後日談その4
後日談は多分これで終わりです。次話がラストでしょうか...。
『卒業後のファル』
王都第三の壁内にある騎士団の訓練所、騎士の中でも近衛や団長クラスとなるであろう、エリートを育成するための施設だ。学院から数人が候補生となって、毎日訓練に勤しんでいる。
「止め!これで午前の訓練は終了だ!午後の訓練に備えて、しっかりと休息を取るように!」
『あ、ありがとうございました!!!』
教官が下がってから、候補生たちは各々の装備を脱いで昼食に向かう。王国の紋章が描かれている鎧に、刃の潰した剣を自分のロッカーへしまう。
「はー、今日の訓練もキツかったなー...。午後も大変だ」
「そうだね...。これだけやっても、団長になれるのはほんの一握りだし」
「学院の訓練と比べると、やっぱり辛いわよね。まあ、いきなり前線に送られるよりはマシじゃない?」
「それもそうか」
候補生の制服に着替えた青年たちが、訓練所から出て食堂へ向かう。途中、宮廷魔術士の実験場を通った時に、一緒に歩いていた少女がとある人物を目にした。
「あれって・・・キサト様じゃない?」
「どれだ?」
「ほら、実験場の前にいる...」
「あ、ホントだ。今日は違う教官だったし、私用で来てるんじゃないの?」
「宮廷魔術士に何か用でもあるのか・・・ちょっと見に行かないか?」
「大丈夫?」
「大丈夫よ、候補生なんだから。ちょっとくらい見ても、文句は言われないわ」
青年と少女が行く気なのを見て、心配そうにしていた獣人の青年も後に続く。見張りが三人を一瞥するが、候補生だからか何も言わない。軽く挨拶して、中に入って行く。
宮廷魔術士の実験場には、野外と屋内の二つがある。何が起こるか分からないということがあるので、大体の実験は野外で行われるのが常だ。雨天時に、規模の小さな魔術の実験を行う時に使われるくらい。後は、魔術戦の訓練などだろうか。
「中に誰かいるわね...。でも、宮廷魔術士じゃないみたいよ」
「数人いるしな・・・何か、魔物っぽく見えるのは俺だけか?」
「奇遇ね私もよ。翼や尻尾があるし・・・あいつなんて、下半身が蛇よ。どういうことかしら?」
「・・・あれ、ツチオさん?」
<side ファル>
キサト様が入った実験場の中には、ツチオさんと従魔たちがいた。何で役人のツチオさんが、教官であるキサト様と会ってるんだろう?
「何だ、知ってるのかファル?」
「ああうん、学院で仲が良くて色々お世話になった人で...」
「そういえば、よく一緒にいたわね...。結構問題を起してたし、大変だったでしょ」
「問題児って・・・しょうがない所もあるんだけどな」
魔獣に襲われるのとかは、ツチオさんのせいじゃないしね。ついてないとは思うけど。
そうしているうちに、キサト様がツチオさんに声をかける。気がついたツチオさんは嬉しそうだ。
「あ、キサトさん。お久しぶりです」
「久しぶりじゃな、ツチオ殿。各地での活躍は聞いておるよ」
「キサトさんも、教官になったんですよね。まだまだ現役でいけると思うんですけど...」
「儂ももう歳であるし、後進の育成もしたいしの。それにしても・・・随分と成長したものだ」
「ははは・・・色々大変な目に会いましたからね。校長には、俺みたいな問題児は初めてだって言われちゃいましたよ」
「はっはっは、校長にそこまで言わせるとは、やはりツチオ殿ですな」
・・・元騎士団長で爵位をもらえるくらい立派な騎士のキサトさんと、あんな親しげに話すなんて・・・ツチオさんって、ホント何者?
「そういや、噂で聞いたことがあるぞ。王国中で魔獣や賊を倒している、魔物たちと人間がいるって。その人間の名前が、確かツチオだったような...」
「へー、そんな奴が何でこんな訓練場にいるのかしら?キサト様に会うにしても、別の場所があるでしょ」
「あ、あんまり大きな声で話すと見つかるよ!」
見つかるのは何か決まりが悪かったので、私たちは実験場の入り口から顔を覗かせて様子を伺っている。隠れる必要はないんだけど、邪魔したらいけないし...。
「・・・ちょっとあんたたち、何こそこそしてるのよ」
突然背後から声をかけられ、ビックリしその場で飛び跳ねてしまう。恐る恐る後ろを見ると、宮廷魔術士の証であるローブを来たハロリーン先生が、僕たちを睨んでいた。
「「し、失礼しましたー!」」
「え、ちょっと!」
僕が固まっている中で、二人はあっという間に逃げ出してしまった。そんな、薄情者ー!
