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俺が魔法少女になるんだよ!  作者: 赤しゃり
本編

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烈火のALIVE ①

「――――辿り着いたら教えてあげる、私達の東京にね」


完全に意識が途絶える寸前の記憶が蘇る、オーキスとブルームスターの会話だ。

徐々に体から零れて行く体温、鉛のように重くなる身体、ぼやける視界と耳鳴りが酷い。

それでも私は、その景色を覚えていた。


シルヴァを連れて、消えゆくオーキスの姿。

そして残されたブルームスターが、私を置いてどこかへ向かう。

その顔つきは強い覚悟を秘めて、そのままどこかへ消えてしまいそうなほど儚いものだった。

駄目だ、行かせてはいけない。 またあの時のように、彼女を見送る事しかできないのは嫌だ。

待て、待ってくれ。 お願いだから、一人で抱え込まないで――――


「――――ブルームスター!! ……っ゛あいっだぁ!?」


弾かれたように横たわっていた上体を起こすと、腹部に激しい痛みが走る。

鼻にツンと来る消毒液の臭い、白熱灯で照らされた白い室内、横を向けば私の腕に管を繋ぐ点滴台と、規則的な電子音を鳴らす心電図が見えた。


「……おい、やっと塞いだ傷をまた開く気か?」


「ど、ドクター……? ここは……」


「魔法局の治療室だよ、今は深夜二時だ。 君はオーキスにやられて瀕死の重傷を負っていた」


反対側を向けば、仏頂面のドクターと目が合った。

そうか、私は夢を見ていたのか。 あの下水道で最後に見た……


「……っ! ドクター、ブルームスターは!?」


「さてね、君を預けるとどこかへ消えたよ。 君の治療もあるし追いかける訳にはいかなかった」


「探しに行きます!」


「無茶を言うな! 傷はまだ完全に塞がっていない、内臓が飛び出るところだったんだぞ、今はとにかく安静にしろ!」


「それでも、今の彼女を放っておくわけにはいきません!」


点滴台を支えにし、部屋から出ようとするが立ち塞がったドクターに止められる。

彼女は今の時刻を深夜二時と言った、下水道での出来事から大分時間が過ぎてしまった。

ブルームスターは今どこで何をしているのか、どうしようもない焦燥感が胸の内で渦巻いている。


「そんな体で何をしようって言うんだ、ばかばかしい。 今の君はただの怪我人で、足手まといにしかならないんだ!」


「ですが……!」


「……ブルームスターの事なら任せろ、ボクらだって手は打ってある。 君はとにかく体を治せ、話はそれからだ」


ドクターの言う事は尤もだ、立つのもやっとなこの状態で彼女を止めようなんて無茶にもほどがある。

反論も出来ない私を背に、ドクターは扉を潜って部屋から出て行ってしまった。


「杖……当然、無いですよね」


無意識に胸元のペンダントを掴もうとした掌が空を切る。

もし手元にあったのなら私は当然のように変身し、無茶をしたことだろう。 流石ドクター、私の考えを見抜いている。


「東京……東京、か」


ベッドに腰を掛け、口の中で反芻するようにその単語を繰り返す。

間違いなくオーキスは去り際に東京へ来いと言った、シルヴァという魔法少女を連れて。

ブルームスターはきっと彼女の後を追うはずだ、つまり東京へと向かう。


しかし……そもそもスピネとオーキスはなぜそこまで東京に拘るのか。


「……我が娘ながら、酷い面してるね」


「むっ、母さん……」


顔を上げると、そこにはいつもと変わらず電子タバコを吹かす母の姿があった。

ただその表情には隠しきれない疲労の色が見える。 無理もない、随分と心配をかけてしまったのだから。


「血も足りないって言うから私のを分けたのよ、何か言う事は?」


「そのうち利子付けて返しますね」


「馬鹿、ごめんなさいも言えない子に育てた覚えはないよ」


むすっとした母に額を小突かれ、ベッドに身体を倒される。

なんてことをしてくれるんだ、今は起き上がるにも苦労するというのに。


