34.全力パンチ
「セラ!」
上でごたごたと揉める声がして、ローグレイルの笑い声が遠ざかる。そしてルーカスが呼びかけてきた。
「ルーカス、危ないから少し離れたところで座っていて」
「セラ、君は危なくないのか!?」
「私は……大丈夫だと思うわよ? ウィンドディヴィジョンもあるしね」
本当に、守れるということは素晴らしい。
「セラ……」
「ルーカス、これからちょっと地面がゆれるかもしれないから、離れていて」
足を怪我している彼には危ない。ここまでも一人で来たのではないだろう。
さあ、気合いを入れよう。
人に向かって放ってはダメと父に言われた。
それをこれから魔晶石に向かって放つのだ。しかも。
鞄から取り出したのは例の魔道具。
それを左手にはめた。さらに、ここに来るまでに使った魔力を回復させる。
ふぅっと息を吐いた。
手袋を強化する刺繍はまだ途中だった。なので新しいものを買わなければならないはめになりそうだ。
胃の下辺りに集中すると、身体が温かくなる。
魔力が巡るのがわかる。
それを、左手にはめたメリケンサックと呼んでいる魔道具に集中させると、内蔵された魔晶石がぼんやりと光った。
同時に、足下に同じように魔力をため込む大きな存在に気づく。
これは、かなり育っているようだ。
多分埋めるだけでなく、何かしらその成長を促進させるような研究もしていたに違いない。
魔晶石は貴重だ。それが人工的に得られるのなら、そうしたいと思うのはわかるのだ。
わかるが、そのためにこれほど多くの犠牲を払うのは別の話だ。たとえばもっと人のいない地域、そう、樹林とか。
ああ、そうか。
樹林からたまに魔物が溢れてくるが、あれだけいる魔物たち、赤目も多いし、特異個体もたくさんいる。
それらが樹林より南下してこないのは、そこに惹きつけるものがあるからか。
魔物は確かに人の敵ではあるが、それらがもたらす素材は人の世の役に立つ。フォルツァ辺境伯領は、そういった素材で潤ってもいた。強くあるために、強くする素材を得る。
この大陸最大の魔晶石は、大樹林に埋まっているのか……。
国はきっとその事実に気づいている。
だが、埋めたままにしているのは、その方が利があると判断した。魔物は自然と北に集まる。北に向かえばフォルツァが迎え撃つ。フォルツァは魔物の素材でさらに強くなる。そういった絶妙なバランスで国は回っているのだ。
巡らせた魔力をどんどん左手に注ぐ。手のひらが熱くなる。
閉じていた目を開くと、私はそれを真っ直ぐ振り下ろした。
特別な魔道具で切り出す魔晶石。
だが、フォルツァのセラフィーナとしての力と、私が作り上げた新しい魔道具があれば、破壊することなど、何ら問題の無い、できて当然なことなのだ。
石が真っ二つにバキバキと音を立てて砕けて行く。
地面が揺れて、薄ぼんやりと淡い光を放つ石の先に、はっきりと光を放つ細長い石があった。
アレが核か。
私の力が突き進む先にそれがあり、――砕けた。
魔晶石の核は、それはもうあっけにとられるほどもろく、砕け散った。
魔物の咆哮が聞こえる。
核を壊したところで、一心不乱に前に進んでいた魔物たちが動きを止めた。私は井戸から出ると、なるべく土を持って来て魔晶石を土で塞ぐよう指示した。魔物は人がいれば襲う。砦近くまで来ていた魔物は進退窮まり、結局砦を襲うが、後から後から押し寄せる魔物の波は引き、樹林の方へ帰って行く魔物が大多数だった。
レナード兄様が、私を降ろした後直ぐフォルツァに帰り、合流した部下たち、ハドリー兄様と一緒に軍を進め、残った魔物を東側から片付けてくれた。砦周りが落ち着くのもかなり早かったと思う。
地中にあればそこまで魔物を集めるものではないというのは確かなようで、井戸のせいで魔晶石の表面に近かったこと、定期的に研究をしていたローグレイルが、最後の仕上げだと土で覆っていた魔晶石を露出させたのがことの始まりだったようだ。
本人も逃げ出すつもりがギリギリまで成果が見ていたいとして結局逃げ遅れた。
魔晶石の核は、ペディムント領で発掘された魔晶石のものだそうだ。核は一つ。地中から掘り出す際に破壊してしまったと思っていたのが、ローグレイルによって隠蔽されていた。 つまりペディムントはローグレイルに協力していたのだ。
ペディムント領は取り潰しとなった。
ルーカスの怪我も後遺症なく治り、今は騎士団に復帰している。
私はと言えば、殿下の護衛を一度は辞したが、再び命を受け、在学中は引き続き学園にいることが許可された。私が作った魔道具のメリケンサックは、やはりフォルツァのお父様、兄様二人と私くらいしか扱えず、今はなんとかルーカスが使えるようなものにできないかをマキナ先生と一緒に試行錯誤しているところだ。
