26#絶望の後に来た者は?
今回で一章中盤戦おわりです。
「螺旋 硬刃水」
突然何処からか、女の声がした…… ドサッ!
ブライが背中と胸から血を流し、倒れた。
しまった! 今回も不意打ちに対応出来なかった。
声の主はどこに居るんだ?
皆がブライに近づこうとした時、目の前に三人の女性が浮き出て来たように出現した。
三人の女性は肌の色がバラバラでかなり目立つ。
左側から、紅色、蒼白、小麦色だ。
三人から漏れ出す気配がヤバイ……僕は
「皆、気を付けて!」と 叫ぶ。
ぱっと見、露出の多い大人の女って感じだが、細部までみると人間と微妙に相違点がある。
「魔族か……」
僕の呟きは聞こえなかったかのように、蒼白の魔族が、口を開く。
「一番厄介な子は倒したわ……後は、水使いの坊やと雑魚達ね」
そこでユリウスが、
「ブライはまだ死んでいない!シャル回復を!」
小麦色の魔族は、
「そうはさせないよ、土積竜掌」と言って地面を叩く。
すると僕達の真ん中で、急に地面が盛り上がり弾けた。
僕らは三方に分散されてしまった。
僕と里美は、蒼白の魔族と対峙した。
「さて、人間の『水使い』だなんて珍しいわね、ゆっくりと楽しみたい所だわ……」
僕の事を『水使い』って呼んでる……
魔族の間では、僕は『水使い』なのか……散水師よりカッコいい。
里美がブライを助けようとゆっくりと動き出す。
「雑魚は動かない!硬刃水」
「硬質水盾」
僕は、咄嗟に里美を庇う。
バシャン!殴るような水滴が里美に弾け飛ぶ。
「きゃっ」
「其処の……治癒師かしら……あなたは、水使いの坊やの後ろにでも隠れていなさい。離れると……死ぬわよ」
蒼白の魔族の出す殺気に、無意識に震える里美。
「里美……僕があいつを倒す……里美は僕が守る!」
「あらあら、感動的なシーンね、ジン……と来ちゃうじゃない。素敵な物を見せてくれたお礼に、『硬刃水』一発受けて上げるわ……おいで」
僕は、相手の挑発に乗ることにした。
僕自身 魔族の防御力を見てみたい。
「硬刃水」
当たった……しかし蒼白の魔族は全くの無傷……高度な魔法防御があると見た。
「ふふっ、そう 私の体は単純な物理攻撃と魔法攻撃が無効なの。少しは絶望してくれた?」
今度は挑発に乗らずに「魔破 硬刃水」と唱えた。
蒼白の魔族は 高速で攻撃を避けた。
しかし避けきれなかったのか頬に軽い切り傷が出来た様だ……
「遅いわ、螺旋 硬刃水」
「硬質水壁!」
僕は魔族の攻撃に合わせて、防御魔法を使用した。
ドッバーン!蒼白の魔族の魔法攻撃は完全に殺すことが出来ず、水飛沫が、余りの威力で二人共尻餅をついてしまった。
間髪入れずに、蒼白の魔族が真上に飛んで来ていた。
「もう一度、螺旋 硬刃水」
僕も魔族の攻撃に合わせる。
「螺旋 硬刃水!」
2つの『螺旋 硬刃水』はお互いが引き寄せられるように衝突する。
ドバン!!
……互角?! いや押し勝った。
蒼白の魔族は 少しは後退し、バランスを崩しなから落下した。
「なっ、私が押し負けた?!」
しかし着地はなんとか成功している。
「びっくりしたよ坊や、私の技をいきなり真似をしただけでなく、威力まで私を上回るなんて……でも、坊や1人頑張れてもね……」
チラリとブライの方を見る蒼白の魔族。
ブライの方に、全身血だらけのユリウスと、全身火傷した、マーニャが投げ込まれた。
小麦色の魔族は、勝ち誇ったようにユリウスの頭を踏みつける。
「のぞみ!ユリウス!」
突然走り出す里美。
「火炎弾」
魔族の放った火炎弾が命中して里美が燃え上がる。
「里美ぃ !!湧水!」
里美をなんとか消化したが、マーニャより酷くは無いが、身体全体に火傷を負った。
僕は、里美を燃やした紅色の魔族に向けて、怒り任せの攻撃を仕掛ける。
「螺旋 硬刃水!」
それに合わせて蒼白の魔族が、
「螺旋 硬刃水」
と魔法を使う。
僕の魔法は少しだけ曲がり、紅色の魔族の左胸を貫いた。
蒼白の魔族の魔法も少し曲がり僕の左肩を貫いた。
「ぐあっ!」
「まさか、『エニア』の方に攻撃をするとわね、お陰で少し逸れたけど、当たったわよ? そろそろ、あちらの方も全員死んだかしら?」
ブライの方をチラリと見る……
僕もブライ達を見た。
その瞬間、鼓動が跳ね上がる……ドクン!ドクン!!ドクンッ!!
こ、これはあの時のレベルアップ…………
僕は、今回も1人ぼっちになるのか…………
ちくしょう、ちくしょう!ちくしょう!!
