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後日談その3

文字数などの関係で、ファルは次話になります。

『卒業後のリュカ』


 精霊領、エルフたちの住まう大樹林の中に存在する精霊たちで満ちている空間。夕日が差し込み、家路を急ぐ子どもたちを照らす。


「せんせー、さよーならー!」

「また明日ねー!」

「早く帰らないと駄目だよー!」

「はーい!」


 とある町の学び場から、小さな子どもたちが駆け出してくる。それを見送るのは、輝く金髪を風にたなびせ、子どもたちへ手を振り返す一人のエルフがいた。着ているのは男物であるが、その見た目は麗しく見た人全てが振り返るであろう美貌だ。子どもたちの姿が見えなくなるのを見計らって、若い男性が声をかける。整った顔立ちに短髪の、イケ面なエルフ君だ。


「あ、あの!」

「あれ、先生。まだ帰ってなかったんですか?」

「は、はい。先生に伝えたいことがあって...」

「何でしょうか?」


 可愛らしく小首を傾げる姿は、大人の中に見せる子どもらしさに、声をかけた男性は長い耳を真っ赤に染める。


「そ、その...。お、俺と付き合ってください!」


 勢い良く頭を下げ、右手を差し出す男性。いきなり告白されて戸惑っているのか、手をワタワタさせながら答える。


「ええ!ちょ、いきなりそんなこと言われても困りますよ!」

「すみません!でも、もう我慢できないんです!付き合ってください!」

「・・・すみません、それは出来ません」

「もう付き合っている人がいるんですか!?」

「そうではないんですけど...」

「じゃあ何故!?」


 詰め寄る男性に、無慈悲にも真実が突きつけられる。


「だって・・・僕、男性ですもの」






<side リュカ>


 大丈夫かな先生、置いてきちゃったけど...。何か真っ白に燃えつけてたし、女性不信にならないといいけど。


 僕は学院を卒業した後、故郷に戻って学び場の先生となった。色々誘われたけど、戦うのとかはあまり性に合わないし。子どもは好きだしね。

 そうやって先生になったのはいいんだけど・・・最近、よく告白されるようになった。今回のも合わせたら、今月でもう三度目だ。女っぽいとは分かってたけど、まさかここまでなんて...。男物の服だって着てるのに...。 はあ、僕も女の子にモテたいなー。僕だって男なのになー。


「おいおい嬢ちゃん、どうしたんだ元気ねぇな」

「あ、おじさん...」


 よく買い物をする八百屋さんのおじさんに声をかけられる。多分エルフなんだけど・・・パッと見ムキムキの人間なんだよなー...。耳が尖がってるから、辛うじてエルフなのだと分かる。


「ちょっと色々あってね...」

「まーた告られたのか・・・まあ、そこらへんの女よりきれいなんだから、しょうがねぇだろ。俺も若かったら、絶対告ってるぜ!」

「やめてよ、冗談に聞こえないから。それに、奥さんに怒られちゃうよ」

「わーってるよ。そうだ、人間の坊主がお前を訪ねてたぞ」

「人間の?・・・ツチオ君かな」


 ツチオ君は、確か王国のお役人になったんだっけ。僕を訪ねる暇なんてないと思うんだけど...。・・・もしかして、抜け出してきてとか?


