59#リリスのターニングポイント
二章前半部分終了しました。
◇Aクラスの教室◇
1人の生徒が、つまらなそうに椅子に座っている。
彼の名前はアンジャイ、巨人の使い魔を従わせている生徒である。
彼は、昨年度まで……1年の時はいつも威張っていた。
そう、我が儘がまかり通っていた。
気に入らないクラスメイト(特にリリス)を虐めたりして、好き勝手な学校生活を送っていた。
ところが2年に進級してから、事情が変わってきた。
自慢の使い魔も、Aクラスでは普通、(実際は下の方なのだが、アンジャイは気づかない)攻撃魔法の『光破』も1日で修得したのに、Aクラスでは、初日で全員修得している。
しかも、『光破』の修得もAクラスでは、最後のほうで、しかも『光破』の発動には、かなり時間がかかってしまう。
得意の座学もこのクラスでは普通、更にいつもサボってるオエアーには、全く敵わない。
このクラスは面白くなかった。
更に面白く無いのは、Cクラスのリリスの事だ。
あの女は、3体も使い魔を召還して、調子に乗っているらしい。
しかも、リリスの使い魔は、オエアーの使い魔と一緒になって、あの大型獣を使い魔4体だけで、倒したって話だ。
まあ、オエアーの使い魔が殆ど一人で倒したと思うんだが……たった4体で倒したって事で、先生からも一目置かれている。ああっ面白くねぇ、何かスッキリ出来る事はないか………………そうだ! リリスに難癖付けて、2対2の決闘をしよう。
理由は……う~ん、う~ん…… よし! 先生にリリスの使い魔の本当の実力が見たいと言えば、先生も乗っかってくれる筈だ……どうせ、リリスの使い魔……いくら強いと言っても、俺様の『プレスラー』と互角位だろう。
プレスラー相手に必死に戦ってる間に、リリスをみんなの前でボコボコに殴って虐めてやる……よし、これで決まりだ。
早速行動しよう。
◇Cクラスの教室の前◇
「と言う訳で……リリス、決闘だ!」
「うん、わかった」
とリリスが頷く中、ランディは、
「いや、全くわかんないんだけど……」
と抗議している。
「だって、君のプライドとリリスの友達権をかけてって……そこからして、意味がわからないし……」
アンジャイは答える。
「リリスの使い魔は馬鹿だなぁ、この決闘でリリスが勝ったら、友達になってやるって言ってるんだよ、リリスはわかるだろ?」
「うん。私、勝って見せるから」
とリリスは拳を固める。
ランディは、最近調子が悪い……何故なら、この学校の生徒等の人格や、考え方に悩んでいたのだった。
ランディは考える。
(このバカ男は恐らく、リリスたんを虐めていた人の1人だろ? 何で今頃決闘? リリスたんの公開処刑? でも、リリスたんが勝ったら友達になってやるって……しかも上から目線で……さらに、リリスたん……尻尾振って友達になるって意気込んでるし……リリスたん、虐めにあってたんだよね? それも悪質な……それに、なんで僕を巻き込んで2対2の決闘になったんだ? さっぱり解らないのですよ……)
◇屋外運動場◇
ランディが悩んでいる間に、決闘の時間がやって来た。
Aクラス・Cクラスの授業は、急遽 決闘見学に変更になった。
(チッこんなに人がいたら、『トゥルーサイト』使えないじゃないか……)
ランディは、大勢の人がいるところでは、『トゥルーサイト』が使いこなせないでいた。
いっぺんに沢山の情報が頭に入るため、気持ち悪くなるのだった。
そして決闘直前、リリスとアンジャイ、ランディと巨人が対峙している。
ぱっと見て3.5mの巨人プレスラーと1.8mのランディ……力の差は歴然なのだが、ランディには大型獣を倒した実績がある。
だが、それを誰も見ていないため、先生を含めたクラス全員が、ランディの実力を自分の目で見たかったのである。
こうした背景があって、明らかに不利なと思われる決闘が実現したのだった。
アメリア先生が審判をしていて、ルール説明に入る。
