大地と一体化しておりますが、このように一際魔力の濃い場所ですと、私みたいに形をとって顕現することがあるのでございます』
「ふーん。どっちかというと、土地神って感じか」
『トチガミ、でございますか?』
「ああ、その地域の守り神って感じかな?詳しいことはよく分かりません」
『そうですね、環境を守るという意味では、トチガミが近こうございます。それにしても、トチガミでございますか...。いい響きでございますね』
「気に入ってもらえてなによりです。それで、精霊様が何の御用なんですか?」
『ああ、そうでございました。あなた様が信用に足る人間だと思い、今回はわざわざ現れたのでございますよ。あなたには、その竜の卵を引き取ってもらいたいのでございます』
「ほう...」
わざわざ精霊様自らねぇ~...。何やら、面倒なお話になりそうだな。
ヒートエ◯ドとシャイニングフィ◯ガー、それとファイ◯ーフィストのどれが適切でしょうか?




