160#Eランク、昇級試験①
ランディは、香織たちか他のパーティと迷宮に潜っている間、軽い運動と情報収集をしていた。
そして、この世界で有名なクランの名前を、ある程度覚えたのだった。
だが、それくらいしかしていなかったのも事実で、ランディにとって、サボっていたと言っても過言ではないだろう。
◆◇◆◇◆
そして、Eランクに昇級するためのクエストを実行する日がやって来た。
「おはようございます。今回、10階層のレイドモンスター『ゴブリンエンペラー』討伐クエストを確認、補助を担当します『バスガー』です」
冒険者ギルドのメンバーであるバスガーは、緊張していた。
バスガーはギルド長のハイアット直々に命令されて、場合によってはゴブリンエンペラーの討伐を手伝えと言われていた。
ゴブリンとはいえ『エンペラー級』はかなり強い、Fクラスパーティで2組又は3組で挑むのが普通なのだ。
ギルド長に、自分を含めたった7人で行けと言われた時は、なんかの冗談だと思っていた。
ゴブリンエンペラーの物理攻撃は厄介だが、防御に徹すればなんとかなる。
問題は頻繁に使用する、闇魔法のLV2とLV3だ。
長引けば、深刻なダメージを負いかねない。
しかし、ギルドから防御アイテムのネックレスとブローチを貸し出された。
しかも高級な部類に入るアイテムをだ。
売ったら、金貨1万枚は確実に超えるだろう。
ギルド長の言葉を思い出す。
『バスガーは前に出なくていい。風魔法で援護するだけでいい。道中の雑魚も手を出すな』
そう言いながら、 白と黄色のヒールポーションまで貰った。
バスガーは改めて、ランディパーティを見ていたが、特出してるような感じは見受けられなかった。
最悪、ヒールポーションを使って一人で逃げる事も視野に入れていた。
「10階層のレイドモンスター、ゴブリンエンペラーまで、最短ルートであなた方を連れて行きます」
「よろしくお願いしますバスガイドさん」
「バスガーです!」
ランディは相変わらず、ふざけている様だ。
「ちぇ、バスガーとガイドを兼ねた素敵な愛称なのに」
ランディたちは、バスガーと迷宮に潜っていった。
◆◇◆◇◆
バスガー視点
パーティリーダーのランディと言う男と話をしながら、ダンジョンを進んで行く。
パーティ構成は、リーダーが僧侶で、戦士2名、魔法士2名、盗技士1名でなかなかバランスがいい。
早くも6階層にたどり着いたのだが、4階層までで前衛の戦士2人と盗技士の3名で終わってしまう。
少しばかり強すぎるな。
これなら、1パーティでランクアップクエストに挑むのも納得が行く。
そして、リーダーのランディは私と世間話。
ここのパーティリーダーは、金にものを言わせて、強い傭兵を雇ったって噂話も信憑性がある。
ただ、Eランクの昇級試験は個人戦があるんだよね……知ってるんですか?
このまま前衛3人で突き進んでいたら、剣士に強いガルガンスライムが3体も出てきた。
しかしこのスライム等も瞬殺されてしまう。
なんと、戦士カミーラが魔法を使ったのだ。
『火』『闇』『氷』か……いや、魔法士なら2属性が基本だ。
リーダーのランディに聞いてみたら、カミーラが『氷』マーニャが『風』と『火』、リリスが『光』と『闇』だった。
1パーティで5属性魔法なんてバランス良すぎだろう。
早くも9階層まで、到達した。
ここに来てようやく、前衛の馬鹿げた力が解ってきた。
先ず、戦士2人の攻撃力がものすごい。
イニシャチブは絶対に取らせないし、クリティカルヒットは狙いまくるは、同ラウンドに2回目の攻撃は繰り出すは、規格外だった。
盗技士のスローイングダガーも百発百中でモンスターのど真ん中に突き刺さる。
これも、絶対にクリティカルヒットだと確信する。
言っておくが、クリティカルヒットは実力差がないとそう簡単に命中しない。
命中率をかなり下げる事を代償に、2倍のダメージを与える技。
もう少しで、10階層に降りる階段にたどり着くだろう。
この時、気になったのは皆が、戦い終るとランディを見るのだ。
その瞳が気になったのだ。
どう見ても、その瞳から尊敬や愛情しか伝わってこない。
金と口にだけの男に、凄腕の女性達がそんな視線を向けるのだろうか?
ついに10階層までたどり着いた。
レイドモンスターの部屋の扉は閉まっている。
そして、封鎖もされていない。
それらの事から、討伐済みや戦闘中でない事が判る。
「この先にゴブリンエンペラーが2体控えています。私は風魔法で援護することまでしか、許可さされていません。検討を祈ります」
「バスガイドさん、援護は僕たちが苦戦したと思った時なお願いします」
私の名はバスガーだっての。
しかし、今の口ぶりからすると、ゴブリンエンペラーでさえ苦戦しないで倒すつもりでいる様だな。
エンペラー種を舐めすぎてないか?
