表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
112/113

後日談その4

後日談は多分これで終わりです。次話がラストでしょうか...。

『卒業後のファル』


 王都第三の壁内にある騎士団の訓練所、騎士の中でも近衛や団長クラスとなるであろう、エリートを育成するための施設だ。学院から数人が候補生となって、毎日訓練に勤しんでいる。


「止め!これで午前の訓練は終了だ!午後の訓練に備えて、しっかりと休息を取るように!」

『あ、ありがとうございました!!!』


 教官が下がってから、候補生たちは各々の装備を脱いで昼食に向かう。王国の紋章が描かれている鎧に、刃の潰した剣を自分のロッカーへしまう。


「はー、今日の訓練もキツかったなー...。午後も大変だ」

「そうだね...。これだけやっても、団長になれるのはほんの一握りだし」

「学院の訓練と比べると、やっぱり辛いわよね。まあ、いきなり前線に送られるよりはマシじゃない?」

「それもそうか」


 候補生の制服に着替えた青年たちが、訓練所から出て食堂へ向かう。途中、宮廷魔術士の実験場を通った時に、一緒に歩いていた少女がとある人物を目にした。


「あれって・・・キサト様じゃない?」

「どれだ?」

「ほら、実験場の前にいる...」

「あ、ホントだ。今日は違う教官だったし、私用で来てるんじゃないの?」

「宮廷魔術士に何か用でもあるのか・・・ちょっと見に行かないか?」

「大丈夫?」

「大丈夫よ、候補生なんだから。ちょっとくらい見ても、文句は言われないわ」


 青年と少女が行く気なのを見て、心配そうにしていた獣人の青年も後に続く。見張りが三人を一瞥するが、候補生だからか何も言わない。軽く挨拶して、中に入って行く。


 宮廷魔術士の実験場には、野外と屋内の二つがある。何が起こるか分からないということがあるので、大体の実験は野外で行われるのが常だ。雨天時に、規模の小さな魔術の実験を行う時に使われるくらい。後は、魔術戦の訓練などだろうか。



「中に誰かいるわね...。でも、宮廷魔術士じゃないみたいよ」

「数人いるしな・・・何か、魔物っぽく見えるのは俺だけか?」

「奇遇ね私もよ。翼や尻尾があるし・・・あいつなんて、下半身が蛇よ。どういうことかしら?」

「・・・あれ、ツチオさん?」






<side ファル>


 キサト様が入った実験場の中には、ツチオさんと従魔たちがいた。何で役人のツチオさんが、教官であるキサト様と会ってるんだろう?


「何だ、知ってるのかファル?」

「ああうん、学院で仲が良くて色々お世話になった人で...」

「そういえば、よく一緒にいたわね...。結構問題を起してたし、大変だったでしょ」

「問題児って・・・しょうがない所もあるんだけどな」


 魔獣に襲われるのとかは、ツチオさんのせいじゃないしね。ついてないとは思うけど。

 そうしているうちに、キサト様がツチオさんに声をかける。気がついたツチオさんは嬉しそうだ。


「あ、キサトさん。お久しぶりです」

「久しぶりじゃな、ツチオ殿。各地での活躍は聞いておるよ」

「キサトさんも、教官になったんですよね。まだまだ現役でいけると思うんですけど...」

「儂ももう歳であるし、後進の育成もしたいしの。それにしても・・・随分と成長したものだ」

「ははは・・・色々大変な目に会いましたからね。校長には、俺みたいな問題児は初めてだって言われちゃいましたよ」

「はっはっは、校長にそこまで言わせるとは、やはりツチオ殿ですな」


 ・・・元騎士団長で爵位をもらえるくらい立派な騎士のキサトさんと、あんな親しげに話すなんて・・・ツチオさんって、ホント何者?


「そういや、噂で聞いたことがあるぞ。王国中で魔獣や賊を倒している、魔物たちと人間がいるって。その人間の名前が、確かツチオだったような...」

「へー、そんな奴が何でこんな訓練場にいるのかしら?キサト様に会うにしても、別の場所があるでしょ」

「あ、あんまり大きな声で話すと見つかるよ!」


 見つかるのは何か決まりが悪かったので、私たちは実験場の入り口から顔を覗かせて様子を伺っている。隠れる必要はないんだけど、邪魔したらいけないし...。


「・・・ちょっとあんたたち、何こそこそしてるのよ」


 突然背後から声をかけられ、ビックリしその場で飛び跳ねてしまう。恐る恐る後ろを見ると、宮廷魔術士の証であるローブを来たハロリーン先生が、僕たちを睨んでいた。


「「し、失礼しましたー!」」

「え、ちょっと!」


 僕が固まっている中で、二人はあっという間に逃げ出してしまった。そんな、薄情者ー!


