56#戦いの後は……
ランディ達が、イグァーガと戦い始めた頃、もう1体のイグァーガも、学校の生徒達を多数交えた、大型獣討伐討隊と戦っていた。
堅い装備に身を包んだ、5人の兵士と、その使い魔……
そして、イグァーガから距離をかなり置いて、48組の先生&生徒部隊が、扇状に取り囲んでいる。
10人の前衛部隊は、大きな盾と長槍を持ち、深追いしないで、チクチク攻撃していた。
イグァーガも火炎液や回転尻尾攻撃で攻撃しているが、守備に徹している前衛部隊には、致命傷を与える事が出来ないでいた。
そして、4部隊に別れている先生&生徒部隊は、隙を見つけては、先生の号令で、集団で『光破』の攻撃魔法を降り注がせていた。
そして、遠距離にいる生徒達が、襲われないよう、すぐに前衛部隊がチクチク攻撃して、状況に応じて散開し、魔法攻撃の的を作る。
その、光破の攻撃が150回を超えたあたりで、イグァーガは力尽き倒れてしまった。
まさに、多勢に無勢な戦いだった。
100人以上の歓声が、鳴り響く……前衛を務めた兵士と使い魔達も、皆軽傷で済んだ。
特に使い魔は回復が早く、2~3日で回復する程度の怪我であった。
5人の兵士の班長は、使い魔と他の兵士を労い、先生の代表格に挨拶していた。
「今回は、イグァーガの討伐の協力ありがとうございます。流石に、光破でも、あれほどの回数を浴びせれば、奴もひとたまりも無かった様ですな、今年は攻撃魔法の使える生徒達が多く、楽をさせて貰えそうですな、ははは……」
この国の大型獣討伐隊は、いくつも点在しているが、学校の付近に駐留している討伐隊は、学校の協力を計算して かなり少な目に設定されていたのだった。
副校長のモノラルは、「今年は2年が優秀での、では解体して、持って帰るとしますか……」
と、笑顔が溢れていた。
それもそのはず……イグァーガは肉が非常に美味で、羽毛も保温性能が高く、皮は火に強く、その他の部位も、加工して、様々な装備品になるのだった。
そこで、3年Aクラスの担任の先生が、青ざめた顔で走ってきた。
「副校長! もう1体、大型獣の反応があります!」
「「な、何だって?!」」兵士長と副校長は、驚きの声を上げる。
魔人族が持っている大型獣検索プレートは、おおざっぱ過ぎて、目の前の大型獣を倒すまで、まともに反応出来ていなかったのだった。
「連続で来るなんて何て事だ……民家に行かれる前に、対策を取らねば……此所からどのくらいの距離だ?」
3年Aクラスの担任の先生に質問する副校長。
「はい、……此所からおよそ3km……あれ? 反応が消えました……どうしたのでしょうか?」
不思議がる先生達、兵士のは一人が、討伐隊専用のプレートを見る……
「……確かに大型獣の反応はありませんね、プレートの誤反応ですかね……」
兵士長も「まあ、連続で大型獣が来るなんて、聞いたことがない……さぁイグァーガの解体をしよう。みんな、勉強の為に見ておくと良いぞ!」
……
…………
………………
一人の使い魔が、主人に話しかける。
「オエアー様、お話が……」
イグァーガの解体を遠目で見学していたオエアーが、使い魔の方に振り向く。
「ん?何だ ルシフル」
「はい、此所から3100mほど東側に、先ほど倒したイグァーガと呼ばれている大型獣の気配と同じ気配を感知しました……今は気配が消えてますが……」
「何っ! ……興味あるな……行ってみるか? ルシフル」
「では、飛んで移動しましょう。5分かからないで到着する筈です」
ルシフルは、オエアーを抱き上げ光学迷彩を発動しながら、飛んで行ってしまった。
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一方ランディ達は、適当に切り分けたイグァーガを見ながら、持ち運び方に未だ悩んでいたのだった。
「この怪鳥、鳥の癖に重いよな……どうやって飛んでんの???」
疑問、難問に首を傾げるランディにガルが、笑いながら答える。
「ははっランディ、地球の常識を当てはめようとしても無駄無駄。しかし重さも面倒だが、この大きさ
は……ん?香織どないした?」
「ガル……あそこ……誰かいない?」
香織が指をさしている方向には何もいない、いないはずであった。
しかし良く見ると少々 木々がブレて見えている。
香織の差す方向をガルも見つめる。
「ああ、いるいる2人見えるぞ。でも1人の気配が微弱だな……かなりの手練れと見た……おーい! そこにいるのは見えてるぞ~」
