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俺が魔法少女になるんだよ!  作者: 赤しゃり
本編

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何が彼を突き動かすのか ⑧

その日は部活のせいで帰りが遅くなった事を覚えている、バス停で綺麗な夕焼けが夜に呑まれていく様を見上げていた。

ふと時間を確認しようとして、ポケットから携帯を取り出した時だった。


突然天地がひっくり返ったんだ、少し遅れてから自分の体が飛んでいると理解した。

「それ」が放った衝撃でバス停だったものは紙屑のようにグシャグシャに千切れ、人も何も塵のように吹き飛んだ。

瓦礫に埋もれなかったのは幸運だろう、ただどこかに頭をぶつけた俺は少しの間だけ気を失って、目を覚ましたら辺りは地獄絵図だった。


『な、なんだよこれ……』


昔の俺が震えた声を漏らす。

辺りには咽るほど焦げた臭いが満ち、殆ど日が落ちた夜の闇を燃え盛る炎が煌々と照らす。

見慣れたはずの街並みに面影はなく、周囲には建物や車だったものの残骸が転がっているばかりだ。


『誰か……誰かいないのか!? おい、居たら返事してくれ!!』


呼びかけに応える様に、どこか遠い空から地面を揺るがす遠吠えが聞こえてくる。

次に空から「それ」が振って来た。


金色の(たてがみ)は火の粉を散らし、獰猛な光を宿す双眼は見つめるだけで俺を殺してしまうんじゃないかと思うほどに鋭い。

地面に食い込んだ爪はじゅうじゅうと音を立ててアスファルトを融かしていた。


それは獅子だ、見上げるほど巨大な獅子が俺の目の前に立ち――――その前足を振り上げた。


『――――お兄ちゃん!!』


ああ、終わったなと走馬灯が走りかけた瞬間、瓦礫を突き上げて急速に生えた氷柱が獅子の爪を真正面から受け止める。

熱と氷がぶつかり合い、蒸気を噴き上げる音が鳴る。

思わず瞑った視界を開くと、目の前には月夜―――いや、魔法少女スノーフレイクの姿があった。


『月夜!!』


『お兄ちゃんは逃げて、こいつは私が抑える!!』


言うや否や月夜は獅子へ飛び掛かってその注意を引き付ける。

鬱陶しい羽虫を追い払うように前足を振るう獅子の眼中にもはや俺の姿はない。

そうだ、逃げるなら今の内だ、どうせここにいてできる事は何もない。


『グアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!』


逃げようと背を向けたその時だった。

獅子が腹に響く雄叫びを上げ、唐突に口から熱線を吐き出した。

スノーフレイクへ向けて放たれたそれを彼女はかろうじて回避する―――だがそれが駄目だった。


 ――――キャアァ!!!


