後日談その1 ユクリシスさんと酒盛り
後日談です。ツチオがユクリシスさんに、今までにあったことを色々話します。
とある夏の夜、日が沈んで1時間ほど経ったある時、俺はユクリシスさんと彼女の私室で国交締結を祝って酒宴を開いていた。といっても、メインは色々と積もった話をすることなんだけどね。
「それではまず、国交締結おめでとうございます」
「ありがとうございますわ。乾杯」
カチンとグラスを鳴らす。マナー違反らしいが、まあこういう時くらいはいいよね。
「ツチオも、もう3児の父ですか...。これから増える予定はあるんですの?」
「うーん、分かりませんねー。皆次第といったところでしょうか。ユクリシスさんは、結婚しないんです?」
「そろそろしないといけないとは思っているのですけど・・・如何せん、グッと来る人がいませんのよ。今まで仕事に追われてて、そんな暇もなかったのですけど」
「それなら、これから探すんですか。式には呼んでくださいよー」
「考えておきますわ。・・・そういえば、一緒に国交を結ぶって決めた後初めて会った時に、いきなり国の人間になっててビックリしましたわよ。どういうことでしたの?」
「ああ、あれはですね...」
<ツチオ、進路を決める>
「校長校長、外交官になるにはどうしたらいいですか?」
「・・・どうしたんだい、急に」
夏休みが終わり、学院へと帰ってきた俺たち。皆の怪我も治り、やらなければならないことも決まった。時間に制限をつけてるんだ、今からでも動かないと。
「いえ、将来外交官になりたいなーと決意しまして」
「それは喜ばしいことだが、そう簡単になれるようなもんじゃないよ。まず試験に受からなきゃいけないし、受かったとしても一人前になるにはそれこそ何年もの月日が...」
「それじゃ駄目なんですよ!1~2年くらいで、それこそ他国に向かるようなくらいにならないと...」
「甘えてるんじゃないよ。何も知らない若造が、いきなりそんな大役を任されるわけないじゃないか。ツチオなら、10年もかからないでなると思う。焦らないで、一歩一歩手順を踏んでいけばいい」
「・・・それじゃ、駄目なんですよ。遅すぎます」
「どうしたんだ、ツチオ?らしくないよ。何か事情があるのかい?」
「・・・実は」
別大陸の国と国交を結びたい旨を、所々ぼかして説明する。ユクリシスさんとかは、向こうも結びたがっているという風みたいに。それを聞いた校長は、
「・・・なんというか、とんでもない話だね。ツチオあんた、夏休みに別の大陸に行くとか・・・どうやって?」
「転移魔術です、向こうの人に迎えに来てもらってるんですよ」
「はー・・・冗談を言っている様子じゃないし、事実なんだね」
「校長に、嘘が通じるとは思えませんし」
初めて会った時も、何か見透かされるような感じがしたもんなー...。懐かしい。
「事情は分かった。でも、普通になるんならさっき言った方法しかないよ?」
「なら、普通じゃない方法を取ればいいんですよ。だから、校長にお話したんですし」
「・・・まさかお前、私の伝手を使うってんじゃないだろうね!?」
他力本願なのはいけないと思うけど・・・使えるものは使わなきゃ、10年で国交締結なんて無理だろうしね。
「どんだけ図々しいんだい、あんた...」
「分かってます。それを承知の上で、こうしているんです。力を貸してもらえませんでしょうか」
「・・・駄目だね。そういうのは、自分の力でやらないと後々潰れるものだ。ツチオのためにも、私が力を貸すわけにはいかない」
「そうですか...」
そりゃそうだよな...。校長が駄目な以上、普通に試験を受けてなるしかないわけだ。どんだけ時間がかかるんだろう・・・出来るだけ早く出身しなきゃいけないな...。
「ただ」
「・・・ただ?」
「自分自身の力で得た伝手なら、使っても構わないんじゃないか?ほら、私にも仕事があるんだよ。出てった出てった」
校長室から追い出される俺。自分で手に入れた伝手・・・今度、王都に行かなきゃ
な。
「というわけで、軍部大臣とかその秘書官、あと騎士団長とかに相談した結果、ちょうど新設されようとしていた、対帝国向けの部の席に収まったというわけです」
