6.風魔法は吸い込まれる
どちらにせよ剣技や体術と魔法を組み合わせ、護衛騎士として働くのだ。初めからそのつもりで学んだ方がいい。
夕食後、魔法を学ぶつもりのある者は、その先生の開く講座に学びに行く。私が風の教師に学びたいとヴィクトリア王女に相談したら、ならば自分も学びに行こうと言い出した。
「セラフィーナが魔法を学び直すために私の護衛としてここにやってきたのは承知しています。護衛の任務の時間も、ルシールと相談して決めているのも。それでも、任務を放棄してと言われることもあるでしょう? 私の適性も同じく風ですし、せめて風魔法の講座だけは任務として受けるようにすれば、貴方の立場も守れます」
齢十三にして、己の護衛の面子まで考えてくださるとは、なんとできた方なのだろうと、私は感動してしまった。
だがここは否定しなければと口を開くと、すっと手を上げ止められる。
「というのは建前です。セラフィーナの魔法を見て、私もあのように魔法を使ってみたいと思ってしまったのです。周囲からは魔法は覚える必要がないと言われていましたけど……ねえ、テリーサ、ダメかしら?」
最後は側近のテリーサに可愛く問いかけた。
「姫様……」
「ヴィクトリア様、セラフィーナのアレを魔法だとは思わないでくださいね」
ルシールが言う。
私は首を傾げた。魔法じゃなければなんなのだろう? レナード兄様の魔法はもっとすごい。あの程度ではまだまだだ。それでも、かなりいい感じに発動したと思うのだが。脳筋だったセラフィーナにしては上出来だったろう。
「もちろん安全には気をつけるし、先生方もそこは考えてくださるでしょう?」
ルシールに再度お願いをする王女。結局は主の願いだと受け入れることになる。
「一緒に頑張りましょう」
「よろしくお願いいたします」
一年生の風魔法の教師は、ウェント先生だ。学年ごとの講座があり、それ以上に学びたい場合は師事する教師を選ぶことになる。
ウェント先生は細身で色白の長身の男性だ。長い髪を一つにまとめて後ろで縛っている。その髪をいつも魔法で揺らしていた。
「諸君が私の講座に参加してくれたことを嬉しく思う。風魔法は攻撃的な面もあるが、それ以上に守りに長けた魔法である。その最たるものが風の檻、ウィンドディヴィジョンだ。これにより敵から守りたいもの、護衛対象を分断することが出来る。閉じ込めてしまえばより大きく強い魔力をぶつけられない限り内に手出しをすることはできないだろう」
王女の護衛には必須の魔法ということだ。さらに言えば、王女自身がこれを覚えることができれば一時的な身を守る術ともなる。
「とはいえ、やる気にみなぎった新入生のことだ。やはり攻撃魔法を覚えたいだろうな。今日だけは許すが、以降は私の言うとおりにしていただこう」
学園内で魔法を使うことは禁じられている。魔法の訓練は教師がいる場所でしか行ってはならない。それだけ危険だからだ。二年になると、コントロールのために小さな決められた魔法を使うことが許可されるそうだが、私はそれを知らなかった。
学園内には訓練場がいくつもあり、今日もその一つで講義を受けている。
「火や水と違って、風はどこにでもある。つまり、風の素養はすでに皆持っている。風を感じ、同じように魔力を指先に灯すのだ」
そう言ってウェント先生は右手を遠くの的に向かわせる。
ここは室内訓練場で、周囲は魔法を吸収する素材で作られていた。壁や床、天井に触れれば魔法は消えてしまう。
「ウィンドカッター」
右手の先から、渦巻く風が飛び出し、前方の的を切り裂いた。初歩の魔法は教本にも載っており、皆すでに学んでいる。
「最初からここまで美しく出来る者はごくごく稀だ。魔法も他の勉学と同じよう、積み重ねていくものだ。最初に躓いて、諦めるのではなく、その努力を積み重ねること」
新入生の間から、おおおと声が漏れている。
「的まで届かなくても、まず一度打ってみよう」
床には線が引かれていて、そこに立ち、同じ方向に向かって打てば怪我をすることはそうそうない。適度な距離を取り、生徒たちは魔法を試し始めた。
「今年の風適性の者はそれなりに多いな」
私は一歩引いて学生を見ているので、その横にウェント先生が立って言った。
「十五人は、多いのですか?」
「やはり火が人気です。適性を無視してでもあの激しく見栄えのいい魔法を使いたいと思う新入生は多数います。そして、最初から魔法を諦める学生もね」
これは、私のことだろう。
「気付くのが遅かったです」
「気付けることは素晴らしい。が、まさか学園に戻れるようねじ込んでくるとは……」
レナードお兄様に感謝だ。
「貴方のあのむちゃくちゃな魔法を見て、騎士希望の学生の講座受講人数が例年の三倍になりました。それだけで、貴方を再度学園に招き入れた価値はあったと言う先生方も多いです」
騎士は、よっぽど適性があり魔力が多いと言われない限り、私のように騎士としての鍛錬に集中する者が多い。両方に足を突っ込んで、どちらも中途半端になることを嫌うのだ。過去の私もそう思っていた。
「さあ、次は貴方の番です」
王女も火魔法より風の方が断然向いているようで、今回は一度で的に当てることが出来ていた。
「セラフィーナ、あなたもやって見せて!」
「はい、ヴィクトリア様」
促され、ラインの手前に立つ。まずは手のひらからきちんと放出されるか。
「ウィンドカッター」
魔力を手のひらに集めて放出する。
うん、出たのは出たが、やはり勢いが足りない。だが、的に当たりはしたので火よりもずっとコントロールはしやすいのだ。
「セラフィーナさん、あのファイアーボールの時のようにやってみてください。他の学生は私より後ろに下がるように」
ウェント先生に促され、私はぐっと拳を握りしめた。
学生たちがこちら注目する。
「ウィンドカッター!」
拳に魔力を込め、思い切り突き出す。
私の拳が風を切る音と、魔力が放出され、風の刃が放たれる音が相まって、拳の先に風の渦が現れる。
周りの学生たちから悲鳴が漏れた。私の拳に吸い込まれるよう、風の流れが出来ている。
「ウィンドディヴィジョン!」
ウェント先生の声が聞こえた。
風は、大気は常に周りに存在する。
私が放ったウィンドカッターは前方へ進む。周囲を巻き込んで前方へ動こうとするため、両側や、後方にある大気が失われる大気を補填しようと動いたのだとウェント先生が言った。
「まあ、ある程度予測していましたから問題ありません。皆もよくわかったでしょう。風を使うと言うことはその後起こりうる事態を計算しなければならないということを。まあ、特例ではありますが。普通のウィンドカッターならこうはなりませんが、大きな魔法を使うときはよくよく注意しなければなりません」
「セラフィーナすごかったわ! 大きな魔法と同じような現象が生まれるなんて」
ヴィクトリア王女がとても嬉しそうだ。
「いいですか、普通のウィンドカッターはこのような効果は現れませんから」
いつの間にか大きな魔法を使っていたのかな?
念押しするウェント先生の横顔に、私は首を傾げた。
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