85#エピローグ(キンジの異世界奮闘記6)
おれは マジックユーザーのキンジだ。
カーズさんの地獄を思わせる修行に耐え抜き、レベルが2に上がったんだぜ。
調子に乗っていたら、カーズさんがこんな事を言っておれを苛めた。
「あくまでも目安だが、マジックユーザーのレベル上昇率はこうだ!
レベル2は、2500
レベル3は、5000
レベル4は、10000
レベル5は、20000
レベル6は、50000
レベル7は、100000
レベル8は、250000
レベル9は、500000
の経験値が要るぞ? レベル2程度で調子に乗るなよ?」
もう、テンション一気にダウンですよ……
「さあ、キンジもレベルが上がったな、何の呪文を覚える?」
おれは『レビテート』の呪文をカーズさんにおねだりした。
これで明後日からおれは空中浮揚の魔法が使える……楽しみだ。
そして、カーズさんが巻き添え召喚の召喚主が、マクリード国かミトーラ公国と目星を付けたので、北側にあるミトーラ公国に旅に出る事になったんだ。
理由はたかるだけだって言うから驚きだ。
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◇大食堂◇
おれ達3人はアーティザン共和国北側最大の街『チブド』に着いた。
その頃には、『レビテート』に飽きて、『マジックミサイル』を日に2回覚えている。
「はいよ、『パパスタ』おまち!」
おおっ山盛りのナポリタンが3つ出てきた。
く、食いきれるかな……
と、思っていたら……
「ちょっと、いい加減にして下さい!」
近くのカウンターで女の人が男に言い寄られていた。
「今日こそは私と結婚の約束をしてもらうぞ」
「だから、アナタとは絶対にそう言う関係にはなりませんっ! 仕事の邪魔です!」
男は全く引かない。
「実はですね、何故ナサーラさんが私の求婚を断るか、わかったんですよ……悪い男に無理矢理付き合わされてるんだろ? たしか鍛冶屋見習いの……」
女の人……ナサーラって言ったけ?
ナサーラが慌てて否定した。
「彼は関係有りません! それにまだお付き合いとかしてないし……」
少しだけ、顔が赤くなったな……
「いいや、あの男に脅されてるから僕の求婚を断ってるんだろ? そう考えると辻褄が合う……私たちは結婚する運命なんだ! だから鍛冶屋見習いごときが邪魔をして言い訳がない!」
ナサーラは今度は怒りで顔を赤くする。
「だから彼は関係無いって言ってるでしょ! どうすれば信じてくれるんですかっ?」
「あの男が関係してないなら私達はもえ結婚に向けて、動き出しているはず…………あの男さえ排除すればナサーラさんは判ってくれる……なに、私の財力をもってすれば、全ての鍛冶屋に手を回す事など容易い」
ナサーラは青ざめた顔をした。
アイツは悪党だ! おれが言うのも変だがアイツはひでぇ……カーズさんを見る。
あっ、カーズさんと目が合った。
「あの男、恐らく商人だが、凄いな……悪意無しであそこまで言って退けるとは、天然記念物級の馬鹿だ……この世界は馬鹿でも金儲けできるのか?」
カーズさんは楽しそうに見物している。
えっ!?あれで悪意が無いって、ある意味手が付けられないよね?
