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俺が魔法少女になるんだよ!  作者: 赤しゃり
本編

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BANした過去がやって来た ⑩

駆ける車体を追いかける、当然その速度に追いつけるはずはないがこれでいい。

適度に速く、そして飛んでくるマンタを受け止められる程度に遅く。


「――――コルト!!」


振り向くとこちらに向かって何かを叫ぶママの姿が見えた、唸るエンジン音に紛れてその声はよく聞き取れない。

だけど、私の見間違いじゃなければその口は「頑張れ」と動いた気がした。


「……行ってくるよ、ママ!!」


走り出して数秒後、ビルの頭上に掲げられた看板を掠めてマンタが落下してくる。

いや、「来た」と認識した次の瞬間には広げた網の真ん中に飛び込んでいた。


「い―――――だああぁあっ!?」


想像以上の衝撃に腕がもげそうだ、だがここで手放してはいけない。

マンタは私達を引きずりながら、網を突き破る勢いで前を走る車へ突進する。

先ほどから聞こえるミチミチという嫌な音を立てているのはマンタの肉か、網か。

……それとも私の腕だろうか。


「ゴルドロス、大丈夫ですか!?」


「大……丈、夫ッ!! マンタは無事カナ!?」


「網目に肉が食い込んでいるがまだ無事だ、君も気張れよ!」


「ドクターに励まされるとなんか変な気分だネ……!」


「振り落とすぞ!!」


軽口を叩く余裕があれば大丈夫だ、次第にではあるがマンタも減速している。

後は隙を見て原因である槍を引っこ抜ければいいが、とてもそんな余裕はない。

それどころかマンタを中心に吹き荒れる暴風に吹き飛ばされないだけで精いっぱいだ。


「ねえ、ちょっとまずいんだけど! この先T字路よ、直進したら建物に突っ込んじゃう!!」


「どうにかして曲がれないんですか!?」


「私が曲がったところでマン太郎が突っ込むわ、その子カーブ苦手なのよー!!」


見れば確かに前方にはT字路と、行く手を遮るビルが待ち受けている。

このまま突っ込んでしまえば私達は無事でもビルと周囲への被害は甚大だ、この短時間じゃ避難も済んでいるかも分からない。


「……悪いネ、マンタ。 ちょっと痛いけど我慢してヨ! サムライガール!!」


「致し方ありませんね、減速します!!」


彼女が開いた片手で刀を地面に突き立て、大幅な減速を図る。

これだけミチミチ音を立てているんだからマンタも止まってくれればいいのに、向こうも目一杯のアクセルを吹かして突進を止めない。


「ドクター、これ間に合うカナ!?」


「目測だが多分無理だね! ビルに風穴開けて良いなら確実に止まるけど!」


「ぐにに……! もう、いいかげん止まってヨ!!」


『――――ピギュイイイイイイイイイイイイ!!!!』


やつあたり気味に叫ぶと、初めて魔物が鳴き声を上げた。

そこにあったのは今までの魔物にあった怒りや憎悪とは違う、ただただ悲愴に満ちた声。

マンタだって好きで突っ込んでいる訳じゃない、ただ痛くて苦しいから助けて欲しいだけだ。

彼がこの見知らぬ街で唯一親しみがあるのだろう、目の前の赤い車に。


「……ロイ、止めて! こうなったら私が受け止めるわ!!」


「ハァ!? 無茶言うなヨ、ぶっ飛ばされるのがオチだヨ!?」


「マン太郎は私に助けを求めてるのよ、逃げてばかりじゃいられないでしょ!」


確かにこのままじゃどん詰まりだがそれはやり過ぎだ、この巨体に押し潰されれば魔法少女とは言えただでは済まない。

だがこのままじゃビルとの激突は免れない、ああもうどうすれば――――


「――――ドクター、こいつを叩き落せる!?」


「……出来るとも、何か考えがあるんだな?」


≪クリーチャーハンター・Z!!≫


ドクターが素早くカセットを入れ替えると、消滅した戦闘機の代わりに身の丈に余る巨大なハンマーを構えた小人が一体現れる。

当然戦闘機が消えたため、ドクターと小人は落下するわけだが、その勢いすら利用して振りかぶったハンマーを――――


