22#香織 誘拐
香織ちゃんが居ない……僕は背筋が ザワリとなった。
トイレに、行ってるかもしれない、先に部屋に戻ってる可能性だってある、しかし、僕の直感が緊急事態だと伝えている。
僕は、トリマお姉さんに話しかけた。
「ただいま」
「あらランディ、香織と一緒じゃなかったの? 30分前にね、男の人が来て香織に話しかけていて、その後 直ぐに、2人で出ていったよ。てっきりランディの所に行ったんだと……」
罠だ…… 見事に罠に嵌まった。
「ありがとうございます。トリマお姉さん」
僕は直ぐに宿にでた。
間に合わないかも知れないが、両足を治した男の家に全力疾走する。
~彼の全力は鎧を装備していても、ほとんど減速することなく100m10秒のペースで走りぬける。結果、少しの時間で目的地に着いてしまった。~
男の家に付いた僕は、ノックもしないでドアを開ける、鍵はかかっていない…… 辺りを見回す。
中は殺風景で、人の住んでいる気配がまるでしない。
やはり、あの男もグルなのか……両足の骨まで折って僕を誘い出すとは、 相手は本気で僕が邪魔の様だな。
まず考えろ。
……相手の規模は……『足を自ら折った男』『僕を誘い出した男』『香織ちゃんを誘い出した男』さらに香織ちゃんを捕らえたであろう手練れが2~3人 はいるだろう。
後、首謀者が1人以上 なら最低でも、7人以上の敵が居ることになる。
恐らく、もっと居るだろう。
急がないと香織ちゃんが危ない。
僕をどうにかしたいなら、香織ちゃんは 生かしては置くだろう、しかし、『死』以外の何かは される可能性が高い……
僕は、これ以上香織ちゃんに 捕らわれの恐怖を体験させたくない。
戦いの中での恐怖とは訳が違う。
考えろ……こんな事をして、得をする人間……
いったい誰なんだ?こんな短期間で僕の影響を受ける奴等……
ふと宿屋にある食堂での会話を思い出す。
『治療院も今日は休みなんですよ』
治療院が…… あの男は何故治療院が休みだと知っていた? ただ偶然が重なっただけかも知れない……
しかし、引っ掛かる……僕は、また全力疾走で宿屋に戻る。
カランカラン
「トリマお姉さん、突然質問なんですけど、治療院って定休日なんかありますか?」
「えっ? 治療院? たしか……月に2回休業してる筈だけど……今日じゃないわよ」
ドクン! 鼓動が弾む。
治療院、怪しい。いや、怪しいのは治療院しかない!
「トリマお姉さん治療院までの道のり、教えて貰えますか?」
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彼は、幼い頃から 才能が有った。
齢7つにして、『小回復』を使える天才だった。
しかも彼は大した努力もしないで、回復術を使った。 周りは彼の事を天才だど持て囃した。
彼もそれを受け入れ 自分は天才だと自覚していった。
その自覚が増長に変わるのも、長い年月はかからなかった。
彼は王立高等学校に入学した。
そこでも彼は努力もせずに、トップクラスに君臨していた。
もし、彼が努力と言うものをしていれば、主席は間違い無かったと、多くの人達は言う。
彼は王立大学に 入学する頃には 『中回復』も使える様になっていた。
彼の名は『イトウェン』
イトウェンは、ますます増長し、努力の出来ない人間に育っていった。
イトウェンはいつの間にか二人の秀才を仲間にして、つるむ様になった。まぁ彼らは努力をしてはいたが。
イトウェンらは、三人集まって研究すると、色々な効果のある 調合物を編み出した。
イトウェンが発案、二人が、研究、調達、調合、なのでイトウェンは、またも努力等をしていない。
大学も卒業間近なある日イトウェンは『大回復』に初めて成功した。しかし、魔力が涸渇して、倒れてしまった。
イトウェンは『大回復』を封印した。あんなに疲れる目に合ってまで、他人を治そうとは思わなかった。
イトウェンは大学卒業後 王都には住まず、大きな町に行き、二人の仲間と『治療院』を設立した。
イトウェン達は在学中に開発した、痛みを和らげ、力が溢れ、少々依存性の有る薬を武器に、瞬く間に 一財産築き上げていった。
彼らは その財産を使い、表と裏の有力者とコネを作り上げ、贅沢な食事をし、女もコネと金の力だけで手に入れてきた。
彼は次第に心の醜さが、表面に出てきたかのような体躯になっていった。
それが、シラネの町の治療院院長『イトウェン』である。
イトウェンは今、1人の女性を全裸にし、ベッドに転がして、下品な笑いを浮かべている。
「ゲヘッゲヘッゲヘッ こうして視ているとなかなか良い女デスね」
男B「ええ、でも何人かは、あの傷を見て気持ち悪がって部屋を出てしまいましたね」
「ゲヘッゲヘッ なかなか良い過去をお持ちの様デスね、彼を呼び出す前に色々調教したくなってきましたよ」