「今、どこにいるのか分かる?」

「もうすぐ帰ってくるだろって言ったから、そこらへんをうろついてると思うぞ」

「あー、リュカ!戻って来てたか!」


 ちょうど僕が来た方から、ツチオ君が走ってくる。着ているのは立派なスーツ、恐らく正装。仕事で妖精領に来てたんだ。


「ツチオ君!久しぶり!」

「ああ、久しぶりだなー。卒業以来会ってなかったから・・・三年ぶりくらいか」

「そうだねー、うわーホント久しぶりー!」


 色々あったから、弱気になってたんだろう。感極まって、僕の方から走り寄って抱きついてしまった。周りから野次や口笛が飛んでくるが、その時ばかりは気にならない。


「おっと、どうしたんだリュカ?」

「ちょっと色々あってね...」

「そっか、ここじゃ目立つしちょっと移動しよう」






「ほら、お茶」

「ありがと」


 近くの公園に向かい、ベンチに隣り合って座る。聞いたところ、やっぱりお仕事で来ていたようだ。少し時間が出来たので、僕に会いに来てくれたらしい。


「ルウたちは?」

「今回は俺とツチノだけだな。こういう面倒なことは俺の担当」

「・・・もしかして、ツチオ君って結構偉い?」

「うーん、どうなんだろ?地位的には、そんなに高くないよ。こうやって他国に来てるのは、俺しか行く人がいないからだし」

「そうなんだ、大変だねぇ...」

「それはリュカもだろ。どうしたんだ、何かあったみたいだけど」

「あはは、そんな大したことじゃないんだけど...」


 男性から告白される旨を、ツチオ君に話す。これが女の人からだったら、僕も悩む必要はなかったのに。


「はー・・・何というかまあ、予想通り過ぎてビックリって感じだな。男なんて、皆そんなもんだろうし」

「そりゃ、付き合うなら誰でも美人がいいとは思うよ。僕だってそうだし。でもさ、告白する前に少し調べたら、僕が男だって普通分かるでしょ?つまり、今まで告白してきた人たちは、僕の顔だけ見て告白してきたってことなんだよ。そこが許せないの!」


 ホント、それだけが嫌なんだよね。面食いなのはいいけど、それだけなのは本当に嫌だ。


「まあ、落ち着け落ち着け。はい、ひっひっふーひっひっふー」

「ひっひっふー・・・ふう、ごめんねツチオ君」

「まあ、男に好かれて喜ばれるのは一部の奴だけだし。リュカはいい子なんだし、絶対素敵なお嫁さんが出来るよ」

「うん、ありがとう」


 やっぱり、ツチオ君は優しいなー。僕も、ツチオ君みたいな子をお嫁さんに欲しい。・・・いや、ツチオ君と結婚したいってわけじゃないよ?みたいな、だよ!


『うん、私のこと呼んだ?』

「よ、呼んでないよ!」

『え、リュカちゃんにこんなに拒否されるなんて・・・ショック。というか、相変わらずきれいだねー。魔力って万能』

「というか、何で出てきたんだよツチノ。こっちにいる間は、出て来ないんだろ?面倒だから」

『いや、だから呼ばれたような気がしたんだよ。おっかしーなー、絶対に呼ばれたのに』


 そういえば、ツチオ君が女の子だったらツチノちゃんみたいな感じになるんだっけ。うーん・・・でも、ツチオ君とツチノちゃんはやっぱり違うんだよね。ツチオ君は、男だからこそツチオ君なんだろうな。


「んじゃ、ツチノも出てきたことだし戻るか」

「え、もう戻っちゃうの?晩ご飯くらい食べてけばいいのに」

「そうしたいのは山々なんだけど・・・今日中に、もう何箇所か回らないといけないんだ」

「あ、そうだったんだ...。頑張ってね」

「おう、リュカもな。出会いってのは一期一会、ここぞという時に逃さないようにな」

『どうせなら、サバサバした男らしい女の人を狙ってみたら?ほら、騎士団の人とか』

「ああ、確かに似合いそうだな」

「騎士団か・・・ちょっと知り合いに当たってみるよ」

「ツチノの言う事だし、あまりまともに受け止めないほうがいいと思うけど」

『酷い!』

「あまりツチノちゃんと苛めたら駄目だよ、ツチオ君」

『そうそう、もっと私を癒して!労わって!!可愛がって!!!』

「自分を相手にしてるみたいで、何か変な感じなんだよな...。まあ、考えとくよ。じゃあリュカ、また会おうな」

「うん、連絡してね」


 ツチオ君を黒い影が覆って、空高く飛び去っていった。さっきも言った通り、お仕事の続きに向かうのだろう。頑張ってるんだな、ツチオ君・・・僕も、クヨクヨしている場合じゃないな。僕のことを、ちゃんと見てくれている人はいる。その人が現れるまでは、子どもたちの先生として立派にしてあげないと!






