27.魔物を惹きつけるもの
音を頼りに駆けつけると、そこには大きなバーベラントが一匹横たわっていた。隣にはグレイドル先生と風のウェント先生が肩で息をしながら立っている。
「先生! お怪我は!?」
「問題ない! そっちは」
「申し訳ございません。赤目は取り逃がしました。学園とは逆、森の奥へ走り去って行きました」
そうか、とグレイドル先生は頷いて、足下のバーベラントをつま先で小突く。
「こいつも赤目だ」
「赤目を仕留めたのですね……素晴らしい」
「ダニエルがな」
「トドメはグレイドル先生ですよ」
ダニエル・ウェント先生がそう言って大きく息を吐いた。
どうやら魔物の脅威からは脱したようだった。
「被害を確かめねばなりませんね」
ウェント先生の髪の毛が空中でくるくると動き出した。
その日は王宮からも騎士がやってきて、周囲を警戒する運びとなった。同時に、先生方が周囲の魔道具を調べる。学園は本来魔物が入ってこないように魔物が忌避する結界が張られているのだ。
何かしらの理由でそれが壊されていたのではないだろうかと調べた。
「が、特にこれといっておかしなことはなかったんだよ」
「おかしいですよね……赤目まで来るなんて」
確かに生徒という無力な者たちがたくさんいる場所ではあるが、もう少し奥に、資源豊富な森がある。たとえ赤目で頭が良いとしても、人を積極的に狩るような魔物ではないのだ。
王女は今日はこのまま王城で過ごすとの連絡が入った。
守る対象を一人でも減らしておきたいのだろう。王城ならば安全だ。
ということでセラフィーナも後始末に参加している。
「魔物を引き寄せるような薬は使っておりませんよね?」
「学園でそんな阿呆なことをするヤツはいないだろう」
グレイドル先生の言うことはもっともである。
そういった薬もある。
お父様が大樹林の手前、開けた場所で使って辺縁の魔物を一掃するのはよくやっている。あの匂いは独特で、私もよく覚えていた。
学園中を歩いてみたが、そのような匂いの元はなかった。あれはかなり後まで匂うのだ。
そんな話をしているのは教員たちが集まる会議室のような場所だ。机のほとんどは片付けられており、中央に学園の地図が広げられ、捜索の終わったところにチェックが入っていた。とりまとめているのは、学園の重鎮、光魔法を教えているカンデュース先生だ。
「他に魔物を引き寄せるようなものはないのですか?」
セラフィーナの知識にはない。私のあとからの知識にもそういったものはなかった。
だがその中で二人が動揺するのを私と、グレイドル先生は見逃さなかった。
「カンデュース様?」
グレイドル先生が問う。
「マキナ先生?」
私が問う。
「最近開けたのは?」
カンデュース先生がマキナ先生に問う。
「先日魔道具に使うために。二日前です」
「一応見て来てくれるか?」
「はい」
部屋にはそれほど教師の数は多くなかった。次々報告される事象をまとめている。王宮から来ている騎士は二名ほど。
「グレイドル先生、ついてきていただけますか?」
「私も行きます」
何か心当たりがありそうだ。気になるので立候補して一緒に行く。
そこは、二日前に私も来た場所だ。
学園の北側にある倉庫。かなり厳重な鍵があるのだ。
それを先生は首から提げている。
倉庫は簡易的なものだが、その中はとても厳重で、二重の建物になり、そこにあるものも丈夫な鍵のかかった大きな金属の箱に入っている。
「外は閉まっているな」
鍵を開ける前にマキナ先生が言い、私とグレイドル先生が扉に手を掛け確かめる。鍵が掛かっていてびくともしない。
外側の建物も魔法で強化しているようだった。
「セラフィーナはここに何があるか知っているよね」
「全部は存じ上げませんが、二日前に一緒に来た時見たものなら覚えています。そのとき、先生は私に蓋が閉まっていることを確認させました」
私の言葉に頷きながら鍵を開け、中へ入る。
胸がざわつき不安が押し寄せる。
「先生……」
私は思わず呼び止める。だが、マキナ先生は歩みを止めることなく、むしろ駆け出す。
そこは先日確認した箱だ。腰まである大きな箱。
その中には、国から配布された魔晶石が保管されている。
「ああ、開いている……」
「えっ!?」
少し浮いている蓋を開け、中を確認する。
「なくなってはいません……」
「サイモン、意図がわからん」
「……戻りましょう。そちらで話すことになると」
再度蓋へきっちりと鍵を掛け、それを私とグレイドル先生に確認させる。
帰り道のマキナ先生はだんまりだった。ただ、顔色が酷く悪い。
元の会議室に戻ると、かなり多くの先生方がやってきていた。
「生徒たちは寮内に避難しています。護りの結界も発動させました」
「当然の判断かと。あれの中であれば魔物が直ぐ入り込むようなことはありますまい」
状況を確認しあう教師たちの間を縫い、一番奥移動する。
「カンデュース様……アレの蓋が開いておりました」
「なんだと!?」
カンデュース先生は立ち上がり、そして、再び席に座る。
「君が、か」
低い問いかけに、マキナ先生は首を振る。
「二日前開けましたが、きっちり閉めました。確認もしてもらっています」
私のことだ。一歩前に出て頷く。
「マキナ先生とご一緒しました。最後は鍵が掛かっていることをしっかりと確認いたしました」
「その後、鍵は肌身離さず持ち歩いております」
「う、む」
カンデュース先生はぐっと何かこらえるように考えを巡らせている。
「部屋に鍵の確認に行く。私は三日前から別用で外に出ていた。帰ってきたのも今朝なのだ」
マキナ先生がその後に続くので、私も行くとカンデュース先生は振り返って軽く眉を上げた。
「もういないとは思いますが、何か危険があった場合お役に立てるかと」
そこまで言うと、何も言われなかったのでそのまま後に続いた。マキナ先生は少しほっとしたような表情で私を見て歩き出す。
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