男B「あの男が来た時には、既に院長無しでは 生きられないメス猫になっている……そう思うと興奮しますね」
「おや、ようやく顔に焦りの色が見え初めましたよ。えーと カオリさんと言いましたっけ、大丈夫……私の薬を使って調教に失敗した女性はいません。
今夜から丸一日中調教して、あの男など もう要らないと、貴女の口から言わせましょう。ゲヘッゲヘッ」
香織は焦った、今まで何度となく乱暴された身体ではあるが、媚薬を使って快楽責めに された事は無い。
しかも薬の強さによっては、抵抗出来ない事も知ってる。
もし、そんな事をされている最中にランディに見られたら……
そうか考えると 目の前が暗くなるほどの目眩がした。
いっその事、舌を噛み切ってとも考えたのだが、既に猿轡を咬まされていて、舌は噛みきれない。
もし、この拘束が解かれる時は、私が完全に堕ちてる時だろう。
今の私には なす術が無い。
ランディ……私、どうすればいいの……
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ランディは治療院の前まで来ていた。
僕は、焦る気持ちを抑え、ある 呪文を唱える。
「第3レベル呪文……ディテクトアイテム」
……香織ちゃんのハイレザーアーマーを頭のなかで想像する。
すると、光の線が浮き出てきて、光の線は治療院の中まで伸びていた。
間違いなく 犯人達はここだ。
これで、遠慮なく攻撃できる。
僕の『メイス』に『ストライキング』を掛けて強力にして、自分は『ゴージャスブレス』『レベルサーチ』『ディテクトイービル』を掛け、 治療院の扉には、
「第2レベル呪文……サイレント」これで、扉から半径5mは 無音空間になった。
いっちょ 派手に扉をぶち壊すか、香織ちゃん、無事でいてくれ。
派手に、しかし、音もなく扉を壊す。
中に入る、入り口付近に人気は無い…… そのせいか辺りは薄暗い、 そのまま香織ちゃんの装備目指して駆けて行く。
ひとつの、部屋に入る、男達が4人寛いでいた。
僕に気付くと、3人の男が『敵対反応』を示した。
『ディテクトイービル』便利過ぎる。
『レベルサーチ』による敵のレベルは『1』雑魚だ。
さぁ戦闘開始だ。
◆敵プロフィール◆
一般人×4 レベル1
HP 30 35 38 40
装備 無し
数秒で3人を倒し 4人目を見ると、あの両足の怪我を治してやった男だった。
やっぱりグルだったか、しかし男は僕を見ると、 目を閉ざし、座ったまま動かない。
彼は『敵対反応』が無い……少し悩む……
「第3レベル呪文……ボードパーソン」
これで、彼は暫く身動きが取れないだろう。
彼だけは、許すか……何故かそう思った。
次の部屋に入る。
そこで、3人の男達と鉢合わせした。
見た目で3人は、2人が戦士、1人が治癒師と判断した。
3人共強さを示す数字は『2』である。
◆敵プロフィール◆
戦士×2 レベル6
HP 400 385
剣術 E
装備 プレートメイル
剣
治癒師 レベル4
HP 127
棒術 G
装備 白のローブ
白の杖
先制攻撃、僕のメイスは戦士の肩を強打した。
すぐに もう一人の戦士が剣を突き刺す。
これを、さらりと交わし、腕、頭へと、メイスで叩き込む、流石に武装した戦士は一撃で倒せない。
「小回復」治癒師は戦士のダメージを回復している。
このままだと、長期戦になりそうだ。
今は長期戦は避けたい……全力を出そう。
「第3レベル呪文……リバース……シリアスダメージ」
戦士に触れる…… 戦士の動きは突然とまり、鎧の隙間から大量の血を流し倒れた。
ダメージの回復したであろう戦士が斬りかかってきた。戦士の攻撃を余裕でかわし、近くにいる、治癒師の頭めがけてメイスで殴る。
膝から落ちる治癒師には目もくれず、もう1人の戦士に「第3レベル呪文……リバース……シリアスダメージ」戦士はまたや鎧から大量の血を吹き出し肩膝を突いた。
止めだ……肩膝を突いた隙だらけの戦士の頭部に軽い一撃を与えた。
それだけで、戦士は生き絶えた。
どおやら先の『シリアスダメージ』で瀕死だったようだ。
アッサリと倒したのはいいが、第3レベルの呪文は、ほぼ使いきってしまった。
次の部屋に入る。
そこには、香織ちゃんの装備一式と服が固めて置いてあった。
ドクン! 手遅れだったか…… いや 未だ判らない、今回の戦いでバレたのか 上に敵対反応3つ
近くに1つ 出てきた。
近くの敵には 扉前で待ち伏せして、 部屋に入った所を、会心の一撃を与えた。
しまった、相手の強さの確認を忘れた。
そして僕は、とうとう 『院長室』と思われる扉の前に着いた。
香織ちゃん、もう少しだけ待ってて。
今助けるからね。
扉に手を掛ける……
~中には 院長の他に、国内4番目と言われる 強大な戦士が居ることを、ランディは未だ知らない~




