161#Eランク、昇級試験 ②
ここは、ギルド会館3階にある決闘場。
ここには、ランディパーティのランディ、香織、リリス、マーニャ、ひなた、カミーラの6名。
ギルド関係者が、ハイアット、バスガー、サパンを含む8名。
どうやってか、昇級試験の情報を聞いたギャラリーが10数名もいる。
この昇級試験では、武器の持ち込みは禁止だが、防具の持ち込みは認められている。
武器だけは、ギルドが用意した木製の武器を使う事になっている。
昇級試験の1番手は香織で、真剣な表情でダガーを手に取り素振りをしている。
すると、ギルドの関係者のうち1人が挨拶をする。
「今回、試験官として来ました『ハウス』です。もう2人いまして『バーモンド』と『クノール』です」
この3人はギルドが雇ったクラン『ショック』のメンバーだった。
冒険者のギルドは、戦闘能力の高い人材はかなり乏しい。
理由は、戦闘能力が高ければ冒険者の方が収入が良いし、規約もギルドより少ないため働き安いからだ。
冒険者ギルドには、安定を望む若者や冒険者を引退した者等もいるが、その数は少ない。
今回は、ギルドからの依頼で、中堅クランの『ショック』が選ばれた。
依頼の内容は『E級の昇級試験を実施するので、実力を計って欲しいと』との事だ。
このクエストは意外に難しい。
手加減し過ぎれば、実力は計りにくい。
かと言って、力を入れすぎて、あっさりと倒してしまっても意味がない。
試験系統のクエストは、力加減が難しいのだ。
だが、今回の試験官は『結界士のハウス』に『六角盾のバーモンド』のコンビ。
彼らは強い防御スキルを使ってから、ゆっくりと武器を振るって、徐々に強く速く攻撃していくスタイルで査定する。
勿論、目の肥えたギルド員も査定に参加するため、下手な贔屓は出来ない。
ハウスとバーモンドにとって、このクエストは気楽な小遣い稼ぎだった。
ギルド長のハイアットも『ショック』に頼んで、2人に指名依頼を出していた。
だからこそハイアットは気になっていた。
指名をしていないもう1人の試験官クノールの事が。
彼はショックのメンバーで『疾風のクノール』この盗技士でありながら土魔法を使う男は、事前にハイアットに直談判をしていた。
『俺の分の金は要らない。ランデイヤと言う男の試験は、俺にやらせてくれ』と。
やり過ぎるな、と言う条件で了承したハイアットだが、何故ランディを指名したのか、気になっていた。
クノールは、見学者に『ギルド長ハイアット』と『解析のサパン』がいることで、ランディの力を計りたい異図があると解った。
友人の言う通り『調子に乗ってる成金野郎』なら軽く痛め付け、噂と違い『将来有望な冒険者』なら、ランディが傲らないよう実力を見せつける方針でいた。
ギャラリーが静まると同時に、香織の試験が始まる。
「硬壁」
ハウスがバーモンドに防御スキルを掛ける。
バーモンドの盾を被うように、青い半透明なシールドが展開される。
「へえ、そんな使い方があるんだ」
防御スキルに慣れた者なら『盾』『対象の周囲』『自分の前面』と使い分けられる。
この使い方をすれば、自信の盾の倍近い面積での防御が出来る。
香織はランディをチラリと見る。
「香織ちゃん、相手は格上だよ。思いきりやっていいよ」
頷く香織に、バーモンドも微笑んだ。
「彼の言う通りだ。思いきり来なさい」
(しかし『成金のランデイヤ』って異名があるから、いけ好かない野郎かと思ったが、感じの言い難い男じゃないか)
バーモンドは噂も当てにならんなと思いながらも、香織に集中する。
「始め!」
ハイアットの言葉と同時に、香織がダガーを投げた。
香織の投げたダガーは、バーモンドの額に吸い込まれる様に向かって進んだ。
「えっ?」
バーモンドの構えた盾の防御範囲に、額がギリギリ含まれていたため『硬壁』に香織の投げたダガーは弾かれた。
「なんだと!?」
油断はしていなかった筈のバーモンドが、全く反応出来なかった。
(防御スキルを掛けてなかった危なかった……気を引き締めよう)
「発動」
バーモンドの視界から、香織が忽然と姿を消した。
「消えただと!?」
すぐに、気配を探るバーモンド。
(す、姿どころか気配すら感じない)
焦るバーモンドだったが、微かに女性の香りを感じて、盾を反射的に動かす。
ガキィィィィン!