「勝敗は降伏か気絶、又は戦意喪失をもって決まりとします。尚、武器の使用は禁止、また相手の命まで奪うような行為も禁止です……それでは始め!」
いきなり巨人が襲いかかり、力競べのの姿勢をとった。
(狡い! いきなり体格の差を利用する気だな……悪役レスラーかお前は……ん? レスラー? アイツの名前何だっけ……? そうだ!プロレスラーだ。ププッ笑える、お前ヒットだよ、プクク……仕方ない気持ちよく笑わせてくれたお礼に付き合ってやるよ)
とブツブツ呟きながら、力競べを受け、手を合わせる。
辺りがどよめく……
「んぎぎぎぎぎぎ……」
「「おおっ?!」」さらに辺りが騒がしくなる。
明らかに不利な力競べに応じたランディに驚いたが、さらに互角に張り合うランディの姿に一同驚愕している。
実際は見た目は互角に見えるが、ランディは限界に近かった。
(ヤベー、力は互角以上なんだが、体格差が不味い……押しきられる……)
「ぬぐぐぐぐ……フンガァ!」
ランディは、持てる力を瞬間爆発させ、巨人を投げた。
巨人は自分に何がおきたのか、一瞬解らないでいたが、投げられた事を理解して、怒り猛然と掴みかかってきた。
だが、ランディは掴みかかる力を利用して、腕を引き、バランスを崩させ、足を蹴る、巨人は膝を就いたが転倒にはいたらなかった。
Aクラスと、Cクラスの生徒達が湧き出す。
そして、一部からこんな声まで聞こえてきた。
「せーの……ランディ 頑張って~!」
「なぬっ?」
ランディは驚き、そして喜び、しまいには笑顔で手を振っていた。
だが、ランディは喜んいる場合ではなかった。
巨人の強力な蹴りがランディに襲いかかる。
巨人の巨体から繰り出される。
若木をへし折るほど威力のある蹴りはランディの身体を軽々吹き飛ばす。
しかし、ランディは軽やかに着地して、観衆に無傷アピールする。
そう、ランディは蹴られたのではなく、蹴り足に乗っかっただけだった。
巨人は再びランディに蹴るが、ランディに避けられ、軸足を蹴られた。
体制を崩した巨人の頭部にランディの蹴りが襲う。
巨人も咄嗟に右腕でガードするが、防御した腕が跳ね上がった。
しかし、この鋭い蹴りが巨人を冷静にさせた。
(そうだ、この男はただの小さい使い魔じゃない……たった4人で、大型獣を倒したんじゃないか……そうだ、アイツは俺と同じ力を小さな身体に詰め込んだ様な使い魔なんだ……なめていたら、負ける!)
巨人は戦い方を変えた。
蹴りを止めて、重心を低くして、腕でガードをしながら、ショートパンチを打ち下ろしで、細かく刻んできた。
だが、戦法を変えて喜んだのはランディだった。
ランディは、呪文使わずに何処まで戦えるかためしたかったのだ。
ランディは構えをとった。
巨人の速度の早い力の乗ったパンチをランディは腕に回転を加えながら全て弾いていく……
Aクラスの担任の先生が、オエアーの使い魔、ルシフルに話しかけている。
「ルシフル君、リリスさんの使い魔……ランデイヤ君の能力は、剛力に駿速なの? もう少し面白い能力を期待したんだけど…… 」
ルシフルも説明する。
「ランディはまだ能力を使っていませんよ、ランディの話だと、ランディの特殊能力は40種を軽く超えるそうです。アンジャイの使い魔ごときでは、能力を使うまでも無いようですね。ランディの本気が見たかったら、あの大型獣イグァーガより5倍強いのを用意しないといけませんよ……」
先生は目を丸くしたまま動かない、気絶したようだ……
香織が戦うランディの表情をみて呟く。
「ランディ……なんか楽しそう」
ガルも香織の言葉に肯定する。
「そうだな、ランディの徒手空拳は見所満載だぞ。香織にわかりやすく言うと、ランディの徒手空拳の基本は纏絲勁と螺旋勁の2つから成り立つ」
「まったく解らないんだけど……」
「そうか……もっとザックリ言うと、中国拳法の基本のひとつで、横回転や、螺旋回転を多用した戦い方だ」
「もう、ちゃんと説明出来るんじゃない、でもランディってますます謎だわ……」