「……寝てな、また無茶するって顔してるわよ」


「ごめんなさい、まだやることがあります」


「あんたのそういう強情なとこ、本当にお父さんにそっくりね」


「知りませんよ、あんな人と一緒にしないでくださいっ」


家族を置いて、どこかへ姿を消してしまったあの人の事を思い出す。

もはや顔すらもおぼろげにしか思い出せないが、どうせろくでもない顔をしているに決まっている。


「……これも何度目になるか分からないけど聞くわ、魔法少女を辞める気は?」


「ありませんよ、ただでさえ万年人材不足なんです」


魔法少女を辞める、その選択肢が今まで浮かばなかったわけじゃない。

だけどそのたびに私は戦う道を選んで来た、特に今だけは投げ出すわけにはいかない。


「いつも通りね、けど無茶だけはさせないわよ。 怪我が治るまでは絶対安静」


「こうも見張られては何もできませんよ、大人しくしてますって」


……()()、ね。



――――――――…………

――――……

――…



「……ら、ラピリスクン? 調子はどうだね」


「むっ、局長。 わざわざ来てくださるとは」


疲労の抜けない母が退室し、暫くすると今度は局長が気まずそうに現れた。

その手には今どき珍しい、笹柄の和紙で包まれた長方形の何かと水筒を持っている。


「う、うむ。 私も負い目というものがあるのだよ……そして私のとっておき、水長の水ようかんだ、血も流れた事だしお腹もすいただろう?」


「ほう……いいですね、もしやその水筒の中身は緑茶では?」


「無論、濃いめの熱いお茶だよ。 私自ら淹れたスペシャルグリーンティーだよチミィ」


素晴らしい、点滴ばかりで腹が切なくなっていた所だった。

そしてチョイスも素晴らしい、さすがは我ら魔法少女を束ねる人だけはある。


「……こんなもので詫びになるかは分からないがね、本当にすまない。 私は見ている事しかできなかった」


「何を言っているんですか、局長は悪くないですよ。 全ては守り切れなかった私達の責任です」


一般人は魔物が現れれば何もできない、それはここ10年で広まった世間の常識だ。

魔物を倒せるのは同じく魔力を伴う魔法少女だけ、だからあの場で局長が責められるようないわれは一切ない。


「いいや、これはきっと今までの罰だね……私は、責任を取る立場から逃げ続けていたのだから」


「確かに局長はいても居なくても変わりない存在ですが、そんなに自分を卑下しないでください」


「いやトドメ刺したねキミ?」


「失礼、口が滑りました。 しかし一体どういう風の吹き回しで?」


今まで魔物が現れた場合、指示は殆ど縁さんが握っていた。

局長はたまに現れ、的外れな意見を飛ばすか接待ゴルフの自慢話が(つね)

知らず知らずのうちにネズミに噛まれ、人格に変調が生じたか?


「君達が戦う所を直に見て、思う所があっただけさ……私はね、責任を取ることが怖かったんだ。 私が下す指示一つで君達の命が、そして多くの市民の未来が変わる」


「…………」


「そもそもね、私はコネと金の力でのし上がった男だよ!? 何でこんな重要機関の局長を任されるのかもわからんのに、もう辞めたい! でも辞めさせてもらえない!」


涙目で狼狽える様子は実にしまらない。

その台詞がなければもう少し様になっていただろうに。


「……しかしだね、これからは少しでも自分の役割を頑張ってみるよ。 皆を守る君達を、私がきっと守って見せる」


「……それにしては、少々頼りないお腹ですね」


「これから痩せるよチミィ! という訳で、この秘蔵の菓子を渡すのだよ! さあ私がつまみ食いする前に食したまえ、他に何か欲しいものはあるかね!?」


「本当ですか? では実は1つ希望があります」


これは実に好都合、もう少し機会を窺わないといけないと思ったが、手間が減りそうだ。

思わず邪悪な角度に釣り上がりそうな口角を抑えるのに苦労する。


「実は心労が溜まっていまして、癒されるためにもきゅたろ……バンクを連れてきて欲しいのですが、良いですか?」

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