「そういうことでしたの...。そんな入ってきたばかりの奴に、よく任せる気になりましたわね」
「魔物の国を相手に仕事をする部署でしたので、希望者が全くいなかったそうです。そんな中で、自らその仕事をしたいという人間が出てきたんですから、多少無理をしててでも押し通しますよ」
「なるほど」
餃子みたいな料理を口に運ぶ。どっちかと言えば茹で餃子みたいで、スープの中に入っているような感じだ。
「まず、国内の魔物に対する印象を変えることから始めました」
「どうやったんですの?結構根深かったんでしょう?」
「えっとですね、魔獣や賊討伐をしまくったんですよ。ルウたちと一緒に」
「魔獣や賊?そういうのは、騎士団の仕事ですわよね?」
「そうですけど、中には対応しきれない奴らもいるんですよ。そういう奴らを、片っ端から倒していったんです。それを見た人たちが、ルウたちを見て、魔物は敵じゃないと思ってくれたらなーって。従魔だってのは、基本伏せるようにしました」
強すぎる魔獣とかは、腕利きの奴らを呼ぶのに時間がかかるからな。その分俺らなら、転移でさっさと移動出来るし。中には、賊と繋がっていた騎士団もあったりしたね。まったく、本当に腐った奴らだったよ。キサトさんみたいに、立派な騎士もいるのにね...。
「その時に、今の国王とも知り合いましたね」
「国王って、あのお髭の立派な壮年の男性ですわよね。鍛えているとは、一目で分かりましたけど」
「はい、デカイ魔獣を討伐した時に共闘したんですよ。前国王が病に倒れたことで、新しい王を決めなければならなくなった時に、俺らは彼を推したんです。軍部大臣とか、騎士団長を巻き込んで」
「彼でなければ、国交が結べたとは思えませんでしたもの。本当にありがたかったですわ」
まあ、元々勢力は大きかったから、そこまで難しくはなかったんだけどね。ちょっと、対抗する貴族の勢力を削いだりしただけだよ。
「ちょうどその頃、ルウたちが出産しましたね。何故か、全員が大体同じ時期に産んだんですよね...。不思議です」
「そんなことより、魔人との間に子どもが出来たのに驚きましたわ。どんな様子でしたの?」
「人間と、あまり違いなかったみたいですよ」
<ツチオ、第一子誕生>
ルウが産気づいて、結構な時間が経過した。助産師さんが手伝って、今にも産まれそうなところだ。俺は入らせてもらえないので、ただただ待っているしかない。
『ツチオー、うろうろしてても何にもならないよ?ここは夫らしく、どっしりと構えてないと』
「そ、そうだな」
ツチノに窘められて、ソファーに座る俺。割かし広めなリビングには、今は俺しかいない。まさか、家を買ったばかりに出産することになるとは...。まあ、狭い役員寮よりはましか。
一旦座ったのはいいものの、どうにも居心地が悪く、また立ち上がってグルグルと歩き回る。『駄目だこりゃ』とツチノがため息をついているが、足は止まる様子を見せない。やっぱ、こういう時には女性の方が冷静なんだな...。
「大丈夫かな、ルウ・・・体は頑丈だから、痛みには慣れてないだろうし。流産する確率だって、初産が一番高いんだし...」
『助産師さんがついてるじゃない、大丈夫よ。ライムやリンだって妊娠してるんだよ、そんな様子でどうするの』
「分かってるよ...。はあぁ、落ちつかねぇ」
正直、初めて業火さんに会った時やグランニールと遭遇した時と同じくらいの緊張してる。恐怖があったから何とか自分を奮い立たせれたけど、今回はそれがない。緊張しているしかないのだ。
突如、オペ室となっている部屋からルウの叫び声が聞こえてくる。それと一緒に、助産師さんやニクロムの励ます声が。ライムとリンは、出産前にこういうのを見るのはよくないだろうと、知り合いの家に移っている。
「ルウ!?」
『だから、入っちゃ駄目だって言われたでしょ!』
「離せツチノー!俺は、ルウの側に行くんだー!」
『ルウのためにも、それはさせられないよ!』
慌てて飛び出した俺を羽交い絞めにするツチノ。俺の影なはずなのに、何故か普通に動けない。影は大人しく主についてこい!