《ムロッシャアアアアアアアアアアアアアッ!!!》


――――全力でマンタへと叩きつけた、流石に遠慮がなさ過ぎるがまさか殺してはいないだろうな。

真上からまともに重たいものを喰らったマンタが地面に落ちる、と同時にドクターは風に吹き飛ばされて遥か後方へ吹き飛んで行った。


「後は任せたぞおおおおぉぉぉぉ……」


「ドクター! ゴルドロス、ここからどうするんですか!?」


()()()()()!!」


地面に叩きつけられたマンタの動きがほんの一瞬だけ鈍る。

ドクターが作ったこの一瞬、片手で取り出したロケットランチャーを真下に放つと同時に、マンタ目掛けて地面を蹴る。


「あっ……()゛ぅッ!!」


灼熱と爆風に背を押され、マンタが纏う厄介な風の壁を突き破ってその背に飛び乗る。

この槍だ、こいつを引き抜けばマンタは大人しくなるはずだ。


『ピッギャオオオオオォォオォ!?』


「わったっ! この、大人しくしろヨ!!」


しかし槍に手を掛けると同時に、傷を抉られる痛みにマンタが身を捩る。

振り落とされないために咄嗟に槍にしがみ付くがこれじゃ逆効果だ、マンタに余計な苦痛を与えてしまう。

しかし引き抜こうにも、こう暴れられると槍は中々引き抜けない。

そうこうしている間にもマンタは再び飛び立とうとしている、時間がない。


「掴まれ、ゴルドロス!!」


≪BLACK IMPALING BREAK!!≫


その時、前方から黒い何かが飛んでくる。

舞い散る火の粉とはためく黒いマフラー、暗く染められた色の中でも分かるその姿は――――


「―――Thanks、ブルームスター!!」


「離すなよ、どっちもな!!」


槍をしっかり握ったまま、開いた片手で前方から箒に乗って飛んで来たブルームの腕を掴む。

暴れるマンタの背から離れて後ろに引っ張られる身体と槍、それだけであれだけ苦労した槍は簡単に引き抜けてしまった。


『ピギュッ!!』


最後にマンタが短い悲鳴を漏らし、その身体をクタっと投げ出す。

これでようやく彼の暴走も止まるだろう、さてそうなると後に残った問題は。


「ブルームスタァー! どこに行く気ですか、ここであったが百年目ですよ!!」


「悪いゴルドロス、ちょっとすぐには止まれない!」


「あーもー、しゃーないネ! サムライガール、マンタの事はよろしく頼むヨー!!」


こう言っておけば真面目な彼女はすぐには追ってこれまい。

後は少し離れたところで降ろしてもらって、ブルームスターにはそのまま逃げてもらえばいい。


「……しっかしお前も無茶するな、あとでドクターに治してもらえよ?」


「AHAHA、これくらいなんてこともないヨ。 ……あててっ」


ロケランで無茶した分のダメージが今になってぶり返してきた。

ああでもしなければまともに接近できなかったとはいえ、我ながら強引な真似をしたもんだ。


「ほら、ここで降ろすぞ。 転ぶなよ」


「ン、Thanks。 助かったヨ、ブルームスター」


降りたのは丁度喫茶店の前、縁とママが並んでこちらを見上げているところに着地する。

顔を上げるとママは泣きそうな顔をしていた。


「……なんて怪我して帰ってきてるのよ、コルトの馬鹿!」


「ごめんネ、ママ……縁、ミッションは無事終わったよ」


「お疲れ様です、ここら一帯の避難命令も解除しておきますねー」


携帯を耳に当てて自然とこの場を離れる縁。

周囲は避難が済んでいるのか誰も見当たらない、あとにはママと私の2人だけが取り残された。


「……コルト、あのね」


「ママ、私――――」


2人が同時に口を開いたその時だった。

ママの後ろにそびえ立つビル、その屋上に備え付けられた看板が僅かにグラついたように見えた。


……そういえば、マンタが飛んでくるときにあの看板を掠めたような。


「――――ママ、下がって!!」


背中に走った悪寒に押され、反射的に叫んで地面を蹴る。

ママの横をすり抜けたと同時に、ビルの屋上から重たい看板が落ちてきた。

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