アーサーさんも目の前の騒動よりナポリタンが大事みたいだ。
涙目になっているナサーラを助けるような人は現れない……周りの人々は彼の財力を知っていたのだ。
しかし、ついに1人の屈強そうな男が立ち上がった。
「あんた、いい加減に嫌われているの気付かないかねぇ……ナサーラはこの店の看板娘何だよ……諦めてママのおっぱいでも、しゃぶってな!」
ナサーラに助け船を出した男は冒険者だった。
街のしがらみのない彼には、商人の財力など関係無いようだった。
「可笑しな事を言う……何故、僕が嫌われるのだ? 僕は、ナサーラさんとの結婚に邪魔な者を排除するだけだ……感謝される事は合っても、嫌われる事など無いな」
「何だと!!」
激昂した冒険者は武器を持って立ち上がる。
流石に周囲がざわめきだした。
ナサーラを口説いていた男は、怯えた様子も見せずに、男に話す。
「はっ、物騒だな……そんなに血の気が多いならどちらが正しいか決闘をしようじゃないか」
この街のには、ある程度の揉め事には、決闘で決着をつける風習があった。
冒険者の男はナサーラを口説いていた男の全身を見る……明らかに鍛えていない身体なのが見て解る。
「はぁ? お前正気か? いいぜその決闘 乗ったぜ……特別に全治3ヶ月で許してやるから、負けたらとっととこの街から出て行きなっ」
「わかった……では君の戦う相手を紹介しようじゃないか……ドランゴ」
するとローブ深く被った大柄な男が立ち上がる。
「ドランゴ……私の代わりに決闘を頼む」
ドランゴと言う大男が近くまでやってきた。
「お前の遊びに巻き込むな……」
「ドランゴの探し物は私が居ないと、かんたんに見つかる物では無いぞ? それにまだ、契約期間内だ」
「わかった……」
「ドランゴが私の代理で決闘をする、なに全治3ヶ月で赦してやるさ」
冒険者は驚いた。
「お、お前は恥ずかしくないのか? そんな事だから、ナサーラさんに嫌われるんだ!」
「何故だい? 優秀な者を雇える事も、私の魅力の1つだ」
冒険者は、ドランゴに突っかかる。
「おい、オッサンあんたはそれでいいのかよ?」
「雇われの身だ、赦せ……メージはああ言っが、優しく倒してやるから安心しろ……」
ほう……あの天然馬鹿商人は『メージ』って名前か……
冒険者はああん?! と言いながらドランゴを睨む。
「……………………あんた、まかさ亜人か?」
メージはにこやかに自慢しる。
「良く気づいたな。そう……ドランゴは亜人だ。しかも竜種、最強の亜人なのだ……どうです? ナサーラさん、このコネクションと財力を持つ者が貴女の夫になるのです、自慢出来ますよ」
助けなど無意味と覚り、ナサーラは絶望に顔を歪めていた。
いつもは楽しく見学して、見捨てるカーズさんが、面倒臭そうな顔をした。
「亜人 最強 興味 有る」
うわああぁ アーサーさんのツボに触れたぁ!
アーサーさんはナサーラの前に来て、
「お前 俺 雇う 俺 決闘 する」
「え? でも……相手は……あの……亜人の竜種」
人生を諦めたような力の無い声のナサーラ。
「お前 早く 雇う」
少しだけ、理性を取り戻したナサーラは、
「でも、私人を雇う程の大金なんて……」
「お前 あれ 奢る 出来るか?」
アーサーさんはさっきまで食べていたナポリタンを指さしていた。
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◇広場◇
ナサーラと自己紹介しあったおれとカーズさんは、ある1人の男の隣までやって来た。
「こんにちは、隣で見学していいかな?」
男は顔をしかめて
「あん? 誰だ? てめぇらは……」
「私はカーズ、あんたバトルマニアだろ、あっちの解説を頼むよ……なぁ同類だろ?」
と言ってこの世界の格好飲料『ビィルゥ』を男に渡す。
『同類』の言葉に心を打たれたのか、男は警戒を解いた。
「おっ、すまん……俺は『ウンサー』だ。 いいぜ、亜人の解説なら任せろ!なにせ俺はこのみち20年の玄人だ」
と言って『ビィルゥ』を受けとる。
「しかし、あの商人もえげつないな、竜種相手に素手の決闘なんてな……」
~商人はアーサーの背中の剣の柄を見ただけで、並の剣で無いことを見切り、武器なしの決闘を言葉巧みに誘導したのだった~
「あの男も、並の強さじゃないのは判るんだが、相手が悪すぎだ……竜種には常態変化その1、竜の爪がある、防具なしなら、八つ裂きにされちまう……まぁそこまで、いい闘いになればの話だが……」
大勢に見守られ、戦いが始まった。
敵プロフィール◆
ドランゴ 亜人族竜種 レベル30
職業 ファイター HP 1820
