55#リリスの素質ー大型獣来襲!
◇リリスの家の前◇
今日もランディは、リリスと香織を鍛えていた。
それに、毎回ではないがガルも教育に参加している、特にランディの教育に足りない部分を補う感じでガルが手伝っているため、結果無駄の無い修業になっていた。
特に2人の教師は、怪我などをしても、直ぐに回復呪文で治してしまうため、遠慮無く厳しかった。
お陰でリリスは、基礎体力、体術、算術は著しい成長を見せていた。
家の前での修業や勉強は、厳しくしているはずなのに、リリスの母親も楽しそうに様子を伺っていた。
リリスの驚くべき事はかけ算の9×9が全く出来なかった事だが、ガルの『お風呂で学ぼう楽しい9×9』と、ランディのスパルタ教育のお陰で、7の段までマスターしていた。
流石に、今までの教師は何をしていたんだ? と愚痴るランディであった。
そこで、課題が1つ浮かび上がった。
それは、リリスの魔術が全く成長していなかったのだ。
それを、今回リリスの母親も混ざって討議していた。
「絶対に精神集中以外のコツが何かあるはずだ」
「ニコニコ」
「う~ん、全く解らん……個人差じゃね?」
「ニコニコ」
「こう……血液の流れを理解するとか……」
「ニコニコ」
ここで、香織が奇妙な琴を話始めた……
「あのね、疑問に思ったんだけどね、Aクラスの子達って……腕短くない?」
「えっ腕? 腕の長さ? そんな所まで見てないけど……」てランディは腕を伸ばす。
ガルも、「そう言えば、腕の長めの奴等は大概落ちこぼれだったような……」
「ガルまで!? なんで、そんな細かい所までおぼえているんだ?」不思議そうなランディ。
「これは偶然じゃ無いな……何か関連があるはずだ……」
みんなで討議と言っても、蚊帳の外のリリスと母親であった。
あまりの深刻な空気に、香織が冗談混じりに、思い付いた事を話す。
「心臓と左手の先までの距離だったりして……なんて」
ランディとガルは「「それだ!!」」と叫ぶ。
驚く香織に、『?』マークを浮かべるリリス親子。
「えっ? なんで? リリスちゃんの腕は長くないわよ……」
香織の問いにガルが答える。
「そう言えば話してなかったな……リリスの心臓は右側に有るんだよ」
ランディも続いて「そう言う事だ、ガルはリリスたんの歪んだ関節を治す時に気付いたんだな、僕は毎日胸を揉んでいたから判る」
香織はそんな胸を揉む話、リリスの母親がいる前でする話じゃないでしょ と頭の中で突っ込みを入れた。
しかも、リリスの母親は相変わらずニコニコしたままだったので、あなたの娘が胸を揉まれ放題だと言うのに……とため息をついてしまった。
ランディは話を続ける。
「香織ちゃんの説ならば、リリスたんは、右手で魔法の詠唱をすれば成功率が上がる筈だ……リリスたん早速試そう」
「う、うん。行くよ……光を束ね弾けよ。光破」
細い光が術者の右手の先にゆっくり集まり、直径10cm程の玉になり、光線となった。
「で、出来た……ねぇランディ、私……魔法が使えたよ……」
大喜びする、リリスにランディ達、しかしこの時に気づいた人はいたのだろうか……
リリスは使い魔の魔力を借りずに、魔法を使った事を……
そして、終始笑顔を絶やさなかった リリスの母親 ケットシーが、青ざめた顔をして、呟いた言葉を……
彼女が、消え入りそうな声で発した言葉は、『そ、そんな……1000分の1の魔力で光破が使えるなんて……』
であった。
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◇Cクラスの教室◇
リリスは段々とクラスに馴染めるようになっていった。
きっかけは、リリスの運動能力の異常な程の向上、しかも、座学も向上して、既に落ちこぼれでは無い。
そして次第にクラスメイトの方から歩み寄って来たのだった。
「ねえ、リリス成績が、良くなった秘訣はなんなの?」
とよく聞かれていたので、リリスはこう答えた。
「ランディとガルの教育のお陰なの。2人とも凄く厳しいんだよ」
とにこやかに答えるリリスであったが、クラスメイト達は、すでにガルの異常なまでの凄さと、ランディの怖さを知っていたので、あの2人が厳しくしたら……と考え、青ざめていた。
カン!カン!カン!カン!
