68#リリス覚醒 後編
リリスの唱えた攻撃魔法『降魔紋章光破』で4人の上級兵士が屍となり、4体のギガストラムが、塵となった。
「マーニャのあの魔破3連撃でも、機能を停止するだけだったあのギガストラムってやつが、消滅した……凄いな……」ランディも流石に驚く。
「あわわわわ…………」屈強なはずの上級兵士も完全に怯えている。
『さて、改めてこやつの始末をするか……』
リリスはギガストラムと上級兵士に向けて手をかざした時、遠くから何が光った。
ランディは物凄い反射速度で、リリスを庇う。
「ぐはっ!」
(このビーム、さっきのギガストラムより強力だ……アレ以上があるってのか?)
『ランディ、余り無理するでない』といって、光線の出所を睨む……
リリスが、睨んだその先には、鈍く輝く銀色の人型兵器テラストラムが、大隊長を乗せて低空飛行をしていた。
怯えていた上級兵士の瞳に光が戻る。
「大隊長……」
戦闘現場に来た大隊長はこの状況を見て叫ぶ。
「何が起こったのだ? この惨状は何なのだ!!」
激怒する大隊長に上級兵士がリリスに指を指し、
「大隊長、あの女です。あの女の魔法で全て……全て……」
「何だと! テラストラムあの女を光線攻撃!」
5秒ほどの時間が空いたが テラストラムは光線を吐き出す。
リリスは庇おうとしたランディを左手で制止し、右手をかざして『黒魔光破』と言って、テラストラムの吐き出した光線を相殺した。
「何!? 魔法の詠唱破棄だと!?」
上級兵士がギガストラムの後ろから話す。
「大隊長、あの女……滅茶苦茶に魔法を使ってきます!」
恐怖の影響か興奮しすぎているせいかは謎であるが、上級兵士はまともな説明が出来ていない。
ランディは、これ以上の援軍は来ない事を願い、呪文を唱える。
「第5レベル呪文……トゥルーサイト」
ランディの頭の中で、周囲の人々の正体が明らかになる。
《リリステル、女性、戦闘魔法使い、レベル50 HP788 年齢17》
《成瀬 のぞみ、女性、火炎術師、レベル20 HP680》
《遠藤 香織、女性、シーフ(タイプアサシン)、レベル5 HP221 年齢20》
《ギガストラム、ーー、魔導兵器、レベル5 HP400 年齢ー》
《マニエル、男性、戦士、レベル8 HP387 年齢30》
《テラストラム、ーー、魔導兵器、レベル10 HP800 年齢ー》
《パカパイン、男性、魔法戦士、レベル12 HP482 年齢38》
《マクリカル、男性、隠密戦士、レベル10 HP405 年齢33》
ランディは気配を消して忍び寄る『マクリカル』と言う名の戦士を察知した。
ランディは唐突に姿を隠している戦士に攻撃を開始したが、初弾は避けられてしまった。
大隊長は「マクリカルの隠密を見破っただと?」
と驚く。
そんな最中、リリスは次の攻撃を開始する。
『暗黒の力、七つの鍵をもって開放せよ、ルルイエの紋章に集い全てを貫く魔光となれ』
「何だと! あの伝説の魔法が使えるのか!?」
『降魔紋章光破』
リリスの周囲に7つの光の玉が出現して、左手の前に紋章を描く、紋章が完成するとより一層輝きだし、紋章の形のまま光線となり、テラストラムと大隊長を襲う。
しかし、テラストラムはギガストラムすら消し去ってしまう降魔紋章光破すら防いでしまう。
「ははっ……驚かせやがって、テラストラムは無敵だ! ……しかしこのままでは埒が開かないな……テラストラムあの女に格闘攻撃!」
上級兵士も、大隊長に習う。
「ギガストラム、あの女に格闘攻撃をしろ!」
リリスに、向かって走り出すテラストラムとギガストラム。
リリスは後ろに下がるが、2体のストラム兵の動きの方が早い……テラストラムがリリスめがけてパンチ攻撃をした瞬間、テラストラム180°反転して地面に、めり込む。
ギガストラムもリリスに攻撃を仕掛けるが、ギガストラムも急に近くの木に激突する。
そう……リリスの前にはランディが立ちはだかっていた。
リリスは、この隙を逃がさない。
両手をかざして『黒魔光破』と言う。
「し、しまったぁ」
「う、うわぁぁぁ」
ランディは、大隊長と上級兵士の2人のHPが200 程、減ったのを確認した。
「リリスたん、あっちの兵士は今のあと1回、こっちの大隊長ってのは2回で倒れるよ」
『そうか、さすがは人の上に立つだけはあるの』
「テラストラム、こっちに来い!」
「ギガストラム、俺を守れ!」
大隊長と上級兵士が慌てて叫ぶ。
『遅い、黒魔光破』
「ぐぎゃゃゃゃゃ」
「うぎゃゃゃゃゃ」
上級兵士は死んでしまった様だ。
ランディのトゥルーサイトのレーダーからも外れた。
一方、不意打ちが発覚した戦士は、ランディの足払いで転がされた後、マーニャの最後の魔力を振り絞った火炎弾の餌食になっていて、さらに香織の投げナイフの的になっていた。
間も無く、隠密戦士も只の屍になってしまった。
リリスがランディに、話かける。
『ランディ、妾はこれからために入る……援護を頼むぞ……』
「リリスたん了解」
(っ事は、降魔紋章光破より強い魔法だよな……年増先生の授業聞いてて良かった…… 文献にのみ記されているの最強魔法が来る!)