「残念ね坊や……そろそろお休みなさい。螺旋 硬刃水」
「うおおおおっ! 魔破 螺旋 硬刃水!!」
~~
再びパワーアップを果たした真の新な魔法は、蒼白の魔族の出した魔法を欠き消し、そのまま相手の胸に風穴を空けた。
~~
「なっ? グハッ! わ、私の技に『魔破』を重ねるなんて……ぼ、坊やはいったい何者……ゴボッ」
蒼白の魔族は生き絶えた。
それを見た小麦色の魔族は、一目散に逃げ出してしまった。
しかし僕は、追いかけない……少しでも里美と一緒に居たい。
どのみち、この怪我では追いかけられないけど……
里美を抱き上げる……
「里美、もう敵は倒したよ……大丈夫……だから、良くなって……」
「……………………」
里美はもう、まともな声すら出せていない。
「里美……」
僕は涙ぐむ……暫くの間、2人で手を握り合い、見つめ合っていた。
まるで瞳で語り合うかの様に……
里美の手を握る力が、段々弱くなっていく……
そうだ、……最後に、里美に告白しよう。
そう息を吸い、覚悟を決めた瞬間……
「お待たせっ!」
「ゲホッ!?ガハンッ ゲフン ゲフン」
吸い込んだ息が変な所に入った気がする……
「今、治すからね……第3レベル呪文……シリアスヒール」
突然、二十歳前後の青年が現れて、里美に触れた。
すると、直視しづらい程の火傷が 一瞬で消えてしまった。
「えっ!? なっ!? えっ?」
里美も、僕に抱かれたまま半身を起こして
「あれ?あれ?」
と不思議そう……
僕は、青年と里美を交互に見るばかりで、御礼の言葉も言い忘れていた。
すると、青年がニヤッとして
「さあ、続き続き」
と けしかけた。
僕は、何故か彼の言葉に逆らえずに、里見を見つめる。
「里美……」
「は、はいっ」
緊張する里美。
「大好きだ 里美……結婚しよう里美……」
「うん、私も大好き。でも……結婚はもう少し大人になってからね……」
~~
そして 2人は彼の存在を忘れ、少しずつ顔と顔の距離が近づいていく……
~~
「ん~ ごほん! アーデル、そういうのはオレ達の居ないところでやって貰えないかな?」
僕と里美は、慌てて声のした方を見る。
そこには、1人の女性に支えられている ユリウスとブライが、そして自力で立っているマーニャが腕を組み、睨んでいる姿があった。
「真! 私の目の前で、お姉ちゃんに手を出すなんて大胆過ぎだよ?」
僕は今、目の前の状況について行けないでいる。
な、何で皆無事なんだ?
先程の青年を見る。
彼はにっこり微笑んだ後に
「後は君で最後だよ……第2レベル呪文……ヒール」
僕の傷は一瞬で治ってしまった。
まさか、これでブライ達も?
いや、確かに死んだと思ったんだけど……
と、悩んでいたら……
「ギリギリで助けることが出来てよかった。特に男子二人は死にかけてたから、回復に時間がかかりそうだね」
そうか……ギリギリで間に合ったんだ、よかった……ほっとしたよ。
「君、名前はなんて言うのかな?」
「あ、はい、僕は……アー……真、園崎 真です。
」
「おっ? その名前は……君は日本人かい?」
「えっ? 日本!? 日本の事を知っているんですか?」
「まぁ積もる話は、真君に何か奢って貰いながら話そう。さあ、村に行こうよ。で、いつまでそうして抱っこしてるのかな?」
なんか先程のまでの絶望感が 一気に無くなって、和やかな雰囲気に…… 彼のせいなのだろうか……
僕は、慌てて里美と離れて、ブライとユリウスに向かって走り出した。
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ここは先程、真達が死闘を繰り広げた場所から少し離れた所。
小麦色の魔族がいた。
「まさか、あの御方が殺られるなんて……こうなったらもうひとつの封印を解いて、4人がかりで殺してやる……」
「ほう、興味深い話を聞いたよ」
突然、背後から声と人の気配がして、驚く魔族。
「何者!」
と振り返る……
ドスッ!振り返ったばかりの魔族の、さらに背後から 短剣が突き立てられた。
「な、なんで後ろから……」
「気配と実体の分離だよ、それよりどうだい?『魔王剣』の味は……」
「そ、そうだ、私の体に何故剣が刺さる? ゴボッ」
「ん?俺の名前かい?『ガル』だ、人呼んで『魔剣ガル』」
「そんな話していない……」
そのガルと言う男は詰まらなそうに、
「そうかい、それじゃそろそろ死んでもらうか……」
突き立てた剣をそのまま薙ぐ。
「ガバッ!」
小麦色の魔族は、突然出てきた男に命を奪われた。
「さて、やっとランディを見つけた。きっと融合したてだから、弱いんだろうな。暫くの間は守ってやらないとな」
そして『ガル』と言う男は、この場から消え去った。
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一方、光の門から村に帰る 僅か十分位の間……
マーニャは考え込んでいた。
苦しくて、痛くて、熱い……あの火傷の感触……
その地獄から 救ってくれたのは1人の『王子様』。
お姉ちゃんとは 比べ物にならない程の力を秘めた治癒師……
彼を横目で見る…… ああっ素敵……
それにしても初めて聞く術式だった。
私の胸を優しく撫で上げ、触りながら『第3レベル呪文……シリアスヒール』だっけ……胸の奥が、キュンってしたの覚えてる……あの魔法のお陰で私は助かった。
さらに気になるのは、あの台詞。
『この2人は駄目だ、死んでる……第4レベル呪文……レイズデットLVⅠ』
そして意識を取り戻したブライとユリウス……
まさか、私の王子様は死人を蘇生出来るの?
鼓動が激しく動いたまま、治まらない……
もしかして……これが『恋』? それとも『愛』?
数刻まで瀕死だった事を忘れ、1人浮かれているマーニャであった。
はい、次回 大型企画発動よていです。
あと、励ましのお便りあると元気になりますが、
誹謗、中傷は 禿げ増しになりますのでお止めください。