『今日ばかりは拒否させてもらうよ!男なら黙って待ってろ!』
「なら、俺は男を止めるぞー!!!」
『それは本当に駄目!』
ツチノは精霊なので、力はそんなに強くない。引っ付かれて重いが、引きずりながら動けるくらいだ。
抵抗するツチノをつれて、ジリジリと扉へと近づいていく。ノブに手をかけようとした瞬間、俺の方へと扉が勢い良く開き思いっきり顔面を強打し吹き飛ばされた。
「あ、マスター、いたのですか。気が付きませんでした」
「いや、ニクロムなら絶対分かってただろ!わざとやったな!」
「まったく、あれほどマスターを抑えておくようにと、ツチノには言っていましたのに...」
『私は皆と違って非力なんだよ!?私、精霊!あなたたち、魔物!』
「私は魔物ではありません、機械人間です」
『揚げ足を取るな!似たようなものでしょ!』
「事実を述べたまでです、それに大いに異なります」
「そんなことはどうでもいいよ!ニクロム、ルウと赤ん坊は!?」
「どちらも全く問題なしです。そろそろ、産声が聞こえてくるかと」
その直後に、部屋の中から響いてくる泣き声。赤ん坊が息をし始めた証、この世に生を受けた後の第一声だ。緊張から解放され、その場に座り込む。
「はー、良かったー...」
『まったく、手間のかかる旦那様だこと』
「これからもこの様子では、先が思いやられますね...。もう入ってもいいそうですから、どうぞ。ルウを労わってあげてください」
「おう」
部屋に入ると、中央に置かれているベッドにルウが寝ており、奥で助産師さんが何か作業をしている。
「ルウ、お疲れ。頑張ったな」
「・・・つちおー」
ギュッと俺の首に手を回して抱きついてくるルウ。その体には玉粒の汗が浮かんでおり、大変だったことが分かる。
「産まれたよ、赤ちゃん。私たちの子ども...」
「ああ、産まれたな。どこにいるんだ?」
「今、助産師さんが産湯に通してる」
ルウの頭を撫でながら、奥にいる助産師さんを見る。大きなタオルで包んだ何かを、両手に抱えている。
その何かを、ルウに手渡した。包まれていたのは、先ほど産まれたばかりなのであろう、まだ肌が少し赤い赤ん坊が入っていた。さっきまで泣いていたのに、もうスヤスヤと寝息を立てている。伝えられたところによると、女の子らしい。
「わあぁ...」
「泣きつかれたのかな?」
「そうみたいだね・・・それにしても、変な顔。くしゃくしゃで」
「産まれたばかりの子は、皆こうなんだよ。でも、可愛いな」
「うん、とっても。髪は私と同じで赤いね、目は分からないけど顔も私っぽいかな?」
「女の子なんだから、ルウに似てて良かったよ。美人になる」
「ありがと!あ、ツチオ見て見て!」
抱えていたルウの指を、小さな手で握りしめている赤ん坊。母親の手だと、何となく分かったのかな。
「力が凄く強い・・・どこにこんな力があるんだろうね」
「ルウの子どもだからなー、力も強いかも」
「ちゃんと、使い方を教えてあげないといけないね」
「ああ。そういや、名前はもう決めてあるんだろ?何て名前なんだ?」
ルウが1人で決めたいといったんで、口出ししないで任せてたんだよな。あまりに酷い名前だったら変えるつもりだけど...。
「女の子だから、私とツチオの名前から文字を1つずつとって、チル!どうかな?」
「・・・チルか。うん、いいんじゃないか?小鳥みたいで可愛い名前だし」
「じゃあ、この子の名前はチルだね!これからよろしくね、チル...」
微笑ながら、チルの頭を撫でるルウ。俺も、頬を撫でもう片方の手を触ると、ぎゅっと指を力強く握り返してくれた。
「大体、こんな感じです。その後、ライムやリンの出産もありましたけど、冷静に対応できましたよ!」
「やっぱり、赤ん坊を産む時って痛いんですのね...」
「そりゃ、大きいものが股から出てくるんですから、痛いに決まってるでしょう。男の俺には、よく分からないですけど」
「他人事だと思って...。そういえば、ライムとリンの子の名前と性別は何ですの?」
「リンのは男の子で、名前はリオ。ライムの子の名前はライチ、性別は・・・多分、男の子です」
「多分って何ですの!?確認したのですのよね!?」
「確認しましたよ!しっかりついてました!でも・・・成長すればするほど、女の子っぷりに磨きがかかってて...!自信がなくなってくるんです」
「あー、それは父親として複雑ですわねー。どんな感じなんですの?」
「えっと...」
<ツチオ家の休日>
とある休日の朝、休みだってのにいつも通りの時間に目が覚める。まだ陽は低く、全部出てすらいない。隣で寝ているルウたちは、まだまだ熟睡中だ。そういう調整が得意なんだろうな...。布団の上からでも、出産後も崩れなかったスラリとした体が見て取れる。腰はこんな細くて胸はデカいんだから、本当に凄い体型だよな...。どうしたら、こんなのを維持できるんだろう。