特技
竜の爪
竜の鱗
竜の咆哮
竜精闘気
体格が同じくらいの2人、お互い手を合わせ、力比べから始まった。
観衆が沸いた。
「ワー、ワー!!」「ワーワー!!」
お互い両手を合わせて力比べをしているが……お互い加減をしていて、徐々に力を加えている為、互角に見える。
あっ、ウンサーが驚いている……
「力が拮抗してるだと?! 竜種の腕力は馬を投げられるくらいの力があるんだぞ!」
カーズさんも解説する。
「アーサーなら馬二頭くらいなら片手で投げるぞ……アーサー手加減してるな」
「5 10 15 22 25 30 35 40 40% ここまでか?」
ドランゴの表情が歪んだ。
「なっ! 我が力負けするだと?!」
そして力負けしたドランゴは転がされ蹴られて吹き飛んだ。
まわりの観客は予想外の出来事に大きくざわめく。
ドランゴの目がギラリと輝く。
「おぉぉぉぉぉぉ!!」
ドランゴの雄叫びと共に両手が鋭い爪のある手に変 化した。
ウンサーが『ビィルゥ』を飲みながら解説してる。
「常態変化その1、竜の爪が出た……あれは鋼鉄の鎧も引き裂く……攻撃を受けたら終わりだ……」
アーサーさん大丈夫かな……
力比べは終わり、殴り合いに発展する。
アーサーさんがドランゴを殴る。
「ゴハァ……次は我だ……」
ドランゴがアーサーさんに殴りかかる……
「グッ…… 中々 力 あるな」
アーサーさんとドランゴの足を止めた殴り合いが始まった。
観衆は初めはドランゴと殴り合いをしている事実に驚いたが、すぐに大歓声に変わった。
「驚いた……あの竜の爪を受けて、かすり傷なんて……しかも押し勝ってる?」
ウンサーは興奮している。
よぉく見てると、アーサーさんが優勢?
確かにそうかも……
そして、殴られ続けたドランゴは再び雄叫びを上げる。
「ぐおぉぉぉぉぉぉぉ!」
ドランゴの身体中に堅そうな鱗が生えてきた。
「常態変化その2だ……あの男、なんてぇ強さだ……」
ウンサーは興奮しっぱなしだ。
うん、俺もアーサーさんには、いつもビックリさせて貰ってるよ。
殴り合いを続けるアーサーさんとドランゴ、見た目は変わらず、ドランゴがのけ反ったりするが、ダメージを受けた様子が無い……
おれでも解るから、大体の人は解ってると思う……竜種って反則だ……せめて武器が使えたら、あのテラストラムを、破壊した武器が使えたら……
カーズさんを見ると、カーズさんにいつもの余裕が感じられない……
「思ったより強い……か。 それなら、素手で闘うのはまずった……」
とぼやいてる……カーズさんと同じ考えだなんて、初めてかも……
「ねぇ、ねぇ、あの亜人……もっと強くなったりする? 」
とカーズさんが、ウンサーに声をかけている。
「ああ……このままでも旗色悪いのに、アイツは状態変化その3、竜精闘気がある……面白いバトルだったが、結果は見えてるな……」
「不味いな……アーサーが全力で殴り出してきた……」
はっ? アーサーさんまだ本気じゃなかったですと?
アーサーのパンチに吹き飛ぶドランゴだが、ダメージが受けていないかの様に立ち上がって攻撃を仕掛ける。
「お前は、凄いな……だが、こんな茶番でも我は負けるわけにはいかない……おとなげ無いと思うが、此方も全力行かせて貰う……ぐおおおおぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
ドランゴの回りに、青白いオーラの様な光が見える。
「状態変化その3、竜精闘気だ……終わった……竜精闘気は攻撃、速度、耐久力全てが跳ね上がる」
ドランゴはアーサーさんを圧倒するかの様に一方的に殴りまくってる。
ああ、アーサーさん……
つい見ていられなくなって、目を離してしまった。
まわりからどよめきが聞こえる。
あっ……ドランゴが尻餅を付いてる?
それにアーサーさんの右腕光ってないか?
「キンジ、覚悟しろアーサーがじきにキレる…」
カーズさんそれが何で覚悟しなきゃならないんだろう……
「アーサーは素手の闘いで本気を出すとな……満足するまで暴れるんだ……前回は兄さんとガルの3人がかりでやっと押さえたのに……私1人では話にならん……」
カーズさんのビックリ発言を聞いてアーサーさんを見ると、ドランゴは既に血まみれになっていた……
「ゴバァ……ば、ばかな……」
ヨロヨロと立ち上がるドランゴは、自身の奥義『竜の咆哮』という名の口から放たれた衝撃波を放つ……
しかし、ドランゴの攻撃はアーサーの右手に叩き落とされた……
「駄目だ……アレ程度ではアーサーは満足しない、もう逃げちゃおっかなぁ」
カーズさん酷くないですか?