「ん、誰かいるのか?」

「こいつらが覗いてたわよ。もう二人いたけど、さっさと逃げ出しちゃったわ」

「って、ファルじゃんか。久しぶり」

「ひ、久しぶり...」

「おお、ファルはツチオ殿の知り合いだったのか」

「は、はい。学院では非常にお世話になりまして...」

「普段の言葉遣いでよいぞ」

「そんで、用事ってのは何なの?」

「前から相談してた呪符が完成しまして・・・あ、ファルも見てていいぞ」


 呪符?そっか、ハロリーン先生は呪符の研究をしてたんだっけ。でも、どうしてキサト様まで...。


「ツチオ殿の呪符が独特であるからな、見ておいて損はない」

「期待してもらえているのは嬉しいですけど・・・今回のは、そんな特殊なものではないですよ?ハロさんとかも、普通に使うでしょうし」

「私も?どんなのかしら...」

「こいうのです」


 ツチオさんが袖から符を出し、宙に浮かせる。その符を中心にして、透明な盾が展開した。長方形が内側に少し婉曲しているような形だ。


「たしかに普通の盾ね・・・私も、似たようなのを使うわ。そういえば、ツチオの符術で防御用って少なかったような気が」

「そうですね、一つ二つくらいでしょうか。俺の役割について改めて考えてみたんですけど・・・攻撃するより、防御かなって」

「ふむ、まあ従魔たちがいるしな」

「攻めて攻めて攻めまくるって感じじゃ駄目なの?」

「場合によってじゃそれでもいいのですけど、出来れば怪我をしてほしくないですから。最近は結構頑張ってるんですよ?」


 クルクルと回転すると、盾も一緒に動く。役人でも戦ったりするんだ・・・大変なんだな。


「聞いてるけど、あれってツチオの仕事じゃないんじゃ...。騎士団の仕事でしょう」

「まあそうなんですけど、一応俺の仕事の一環ですよ。現場からの評判もまずまずです」

「王国各地に現れて、魔獣や賊を討伐してるってやつですか?」

「そうだよ。他のやり方もあるんだろうけど・・・手っ取り早いのは、それかなって」

「ツチオさんの仕事って一体...」

「悪いな、秘密なんだ。まあ、何年か後になったら分かるようになると思う。それより、リュカは休憩中だろ?昼飯、食わなくていいのか?」

「・・・あ」


 そ、そういえば...。午後も訓練があるから、ちゃんと食べておかないといけないのに!


「午後からは儂が教官だな・・・言い訳は許さんぞ?」

「・・・失礼します!ツチオさんも頑張ってください!」

「おー、頑張れよー」


 大変だ大変だ・・・でも、ツチオさんに会えてよかったな。王都にいるのなら、また今度会いに行ってみよう!






『小ネタ』

<働いたら負け>


「こんちわー、断絶さん」

「・・・あのな、ツチオ。最近何かにつけてここに来ているけどな、私は許可してはないんだぞ?」

「まあまあ、いいじゃないですか。断絶さん、ここから出ようとしないんですから。俺が来なけりゃ、誰も来ないでしょうし」

「私はそれで構わないんだが...」

「そんな寂しいこと言わないでくださいよー。ほら、今日もお土産を持ってきましたよ」

「ツチオ、毎回変な物を持ってくるからな...。前は変な置物だったし、その前は古い壺だったよな」

「骨董品と言ってください。古代遺跡を探索してたら中々良さそうなものがあったんで、きれいにして持ってきたんです。多分価値がありますよ」

「価値があるかどうかも分からない物を渡されてもな...」

「今日は違いますよ!断絶さんなら、きっと気に入るはずです!」

「随分と自信があるんだな...。見せてみろよ」

「これです。向こうで着替えてくださいねー」




「・・・おいツチオ、着替えてはみたが色々とおかしいぞ」

「え、どこがです?」

「お前の目は節穴だ!ズボンがないだろ、ズボンが!後この服!何でこんなにダボダボなんだ!裾が膝まであるぞ!最後に、ここに書かれている言葉はなんだ!」

「お、落ち着いてください、断絶さん」

「これが落ち着いていられるかー!はあはあ...」

「その服は、ズボンを着ないでもいいものなんです。服自体が大きいから、着なくても大丈夫でしょう?服には『働いたら負け』と書いているんですよ」

「分かってるよ!」

「・・・気に入りませんでした?気心地は悪くないと思いますが」

「悪くないから良くないんだよな...。はあ、かなり楽だぞ」

「それなら良かったです、似合ってますよ」

「業火たちに見られたら何て言われるか...。ツチオに着せられたって言うからな!」

「脱げばいいじゃないですか...。まあいいですけど。それじゃ、使わせてもらいますね」

「好きにしろ、私は寝る」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