まあ、こんな朝から盛るほどガキじゃない。のんびりと休日第一の楽しみ、二度寝に入ろうとしたその時、部屋のドアがバタン!と音を立てて開き俺の腹に何かが勢いよく飛び込んできた。軽い衝撃に、少し体が揺れる。
「パパー、起きてー!もう朝だよー!」
「お父様ー...」
「起きろー!!!」
「チルたちか・・・パパはまだ眠いから、もうちょっと寝るんだよ。チルも、もうちょっと寝ときなさい」
俺の腹に突撃してきたのは、チルにライチにリオの3人だった。皆母親に似ていて、俺の特徴はあまりない。チルは赤髪に小さな角と翼に尻尾があるし、ライチも紫交じりの銀髪、少しだが液化も出来る。リオは金髪にこれまた小さな角、腰からは馬の尻尾が垂れている。全員に共通しているのは、全員目が黒いということだろうか。そこだけが、俺の遺伝だと分かるんだよな...。
「えー、やだー。折角のお休みなんだから、パパといっぱい遊ぶんだもん!もう起きるのー!」
「読んで欲しい本があるんですー」
「起きろー!!!」
むう、いくら子どもたちの頼みだと言っても、二度寝をしないのは少々辛いな...。もう1回寝かしつけちゃうか、それがいいな。
「ほらー、布団でくるんじゃうぞー!」
「わぷ!?」
「ふわ...」
「うわ、真っ黒!何これ!?」
「一緒に寝ちゃおうなー」
布団に包まれたチルたちを、ギューっと抱きしめる。しばらくばたばた抵抗していたが、やはりまだまだ子ども。こんな朝早くに起きるのは辛かったようで、すぐに俺の胸で寝始めた。さて、俺も二度寝しちゃいますかね。
「こら、リオ。口からこぼさないの、ちゃんと食べなさい。昨日も言ったでしょ?」
「ごめんなさーい」
「分かってるのかしら、ホントもう...」
「お母様、この野菜残してもいいですか?苦くてやだ...」
「駄目ですよ、ライチ。好き嫌いしてたら、お父様みたいにはなれませんよ?」
「うー、じゃあ食べる...」
「ママ、おかわり!」
「はいはい、チルはよく食べるねー。あまり食べすぎちゃうのも、駄目だからね?」
「はーい!」
家の食卓の風景は、結構騒々しい。まあ、嫌いじゃないんだけどね。ワイワイガヤガヤとにぎやかなほうが、食べていても楽しいし。
「マスター、今日は如何お過ごしになるのですか?」
「私と遊ぶんだよ!この前、約束してくれたもん!」
「違うよ、僕と本を読むんだよー。チルちゃんはその後」
「違うもん、私が先だもん!」
「僕が先だぞー!父さんと母さんに、武術を教えてもらうんだもんね!」
「私よ!」
「僕だよー!」
「僕だよ!」
睨みあう3人の子どもたち。そうは言っても、俺の体は一つしかないからなー。同時には出来ない。
「こら、喧嘩しないの。パパはずっと家にいるんだから、順番で遊べばいいでしょ?」
「でもー...」
「じゃんけんで順番を決めましょう。文句を言ったら駄目ですよ?」
「「「じゃーんけーん、ぽい!」」」
「そんじゃ、始めようか。ちゃんと言われたことをやってるか?」
「ちゃんとやってるよ!武術で大切なのは、まず体力でしょ!」
「私も!私もやってるよ!」
「僕も頑張ってるのー!」
最初はリオがやりたがっていた、武術の訓練だ。まあ、皆ついて来ているけど。場所は家の庭、結構広くて動き回ることも出来るくらいだ。日本じゃ考えられんね。
「うん、いい子だ。それじゃ、まずは素振りからいくぞ!」
「「「はーい!」」」
~1時間後~
「「「お疲れ様でした...」」」
「ん、お疲れ様。ちゃんと体を休めないと駄目だぞ?」
「「「はーい...」」」
いくら魔物の子だといっても、まだまだ子ども。無理な訓練は体を壊す、少しずつ量を増やしていけばいい。
「手を洗ったら、ママたちがジュースを作ってくれてるからなー」
「ホント!?すぐ洗ってくる!」
ビュンと疲れているとは思えない速さで、走っていく3人。さっきまでとは打って変わって、だな。まったく、本当に子どもとは思えないよ。
「それで、ライチはどの本を読んでほしいんだ?」
「これー」
休憩がてら、本を読むことにする。ライチが持ってきたのは、昔ニクロムが読んでた小説の元になっている、王道のおとぎ話だ。胡坐をかいて座る俺の膝に集まる子どもたち。どうやら、今日はライチが真ん中を取ったらしい。
「読んで読んでー」
「んじゃ、読み始めるぞー。これは、昔々のお話です...」
まだ小さいくてライムの面影を残すライチは、かなり女の子っぽい。下から俺を見上げるその姿は特に。見た目だけじゃなくて、仕草も何か女の子っぽいんだよなー...。何でだろう?