と話かけるガル。
ガルが見ていたのは、赤い右目のインフラヴィジョンで熱源探知していたのだった。
すると、香織やリリスにも見えるように姿が沸いて出てきた。
「ルシフル……見えてるって、何故だ?」
「私にも解りません……が、彼には私の『インヴィジブルストーカー』は全く通用しませんね」
リリスは急に出てきた2人に驚く、「わっ わわ……あれ?えっとえっと……お、おおお……オエアー君だっけ?」
オエアーはリリスに名前呼ばれ、話しかける。
「そうだよ、リリスさんこんにちは。 ね? この大型獣 君達だけで倒したの?」
いきなり、確信に迫るオエアー。
「ううん、ランディとガルがほとんど2人で倒したの……私もビックリでさぁ……あっ2人とも私の使い魔なの」
「知ってるよ、有名だからね、リリスさんの3人の使い魔は……」
などと2人で会話が始まってしまったようだ。
ランディもルシフルを見て、面白そうに話す。
「ガル、この人だよこの人、クラス5の人!」
ガルには、初めて聞く単語だった様で、ランディに聞き返す。
「クラス5?」
「そう、ほら僕『トゥルーサイト』でみんなのレベル正確にわかるようになったじゃん? あ、因みに 彼はレベル40ね。 だから『レベルサーチ』と混同しないように、適当な方の『レベルサーチ』を級で、読む事にしたんだよ」
「なるほど、納得。で、彼がクラス5になる訳か……あっ 俺は魔剣ガル、よろしく。あんたの名前は?」
ルシフルも、リリスの使い魔に興味があったようで、会話に参加した。
「私はルシフルと言う。 君達の名前は知っている……見えない物が見れるガルに、強さを測定出来るランディ、あとは、バケットボールのヒロイン香織だね。実に興味深いよ」
微笑みかけるルシフル。
「えっ 私、ヒロインって呼ばれてるの?」
チョッピリ嬉しそうな香織であった。
「香織ちゃんは 僕の! ……ルシフルね、覚えたよ……これからよろしく。僕の本職は回復メインのサポートだから、アレより5倍くらい強いのが来たら役に立つよ。だから友達になろう」
と言ってイグァーガの屍に指を差すランディ。
「因みに俺も、斥候メインのサポート、ランディの後ろの香織はオマケな、でも香織は暗殺が得意だから、怒らせないように」
ルシフルはまたしても驚く。
「えっ? ふた……3人とも近接戦闘派じゃなかったの? 驚いたな……あと君達、何か困ってるように見えたんだけど……」
ガルが自分の手をポンと叩く。
「そうだ! ルシフル、 コイツ運ぶの手伝ってくれねぇか? 好きな部位上げるからさぁ なっ? ランディもそれで良いよな?」
ランディもニヤリと微笑む。
「それは良い。クラス5が2人居ればガツガツ運べるね。重さも厄介だけど 大きすぎて困ってたんだよ」
ルシフルは不思議そうに、「大きさより、重さじゃないのかい? ガルの方は飛べるんだろ? 兎に角手伝いたいが、オエアー様に許可を貰わなくてはね」
今度はガルがニヤリと微笑む。
「ルシフルは律儀だなぁ、どうせ命令なんて無視出来るんだろ?」
ルシフルは頬をポリポリ掻きながら、「一応、召喚されて来たからね、ちゃんと使い魔しないと……」
ここで、ようやく香織も話に参加出来た。
「ほら、ランディもガルも 見習わないと。2人とも使い魔の自覚全くないんだから……自由過ぎるわ」
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こうして、強力な助っ人のお陰で、イグァーガを持ち帰る事が出来る様になったのだった。
しかしランディは納得の行かない顔だったが……
理由は、かさ張り重量のある手羽先部分100kgづつを ガルとルシフルが飛んで運び、 頭部約20kgを オエアー、少しだけ肉の付いた脚部15kgづつを 香織とリリスが、 一番重さのある胴体170kg超をランディがドスドスと運んでいた。
ドシン、ズシン、ドシン、ズシン。
「な、なんか僕だけ重いような……」
ランディが1人愚痴る……
帰りの途中で、大型獣討伐隊100人超 と鉢合わせして、大問題となった。
弱種であるイグァーガとはいっても、たった4人の使い魔で、(ルシフルと香織もランディが巻き込んだ)しかも無傷で、(早々にランディが呪文で回復した) 倒した事に騒然となっていたのだった。
あまりの衝撃に、ルシフルが混ざって倒したと言った、時系列の矛盾や、ランディ達が学校を許可なく抜け出した事は、すっかり抜け落ちていたのだった。