「セラフィーナ、手が止まっていますよ」
「うう……刺繍は苦手なのです……」
「ですが、ヴェールは花嫁が自ら作り上げるのが習わしですからね」
テリーサは厳しい、ちょっと目が粗くなるとすぐほどいてやり直しを命じられる。
「ふふ、セラフィーナは刺繍は得意でないのね。でも一緒に作ると少しは気が紛れるでしょう? おしゃべりしながら手を動かせばいいのよ」
「頑張ります……」
ヴィクトリア殿下もまた、学園を卒業後は結婚する。今からヴェール作りに精を出している。どうせならと私も一緒にやるよう命じられた。正しくは、テリーサが命じるようヴィクトリア殿下に進言した。
「ヴェロニカ様からもくれぐれも頼むとお願いされておりますから」
「お母様も刺繍は苦手でしたのに」
「ええ、ええ。ですから、自分が刺繍がとても大変だったから、娘にギリギリで苦労してほしくない、早めに準備をするよう見張ってくれと言われておりますからね」
お母様、自分ができなかったのになんとひどい。
いや、お母様は間に合わないからお婆様に泣きついたと言っていた。たぶんこれは、お母様が泣きつかれたくないのだ。
さすがお母様です。
「ルーカスがいいならセラフィーナもイクターラバに護衛として来てくれたらいいのに」
少しだけ口を尖らせて言うヴィクトリア王女に、私は微笑む。
「結婚して出産後復帰するときには第二王女殿下の護衛にどうかと打診をいただいておりますので。それに、年に二回の大樹林侵攻にはやはり参加したいと思いますから」
毎回ルーカスも参加してくれているのだ。
いつも私の背中を守ってくれた彼を、今度は私も守りながら動けると思う。
「まだあと一年ございますでしょう? セラフィーナはそれまでになんとか人に見られても恥ずかしくないヴェールを仕上げねばなりません。その穴だらけは無理です。もう少し練習した後、次の生地を送ってもらわなければなりませんね」
毎日訓練は続けている。
魔法も新しいものを覚えて身につけている。
今の私の敵は刺繍かと嘆くと、皆が笑った。
ノックの音がした。
メイドが応対し、ルシールが伝言を運ぶ。
「セラフィーナ、ルーカスだ」
「それでは御前失礼したしますね」
「あら、刺繍から逃げるつもりねセラフィーナ。寮に帰るのは食事の後にするから、ゆっくりしていらっしゃい」
「ありがとうございます」
廊下に出ると、騎士団の服を着たルーカスだ。砦にいたころからすっかり復活したようで、痩けた頬や目の下のクマはなくなっている。
「間の休憩をもらった。街に降りてお茶でもしないか?」
「ええ。刺繍で頭を使ったから糖分が欲しい」
「頭を使うと糖分? 刺繍で頭を使う?」
「そう。使うのよ。とっても疲れたから、甘いものをたくさん食べたい」
なんとこの身体、多少のカロリーオーバーも訓練で消費できるのだ。
「騎士団御用達のところがいいかな。この服だし」
「うん、それで」
そっと、ルーカスの手を握ると、ぎゅっと握り返される。
「夕飯も食べてきていいと言われているんだが」
「私も殿下は夕食をこちらでと聞いてるから、時間はたっぷりある」
振り返ったルーカスの優しい瞳に、ああ、彼を守ることができて本当によかったと心の底から思った。魔法を学んでいなければ手詰まりになっていた。それこそ二人であの砦で、困り果てていたかもしれない。
ぎゅっと握り返して笑う。
この手は守ることのできる手だ。
もっともっとたくさん魔法を学んで、もっとたくさん守っていきたい。
そう、思った。
了
お付き合いいただきありがとうございました。
これにて無自覚チートを題材にしたセラフィーナの物語は終幕とさせていただきます。
少しでも楽しんでいただけていたらと思います。
誤字脱字人の名前間違い、ご指摘ありがとうございました!!
誤字脱字キング、いや、チャンピョンと自称しているだけあって、山盛り出てきたぁ……。教えてもらえるの、本当に助かります。
もしよかったら、評価をいただけると嬉しいです。
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もしよかったらどうぞ〜
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なんか後半暴力的だな……。
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以上!
ありがとうございました〜
またハイファンタジー書くよ〜!!ちょっと間があくかもだからよかったらたまにチラ見か、お気に入りに入れておいてください。
始める時は活動報告するので!!




