表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
104/113

満を持して

ちょい少な目です、バランス的に。

「ツチノ、タイレスさんたちをこっちに連れてくるぞ。右腕は使えないから、トゥルーリーさんはツチノが持ってくれ」

『大丈夫なの...?あんな戦闘に巻き込まれたら、さすがに死ぬわよ...』

「ユクリシスさんを無視は出来ないだろ。俺らを攻撃してたら、攻撃されちまうしな。2人とも結構な怪我だ、このまま放っておくわけにもいかない」

『そうね・・・パッと行って、パッと戻ってこよう』


ユクリシスさんたちとグランニールの戦いで、巨人コンビが掌から放たれた光線を喰らって倒れてしまった。意識がないようで、起き上がりそうにもない。まだ知り合って数日だが、色々とお世話になった人たちだ。見殺しにするわけにはいかない。応急処置だけでもしておかないと。


「一二の三で行くぞ!」

『影から出すのは、手だけよ!少し伸ばせば届くから!』

「オッケー。よし行くぞ。一、二、三!」


近くに落ちていた大きな塔の瓦礫の影に飛び込み、タイレスさんの影に飛ぶ。真っ黒な空間を通り過ぎ、陽の光の中へ手を伸ばした。手に感じる少しザラついた温かい肌、握り締めて引っ張り込む。

影の中に沈んでくるタイレスさん。光線を止めた腕を焼け焦げ、至る所に裂傷が走っている。見た感じ、そこまで酷い怪我はない・・・吹き飛んだ衝撃で、脳震盪でも起したのかも。トゥルーリーさんも同じか?


タイレスさんを連れて、トゥルーリーさんの影へ向かう。俺には真っ黒な空間に光の窓があるようにしか見えないのだが、ツチノにはどこがどの影に繋がっているのか分かっているみたいだ。

今度はツチノが手を出し、トゥルーリーさんを探し当てる。服の襟首を掴み、頭から引きずり込む。

中に体が入ったのと同時に、光線が影へ着弾。目が焼けるような光と熱を放ちつつ爆発、影の中にいるのに衝撃で吹っ飛ばされた。


『あ、危なかった・・・攻撃してきたじゃない!』

「当たらなくて良かった...。ここも安全ってわけじゃないみたいだし、さっさと戻ろう」


瓦礫の影に戻り、ツチノと一緒に2人を引き上げる。トゥルーリーさんは斧を盾にしてたけど、上手く防げなかったみたいだ。胸から腹にかけて、大きく焦げ痕がある。2人ともに共通しているのは、全体的に焼けているところだな。光線に飲み込まれたからか。


「大丈夫ですか、お父様!」

「ああ、問題ない。2人を地面に寝かせてくれ。ツチノ、どうだ?」

『・・・見た感じそこまで酷くないけど、内側が結構やられてる。いくつか骨が折れてるから、ちゃんとつながないと。一応、臓器も調べとく』


治癒魔術をかけながら、ツチノが2人を見ていく。これでとりあえず、2人は大丈夫かな。ユクリシスさんの方はどうなってる?


戦闘は激しさを増していた。グランニールが放つ光線を、時には拳で弾き、時には蝙蝠状態になって避けるユクリシスさん。負けじと魔術を放っているようだが、片手を振るうだけでかき消されてしまっている。さっき放ったような、強力な魔術でないと効かないか。光線を受けた拳の皮が剥げるのだが、治るのがアルミラさんと戦った時より遅いような気がする。あの剣の影響なのか、それだけ威力が高いのか...。どっちにしろ、ユクリシスさんにとって都合が悪いことである。

攻撃と攻撃の間、光線を放つため狙いをつける瞬間を狙って、ユクリシスさんが勝負に出る。地面を蹴り距離を詰め、速攻を仕掛ける。至近距離で光線を放たれるが、グランニールの腕を払いのけ、無理矢理方向を逸らす。目の前には、無防備なグランニールの姿が。

そのままの勢いで、首目掛けて貫手を突き出す。鋭く尖った爪が鱗と肉を食い破り、反対側へ飛び出した。


「・・・終わりですわ」


手を引き抜くと、開いた穴から血飛沫が吹き上がる。グランニールは仁王立ちのまま、表情はピクリとも変わっていない。ただ、血だけが流れ出ている。・・・信奉する主を殺されたってのに、アルミラさんがやけに静かだな...。もしかして!


「ユクリシスさん、まだです!まだ終わってません!」

「ッ!まさか!」

「そう、そのまさかだ」


ユクリシスさんの首を握り、そのまま持ち上げるグランニール。首に開いた穴は、煙を上げて再生しだしている。あいつも不死だったのか!?でも、それならあの剣みたいな対策を打ってるだろ...。蘇ったことで、不死性を獲得したのか?


