13.強襲
学園の警備が強化されるという話が広まった。不法侵入があったからと、全生徒および関係各所に通達がなされ、現在その段取りを組んでいるところという話で食堂は持ちきりだった。
「不審者が寮内にいたという話だね」
「ええ、わたくし伏せっておりましたのでそのようなことになっているとはつゆ知らず。皆様の安全が第一ですから、しかたありませんね」
ヴィクトリア王女の言葉に、デルウィシュ王子も頷いた。
「各国の要人の子らが多く滞在しているのですから、国がそのように動くのは当然のことでしょう。自前で護衛を連れてきているとはいえ。すぐに対応するザハトアール王国にも感謝しきりです」
そうやってヴィクトリア王女を、ザハトアール王国を擁護するデルウィシュ王子の瞳は優しく王女へ向けられていた。
懲りずに一緒に食事を摂っているアダレット嬢のフォークは、今日も歪み始めていた。
チェリクが私にしか見えないように笑っている。
この護衛は普段からこのような態度なのだろうか。大丈夫なのか? ゾーイに聞いてみよう。
食事は問題なく終わり、今日は久しぶりに座学の授業となる。
「わたくしのせいでセラフィーナのお勉強が遅れてしまいましたね」
「ヴィクトリア様の御身が一番ですから問題はございませんし、わかる範囲でデルウィシュ様が書き付けをくださいましたので」
「そうね……書き付けの文字もとても美しかったわ」
頬をほんのり染めて言う様は、恋する乙女だ。
こんな二人の仲を裂こうと考える輩は早めに成敗するしかないだろう。
歴史の授業と法律の授業を終え、昼食となる。デルウィシュ王子は法律の授業は取っておらず、食堂でヴィクトリア様を待っていることだろう。
各教室は一カ所に集まっているわけではない。この王立学園はかなり古い建物で、時代が進むにつれて増築を繰り返している。法律の授業が行われた紫紺の棟は食堂からもっとも離れていた。
あちこちに作られている庭を通りながら向かうことになる。
「ヴィクトリア様、御身失礼いたします」
テリーサが目配せをして、私は断りとほぼ同時にヴィクトリア王女を抱きかかえた。
学園の警備が厳しくなる。
そう周囲に知らしめた。
今までの、殺しはせずとも傷つけようというそのやり口に、強硬手段をとってくるだろうとあたりをつけていたのだ。
黒く長いマントにフードを目深に被った不審者が三名。我々を囲むように立っていた。
「どこの不埒者か! 高貴な御方の御前ぞ!」
テリーサが声高に問うが、彼らは黙ったままだ。
私はそのテリーサの隣に王女を立たせ、風の守りを張る。
「ウィンドディヴィジョン」
二人を囲えるくらいの半球の風の守りだ。
「ふふふ……魔術師三人に対して護衛が二人で足りるのか?」
低い笑いを含んだ男の声に、こちらを見下しているのがわかる。
「ダークソーンズ」
こういった仕事に手慣れているのだろう。闇はどこにでもあり、どこからでも攻撃できると言われる。
ヴィクトリア王女が自分の影に慌てて目をやるが、変化はない。
呪文を唱えた男がうろたえる。
そこへルシールが剣を抜き飛びかかった。
「大丈夫ですよ、ヴィクトリア様、私のウィンドディヴィジョンは球体です」
「球?」
「はい、この地の中にもくるりと防御壁が張られております。なんたって球は一番強い形ですからね」
「一番強い形? そうなの、ですか……」
これはセラフィーナでなく、私の知識。
「それでは、御前を離れることをお許しください。二対三はちょっと不利ですからね」
「セラフィーナ!? 結界からどうやって……」
テリーサがそう声を上げる前に、私はウィンドディヴィジョンで作られた防御壁をつるりと抜ける。
「何!?」
驚いたのはテリーサよりもう一人の、結界に迫りなんとか攻撃を加えようとしていた三人目の男だった。
「ファイアーボールパンチ!」
拳に魔力を込めて繰り出す。私の行動が予想外だったのか、何も抵抗することなく、思い切り頭部に私の拳から繰り出されたファイアーボールを食らった。吹っ飛んだ先は庭園の木だ。顔が燃えてしまっている。それが木にうつる。
「た、大変……」
整えられた学園長自慢の庭園を傷付ければ厳しい罰則が科せられる。悪さをするつもりがあったわけじゃないが、学生時代一ヶ月の庭園清掃をさせられた苦い思い出が甦った。
「ウォーターボール」
これは拙いと冷や汗をかいたセラフィーナの耳に、救いの声が聞こえた。
「お兄様!」
警備が厳しくなる前に、一気に事を進めようとするだろう。
花束のやり口に焦りの気配を感じた兄様が、そう判断し、なかなか尻尾を見せない敵を捕らえるためと、ヴィクトリア王女に伏して願ったのだ。
囮になってくれと。
何かあれば首が飛ぶ。それだけではない、フォルツァ、そして兄の婿入り先であるヴォーアウト公爵家へも累が及ぶ。
普通ならそんなことまでしてあぶり出す危険性の方が問題視されただろう。
だが、先日の魔晶石の件、そして、近年類を見ないほどの高位の貴族客人の多さに、問題の終結を急いだのだ。
その代わり体制は万全に敷かれた。
わざと入りやすい場所を作り、そこに知られぬように見張りを何重にも配置、今だってウィンドディヴィジョンをする必要なんて本当はなかったのだ。
たぶん、もう少し、彼らの口から何か引き出せないか様子を見ていた。
しかし、私が木を燃やしてしまったせいで出て来ざるを得なくなったのだ。
他二人も瞬く間に捕らえられ、無力化した。私の炎の拳を受けた男はすでに捕らえられている。辛うじて生きてはいるようだ。
「殿下、御身を危険にさらすような策を、申し訳ございませんでした」
「何度も話し合ったでしょう? レナードの策にわたくしも同意したのですよ。こうして無事に恙なく不埒者を捕らえられました。よくやってくれましたね」
にこりと笑う王女に、皆が片膝をついて頭を垂れる。
「このあとはこやつらがどこの者か聞き出します。また後日報告にあがります」
「よろしくお願いします」
そうしたやりとりのあと、二人はくるりとこちらを見る。
「ところで! ウィンドディヴィジョンは通り抜けることができるのですね。何度も見たことがありますが、セラフィーナがやって見せたことは、わたくし、初めてみたのです!」
「セラフィーナ、先ほどの……殿下がおっしゃっている事象について説明をしなさい。いや、ここじゃなくていい。また後ほど」
通り抜け、は、できるかなと思ったらできただけだ。もちろん今回初めてやったのではなく、事前に実験した。
「私の魔力で作ったのですから、私に効かないのは当然かと?」
思いついたら即実行です。
「普通はそんなことはできん」
それができてしまったのです。
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11月からは1日1話になります。




