162#Eランク、昇級試験③
短めですみません。
現在、ランディパーティは、E級冒険者になるための昇級試験の真っ最中だ。
今はマーニャの番で、たった今、試験開始の合図が出された。
リリスの時と違い、早めに距離を詰めるバーモンド。
彼は前に闘ったリリスより強いと、直感で感じ取ったのだ。
だが、マーニャのバックステップの方が早く、2人の距離は縮まらない。
「いけっ! 火球LV3」
直径1メートルある火の玉が、バーモンドを襲う。
しかし、ハウスが使った魔法防御スキルにより、バーモンドにはダメージがない。
バーモンドが念のために頼んだ『結界』が、いきなり役に立った。
「いきなりかよ……なぬっ!?」
このまま、リキャストタイムが終了するまで、逃げ回ると思っていたバーモンドだったが、マーニャがダガーを振りかぶって、突っ込んできた。
「はっ! やぁっ! とぉ!!」
マーニャの攻撃を自慢の六角盾で防ぐバーモンド。
「速い! それに重いし、巧い。魔法士にしておくのが勿体ないくらいだ」
バーモンドはマーニャの攻撃を受けながら、リリスとは全てが違うと実感しながら、本気出さないと捌ききれないと感じとった。
そして、マーニャの腕の動きに集中した時、マーニャが消えたように見えた。
攻撃魔法のリキャストタイムを把握していたマーニャは、再びバックステップをしていた。
「どりゃあ! 火球LV4」
見学に来ていた、冒険者は『Eランクの試験で出る魔法じゃねえだろ!!』と突っ込みを心の中で叫ぶ。
直径4メートルもの火の玉がバーモンドに命中する。
「あっぢぃぃぃぃ!!」
結界の残りカスとシールドの魔法防御では、攻撃魔法の威力は殆ど殺せなかったが、バーモンド自信は対応出来ていて、ダメージを半減させていた。
「あちちち……これ、雑魚が喰らったら死んじまうぞ!?」
バーモンドは、HPの高い職業『重戦士』であるのに、HPの2割を一撃で失った。
「は、はい! そこまでっ!」
ギャラリー1部では『あの魔法1発で合格決定だよな?』等のざわめきが広がっている。
「ザ、ザパン、彼女のステータスは見たか?」
当然、マーニャのステータスを除いていたザパンは、淡々と彼女の数値を報告する。
「名前はマーニャ、魔法士レベル80、HP2600 STR420 SPD500 INT580 MID500 MP1080です。数値は概ね、平均値より少し高い程度なんですが、ストレングスだけ異常に特出してますね」
「いったいどんな装備で、どのような補正がかかっているのだ?」
頭を捻る、ハイアットとザパン。
その2人から少し放れた位置に、ピンクの瞳をしたひなたの準備が終わっていて、試験開始の合図を待っていた。
まだ、開始の合図がないと判断したひなたは、ニコリと微笑み、営業スマイルで話す。
「それではバーモンドさん、よろしくお願いいたします」
完全によそ行きモードだった。
マーニャの試験が終った直後は『さて、ランディ1番の女は私だと分からせてやるかぁ』等と言っていたのだから。
ひなたと挨拶を済ませたバーモンドの所に、ハウスがやって来た。
「今ので、どのくらいやられた?」
「ん、んん~……だいたい5分の1は持っていかれたな。ビックリだ」
バーモンドの様子にハウスも呆れた顔をする。
「ビックリなのはお前もだな。さすがHP3500オーバーの重戦士だな」
バーモンドはC級冒険者の中でも、HP3720という、高いHPを保有していた。
「刃引きの剣での闘いじゃあ、気が引けるが、このパーツは異色だ、最高のスキルを使ってくれ」
「ああ、今夜はたくさん奢ってくれよ。魔城壁」
物理防御スキルLV4の『魔城壁』を使い、バーモンドの鎧に青色の防御壁を展開させる。
この方法を取れば、盾で防げなかった攻撃を防御スキルが補ってくれるので、個人戦では効率が良い。
ザパンが、試験開始の合図をする。
「始め!」
合図と同時にひなたは急接近して、攻撃する。
ひなたの初速に驚いたものの、バーモンドは巧く盾で防いだ。
「重い!?」
「おおっ! 凄い」
力で押しきれなかったひなたは、手数で攻める事にした。
「むおっ、うわっ、ひえっ、このっ」
バーモンドを本気にさせたひなたは、彼の攻撃を何度か受けるが、ひなたは効いた様子を全く見せない。
バーモンドの鎧に掛かっていた魔城壁が砕け散った瞬間、バーモンド自分でスキルを使う。
「石城壁、ふははまだまだこれからだぁ」
バーモンドは試験だと言うことを忘れてしまったかの様に、闘いに没頭している。