突然けたたましい音が鳴り出した。
その後、通信機と言われる、音の通り道になっている筒から、声が聞こえてきた。
『緊急連絡! ただ今、我が校の南西約5km地点に大型獣が確認されました。3年のAクラス、Bクラス、2年のAクラスの生徒は参加可能です。担任と一緒に校庭に集まって下さい。 繰り返します。 3年のAクラス、Bクラス、2年のAクラスの生徒は参加可能です。担任と一緒に校庭に集まって下さい』
この2年Cクラスの生徒達は、昨年度も同様の事があったようで、いつも通りに過ごしている。
しかしこの時、ランディとガルは『マテ』の出来ないバカ犬の様だったと後の香織は言う。
案の定5分も持たず、リリスの口を塞ぎながら、抱えて外に走り出す2人……
「む、むぐう?!」
香織も、しかたないな……といった感じで結局ついて行くことに……
◇学校から南西に約5km程移動した森◇
ランディ達は迷っていた。
「なあ ガル、南西約5kmって この辺だよな……」
「ああ、大体そんなもんだぞ、まぁ森を走ったから誤差はあるだろうが……」
「ちょっと、ランディ! リリスちゃん抱えて走って何でそんなに速いのよ……ゼーゼー……」
香織は苦しそうに息を切らしていた。
そして、森を抜けて、割りと範囲の狭い平原にでた。
だが、この場には大型獣は愚か、小動物さえ姿を見せなかった。
「くそう……先生達は、レーダーか何か持ってるんじゃ無いのか? こんな時に使える呪文なんて、無いぞ」
ランディの考えは当たっていた
彼ら魔人族は大雑把ではあるが、外界から出現した大型獣を感知するプレートを幾つか持っていた。
半ば諦めかけていたランディ達にリリスが上を見上げながら話しかける。
「ねぇ、ランディ……上を飛んでる鳥……なんか、形おかしくない?」
みんなはリリスに釣られて上を見上げる……すると遥か上空に見える鳥と思われる生物が、ゆっくりと羽を羽ばたかせながら、高度を落とす。
鳥と思われる生物は、高度を落とす度に大きく見えるようになっていた。
「こいつか?」
ガルが嬉しそうに呟く。
そう今回、大型獣は2体飛来していたのだった。
大雑把なレーダーに紛れて、もう1体は自由に空を飛んでいたのだった。
その大型獣は全長5m程もある巨大な怪鳥だった。
◆敵プロフィール◆
鳥竜種イグァーガ レベル2
HP 2096
物理攻撃耐性 40%カット
魔法攻撃耐性 60%カット
魔法攻撃耐性(火)95%カット
攻撃
火炎液 D
回転尻尾 E
啄み F
巻き込み走 G
そして、大型獣はイグァーガは、ランディ達を見つけたようで、降下速度を上げた。
「来る! 香織ちゃん、リリスたん、大きな木の陰に隠れて! ガル、2人で行くぞ! 第5レベル呪文……トゥルーサイト!」
「おう!」
ガルは『ダ○ソー』製のB7サイズのメモ帳を取り出し、その一枚をちぎり 読み上げる。
「魔法の矢よ、敵を射て……マジックミサイル」
ガルが使用した激安のメモ帳の正体は魔法の力が込められた『マジックスクロール』であった。
ガルがマジックスクロールで、放った3発のマジックミサイルは、降下中のイグァーガに命中した。
「グギャーー!」
イグァーガはバランスを崩して、地面に激突する。
「ガル! ソイツは『鳥竜種イグァーガ』レベル2……体力は……2036!!」
ランディは叫びながら、メイスを握り締め地面に落下したイグァーガに襲いかかる。
ガルも「レベル2で2000?!」と驚きながらも、愛剣の1つ『竜王剣』を取り出し、イグァーガに襲いかかる。
ランディは背中、ガルは頭部に強烈な攻撃を繰り返す。
しかし、イグァーガも黙ってやられる訳ではない……2人を振りほどき、一旦距離をとる。
その際、2人はイグァーガの足に蹴られてしまった。
「くっ……調子にのり過ぎたか……」
「ああ、しかしあの足は大した事は無かったな……あと、1556!」
「意外と堅いな……」
距離を取ったイグァーガは 火炎液を2人に4回連続で吐き散らす。
「グァッ」ドゴン! 「グァッ」ドゴン!
