回診のヴァイオハザード エピローグ
「いやー、酷い目にあったネ」
清潔感のある白いベットの上で私は頭を掻いた、今回ばかりは本当に危なかった。
魔物の小ささに油断して2人ともやられるなんてとんだ失態だ。
「もう、病み上がりなんだから無茶しないでくださいよ。 ねぇ葵ちゃん?」
「面目次第もございません……」
起きるや否や飛び出して、おにーさんに会いに行った抜け駆けサムライガールはベッドの上で縮こまっている。
いいなぁ、私も縁が睨んでなければ会いたかったのに。
「あなた達は暫く入院です! 咲ちゃんもしっかり見張っていてくださいね!」
「あいあい、2人が治らないとボクも中々後方に引きこもれなくなるからねー」
ぷりぷり怒った縁が部屋を出て行く。
そしてこの部屋唯一の出入り口は、パイプ椅子に座って気持ち悪い指使いでゲーム機を操作するドクターに塞がれた。
病状が安定したことで移されたこの病室は5階、魔法少女の力も無しじゃ窓からの脱出も難しい。
「はぁー……ドクター、今度新作ゲーム買ってくるから見逃してくれないカナ?」
「そのくらい自力で手に入れるよ、君達を逃がすと怒られるのはボクなんだ」
「ソッカァー……サムライガールもなんで出て行っちゃったのサー、初犯だったらまだ警備も緩かったのに」
「起きた途端に私のお兄さんセンサーが全力で警笛を鳴らしたからです」
「君は病気だ……」
「お前精神状態おかしいヨ……」
珍しくドクターと意見があった。
サムライガールは普段は真面目なんだけどたまに全力で頭のネジが木っ端みじんになる時がある。
「実際に酷い怪我で倒れていたんですから私のセンサーは間違ってません、最近はコルトに誤反応を示すので当てにしていなかったのですが……」
「ソッカー故障ダネソレハ間違イナイヨー」
「そうですよね、コルトの好みはもっと筋骨隆々で頼りがいのあるタイプですからね。 ふふふ」
なんで知ってるんだろ、私いつかこの子に背中から刺される気がする。
「……怪我か、よほど酷いようなら知り合いびいきって事で手を貸そうか?」
「………………いえ、気持ちは嬉しくぜひ頼みたいのですが私達の力を私事に使うのは間違いだと思うので……!」
ドクターの申し出を苦渋の決断と言った様子でサムライガールが断る。
おにーさん大好きっ子なのは変わらないけど、こういうことになれば彼女は頑なだ。
「そうか、君のそういう所、ボクは好きだよ」
「ありがとうございます、私もドクターの事は好意的に思ってますよ」
「はいはいお熱いことですネー、そういえばサムライガールのおかーさんは? あの人も花粉喰らったって聞いたけど」
「ええ、ですが面会してみたらケロッとしてました。 点滴打ってすぐ退院したようですし問題はないかと」
「お互いにドライだネー、家族は大事にした方が良いヨ?」
家族なんてなくしてから気づいたのでは遅いんだ、そこにある今を大切にしないと後悔する。
……それこそ私や、おにーさんみたいに。
「むっ、今センサーがコルトに反応しました」
「ドクター、患者ァ!!」
「匙投げていいかい?」
――――――――…………
――――……
――…
「はぁー……大分マシになった、いててて……」
《お粗末な治療ですねー、無いよりはマシですが》
拙く包帯を巻きつけた身体を動かし、動作を確認する。
まだぎこちないものだが動けないほどのものじゃない、痛みに堪える体を引き摺って調理場へと立つ。
《……ちょっとー? なにやってんですかバカですか、安静にしてなさいよ安静に》
「血が足りないんだよ、何か作って食わねえと……あとついでに夕飯の分も」
《何かあるもん食うだけで良いでしょうが! まったくもーこのワーカホリックは!》
「うっせー……何か手動かしてないと頭がぐちゃぐちゃになりそうなんだよ」
脳裏に、拘束を焼き切ったあの黒い炎がよぎる。
変身時に吹き出すものと似た炎、同時に腹の中で渦巻いたどす黒い感情、あれはいったい何だったのだろうか。
「……ハク、お前はあの炎に付いて何か知ってんじゃないのか」
《なんのことですか》
「とぼけるなよ、あの時にお前は何か知っている様子だった。 違うか?」
《……分からないんですよ、私もなんであんなことを言ったのか。 信じられませんか?》
「…………悪いが、そこまでお前を信用できない」
今こそ共生関係にはあるが、掌の中にいるこいつはあくまで魔人だ。
そこまで心を許す事は俺には出来ない、だからこそ明白な答えを聞きたかった。
「まあ、いいさ。 あれのお蔭で助かったのは間違いないからな、今は保留しておこう」
《……ねえマスター、もうこんな事はやめませんか? このままじゃ、マスターはいつか死んでしまいますよ》
「だったら代わりにアオ達が死んでも良いってのか?」
《そんな事言ってません! でも、だからってマスターが死んでいいはずがないでしょう!?》
「別にいいだろ、俺なら死んでも」
《…………っ》
その会話を最後に2人の間に長い静寂が流れる、店内にはまな板を叩く刃物の音だけが残った。
するとそこへもう一つ、ドアベルを鳴らす高い音が加わる。
誰だ? 表には準備中の看板が掛かっていたはずだ。
たしか扉には鍵も掛けていたはず、だとしたら正体は……
「…………やっぱり、店に戻っていたのね」
「優子さん、大丈夫なんすか!?」
そこには初め病院に向かった時に比べ、大分くたびれた印象の優子さんが立っていた。
彼女なら合鍵も持っている、しかし花粉は消滅したとはいえもう動いて大丈夫なのだろうか?