「俺も奥義使ちゃうぜぇ、行くぞ! 王神流秘奥義・彗星剣!」
その瞬間ドランゴの分厚い胸板をアーサーの右腕が貫いていた。
こ、怖い……化け物だ正真正銘の化け物だ……
観客も恐怖のあまり硬直して動けない……
「ゴルァァ!もっと 強敵よこせぇ!」
アーサーさんが饒舌になってる……
本気でビビっていると、カーズさんがおれの腕を掴んで、勢いを付けてアーサーさんの所に押し出された。
ドン……
ひぃ! アーサーさんがおれを見てるぅ!?
終わった、おれの人生終わった……
酷いよカーズさん……
アーサーさんが俺の首根っこを掴んで持ち上げる……
ああぁ……投げられる……
「ん…… キンジ どうした? 」
何の切っ掛けはかわ判らないが、アーサーさんは
正気を取り戻した。
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◇裏路地◇
商人と思われる男が広場から急いで離れていた。
「はい君々、何してるのかなぁ?」
1人の男が、呼び止める。
男は、ビクッとしたが、取り繕う様に語る
「わ、私は忙しいんだ、行かせて貰うよ」
と、逃げる様に移動する。
「忙しいのは知っているよ、これから全治3ヶ月のケガを負わないといけないもんね……私が手伝うよ」
男は慌てた。
「な、なにするんだ? こんなことをしたら、君は犯罪者になってしまうぞ?」
「なぁに、男の約束を破るよりはましだろ? 聞いてましたよ……全治3ヶ月のケガを賭けて決闘を了承したのを、さらにあの女性には近づかない事もね……」
ゆっくりと男に近づく……
「や、や、やめろぉぉぉぉぉ! ぐあぁっ! ふぎゃぁっ! ゴバァ……た、助け、ふぎゃぁっ、ブゴォ!」
男は重傷になっていた。
「私はアフターサービスも忘れませんよ。第4レベル呪文 ……呪いの指」
商人の男に黒く変色した指を突き刺す。
「ぎゃあぁぁぁぁぁ」
「あなたは、ナサーラさんを見ると呼吸が止まる呪いを与えます……因みにあなたの勘違いでも呼吸が止まりますからね……似てる人を見かくないようにしないとね……以上」
指を引き抜いた。
「後、個人的な怨みがあります……お前のつまらん策略でアーサーがキレただろ? ほんっっとに肝っ玉冷やしたわ……変わりにお前の玉を潰す!!」
プチッ
「うんぎょぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
~男は子供の産めない身体になったうえ、ナサーラと、似た女性を見る度に呼吸困難に陥っていた。そして酷い事にナサーラと似た後ろ姿でさえ、呼吸困難に陥る様になってしまっていた。~
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男は金の玉を潰して満足した後、考え事をしていた。
(しかし、キレたアーサーをキンジが治した? この私に理解出来ない現象が起きるとは……キンジ……もう少しだけ優しく扱うか……)
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◇食堂◇
おれはカーズさんにアーサーさんの秘密を聞いた。
アーサーさんは素手の闘いで本気になった場合、相手が物足りないとキレるんだって……
そして饒舌になるらしい。
「カーズさぁん、酷いっすよぉ、おれ本当に死ぬかと思ったんですから……でも、キレたアーサーさんどうやって治したんすか?」
「いや……只の偶然だ……」
「えっ? 偶然?」
おれはさらにビックリした。
カーズさんは、アーサーさんを治すためにおれをぶつけたんじゃなくて…………いや、これ以上考えるのはよそう……悲しくなってくる……
するとカーズさんが、申し訳なさそうな顔で謝ってくれた。
明日は大雪ですな。
「う、ん、その悪かったな……お詫びにキンジにオリジナル呪文を創ってやるよ……私にも無いオリジナル呪文をな……」
マジっすか? カーズさんでも使えない呪文をくれるの?
許す、許しますよ、いやいや許させて下さい。
これでおれの覇道の1歩が進むな。
おれはマジックユーザーキンジ、もうすぐ異世界を席巻する男になります。




