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156# 勧誘

 女冒険者3人が、総合ギルド会館に向かって足早に歩いていた。


 3人は、そのまま速度を落とさず、歩きながら話し合っていた。


「ねぇポーラ、本当に有望な冒険者を複数も見つけたの?」


 ポーラと言う名の女性に問いかけたの者の名は、メリッサ。


 赤色、桃色、水色を基調に造られた美しい防具を、身に纏い優雅に歩く。


「はい、メリッサお姉さま、4人から5人は居ますです。私の情報だと、金を餌にいいように操っているとの事です。私のカンだと、借金とかでやりたい放題にしてるかもです。早く仲間にするです。特に、戦士は即戦力です」


 気合いのこもった口調で話すポーラに、もう1人の冒険者パルテノが口を挟む。


「ポーラの話は、勘違いが半分混じるから、会ってみて話を聞きましょう」


「あっ、パルテノ酷いです。でもこのギルド会館にいるのは間違いないです」


「……そこを間違えたら、しばらくサポートに回すから」


 3人の女性冒険者は、ランディが出入りする、総合ギルド会館の中に消えていった。



 この女性達は、ストマティア王国とブルーガリア王国に拠点を置く大クラン『女神の華々』のメンバーだった。


 このクランは、総勢100名に近い大規模クランで、クランに加入した者たちの関係者は、男性からの被害が激減すると噂で、女性冒険者にとって憧れのクランだった。


 それ故、並の女冒険者ではクランに加入するのは難しいとされている。


 弱い冒険者が増えると、メンバーを護りきれない状況が増えるし、クランの威厳も損なわれてしまうからだ。



 ……

 …………


 総合ギルド会館の1階は、一日中ごった返している。



 その中で、ポーラが目的の冒険者を3人見つけることに成功した。


 ポーラが事前に情報を聞いていた事で、さほど苦労しないで見つけることが出来た。


 ポーラの視線の先には、リリス、ひなた、カミーラが、ランディを待ちながら雑談をしていた。



 ……

 …………


 リリス達が座っているその席に、メリッサ、パルテノ、ポーラの3人がやって来た。


「ねぇ、ちょっと話を聞いて貰えないかな?」


 メリッサの声に振り向いたリリスたちは、首だけを動かして、声の主を確認した。


 ケンカを吹っ掛るような雰囲気じゃないと感じたひなたは、よそ行きモードで対応する。


「こんばんは、となりの席は空いています。どうぞ」


 口角を1ミリ上げて僅かに微笑み、営業するように迎え入れるひなた。


 見る人によれば、好印象を与える仕草だ。


 3人は、ひなたに促されるまま座ると、うち1人が話始めた。


「私たちは、『女神の華々』ってクランのメンバーよ。単刀直入に言うと、貴女たちをスカウトに来たの。私たち女性って『女』ってだけで下に見られたり、騙されたり、不都合な事が多いでしょ? そんな不幸な女性を助けるために、立ち上げたクランなのよ。貴女たちも色々あって、今のパーティに居るんでしょ? 私たちが責任持って交渉するから、ウチに来ない」