扉を開けて侵入すると、自動的に扉が閉まる。
身長150㎝の小柄ながらも、闇魔法を頻繁に使う恐ろしいゴブリンエンペラーが見えた。
そして、今までずっと手ぶらだった、ランディが鎖の付いた棒を出していた。
~敵プロフィール~
ゴブリンエンペラー
HP 1440*1440
モンスターランク 7
備考
スキル
……高速剣、真空波、連剣乱舞
……硬壁
……障壁
……闇撃LV2、LV3
装備
……魔法の剣
……特上のフルチェインメイル
……特上の盾
エンペラー種は、質の良い鎧を装備しているせいか、防御力が高い。
手間取っていると、4ラウンド目と7ラウンド目に闇魔法のLV3が飛んでくるぞ。
さあどう対処する?
「氷礫LV4」
「火球LV3」
カミーラ、マーニャの連続魔法でゴブリンエンペラー1体が消滅した。
なっ!?
LV4の攻撃魔法だと!? 流石にLV4とLV3のセットでは1ラウンドも耐えられなかったか?
もう1体はどうなってる?
もう1体は、カオリのスローイングダガーが命中して、ゴブリンエンペラーが高速剣で反撃をしていたところだ。
次のゴブリンエンペラーは攻撃魔法だぞ。
しかし、ランディの振り回す鎖付きの棍が一直線に伸びて、ゴブリンエンペラーの鎧の隙間に吸い込まれるように、命中する。
そして、ひなたの攻撃でゴブリンエンペラーは消滅した。
モンスターがいた場所にはE級魔石とドロップアイテムの、ゴブリンの耳が落ちていた。
「うーん失敗したなぁ、ここまで僕とひなたんの火力が足りないとは……次同じパターンでゴブリンを見つけたら、リリスたんはこっち側に参加して、ひなたんはクリティカル狙いでやってみよう」
呆れた、ゴブリンエンペラー2体を2ラウンドで倒しておいて不満だとか、あり得ないだろ?
どこの有名クランの冒険者だよ?
正式名ランディパーティは、10階層の転移スペースまで行き、あっさりと試験の半分をクリアした。
……
…………
夕方、ギルド長のハイアットさんの部屋まで行き、試験の報告に来た。
「あのパーティはどうだったか?」
と聞いてきた。
只のパーティじゃないって知ってただろ?
と内心叫びつつも、答える。
「あのパーティなら、Dランク……いやCランクでも通用するかもしれません。特にカミーラは、戦士としても規格外なのに、LV4の氷魔法を使いました。10階層まで只の一度もモンスターに、イニシャチブを与えることのない素早さ、マーニャという魔法士は火魔法連発しているのに、魔力枯渇の気配さえ感じられなかった。カオリと言う盗技士のスローイングダガーは、命中率が100%でした。ただ……リーダーのランディだけは、ほとんど戦っていなかったので、何とも言えません」
憶測じゃ言えない……もしかしたら、あのカミーラより強いかも知れない等とは。
その後、ランディパーティの個人昇級試験を明日に迎えた夜……
ある居酒屋の個室で、壁にもたれ掛かっていたら、隣の部屋から男たちの声が、偶然耳に入った。
「もうあの事は忘れろ。気持ちを切り替えて『パアッ』と呑もうぜ、なぁアイザック」
「くそっ……」
どうやらアイザックとやらは、嫌なことが合ったらしい。
「なあ、アイザック……実はあいつな、明日Eランクになるための個人試験をやるってんだけどな」
明日!? 明日の試験はランディパーティ以外あったか?
私は、壁の向こうの話し声に集中する。
「その試験官に、たまたま俺の知り合いがいてな。お願いしてみたんだわ『丁寧』に試験してやってくれってな。その試験官は快く引き受けてくれた。なあアイザック、明日はこっそり見学に行かないか? あのランデイヤってのが、ボロボロになる姿をよ」
やっぱり、ここの会話は、ランディパーティの試験の事だったか。
しかし、通報するにしても『丁寧に試験する』じゃ止めることも出来ない。
「よし、飲むか。明日はあのスケコマシヤローがボコボコにされるんだからな」
「そう、そうだ。元気になったか? 今夜は俺の奢りだ。気持ちよく飲んで、明日は思いきり笑ってやろうじゃないか」
「おー! じゃ早速、酒を追加だぁ!! にほ、4本持ってこい!」
明日は私も見学しよう。
そう思った。