話を読み進めるうちに、疲れているチルとリオはコクコクと船をこぎ始め、すぐに寝始めてしまった。一方、ライチはキラキラと目を輝かせて夢中になって聞き入っている。
「・・・そうして、お姫様は騎士様と一緒に、末永く暮らしましたとさ。めでたしめでたし」
「わぁー!」
パチパチパチと小さな手で拍手をするライチ。
「面白かったか?」
「うん、今度は別のを読んでー!」
「また今度な。やっぱり、ライチも騎士様になりたいのか?」
リオはなりたいって言ってたなー。まあ、男の子にとって騎士ってのはあこがれだよね。
「ううん、お姫様ー!」
「・・・どして?」
「好きな人が助けに来てくれるのがー!」
な、なるほど。そういう見方も出来るのか。そんなことより、真っ先にお姫様になりたいと言うとか・・・将来が、少し心配である。
「お父様も、僕が捕まっちゃったら助けに来てくれる?」
「もちろん、魔王だろうが何だろうが、けちょんけちょんにして助けに行くよ」
「えへへ、お父様好きー」
しばらくしてチルたちと一緒に寝入ったライチを置いて、俺はライムの所へ向かう。ちょうど、洗濯物を畳んでいるところだった。
「なあ、ライム」
「何ですか、お父様?」
「スライムに性別ってあるの?」
「どうでしょうか。確かな自我を持つまでは、雌雄の差はないと思いますけど。ライチも、大きくなればちゃんと男の子らしくなると思いますよ」
「そっか...」
ライムがそう言うなら、大丈夫なんだろうな。ゆっくりと見守ることにしよう。
「パパー、遊ぼー!」
「いいぞ、何して遊ぶんだ?」
昼寝を終えて昼食を食べた後は、皆と庭で遊ぶ。最近はまっているのは、俺が教えたサッカーもどきだ。サッカーとは言っても、鞠みたいなのを俺から取るっていう遊びになってるけど。
「とりゃー!」
「とう」
「だー!」
「ほらほら、そんな大振りじゃ避けられちゃうぞー」
スライディングを仕掛けるチルをかわし、前後から攻めるライチとリオを翻弄する。サッカーなんて遊びでしかやったことはないけど、子どもに取られるほど下手ではない。無論、手加減するつもりもない。
「今日こそ取るんだから!ライチとリオも、一緒に取りに行くよ!」
「うん!」
「父さんから取れたら、好きなものを買ってもらえる!取るぞー!」
「もう、ツチオったら...。少しは取らせてあげればいいのに」
「あまり甘やかしすぎてもいけませんからね、あれくらいがちょうどいいと思いますよ」
「そうよ。ルウさんは、少し甘すぎ。もうちょっと厳しくしても、全然大丈夫よ」
「そうかなー?」
『お母さんたちは大変だねー』
そして、日は沈み夕食を食べると、もう子どもたちは寝る時間だ。寝室は子どもたち3人が一緒、俺たちとは別だ。たまに一緒に寝てるけど、基本は子どもだけ。
「今日も取れなかった...」
「今度は必ず取るよ!」
「そうだな、また今度やろうな」
「お父様、また明日からお仕事?」
「また遊べる時間が減っちゃうな・・・ごめんな」
「ううん、大丈夫。お仕事頑張ってね」
「大変なんでしょ?僕も、早く手伝えるようになりたい!」
「またお休みの日は、ご本を読んでね」
「ああ。じゃ、明かりを消すぞ」
蝋燭の明かりを消すと部屋は真っ暗だ。静かに部屋を出て、最後に手を振ってから扉を静かに閉めた。
「みたいな感じです」
「お姫様に憧れるのは、確かにちょっと女の子っぽいですわね...」
「ライムもああ言ってますし、あまり重くは心配してないですけど。知り合いに女っぽい男がいるもんですから...」
リュカみたくなってほしくないとは言わないけど・・・まあ、何事もなく成長してくれれば、それでいいか。
「そんじゃ、今度はユクリシスさんの方の話を聞かせてくださいよ。俺ばっかりに話させるのは、駄目ですからね」
「分かってますわよ。何から話ますかね...」
それから気が済むまで、俺とユクリシスさんはお互いのことを話し、聞きあっていた。
子どもとかを書くのは結構難しいですね...。




