84#別れは突然やって来る
オロチネス将軍がリリス達に消されてから、リメインズ軍全てのストラム兵の機能が停止した。
全ストラム兵はオロチネス将軍の命を媒介にして動いていたのだ。
これにより、バニス帝国の力を借りたマクリード国とマルクズィヤ魔導連邦の挟撃が実現する。
ほどなくして、リメインズは無条件で全面降伏する事になった。
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◇リリスの家◇
あのペタストラムとの死闘から翌日、リリスの家で小さな騒動が起きた。
再び封印された筈のもう1人リリスが、夜の間だけだが、会話が出来るようになったのだ。
それでもリリスの許可がないと出来ない様だが。
もう1人のリリスは、母親のケットシーが混乱するのを覚悟で、事情を話し、もう1人のリリスの希望で母親と暫く抱き合っていた。
様々な知識を有したもう1人のリリスも、母親の前では年相応の子供の様に振るまっていた。
封印の綻びの影響はリリスにも現れていた、 リリスはちょっとだけ強くなっていた。
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数日後……
◇リリスの家の庭◇
今日は5日に1回の立食パーティ。
今回のお題は『とうもろこし三昧』。
僕が融合以前に通販で買って食べた極上四天王だ。
『甘々娘』
『ピュアホワイト』
『ゴールドラッシュ』
『紅宝石』
生食可能な品種も有るが、茹でたり焼いたりして、皆で食べていた。
ザワリ……
突然悪寒が走った……ガルを見る。
ガルもこちらを見て頷く……
間違い無い……異世界転移の前兆だ……
あまりにも楽しくて忘れていた……
こんな事なら、別れの準備をしておけば良かった。
香織ちゃんも悲しそうな顔をしている。
無理もない……皆それだけリリスと、親しくなってしまったからな。
もうすぐ皆が食べ終わる……その時にでも報告しよう。
おや? ガルが居ない……もう準備を始めてるみたいだ。
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立食パーティが終わり、皆が僕にお礼を言って帰っていく……コンさんも帰るつもりだった様だが、帰らないよう捕まえた。
マーニャにも、悪寒の正体を説明済だ。
彼女も、どこと無く寂しそうにしている。
「皆さんにお話が有ります」
皆さんと言ったが、話す対象はリリス、リリスの母親のケットシー、コンさんの3人だけなのだが。
「これから間もなく僕たちに強制の異世界転移が起こります……突然ですが、今までありがとうございました」
「え……」
「あ……」
「ど、どう言う事だい?」
う~~ん どうやら、コンさん以外は少々心当たりがあるらしい……何故だ?
「そう言う呪いなのですよコンさん……まあ、強さの代償だと思って下さい。リリス、この世界はとても楽しかった……いろんな事があったね……」
ちょっと回想してしまう。
始めて出会った時、泣きながら友達になって、と言ってくれたね。
翌日の食料すら無いのに全力で僕らをもてなしてくれたね。
日々の修行は厳しかった筈なのに、挫けないで付いて来てくれたね。
2対2の決闘では、まだまだ未熟だったけど……僕の真似をして、一生懸命戦っていたね。
テラストラムとの戦いでは、助けてくれてありがとう。
あっ、なんか目頭が熱くなってきた。
僕は沢山の思いを一言に纏めた。
「リリス今までありがとう、リリスの事はどんな世界に行っても、絶対に忘れない……サヨナラだ……」
「いや!」
リリスは泣いていた。
しかし、リリスがごねるのは予想している。
「ダメなんだよリリス、正直 僕もリリスと別れるのは嫌だ……だけどね、リリスはお母さんが居るんだ……僕と一緒に来ればもう2度と会えないんだ……リリスにそんな思いはさせられない……解るね?」
リリスは自分の母親のケットシーを見る。
彼女も泣いている……
ランディはケットシーの涙を見て疑問に思う。
リリスと、ケットシーは少しの間見つめ合い、ケットシーがゆっくりと頷く……
「それでも私はランディと別れるのは嫌です! だってランディは何よりも大事な人だから……ランディから何も持っていない私に、沢山大切な物を貰ったの。初めての友達に成ってくれた……明日をも知れない生活から助けてくれた……落ちこぼれだった私に魔法と体術を使える様にしてくれた……虐められていた私に前を向いて戦える強さをくれた……」
リリスの言葉はさらに続く……
「ランディの声が私をきらめかせるの……
ランディの笑顔が白黒だった私の世界に彩りを与えてくれたの……
ランディがいるだけで、私の心に爽やかな風が吹き込むの……
だから……だから離れないで、私も一緒に連れて行って!」
リリスは泣きながらランディに抱きつく……
香織ちゃんを見る……
「リリスも、もう私たちの仲間よ……」
マーニャを見る……
「うう……ぐすっ……ひん……」
ガルも見る……
仕方ないなって感じのジェスチャーをしている。
ケットシーを見る……
コンさんの手を強く握って「リリスをお願いします……」と言っている。
コンさんも見る……
コンさんは僕を見て頷く……
僕の意識は突然 途切れる
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「やあ……また会えたね……」
ランデイヤか……
「大所帯は僕の望むところじゃ無いけど……あの子を振りほどける様な、無慈悲な手は持っていないな……なあ君もそう思うだろ?」
そうだな……いつの間にか母子で結託していた様だし、ケットシーさんもコンさんがいるから1人にはならないしな……
うん覚悟を決めたよランデイヤ……リリスを連れて行く。
「じゃ最後に一言……君達は見られていたよ」
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僕は意識を取り戻す。
そしてリリス語りかける……
「僕の修行は厳しいぞ……」
「あ~あ お前を幸せにしてやるから着いて来い! くらい言えないのかね……」
「あっ、そんな事言われたら私 絶対に嫉妬する!」
「ふふっ 賑やかになりそう」
「うん! 頑張る!」
そして、ランディ、ガル、香織、マーニャ、リリスは手を繋ぎ合い、消えていった。
……
…………
………………
……閑散とした庭のなか、ケットシーとコンルシズの2人は立ち尽くしている……
そして……
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
突然泣き崩れるケットシー。
コンルシズはケットシーを、抱き寄せながら「大丈夫、大丈夫だよ。ランディ君を信じよう……彼ならきっとリリスを、幸せにしてくれる」
ケットシーはコンルシズの言葉に頷きながら、泣き続けていた。
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◇???◇
「監視していた反応が消えました……」
「消えた? まさか死んだ訳など無いよな……古代兵器を破壊出来る程の猛者だぞ……」
「はい……別世界に移動したと思われます」
「呼び戻す事は出来るか?」
「あれほどの存在を強制召喚するのは不可能です……しかし、別の何かを召喚したついでに巻き込む方法ならあるいは……」
「そんな非常識な召喚が出来るのか?」
「はい……ですが、術の開発と調整に少なくとも2・3年はかかるかと……」
「あれは珍しい存在だ……もう1度見たい。開発を進めてくれ」
「了解しました」
第2章 完
皆様のおかげで、エタらずにこれました。
感動の別れがうまく書けなくて、苦労しました。
あと、エピローグで二章がおわります。
3章も読んでいただけると、嬉しいです。
ではまた。