「いくら死なぬといえ、首を貫かれるのはあまり気持ちいいものではないな。肉が再生していくのも、中から嫌な音が聞こえて気持ち悪い」

「兄上も・・・不死になったのですね、っぐぅ...」

「そういうことだ。どんなに戦っても、今のお前たちには俺を殺すことは出来なかったのだよ」


手に持った不死殺しの剣を、ユクリシスさんの眼前に突きつける。タイレスさんたちは気絶してる、増援が来る可能性もほとんどない。・・・駄目だ、完全に詰んでる。


「くそっ!」

「止めておけ、人間。長生きをしたいのならな」


符を抜いて腕を振るおうとするが、グランニールの言葉で止まる。今戦えるのは俺だけなのに・・・声をかけられただけで、体が固まり歯が震えてカチカチと鳴っている。情けなくて涙が出そうだ。


「ツチオは関係ありませんわ・・・殺すのなら、私だけになさい」

「安心しろ、向こうから手を出さなければ何もしない。例え自分の大陸に帰ったところで、すぐに俺が攻め滅ぼすから同じことだ」

「全てのことが、自分の思うままになると思っていたら、大間違いですわよ...」

「どうなるかは、俺が決めることだ。不死性にこの力、今の俺なら誰にも負けない。それこそ、神にだってな」

「神様気取りなんて・・らしくないですわ。調子乗ってるんじゃないですわよ」


グランニールは腕を大きく引き、ユクリシスさんの首目掛けて突き刺す。刃が肉を破り、血管から噴出した返り血がその体を濡らす・・・そうなるはずだったのだが。


「・・・どういうつもりだ、人間」


俺が投げた符が、不死殺しの剣を下から弾くように命中。切っ先が逸れ、頬を僅かに裂いた。当然、傷は再生しない。


「・・・悪い、皆」

「気にしないで、私でもそうしてたと思うし」

「お父様なら、そうすると思っていました」

「ここで見殺しにしてたら、見損なってたところよ」

「勝算は限りなく低いのですが・・・過ぎたことをとやかく言っても仕方ありません、やりましょう」

『まあ、こういう風になるね。はあ、大変だよ、こりゃ』


どんな手を使っても、天地がグルグルと回転したとしても、俺らではグランニールには勝てないだろう。何の意味もない、彼我の実力差を理解出来ていない馬鹿の無駄死。まさにその通り、否定のしようがない。


「何、してんですの、ツチオ...!ルウたちを巻き込んで、死ぬつもりですか...!」

「ユクリシスさんも、すみません。馬鹿だとは分かっています。けど、俺はあなたに死んでほしくないんです。ウォーさんにも、あなたのことを頼まれてますから」

「あなたがやっても、焼け石に水ですわ・・・足手まといなんですから、さっさとどこへでも行きなさい...!」

「そんなこと言っても無駄ですよ、どうせもう手遅れですから」

「そういうことだ、俺を邪魔したことを後悔しながら死ね」


剣を地面に突き立てて、掌を身構える俺らの方へ向ける。集まる膨大な魔力、俺らを完全に消し飛ばすつもりか...。


「避けきれるかな...?」

「左右に分かれれば、片方くらいは助かるかもしれませんね。ああでも、狙われるのは確実にお父様でしょうし...」

「たった数分の違いだ、気にするほどでもない。痛みはない、すぐに消えることが出来るぞ」


掌が濃密な白光に覆われ、巨大な球体が形成される。タイレスさんたちに放ったのより大きい・・・あの大きさじゃ、避けようがないな。


「これで終わりだ。お前も、すぐに同じ場所へ送ってやる」

「ああくそ、やっぱ少し無謀すぎたな!」

『今更言っても仕方ないでしょ!何とか防ぐわよ!』


球体が弾け視界を白が埋め尽くし、タイレスさんたちまでもを飲み込む。俺は目を瞑って、それを黙って受け止めた。これで終わりか・・・俺が帰ってこなかったら、リューたちは何を思うんだろう?精霊さんにも会いに行かなきゃいけなかったし、あの暗殺者姉妹に貸した金も返してもらってなかったな...。ああそれと、業火さんたちとももう1回くらい会いたかった。大きくなった子竜とか、駆竜の子どもも見たかったし。こうして考えると、色々やり残したことがあるなー...。


・・・もう死んだのか?いや、まだ足が地面についてるから死んではないだろ。ルウたちが抑えてる?あんな馬鹿魔力を受け止めたら、いくらルウでも消し飛ぶだろう。魔力はもう尽きてるから、ブレスも放てないし。他の従魔も同じく。

恐る恐る、瞼を開く。俺の目に飛び込んできたのは...。


「・・・誰だ、貴様らは」

『誰?見て分かるだろう』

『少しはやるようだけど~・・・そのくらいで神を名乗るなんて、お笑い草よ』

『まったく、気概は買うが時と場合を選べってんだ。心中なんてガラじゃないだろ?』

「・・・え、業火さん?蜜毒さんに迅雷さんまで...」


俺たちとグランニールの間に君臨せしは、輝く鱗に大きな翼、太く発達した後ろ脚を持った空の王者、俺らに加護を与えた恩人。業火さんたちが、威風堂々たるその姿を、再び俺たちの前に現した。


颯爽登場!みたいな感じですね。そんなキャラではないですけど。そもそも、少年じゃないですし。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