盾を構え直した瞬間、香織のダガーが襲い掛かるが、盾に阻まれた。
しかし、たった2回の攻撃で『硬壁』は消滅した。
STRの低い者がダガーを使って攻撃すると4、5回は耐えられる計算になるのに、香織の攻撃は重いと証明された。
偶然、盾で回避する事が出来たバーモンド以外は、みんなバーモンド盾さばきを誉めていた。
ここからは香織の通常攻撃になった。
バーモンドは少々慌てていた。
(速い、しかも重い……だが、剣筋が素直で単調だ。未熟なのに強いとなると、かなり良い装備を身に付けていると見た)
そして、木剣で香織に3回ほど、良い打撃が入ったあたりで試験は終了した。
「いやぁ、いくら良い装備をしてるからと言って、これなら文句なく合格だ。だけと、これってDクラスの試験のだっけか?」
「Eクラスです」
ど、サパンは言った。
少し休憩を挟んだ間に、ハイアットとサパンが会話をしている。
「今の女はどうだ?」
「はい、名前はエンドウカオリ、盗技士レベル28、HP1480 STR576 SPD532 INT520 MID254 MP744です。レベルに対してステータスが合わな過ぎます。何らかの補正値が掛かっていると思われます」
「やはり、異世界人補正が掛かっているのか」
「はい。恐らくは……」
会話の切りが良いときに、リリスがバーモンドの前に立ち、準備をしていた。
「リリスさんは、魔法士なので、魔法を主体とした攻撃でお願いしますね」
とリリスに説明した。
「次は魔法士か……ハウス、念のためLV3で頼むわ」
「おうっ、魔障壁」
バーモンドの頼みで、ハウスはLV3の魔法防御スキルを使用した。
(ルーンバンクル、お願いね)
リリスは、手甲に頭の中で語りかけた。
リリスの手甲が返事をしたかの様に、キラリと輝きを増す。
バーモンドはギルドから魔法ダメージを低減するネックレスを借りている。
それに加え、さらに魔法ダメージを低減するシールドを装備し、魔障壁も掛けて貰っているので、魔法ダメージなら、殆ど効かないと言っていいだろう。
ハイアットの合図で、試験が始まった。
「闇撃LV1」
リリスの攻撃は、魔障壁に吸収されてバーモンドまで届かない。
バーモンドは一気に距離を詰めて、威力を殺し、当てるためだけの攻撃をしてきた。
「光輪盾!」
リリスの手甲からたくさんの光の輪が集まり、盾と変化する。
「何だと!?」
今までに見たこともない種類のマジックアイテムに驚く、ギルドとクランの面々。
バーモンドの攻撃を防いだリリスは、次の行動にでた。
「光輪捕縛!」
盾となった光の輪が変形して、リング状になりバーモンドに集まり出した。
「あぶねぇ!」
間一髪、光輪捕縛から逃れたバーモンドは、リリスを見てギョッとする。
「闇撃LV1」
バーモンドの姿勢を崩したところで、リリスの攻撃魔法が炸裂するが、魔障壁はまだ展開されていたため、ダメージはない。
「うまい!」
リリスを誉めながら攻撃に移るバーモンド。
「光輪盾!」
だが、またしても光輪盾に攻撃を防がれる。
バーモンドは半分の力でリリスを試すはずだったが、つい8割近い力でリリスに攻撃をしていた。
「わっ、わわっ……ルーンバンクル、頑張って」
リリスは防御をルーンバンクルに、完全に任せた様だ。
リリスの防御が甘くなった隙を、バーモントは見逃さない。
しかし、リリスも即座に反応する。
「スキあり!」
「闇撃LV2!」
相打ちに見えたが、バーモンドの攻撃は寸止めされ、リリスの魔法は防御スキルにより防がれていた。
「そこまで!」
リリスの試験結果は合格であったが、バーモンドが格下の魔法士相手にむきになったと反省していた。
3人目の試験の合間に、ハイアットとサパンがまた会話をしている。
「今度の女はどうだ?」
「はい、名前はリリステル、魔法士レベル30、HP1300 STR314 SPD350 INT380 MID350 MP730です。彼女もレベルに対してステータスが合わな過ぎます。何らかの補正値が掛かっていると思われます」
「魔法士でこのステータスか。次はもう1人の魔法士だな」
2人が影で話し合っている間、マーニャはリリスを誉めちぎっていた。
「リリス、契約神器を使いこなしてるじゃん」
マーニャはリリスの頑張りに触発されたのか、両頬をパンパン叩いて気合いを入れる。
「よし、気合い入った。マーニャ、準備出来ました」
バーモンドはマーニャの様子を見て、後ろの仲間にお願いした。
「なあハウス、アレを使って欲しいんだが」
言葉の意味を理解したハウスは、面倒な表情になる。
「おいおい、まさかE級の試験ごときで、アレを使わせるのか? 大体このランクの魔法士試験なんて、軽く接近戦をやりながら、2発魔法が撃てれば合格だろ?」
「解ってる、解ってるんだが、何となくそうした方が良いかなって思ったんだ。なあこの後奢るからさあ」
仲間が奢るとまで言った事で、断る理由もないハウスは『仕方ないな』というジェスチャーをして、スキルを使う。
「仕方ないな、まったくオークエンペラーと戦うつもりかよ……結界!」
ハウスは魔法防御スキルLV4の『結界』を使用した。
この強力な防御スキルを使いこなす事で、ハウスは『結界士のハウス』の2つ名を貰ったのだ。
バーモンドはこの試験で、自分の感が正しかったのを知ることになる。




