18.魔法迷路対決
王女と王子の仲は睦まじく、そこへなんとか割り込もうと頑張るアダレットがとても頑張り屋で、たまに心の中で応援するというおかしな状態が続いた。
それ以外は、最近は小さな可愛い嫌がらせも、王子が常にエスコートするので難しくなってきている。
ヴィクトリア王女殿下の学生生活はかなり落ち着きを見せ始めたように思えた。
状況が静まってきたことからか、私の魔法を解明したいという謎の団体が教師を中心として作られた。護衛任務の最中だからと断っているのだが、補講を受ける時間はあってなぜこちらに時間を割けないのだと詰められ、どうやら王女側から誰かが懐柔したようで、私は教師たちの前で魔法を披露することが多かった。
「魔力量が増えているのでは?」
「いや、もう成長期は終えているだろう? さすがにそれは」
「わからないというなら計ってみればよいのです」
などと魔力の質や適性を久しぶりに計測もした。
結果は、学生時代と相違ない。
これは少し焦った。セラフィーナとは別の私という意識が芽生えたことで何か変化があったのかもしれない。いや、確実にあったのだ。それが魔力量など目に見える形で現れたら、どう説明したものかと思い悩んでいた。
だが結果は変化無し。
「つまり、私は元々才能があったということですね!」
部屋に集まった教師陣がじろりと私を見る。
そういうことでは……ないのか?
「頭を打ったことで何か変化があったのでは?」
「頭を……」
誰も、さすがに、実験してみようとは言い出せない。
不慮の事故でもない限り、意識を失うほどの打撃を頭に受けたいなんて思う者はいなかった。
「変化があったのは確かです! 私は魔法を学んでいないことを心底後悔したのですから」
うーんと、微妙な雰囲気の教授たち。
だが本当の話などとうていできるはずがなかった。
私の中に他の私の意識が芽生えたなどと。
「とにかく、もう一度ウィンドショットを打っていただきましょう。ウィンドカッターや、ファイアーボールは……どちらかというと普段の打撃の威力が上乗せされて効果が増しているように思えました。それが、ウィンドショットは特に拳を突き出しているわけではないのですから」
そうやって放課後、夕食までの間教師たちの指示に従って魔法を打つ。これは私としても訓練になるので嬉しいことではあった。
だんだんと威力の調整もできるようになってきたのだ。
土魔法のフース先生は、土で色々なものを造形し、スクローシスでそれを硬化させるのがお上手だ。
今日の風魔法実習はかなり手の込んだものだった。
「フース先生の力作だ」
ウェント先生の言葉に、フース先生は照れていた。まだかなりお若い先生で、こうやって教師たちの手伝いにフットワーク軽く赴くのだ。
どうにもいいように使われている感が否めない。
今回屋外訓練場に作られたのは、巨大迷路だった。
背丈ほどの壁が続き、入り口が四カ所。中は人が二人並べるかどうかギリギリ通路が続いていた。
「四方からそれぞれ生徒が入り、先に相手を捕獲、または渡している魔導具に相手の姿を移し入れた者の勝ちとする」
今日は火と、水、風、土、光、闇魔法の生徒全員が集まっていた。合同実習というやつだ。風魔法の生徒たちは事前にウィンドサーチという索敵の魔法を習っていて、それを使って進む。
「攻撃魔法は厳禁だ。お互い危険なので絶対に使ってはならない」
それぞれの魔法に周囲を把握するものは一応あるが、炎のサーチ系は火を繰り出して火に触れるものを焼きながら辿る。さすがに禁止された。その代わり、すべての属性は相手が回避できる程度ならば、魔法の使用を許可された。
「どういうことなのでしょう」
風魔法の生徒たちの待機所で聞かれるが、私は笑顔を返すだけに留めた。
魔法使いは己の属性を知るだけではだめなのだ。
たぶん、先生方はこれも教えようとしている。
相手の属性の魔法を知り、どういった攻撃がなされるか、どういった罠が張られているかを予測せねば、戦場で役に立たない。特に人相手では。
現在の外交はわりと穏やかなもので、対人戦を味わうことなどないかもしれない。だが、護衛として働くのならば、間違いなく相手は人だ。
そして護衛をされるような者を相手にする魔法使いは真っ直ぐな魔法など使わないのだ。必ず搦め手で来る。その搦め手の方法も考えていかねばならぬ。
魔法はまったく使わなかったセラフィーナだが、魔法の種類や、予測されるだろう使い道は覚えていた。それこそ、魔法使いでないのに様々なパターンを知っていたのだ。
それは学園というよりも、騎士団に入り、警護の任務に就くことを想定した訓練を一年間受けてきたからだった。
セラフィーナは興味あることにはよく取り組む。
護衛の仕事柄必要なことはきちんと把握していた。
やはり地頭は悪くないのだ。
私たち風の魔法使いが使うのはウィンドサーチ。もちろんそれを誤魔化したり精度を落とすための方法が他属性の魔法にある。
名を呼ばれ、入り口に誘導されては消えていく生徒。ときおり叫び声が聞こえる。
姿を捉えられた者から出てくる。つまりこれは、勝ち残り戦なのだ。
「セラフィーナ! ……体術による捕縛はダメだぞ?」
「はい、あくまで魔法を使います」
「うん……それも少々不安だが」
それでは、と入り口をくぐると、後ろでウェント先生の声が聞こえた。
「セラフィーナが入るぞ!」
「警戒を!!」
なんと……まさか年下相手にそこまで本気で勝ちに行こうなんて思っていない。
ウィンドサーチは触れれば相手にも伝わる。そしてこの厚い壁では、壁を突き抜けての探索は難しい。となると、曲がり角でウィンドサーチを放ち、その先に敵影を見つけられるかどうか。魔法のみ、しかも攻撃魔法を直接人に当たるような方法で使うことは禁じられている。
背後でまた叫び声が上がった。
なかなか優秀な魔法使いがいるようだ。
いくつかの曲がり角で小さなウィンドサーチを展開しているが、人の気配はしない。かなり大きめの迷路だったが、さすがにおかしい。
土魔法使いがいる。
「ふむ」
私は壁に手を当てずっと歩いてきたが、すでにほぼ半周している。そしてその手に違和感を感じた。
「ウィンドカッター」
ウィンドカッターパンチを、壁に向かって斜め下に展開すると、今まであった壁がもろくも崩れ去った。
フース先生の作った物とは手触りが違った。
どうやら、こうして外周を歩かせ、自らの元へ誘い込もうとしていたらしい。
「ウィンドサーチ」
渦を巻くように自分から放射状に風の糸が伸びていく。
ぐるぐると、私から伸びる風の糸が、ところどころフース先生の壁に阻まれ広がっていく。
すぐ周りには人の気配はないようで、私は今壊した壁を乗り越え、さらに内周へ侵入を果たした。
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