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森は鬱蒼とはしておらず、明るい雰囲気を漂わせている。
小鳥のさえずりも聞こえてくる。
リスのような小動物も木陰からこちらをじぃーっと見てくる。
のんびり、まったりとした森の様子だ。
そのため、怖くはない。
怖くはないのだが、迷子になってしまったことに不安でいっぱいだ。
特に周りを見渡しても道は見えないし。
マーニャたちを探して茂みを書き分けて進んで来ちゃったから道がないのは自業自得なんだけど。
マーニャたちは見つからないし、迷子にはなるし、これからどうすべきか。
しっかし、慣れない山道は疲れたなぁ。
足がパンパンにむくれている。
普段運動という運動をしていなかったから余計だ。
私は、近くの木に寄りかかり腰掛けることにした。
座り込むと今までの疲れが一気にどっと押し寄せ、体が重い。
膝を抱えて座り込むとこれまでのことが走馬灯のように目の前に流れ出した。
順風満帆の人生のはずだった。
一方的に婚約破棄されるまでは。
こちらにも非はあるのかもしれないけれど、やはり一番精神的に堪えている。
あの時は泣けなかった。
悲しみよりも中途半端なことをする婚約者に対する怒りの気持ちが強かったから。
それに、こうして知らない世界に転移してマーニャたちやマリアが居てくれたから悲しいという感情に支配される時間もなかった。
抱えた膝の隙間から涙がポロリと零れ落ちる。
穏やかで優しい森の空気に思わず無意識に押さえ込んでいた感情が露になる。
ずっと泣きたかったんだと思う。
信頼していた人に裏切られたことに対して。
「おや?こんなところで、どうしたんですか?お嬢さん?」
「えっ?」
まさか、こんなところに誰か来るとは思っていなかった。
だって、ここまで来る道もないし。
思わず顔を上げて、零れ落ちた涙を両手で拭う。
「おっと、泣いていたんですね。邪魔をしてしまいました」
にっこりと笑いながらその人は私に自分のハンカチを貸してくれた。
私はそれで、目元を押さえた。
本当は、ハンカチを水に濡らして目元を冷やしたいのだけど、肝心の水を持っていない。
「僕は行きますね。じゃあ、マユさんは気をつけて。そうそう、マリアさんが探していましたよ。念話で答えてあげてくださいね?」
えっ?
「どうして、私の名を・・・?」
「それは、内緒」
にっこり笑ってそんなことを告げる男性に不信感を抱く。
先ほどの悲しみが不信感で上書きをされた。
「って冗談冗談。そんな目で見ないでくれる?」
私が不審者を見るような目で見たことが気に入らなかったようですぐに訂正された。
「これ、君からもらったピンクの卵。君に返すね。大事に育ててね」
男性は私にピンクの卵を手渡してきた。
このピンクの卵はマーニャたちが持ってきてくれた精霊の卵!?
えっ。じゃあ、もしかして!!
そう思って、男性の方を見るが既に男性の姿はなかった。