「それはこっちの台詞よ……あんた、何やってんの?」
「えっ? ああ、ちょっと夕飯の支度をしようと思って。 でも良かった、簡単なものになるけどすぐに―――」
パンッ―――と、乾いた音と共に、歩み寄ってきた彼女に頬を張られた。
痛みに遅れてじんわりと熱が滲む、擦り傷の上から叩かれたものだから余計に痛い。
「や、優子さん……?」
「あんたね……無事だったからよかったけど、どれだけ私が心配したか分かる……!?」
「い、いやそのあの……」
「良いからあんたは部屋に戻って休んでいなさい!!!」
「は、はいぃ!!」
優子さんの迫力は有無も言わせず俺を調理場から叩き出す。
めったに怒らない彼女だが一度火が付くと中々収まらない、反論は諦めて逃げるように部屋へと駆け込んだ。
「はぁー、久々に優子さん怒らせちまった……なあハク? …………ハク?」
ベッドに座ってスマホに語り掛けるが、そこにハクは居なくずっと暗い画面が写されていた。
さっきのやり取りで不貞腐れたか、参ったな、すぐ戻ってきてくれりゃいいんだけど。
「……まあいいか、今はちょっと休もう」
調理場の片づけがまだだが今顔出すと火に油を注ぎかねない。
俺はベッドに倒れ込み、そのまま泥のように眠ってしまった。
――――――――…………
――――……
――…
「……ったく、陽彩のやつは……!」
彼が手を付けていた調理場を片付けながら、私はため息を漏らした。
このボウルに溶かれた卵は……あとで粥にでも混ぜて部屋にもっていこう。
この店に戻って初めにあの怪我を見て卒倒しそうになった、そして痛みがない訳もないのに平気な顔で振る舞う姿を見て今度は怒りが湧いた。
あの子はいつもそうだ、自分の損害を度外視して他人の事ばかり考える。
雨の中で拾ったあの日からそれは変わらない、たまに釘を刺しておかないと煙のように消えてしまいそうで恐ろしくなる。
……手を差し伸べたくせに、私はあの子の助けになることができないのか。
今でも雨の中に立ち尽くした虚ろな瞳が鮮明に思い出せる、この数年でまともになったと思ったがとんだ勘違いだ、彼の本質は何も変わっていない。
「……あの子は本当に、いつになったら救われるのよ」
《その話、もう少し詳しく聞かせてもらってもよろしいですか?》
誰もいないはずの店内に少女のような声が響く。
葵のものじゃない、たまに店へ訪れる魔法少女のお友達とも違う、この声は一体どこから……?
《ここですここ! ヘイ! ポケットの中のスマホを取り出してルックミー!》
「スマホ……?」
言われた通り、ジーンズのポケットにしまい込んだスマホを取り出す。
すると見慣れたホーム画面の上に見ず知らずの少女が佇んでいた。
「あんた……誰?」
《……初めまして、鳴神 優子さん。 私は電脳魔人ハク――――少し、一緒にお話ししませんか?》
忘れもしない、それは彼女が初めて私と顔を合わせた日だった。
古村 咲(魔法少女名:ヴァイオレット) 杖:変身電盤ゲーマチェンジャーX
メガネとリボンが似合う引きこもり系美少女。
学校には通わず魔法局公認の専門教師からマンツーマン指導を受けている。
メガネだからとても頭がいい、コンタクトは怖くて付けられない。
好きなものは水ようかん、嫌いなものは加名守コルト
変身時は紫のドット模様を裾や袖口にちりばめた白衣を纏った姿に変わる。 驚異的な抗菌・防毒機能付き。
首の聴診器は患者の容態を細かくゲーマチェンジャーの画面に映し出すことができる。
先端は取り外すことでUSBプラグが露出し、接続することで機械の不調を診断・修理が可能。
髪を結うリボンや赤十字に見せかけた十字キー型の髪飾り等はそれぞれ包帯・止血剤が塗布された絆創膏として使える。
メガネは変身した事で強度が格段に増し、さらにドライアイの予防やブルーライトによる悪影響を99%防ぐ。
固有魔法はゲーマチェンジャーへ挿入したカセットに対応した「プレイヤー」を呼び出し、操作できる「生命の魔法」
ただしゲーマチェンジャーの規格が古く、古いカセットにしか対応していない。
操作するプレイヤーのスペックは対応するゲームの習熟度によって変化する。
魔法少女としての根底にある願いは“命の価値が知りたい”
彼女はその願いゆえ、桂樹 縁と共に魔物の生態を調べている。
そんな彼女が「ゲーム」と「医者」、命の価値が真逆な能力に目覚めたのはある種の皮肉かもしれない。
名前の由来はバイオ(bio)+ヴァイオレット(紫)
本名はコムラサキ(植物)、花言葉は「知性」
魔法局でコルトや葵の手綱を握る事が出来る数少ない人物。