 座るなり、まくし立てるように話したせいか、リリスは言葉の意味を解っていない様だ。


「確かに私たちは、色々あってランディと一緒にいますね。私なんか食料をガッチリ握られて、離れることが出来ません」


 ひなたの話に、メリッサとポーラは食べ物もろくに与えていないと勘違いした。

 パルテノは逆に、高級食材等で餌付けされてるかもと考えていた。


 事実と比べて考えると、バルテノの方が洞察力はありそうだ。


「ワシも色々あったの。妹の仇を討ってくれた」


 遠い目をして話すカミーラに、パルテノが質問した。


「それは、この子がいった『ランディ』って人が?」


「いや、主殿どのではないが、仇を直接討ってくれた人が言ったのじゃ。ランディを護ってやってくれと……それに、ランディは面白いから好きなのじゃが……」


 カミーラの最後の言葉は、隣にいるリリスにも聞き取れないくらい、小さな声だったが。


 人の1度植え付けられた先入観は、なかなか変えるのが難しい。

 そのせいで、3人の考えるランディは、親の権力を利用して、調子にのって好き放題に使っていると言う結論に至った。


 そんな時、ギルド会館でギルド長ハイアットと話を終えたランディがやって来た。



 タイミング悪くやって来たランディを、ギロリと、睨むメリッサとポーラ。



「うおっ!? リリスたん、ひなたん、カミーラ、明後日に10階層のレイドモンスター討伐に行くことになったからね。明日は自由行動にしよう」


 ランディは2人の気迫にビックリした。

そして、女子会を邪魔しては悪いと思ったのか、要点だけ伝えた。


「わかった、香織には?」


「ああ、先に伝えた。テキトーにパーティ組む相手を見つけるって言ってた。僕も明日は1人でゆっくりしてるよ」


 ランディのゆっくりは、マラソンに例えると50㎞の距離を息の弾まない程度に、ゆっくり走る運動をする事だ。


 要らぬ気を使ったランディは、逃げるようにこの場から消え去っていった。


「と、言うわけじゃから、明日1日だけなら、おぬしらに付き合ってもよいぞ」


「ええ、それで良いわ。ウチのクランの凄さが解ってから、交渉しましょ」



 こうして、リリス、ひなた、カミーラは、大クラン『女神の華々』と地下迷宮に潜る事になった。



 ◇◆◇◆◇



 ランディに、1日自由行動を言い渡された香織とマーニャは、偶然見かけた2人の男が気になっていた。


 その2人の男とは、マーニャの親友ブランアンとユリウスにそっくりだったからだ。


 ブランアンとユリウスを知る香織も、驚きつつも2人の様子を見ていた。



 ブランアンとユリウスに似た2人は、困った事があるかの様に、頭をかかえ悩んでいる。


 別人なのは間違いないが、親友の困った姿をマーニャは見ていられなくなって行動に移した。


「こんにちは。困ってる様子みたいだけど、どうしたんですか?」


 初めは、突然来たマーニャに驚いた様子だったが、直ぐに、真顔に戻りユリウス擬きに向かって話した。


「話しても良いよな?」


「ああ、いいぜ。もしかしたら……」



 許可を貰ったブランアン擬きは、マーニャと香織に向きを変えて話始めた。


「実はこの前、調子に乗って、F級のクエストを3つまとめて受注しちゃったんだ。だけど思ったよりドロップアイテムが出て来ないんだ。そんな時、仲間の『マーニャン』って魔法士が急用で抜けちゃって、期限まで後3日なのに、地下迷宮のうまく攻略出来ないんだよ。 あれ、どうしたの?」



「クハッ、なっ、何でも……ククッ、な、ないです、プククッ」

『マーニャンって魔法使い』の単語に、香織は大ウケして、声を殺して笑っている。


「香織さん、声、殺しきれてませんよ」

 ジト目で香織を見つめるマーニャ。


「だって、マーニャンって、プフッ マーニャンって……ププッ」


「もう、香織さんったら。ねぇ、お兄さんたち、明日1日なら迷宮探索を手伝ってあげれるよ。どお?」



 マーニャが、自分の胸をドンと叩く。


「えっ!? 君たちが? オイラたちはE級冒険者で、F級のクエストを受注してるけど問題ない?」


 ユリウス擬きは、非公式ではなく、公式にパーティに参加してもらうつもりで聞いてきた。


 何故なら、未登録ならばどんなランクの冒険者でも、助っ人を呼ぶ事が出来るからだ。


「うんっ、問題ないよって、明日だけなら未登録でも手伝ってあげたのに、あっ私はマーニャ、隣にいるのは香織さん。2人ともF級冒険者だよっ」


「マーニャ!?」

「マーニャ!?」


 目を見開いて、マーニャを見る。

 かなり驚いている様だ。


「オイラたちの仲間の名前とそっくりだなあ、なんか他人の気がしなくなってきたな。なっ、モブライアン?」


 この瞬間、香織は大きく咳き込む。

「!? ゲホッ、モブライアン、カハッ……モブ、モブ……プハハッ」


「香織さんがこんなに笑うなんて……お兄ちゃんに見せたいかも~」


 そこで、マーニャはユリウス擬きを見る。

(ブランアンに似た人の名前がモブライアン……この世界どうなってるの?)


「あっと、オイラたち、自己紹介をしてなかったな。オイラはスリウス、盗技士だ!」



 香織は、普通に座ることさえ出来なくなっていた。


「や、やめて……お腹が捩れる……ククッ、もうダメ」


 そんな時、マーニャと香織の横から声が聞こえた。


「あれ? スリウスがナンパ!? チョーウケるんですけど?」


 マーニャと香織が振り向くと、真に似た男性とシャルロットを色黒にした女性が、ユリウスを指差していた。


「まさかこの2人も……」

 香織の瞳は、期待で輝いていた。


「おぉ来たか、紹介するよ。明日1日だけど一緒に迷宮探索してくれるマーニャとカオリだ」


「マーニャ!?」

「マーニャだって?」


 モブライアンの言葉に、2人は驚く。


「まさか、名前が似てるだけで採用したのか?」

「スリウスわかってる? アタシが必要なのは名前じゃなくて、魔法士なの。2人ともチョーおバカ?」


「失礼だな、オイラだってそれくらいは分かるぜ」

「マーニャ、カオリ、うちの仲間を紹介しよう。僧侶のギャルロットと……」

「ギャハハハハハハ、やめてぇ! ギャル、シャルロットがギャルで、ギャルロット、ぶはぁははははは……ゼェッ、ゼェッ、ゆ、ゆるして、アハハハハハハハ…………」


 香織は変なスイッチが入った様だ。

 既に、犬が歩いているだけで笑えるくらいになっている。


「香織さん、紹介が終わってないよ? 我慢して」


「ウプププ、ムリ、ムリ……」


 香織が真顔になるまで、2分の時を過ごした。


「……じゃ改めて紹介する。彼が氷系魔法使い……」


 マーニャと香織はモブライアンの言葉を神経を集中させて聞いている。


(真に似たこの人、そのまんま真でいくのかな? それともアーデル? ドキドキするわね)


(アーデルのそっくりさんだから、アーデビルとか言ったりして、ププッ)


「彼が氷系魔法士、ミナシロ・キョチンホだ」


「一文字もあってないじゃない!!」


 マーニャが、理不尽な怒りをぶつける。


 そして香織は、大笑いだった。

 今の彼女なら、どんな名前でも笑っていただろう。


 こうして明日1日、香織とマーニャは、モブライアン達と地下迷宮に行くことになった。

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