『卒業後のトリス』


 洞窟国、ドワーフが作り上げた坑道の中に出来た国。大陸北部の大山脈の中を、縦横無尽に張り巡らされており、今でも新しい鉱脈が見つかっている、大陸一の資源輸出国。


「おーい、トリス。交代だぞ」

「もうそんな時間でありますか。異常なしであります!」

「了解、今日はもう帰っていいぞ。お疲れ」

「お疲れ様であります!お先に失礼するであります!」


 そんな坑道の中のとある町、門の前で警備をしていた兵士たちがちょうど交代する時間。金属の鎧と大きな槌を装備した小さな兵士が、高めの声で先輩の兵士に挨拶する。山の中という環境のため、洞窟国は他国より魔獣の襲撃が多い。坑道の中なので壁なども作れないので、魔獣が出現したら門を閉め兵士たちが出て戦うのだ。見張りの役割も、この国ではかなり重要なものだ。


 兵士の詰め所に戻った小さな兵士は、被っている窮屈な兜を脱ぐ。茶色いフワフワな髪が広がり、彼女はそこでようやく一息を吐いた。


「今日も何事もなくて、良かったでありますな...。やっぱり、平和が一番であります!」






<side トリス>


 学院を卒業した私は、故郷に帰って町に駐屯する兵士になったのであります。子どもの頃はずっと鍛冶士になりたかったのでありますが、残念なことに私には才能がなかったのです。実家を継ぐという道もありましたが、父様と母様はまだまだ健在であるし、姉もいるので、学院での勉学を活かすためにも、兵士になる道を選んだのであります。


 私の実家は酒屋であります。ドワーフは大酒飲みなので、割かし儲かっているのであります。今は、姉様が父様から色々と勉強している最中なのであります。まだまだ一人立ちには程遠いと、厳しく指導しているのであります。


 家の近くまでくると、中から父様の笑い声が聞こえてきたのであります。きっと酒盛りをしているのに違いないのであります。それ以外にも、複数の人の声が。誰かお客様が来ているのでありましょうか?


「ただ今帰ったでありますー!」

「おお、トリス。久々!」

「・・・ツチオ殿?」


 家の扉を開けると、目の前にはツチオ殿の姿が。奥の卓には多くの料理が並び、父様とルウたちが次々に酒瓶を空けているのであります。これは、一体どういう状況なのでありますか!?


「ど、どうしてツチオ殿が私の家に!?」

「こっちに来る用事があったから、ちょっと寄らせてもらったんだけど...。親父さんに酒盛りに誘われちまってな・・・現在に至る」

「トリス、おかえりなさい。この人がツチオさんなのね、トリスが学院でお世話になりました」

「いえいえ、とんでもない。俺なんか、大したことはしてませんよ、ホント」

「ツチオ殿、お仕事は大丈夫なのでありますか?」

「問題ない、今日の分は全部終わってるし」

「いや、明日のことなのでありますが...」


 ルウたちは、どんどん酒を飲み干していっているのであります。あんな風に飲んだら、多分二日酔いで明日は起きれないんじゃ...。


「ああ、そのことなら大丈夫だよ。ほら、ちゃんと見てみろよ」


・・・確かに、父様は大分顔が赤くなっていますが、ルウたちはケロリとしているのであります。結構な酒豪の父様があそこまで酔うということは、相当な量を飲んでいるのであります。それで顔色一つ変えないなんて・・・ツチオ殿の従魔は本当に化け物であります!