「あっ、スキルも使って良いんだった」
平然としているように見えたひなただが、スキルの使用を忘れる程度には緊張していた様だ。
「いきます『魔城壁』うふふ、まだまだ闘えますわ」
ひなたとバーモンド、重戦士同士の闘いは、防御技術以外は全てひなたの方が上回っていた。
特に、ステータス系とスキルでは完全に差が出ている。
2人の熱戦は、どちらかが倒れるまで続くと思われた。
だがしかし、これはE級で通用するかの試験だった。
闘いに見とれていたと思われるザパンの肩を、ハイアットが叩いて、試験の終了を促す。
「あっ、そ、そこまで!」
またしても、ギャラリーがざわめく。
「なあ、いまあの女『魔城壁』を使わなかったか?」
「おいおい、だとすれば、あの女はハウスとバーモンド2人分の力があるのかよ?」
「そんなわけないだろ!? 今回は力を見るための試験だぜ?」
「それにしちゃ、バーモンドのやつ、熱くなってたような」
「名前は何だっけか、欲しいなあの女性、ダンジョン攻略が格段に楽になるぞ」
ザパンは、ひなたVSバーモンドの闘いにから様子がおかしかった。
「ザパン、どうした? ザパン!」
ハイアットの強い声にやっと正気に戻った。
「はっ、はい! ギルド長すいません。彼女の名前はマエバ ヒナタ盗技士レベル28、HP5260 STR880 SPD812 INT540 MID540 MP1080 どうしたらこんな数値が」
ザパンの様子が変だったのは、ひなたのステータスを見たせいだと理解した。
「ば、バカな……レベルはともかく、ステータスはそれぞれのSランク冒険者と同等じゃないか!? はっ、そう言えばあの受付嬢が言っていた言葉は、たしか……」
「はい、レベル68とレベル100の戦士がいると言ってました」
「もし、あの金髪戦士も、異世界人の血が流れていたら、あの女以上なのか!?」
「「ゴクリ」」
「ザパン、次の試験方法を変えよう。もう合格は間違いなから、ハウスの防御スキルを破壊した時点で、合格にしよう。バーモンドには反撃はしないで防御に全力を注いで貰おう」
「はい、伝えてきます」
ザパンは急いでバーモンドに新たな指示を出した。
「ふむ、ふむ、解ったそれで良いなら、防御に全力を注ごう」
ハウスは残存MPが足りないため、石城壁までが限界だった。
ザパンは自分の低いMPを呪った。
もう少しMPがあれば、カミーラのステータスが判明したのにと、思っていた。
ザパンは、なけなしのMPを使ってカミーラを見る。
『カミーラ・フォン・アルフシュタイン 戦士レベル100』
とだけザパンの瞳に映っていた。
お互いの準備が整ったので、ザパンは試験開始の合図を出す。
「始め!」
ガン!!
カミーラの一撃が、いきなりバーモンドを捉えた。
「うっ」
防御スキルによってダメージはないが、バーモンド試験開始2秒で1発をもらってしまった。
本気で守りに入ってる筈のバーモンドの防御を掻い潜るカミーラ。
カミーラのニ撃目は、バーモンドの盾に収まった。
「むっ、ちょっと分かりやすかったかの?」
ゆっくりと動くように見えたカミーラは、急に速くなり。死角から攻撃を仕掛ける。
「ぬあっ」
またしても、バーモンドの防御を貫通するカミーラ。
「ほう、下がってダメージを軽減されたか」
カミーラは防御だけなら、以前一緒に地下迷宮に潜った、メリッサと同等かな、と思った。
(なかなかやるが、これでは力は入れられないのじゃ)
カミーラは場の空気を読んで、1度だけバーモンドの盾に武器を当ててから、防御スキルを打ち破った。
「はい、それまで!」
「バーモンドとやら、素晴らしい防御技術だったのじゃ」
「はぁ、はぁ、ありがとうございます……あれっ? 試験していたのは俺じゃ……」
またしても、騒ぎ出すギャラリー。
「うわ、攻撃5回で終ったぞ!?」
「まて、まて、おもちゃの剣で石城壁を3回で突破するなんて、化け物か?」
「あの重戦士ひなたより強いのか……」
「魔法士2人に化け物戦士2人……そして姿を消す盗技士……スーパールーキーチームの誕生だ」
「だが、最後の1人はただの金持ちらしいぜ」
「しかし、弱くても僧侶だってよ。あのチームに、回復と軍資金があれば、そのうち名を上げるパーティになるぞ」
ギャラリーの注目が、カミーラから徐々にランディに移りだしたその時。
「はい、今日の試験はこれまで! 皆さん、これで試験は終了なので、お帰りください」
ギルド長ハイアットの声が響いた。