「でも、ランディは中国拳法を習った訳じゃないぞ縦回転も得意だし……フレイルって武器はもっと得意だ」
ガルのランディ自慢を聞いてか聞かずか、話をガラリと変える。
「そう言えば、リリスちゃん ランディと構えが一緒ね……」
「まぁ、格闘技を全く知らないリリスに、2ヶ月半もランディに叩き込まれたからな、タイプが似てるし戦い方も似るだろ、因みに香織は俺と同じで、多軌道直線タイプだぞ」
ガルが、香織に説明している間に、ランディは巨人をボコボコにしていた。
そして、ランディと殆ど同じ構えで戦っているリリスも注目され始めていた。
リリスはこの2ヶ月半、基礎体力は勿論、筋力、反射神経、効率のよい力の使い方、逃がし方まで、みっちり鍛え上げられ、動きの早すぎる、ランディとガルをずっと相手にしてきたのだ。
ランディとの訓練の成果を試すのに、アンジャイは格好の相手となった。
そして端から見ると、リリスの構えや戦い方は、ランディと瓜二つであった。
アンジャイのゆっくりとした攻撃を 未熟な纏絲勁で弾く、バランスを崩すと掌底突き、アンジャイは一方的にやられていた……
「うそだ、うそだ! 何で俺がやられているんだ?うそだぁ!!」
叩きのめされた、アンジャイはキレて叫ぶ。
「プレスラー! 来い! 俺の本当の力を見せてやる!」
ボロボロになったプレスラーが、アンジャイの背後に移動した。
先生の1人が、アンジャイが何をするか気づいたらしく、
「いけない!」
と叫び、止めに入ろうとするが、ガルに止められる……
「先生、大丈夫、大丈夫」
ランディもアンジャイが何をするか、わかったようで、リリスの背後に着て、リリスだけに聞こえるように話す。
「リリスたん、人が居る場所では、禁止してたけど、アレ……もう使っていいよ」
どうやら、リリスはランディに人前での攻撃魔法の使用を禁止されていたようだった。
アンジャイが叫ぶ「光を束ね弾けよ。光破!」
2秒遅れてリリスも叫ぶ……
「光を束ね弾けよ。光破」
細い光がアンジャイの左手の先に、リリスの右手にゆっくりと集まってゆく……直径10cm程の玉になる頃には、アンジャイの2秒のアドバンテージは、なくなっていた。
2人同時に光線が射出される……2つの『光破』は、両者の間で衝突して、相殺される。
ドガンッ!
リリスは2回目の『光破』の構えをとったが、アンジャイはショックのあまり、座り込んでいて、
「バカな、そんなバカな……」
と呟いていた。
ランディは呆然としているアメリア先生に
「先生、相手の戦意喪失でリリスたんの勝ちだよね?」
と聞いた。
アメリア先生は、慌てて
「はい! この決闘、リリスとその使い魔ランディの勝利ですっ!」
「「「ワーッ!!」」」
大きな歓声と共に、リリスに走り出すAクラスとCクラスの生徒達……
リリスはビックリしていて、逃げる余裕がなかった。
「リリス! なんだよありゃ? スゲー戦い方だな?」
「リリス、ランディとそっくりで可愛かったよ~」「リリス! 『光破』使えたのか?狡い狡い」
「リリスッ『光破』の使い方教えてくれっ!」
「リリスッ お前 Aクラス来いよ」
「リリス カッケー」
「リリス、あの攻撃を弾く技何て言うんだぁ?」
「リリスー!」
この状況を微笑ましく見ているランディに、アメリア先生が話しかける。
「あの……ランディさん。あなた……一体何者なの? そしてリリスさんに何をしたの?」
「はっはっはっ、僕の事はいいじゃないですか……今は、あの姿をゆっくりと見ていませんか?」
そこには、たくさんのクラスメイトに揉みくちゃにされて、瞳を潤ませながら、クチャクチャに笑ってるリリスの姿があった。
もう、虐められて泣いているだけのリリスはこの世にはもういない。
次回、アイテム公開します。
次次回プロローグからの伏線が回収されます。
あと今回のタイトルいじめっこアンジャイ、いまいちな気がします。
素敵なタイトル募集中です。