「へへへ、中々いい飲みっぷりじゃねぇか、嬢ちゃんたちよ...」

「大丈夫ですか?そろそろ止めといたほうがいいんじゃ」

「女に心配されるほど、柔な鍛え方はしてねぇよ!嬢ちゃんたちみたいな酒豪には早々出会えねぇ、とっておきの逸品を出してやるぜ」

「私たちは酒豪というより、酔わないだけなのですけど...」

「魔物とドワーフでは、アルコールに対する抵抗力が段違いですからね。原液でも飲まない限り、酔うのは難しいかと」

「ちょっと、あまり飲みすぎると二日酔いで辛いわよ・・・って、聞いちゃいないわね」


 ルウたちが心配する中、父様は蔵から大きな酒樽を一個丸まる持ってきたのであります。銘柄は...。


「あ、あれはドワーフ潰しであります!あれの前では、どんなドワーフであろうと酔い潰れるという、非常に強いお酒でありますよ!昔、戦闘で使われるくらい!味が格別なので、それでも飲み続けられている逸品なのであります!」

「そりゃ強いな・・・というか、そんな酒を飲んで癌にならないのか?」

「ツチオ殿は飲まないんでありますか?」

「俺はそんなに強くないからね、飲むとしてもチビチビ飲むよ」


 そうしているうちにも、全員の杯に並々とドワーフ潰しが注がれるのであります。そして全員一緒に、一気に飲み干す。


「・・・へ、さすがの嬢ちゃんたちでも、これを飲んだら」

「あ、これおいしいねー」

「芋なのでしょうか?辛口で私好みです」

「へー、これはドワーフが夢中になるのも分かる気がするわ」

「もう一杯頂きましょうか」

「・・・全然、効いてねぇじゃねぇか...」


 そこで、父様は限界になったのか、卓に倒れ伏し大きないびきを上げ寝てしまいました。ルウたちは、次々にドワーフ潰しを注ぎ飲み干していきます。末恐ろしいでありますな...。


「まったく、変な意地を張るから...。トリス、私はお父さんを寝かせてくるから、ツチオさんたちの相手をしててあげて」

「わ、分かったであります」


 ヒョイと父様を担ぎ上げ、部屋へと運ぶ母様。あっという間にドワーフ潰しはなくなってしまったのでありました。


「こら、さすがに全部飲んだら駄目だろ。酒臭いぞ」

「久しぶりにおいしいお酒を飲めたからつい...」

「お父様、少し酔ってしまいました。抱いて帰ってください...」

「ライムは酔わないでしょ。つ、ツチオは酔ってるだろうし、運んでってあげないこともないわよ!」

「相変わらず、リンの思考は複雑怪奇ですね。酔っているのですか?」

「まったく...。悪いな、トリス」

「いえ、父様が出したんでありますから、構わないでありますよ」


 いいお酒はいい飲み手に飲まれるのが最良でありますからな。酔いたいだけの奴は、安酒でも飲んでいればいいのであります。


「そんじゃ、俺らはそろそろお暇するよ」

「え、もう帰っちゃうのでありますか?泊まっていけばいいのでありますのに」

「トリスは明日もお仕事だろ?あまり夜更かしは良くないぞ」

「私はもう子どもじゃないでありますよー!」

「はっはっは!」


 まったく、ツチオ殿は・・・いつまでも子ども扱いして。見た目がそうでも、中身はもう大人なんでありますよ!私だって大人になったんであります!


「まあ、元気でやってるようで安心した。リュカが連絡を欲しがってたから、手紙でも送ってくれ」

「リュカ殿にも会ってきたんでありますか?」

「ちょっと前にな」


 むー・・・私は、リュカ殿の次でありますか。相変わらず、お二人は仲良しでありますね。


「仕事のついでで会いにいったからな。こっちに先に来てたら、順番は逆になってたぞ」

「・・・お仕事、大変なんでありますね」

「ああ、でもやりがいはあるよ。トリスもそうだろ?」

「もちろんであります!」


 私たちの仕事は、この町の人たちを守るための大事な仕事。大きな責任を背負う分、とても充実しているのであります。


「今度手紙を送るのでありますよ!おいしいお酒といっしょに!」

「それは期待出来そうだ、楽しみに待ってる」


 そうして、ツチオ殿とルウたちの姿は、闇の中に掻き消えてしまったのであります。酒屋の娘として、ツチオ殿に合ったお酒を選ぶのでありますよ!リュカ殿にも送るのであります!


ユクリシスさんとの酒盛りで飲んでいたお酒は、トリスに選んだものだったり...。そんな設定を考えました。

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