「ん、誰かいるのか?」
「こいつらが覗いてたわよ。もう二人いたけど、さっさと逃げ出しちゃったわ」
「って、ファルじゃんか。久しぶり」
「ひ、久しぶり...」
「おお、ファルはツチオ殿の知り合いだったのか」
「は、はい。学院では非常にお世話になりまして...」
「普段の言葉遣いでよいぞ」
「そんで、用事ってのは何なの?」
「前から相談してた呪符が完成しまして・・・あ、ファルも見てていいぞ」
呪符?そっか、ハロリーン先生は呪符の研究をしてたんだっけ。でも、どうしてキサト様まで...。
「ツチオ殿の呪符が独特であるからな、見ておいて損はない」
「期待してもらえているのは嬉しいですけど・・・今回のは、そんな特殊なものではないですよ?ハロさんとかも、普通に使うでしょうし」
「私も?どんなのかしら...」
「こいうのです」
ツチオさんが袖から符を出し、宙に浮かせる。その符を中心にして、透明な盾が展開した。長方形が内側に少し婉曲しているような形だ。
「たしかに普通の盾ね・・・私も、似たようなのを使うわ。そういえば、ツチオの符術で防御用って少なかったような気が」
「そうですね、一つ二つくらいでしょうか。俺の役割について改めて考えてみたんですけど・・・攻撃するより、防御かなって」
「ふむ、まあ従魔たちがいるしな」
「攻めて攻めて攻めまくるって感じじゃ駄目なの?」
「場合によってじゃそれでもいいのですけど、出来れば怪我をしてほしくないですから。最近は結構頑張ってるんですよ?」
クルクルと回転すると、盾も一緒に動く。役人でも戦ったりするんだ・・・大変なんだな。
「聞いてるけど、あれってツチオの仕事じゃないんじゃ...。騎士団の仕事でしょう」
「まあそうなんですけど、一応俺の仕事の一環ですよ。現場からの評判もまずまずです」
「王国各地に現れて、魔獣や賊を討伐してるってやつですか?」
「そうだよ。他のやり方もあるんだろうけど・・・手っ取り早いのは、それかなって」
「ツチオさんの仕事って一体...」
「悪いな、秘密なんだ。まあ、何年か後になったら分かるようになると思う。それより、リュカは休憩中だろ?昼飯、食わなくていいのか?」
「・・・あ」
そ、そういえば...。午後も訓練があるから、ちゃんと食べておかないといけないのに!
「午後からは儂が教官だな・・・言い訳は許さんぞ?」
「・・・失礼します!ツチオさんも頑張ってください!」
「おー、頑張れよー」
大変だ大変だ・・・でも、ツチオさんに会えてよかったな。王都にいるのなら、また今度会いに行ってみよう!
『小ネタ』
<働いたら負け>
「こんちわー、断絶さん」
「・・・あのな、ツチオ。最近何かにつけてここに来ているけどな、私は許可してはないんだぞ?」
「まあまあ、いいじゃないですか。断絶さん、ここから出ようとしないんですから。俺が来なけりゃ、誰も来ないでしょうし」
「私はそれで構わないんだが...」
「そんな寂しいこと言わないでくださいよー。ほら、今日もお土産を持ってきましたよ」
「ツチオ、毎回変な物を持ってくるからな...。前は変な置物だったし、その前は古い壺だったよな」
「骨董品と言ってください。古代遺跡を探索してたら中々良さそうなものがあったんで、きれいにして持ってきたんです。多分価値がありますよ」
「価値があるかどうかも分からない物を渡されてもな...」
「今日は違いますよ!断絶さんなら、きっと気に入るはずです!」
「随分と自信があるんだな...。見せてみろよ」
「これです。向こうで着替えてくださいねー」
「・・・おいツチオ、着替えてはみたが色々とおかしいぞ」
「え、どこがです?」
「お前の目は節穴だ!ズボンがないだろ、ズボンが!後この服!何でこんなにダボダボなんだ!裾が膝まであるぞ!最後に、ここに書かれている言葉はなんだ!」
「お、落ち着いてください、断絶さん」
「これが落ち着いていられるかー!はあはあ...」
「その服は、ズボンを着ないでもいいものなんです。服自体が大きいから、着なくても大丈夫でしょう?服には『働いたら負け』と書いているんですよ」
「分かってるよ!」
「・・・気に入りませんでした?気心地は悪くないと思いますが」
「悪くないから良くないんだよな...。はあ、かなり楽だぞ」
「それなら良かったです、似合ってますよ」
「業火たちに見られたら何て言われるか...。ツチオに着せられたって言うからな!」
「脱げばいいじゃないですか...。まあいいですけど。それじゃ、使わせてもらいますね」
「好きにしろ、私は寝る」