「グァッ」ドゴン! 「グァッ」ドゴン!
イグァーガの火炎液は中々の精度で吐き出されだが、2人にあっさりと避けられてしまう。
イグァーガは間髪入れずにガルに向かって走り込む。
しかし、これも間一髪避けるガルだったが、イグァーガは回転尻尾攻撃に移った。
ブンッ! バシン
流石のガルも、避けきれず吹き飛ぶ……
ランディはその様を冷静に見ていて、思った。
ランディの『トゥルーサイト』により、ガルのHPも正確に把握している。
今回のイグァーガの攻撃で、ガルのHPは2490から2465に減ったのを……
(ガルの方が化物じゃんか……)
そう思っていたら、イグァーガの1回のジャンプで、ランディの近くまで着てしまっていた。
「グワワワ……」イグァーガは啄み攻撃を連続で仕掛けてきた。
ランディは3回目の啄み攻撃に、カウンターを当てた。
一瞬よろけたイグァーガであったが、すぐに回転尻尾攻撃に移り、ランディも吹き飛ばされてしまう。
「あれ? 痛いけどあんまりダメージ無いや」
と、呟くランディ。
回転尻尾攻撃が終ると、ガルが足下に移動して、斬りかかる。
今回のガルはイグァーガの反撃に備えて、2回攻撃で止めてみた……案の定イグァーガは回転尻尾攻撃が始まる。
攻撃を読んでいたガルは、高速で襲いかかる尻尾攻撃を避ける事が出来た。
ランディもイグァーガの攻撃が終るとほぼ同時に攻撃を繰り出すが、ランディにはま見向きもしないで、ガルに火炎液を4回連続で吐き出し、ガルは1回被弾してしまう。
「あつっ!」
イグァーガの火炎液を吐き出すタイミングで、メイスで殴り付けるランディ。
イグァーガは、ジャンブしてガルに接近して、啄み攻撃を始める。
「こいつ……俺に的を絞りやがったな……」
その隙にランディが、呪文で武器の攻撃力を上げる……「第2レベル呪文……ストライキング」
啄み攻撃を何と避けきったガルだが、直後の回転尻尾攻撃をまたしても受ける。
「あーっ! くっそう……いったいなぁ!」
「…………」
ランディは何か考えているようだ。
「ガル! あと1325! で、あの鳥さん……攻撃も方向転換も左回りしかしてないぞ! しかも火炎液を4回吐いたら動きが少し止まるぞ!」
「ナイスだランディ!」
ランディの読みは当たっていた。
イグァーガは攻撃速度こそ速いが、ダメージは大型獣にしては少なめで、攻撃パターンも単調だったのだ。
それに気づいたランディとガルは、火炎液と回転尻尾攻撃を2度と受ける事は無かった。
……
…………
「あと、387!」
とランディが叫んだ所で、イグァーガは逃げの態勢をとり、上空に飛び上がってしまった。
ガルが「しまった!」と言いながら、慌ててマジックポーションを取り出した時。
香織が「大気中の酸素よ我が魔力と混じりあい爆炎の刃と化せ……ファイヤーボール」
リリスが「光を束ね弾けよ。光破」
と、魔法を使った。
上空に逃げたイグァーガは2つの攻撃魔法を浴びて、落下してしまった。
「残り356! 魔法は殆んど効いてない!」と叫びながら、メイスを握り締めニヤリと笑う。
「倒れただけで、充分!」ガルも笑っていた。
ランディが頭部、ガルが腹部を狙い、叩きつけ、切りつける。
彼らの攻撃が始まって5秒程で、イグァーガは息絶えてしまった。
「ふう、これでレベル2か……手こずったかな……」
「ああ!だけど攻撃力は体格のわりに大した事はなかたっな……次回はもっと避けられるしな……そういえば、ランディも予備のプロテクションリングがあるはず……装備しておいた方が良いかもな……俺も念のため装備しておこう」
そう、2人は防御面では丸裸同然の状態で、戦っていたのだった。
「さて、この鳥……貴重品って言ってたよね」
「貴重な、奇鳥……」
「どうやって持って帰る? なんかないか ガル?」
「俺はドラ○もんじゃねぇって……」
持ち帰り方に真剣に悩んでいたランディ達であった。