アスファルトに着弾した熱線は周囲の瓦礫を巻き込んで爆ぜる。

そして飛び散った瓦礫の一つがすぐそばにいた女生徒に直撃し、その子は短い悲鳴を上げた。

ただその甲高い声が気に食わなかったのか、獅子は狙いをその女学生に改めて第二射を構える。


見覚えのある顔だった、確か同じクラスの子で席が近かったんだと思う。

知り合いだったからか、それとも見覚えがなくても俺は動いていたのだろうか。

気が付けば逃げるはずの脚はその女学生へ向けて動いていた。


『――――避けろ!!』


全ての風景がスローモーションだった。

女生徒は今ので足を捻ったのかその場から動かない、その腕を掴んで引っ張り上げる。

背後では獅子が新たな熱線を放ち、スノーフレイクはその背後で届くはずもない腕を伸ばしていた。

回避はもう無理だ、スノーフレイクの防御も間に合わないだろう。


だから、俺は掴み上げたその腕を突き飛ばした。


『お兄ちゃ……駄目ェ!!』


妹の悲鳴を聞きながら、俺の体は熱線に飲み込まれた。



――――――――…………

――――……

――…



「っ……! マスター!!」


「大丈夫、だよ? これは昔の記憶、だからさ」


熱線に飲まれた目の前の風景は、土煙が立ち込めるばかりで何も見えない。

分かっている、これは昔の映像だ。 今のマスターが生きている以上、助かっているには違いない。

……だが、どうやってあの状況から助かったのか。


「ふふ、ふふふふ。 気になる、よね? いいよ、続きを見よう」


宇宙人が両手を叩くと、それに合わせて風景にノイズが走る。

すると次第に土煙が晴れて、そこには氷漬けになった獅子の姿があった。


「…………え?」



――――――――…………

――――……

――…



土煙が晴れる、性質の悪い悪夢がまた繰り返される。

目の前には氷漬けになった獅子の姿と、すぐそばで横たわる俺の姿があった。


その姿は五体満足で傷も火傷も残っていない。

それはそうだ、()()()()はいつだって完璧だった。


『……お兄ちゃん、お兄ちゃん……!』


『月、夜……? あれ、俺なんで……?』


変身を解除した……いや、もはや保つ力もない月夜が俺を揺すり起こす。

……その姿は半身が炭化して、残った身体も薄っすらと透けていた。


『っ……! お前、なにをした!?』


『……ギリギリで割り込んだんだけど、間に合わなくて……お兄ちゃんだけダメージを凍結して……間に合ってよかったぁ……後で、病院に行ってね?』


『お前……馬鹿か! 何で俺をかばった!?』


凍り付いているのは獅子だけじゃない、辺り一面の動くものすべてが静止している。

崩れかけた建物が、燃え盛る炎が、街が1つ凍り付いて、取り残された人間だけが動いていた。


『だって、お兄ちゃんもあの子庇ったでしょ……好きだったの? 隅に置けないなぁ……』


『馬鹿、ンなこと言ってる場合か! 大丈夫だ、これぐらいすぐ治……』


炭化した月夜の腕を握ると、それは音もなく崩れた。

浅く繰り返す月夜の呼吸は酷く弱い、肩に触れる体温も人のものとは思えないほどに冷たい。

……まるでもう、死んでしまっているかのように


『冷蔵庫のシュークリーム、残ってたらお兄ちゃんが食べていいよ。 あとね、お母さんたちにゴメンって……あと……あと……』


『それぐらい自分の口で言えよ……なあ、なあおい……! 月夜!!』


『――――あとはお願いね、お兄ちゃん』


その言葉を最期に七篠月夜という存在は跡形もなく消え去った。

同時に凍り付いた獅子の首がへし折れ、その頭がアスファルトと衝突して砕け散る。


獅子は倒され、最大級の災害でありながら多くの人々が救われた。

だというのに、一番の功労者の存在をみんな忘れてしまったんだ。


ただ独り、すべてを見届けた俺だけは絶対に忘れない。 忘れちゃいけない。

俺のせいで月夜は死んだ。 俺が月夜を殺したんだ。


「……これがあなたの悪夢ですか、マスター」


音すら凍り付いたはずの世界で、聞き馴染んだ声が掛かる。

振り返るとそこには息を切らせたハクが立っていた。


白い病衣、白い髪、白い肌、ただ一つだけ艶を湛えた黒い瞳だけがこちらを見つめている。


「……ンだよ、これも悪夢の続きか? にしてはちょっと不格好だな」


「悪かったですね、ちょっと色々あったんですよ! 私は正真正銘あなたのハクですよ、マイマスター!」


「そっか、夢の中だからそういう事もあるか」


夢の世界ならなんでもアリだろう、それになにをどうしたらハクが俺の悪夢になるか分からない。

本人の言う通り、目の前にいるのは俺と一緒にこの世界に引きずり込まれたハクなのだろう。


「……見てたのか?」


「ええ、宇宙人モドキのおかげでたっぷりと」


「参ったな、かっこ悪いからあまり見せたくなかったんだよ」


背後にはまだ妹の影を抱きしめて嗚咽を零す昔の自分がいた。

無力で、無様で、殺してしまいたいほどに憎たらしい。


お前があの時何もせず逃げていれば結果は変わっていたのかもしれない、もしくは女生徒と共に生き残るほどの力があれば誰も死なずに済んだのだ。


「……自分ならできると思い込んだ、助けられると己惚れた、その結果がこの醜態だ。 自分の身の丈を弁えていたらこうはならなかった」


「…………」


「だから、だから俺は……」


「……マスター、ちょっと失礼しますね」


「へっ……? ぶへぁ!?」


ハクはその細腕をおもいっきり振り上げると、全力で俺の横っ面を引っ叩いた。


「ふぅ、スッキリした。 日頃の鬱憤のついでに晴れました」


「お、お前何を……」


「何をですってぇ? まーだ分からんですかね」


呆けた俺の胸ぐらを掴み、ハクがその顔を寄せる。

一連の所作が下手なヤンキーより手馴れている、どこでこんな真似を覚えたんだこいつ。


「マスター、折角ですし話しましょう。 時間はきっとまだまだありますから」


……その時、俺は初めてハクと面と向かった気がした。

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