しかし、リリスの言葉に最初に動いたのは香織だった。
「発動 顕現せよ スペルストッカー! 開放ボックス1」
香織の足元には25個の野球のボールより、少し小さめの石の玉が出現した。
香織の持つアイテムは可念盤といって、 その能力は2つ、1つ目は姿と気配を消す事、2つ目はランディの呪文のをストック出来て、香織が自由に引き出す事ができる事だ。
ストック量は第1レベルと第2レベルの1つづつだけであるが、ガル曰く恐ろしく貴重なアイテムであると言う。
香織の意図に気付いたランディも、「第1レベル呪文……マジックストーン」と唱え、石の玉を出現させる。
大隊長は「くそう……テラストラムは無敵だが俺がもたない……退却するしか……何?」
テラストラムは香織の投げたマジックストーンにぶつかり大きくよろける。
ランディもマジックストーンを投げる。
テラストラムが転倒する。
マーニャもマジックストーンを投げる。
誰にも当たらなかったが、大隊長を牽制するには充分だった。
ランディはマジックストーンを投げながら、テラストラムを監視している。
(テラストラム スゲーよあんなに攻撃受けてるのにHP800から1つも減ってない……僕もあんなロボットが欲しいな)
と思っている間に、リリスが魔法の詠唱を開始する。
『闇の長子 悪の公子と力を束ねよ、大地を被い大気を覆う烈光となり、我に黒魔の力を与えよ』
大隊長がリリスの詠唱をきいて叫ぶ。
「なんだ、その詠唱は、聞いた事が無いぞ! 俺はそんな魔法知らんぞぉぉぉ!!」
『黒魔死滅烈光破』
リリスの背後に、赤い雨、黒い雲、紫の雷が混ざり合い、圧倒的な魔力を内包したビロード状の闇となり、全てを覆い尽くすように高速移動して襲いかかる。
「うわっ、うわっ、うぎゃゃゃゃゃゃ!」
ランディのトゥルーサイトのレーダーから、テラストラムと大隊長パカパインが消えた。
「勝った……のか?」
ランディのトゥルーサイトには、敵の反応は無い。
リリスも戦闘が終わったと確信し、ランディに歩み寄る。
『ふっ、ようやく終わったの……しかしランディが父上の封印を解除出切るなんて思いもしなかった。ランディには何度も何度も助けられたの……』
ランディは驚きを隠さず「リリスたん……なの?」
『そうじゃ妾はリリス……もう一人のリリスよ。父上の封印の影響で、2つの人格を持ってしまったがの……』
「そう……なんだ……じゃあ今までのリリスたんは?」
『リリスの事か? リリスはしっかりと今の様子を妾の中で見ておるぞ……それよりランディは休息が必要なのじゃろ? 積る話は後にして3人で休むが良い。妾が見張っておるでの』
ランディは色々と話したい事があったが、休憩して、呪文の再取得を優先することにした。
ランディ、香織、マーニャが寝ている中、リリスはランディの髪を触りながら、ランディを見つめている。
『リリス……聞こえるな……』
(うん、なぁにもう一人の私)
『リリスも色々と聞きたい事もあるじゃろうが、ランディの事を頼むぞ』
(えっ どうして? もう一人の私……あぁ面倒くさいから、私もリリスって呼ぶね……で、何でなの?)
『如何にランディの魔法が強力とはいえ、父上の封印は完全に解けていない……直に妾はまた内側に入る事になろう……』
(えっ? いなく……なっちゃうの?)
『消えるわけではない……リリスの見たものは妾も見える。リリスが感じた物は妾も感じる』
(うん)
『リリスが食べた物は妾もわかるのじゃ、ランディの出す食事は美味であったな……』
(うんっ)
『そして、リリスが好きな者は妾も好きじゃ』
(……うん)
『なに、ランディが居ればリリスともまた会える……それまでの間、少しお別れじゃ、リリス』
(うん、バイバイもう一人の私……ううんリリス……またね)
こうして夜が明ける頃に、リリスは元のリリスに戻った。




