155# 緊急クエスト、知らないうちにクリアする
5章、今までのあらすじ。
ゲームに似た異世界に、勇者召喚のタイミングで巻き添え召喚されたランディ達。
大都市にたどり着いたランディは、お決まりの冒険者登録をして、初期ランクから始めて遊ぶことにした。
ごく一部で有名になり始めたランディパーティは、あっさりFランクに上がり、クエストの途中で大物を倒す。
だがそれは、緊急クエストが発令されるほどの大物のモンスターだった。
「オークメイジの亜種が出現しました」
「ブーーッ!」
「ブハァッ!」
「ブホォ!!」
3人揃って、飲みかけのお茶を吹く。
「やあっ、汚い! みなさん、何するんですかっ?」
マリアンヌは、悲鳴をあげた後、ジト目で睨む。
「ごめん、ごめん。で、オークメイジ亜種がどうなったんですか?」
気を取り直したマリアンヌは、ランディの問いに答える。
「コホン……すでに幾人かの冒険者が被害に遭っていたのですが、先日ついに、オークメイジ亜種が原因だと、生き残りの冒険者から証言を得られました。その脅威度から、ギルドの上層部が慌てて、緊急クエストを発注したのよ」
「そうなんだ。でも、遺跡のモンスターと違って魔石にならないから、死体を持ち帰って討伐の確認をするの?」
ランディは、地下遺跡の知識しか聞いていないため、疑問をぶつけている。
「それはですね、ゴブリン、ホブゴブリン、オーク、オーガの耳には、判りやすい特徴があってね、両耳を剥ぎ取る事で、討伐確認の証しになるの。しかも、簡単に剥ぎ取るこつもあるのよ。ここに実物があったら、教えられるのになぁ」
通常、耳を剥ぎ取るのは、刃物さえ使えば簡単な事なのだが、ランディは制約があって、食べるため以外に刃物は使えない。
ランディはこれ幸いにと、バッグから緑色したオークの生首を取り出して、マリアンヌに向かって微笑む。
「ここに丁度いいのがあるから、教えてくれ」
「ブーーッ!!」
今度は、マリアンヌが唾液混じりのお茶を、吹き飛ばす。
突然の不意打ちに、ランディも避けるのが精一杯だった。
「うわぁ、仕返しされたぁ」
「うわっ、汚なっ」
「敵意のない攻撃は、なんて避け難いんだ」
マリアンヌはランディ達の言葉は聞こえていなかった。
オークの基本色は、茶色と言うのが常識、迷宮以外のオークでも、幼体が薄茶色で、老体が焦げ茶色と言う若干の違いしかない。
なので、緑色のオークにビックリし過ぎていた。
「ちょちょちょちょちょ……み、緑のオークって、まままままさか……すみません、ちょっと確認したいので、これ借りていきますねっ」
マリアンヌは出どころ不明な風呂敷を広げて、オークの生首を包みダッシュで奥に引っ込んでしまった。
「なぁ、マーニャ、ひなたん。 面倒事の予感がしませんか?」
「お兄ちゃん、トラブルの予感しかしないけど……」
「トラブル以前に、通告なしに生首を置くのは間違ってるぞぉ」
……
…………
ランディがマーニャ、ひなたと雑談して待っていると、ほどなくしてマリアンヌがいつになく真面目な表情でやって来た。
「ランディさん、ギルド長のハイアットさんが、話があるそうなので、連れて行くように言われました」
「ぐはぁ、こんなでかいギルドのギルド長って言ったら、大物じゃん。心の準備が……」
ランディ達が騒いでいたら、マリアンヌがこの施設のギルドを少し説明してくれた。
「この都市の冒険者ギルドは大規模なので、5人のギルド長がいるんです。その中でもハイアットさんは、下の方で気さくな方なんですよ」
そう聞いたランディは、気を抜いたようだ。
「なんだ、ナンバー5で気さくな人物なら気を張らなくてもいっかぁ」
マリアンヌがある部屋のドアをノックする。
「入りたまえ」
と、男の声がする。
マリアンヌはランディ達を連れて入室する。
部屋の中は広く、20畳くらいのスペースがあり、奥に大きなデスクが設置されていて、近くにはローテーブルとそれを挟むかのように4人掛けソファが置いてある。
デスクの向こうにはギルド長が座り、補佐役の1人が脇に立っている。
ギルド長はランディ達を確認すると、立ち上がった。
「突然呼び出してすまないね。そこのソファに座って下さい」
ソファに近づくと、ランディはギルド長が座るのを待ってから、座った。
マーニャ、ひなたも、ランディの真似をする。
一緒に入室したマリアンヌは、ギルド長と同時に座った。
「ほう、商工ギルドの使う作法ですか……」
(へえ、冒険者ギルドと商工ギルドじゃ作法が違うのか)
ランディはまたひとつ、ここでの知識を増やしたが、役に立ったかは不明だった。
も
ギルド長は真剣な表情になり、話の続きをする。
「ランデイヤさん、このオークメイジ亜種の頭部は、どういった経緯で手に入れたのかね?」
ランディはどうやって倒したか、と聞かれなかった事で、少しだけ意地悪な回答をする。
「僕がブタシシ狩りをしている最中に、偶然にも落ちていたんですよ……と言えば納得してくれますか?」
「貴様! ギルド長の前でふざけるなっ!!」
ギルド長の斜め後ろに立っていた補佐役が、激昂する。
「ザパン、やめないか。すまないねランデイヤさん、言い方を変えよう。かなり手強いはずのオークメイジ亜種をどうやって倒したのかね? アレには仲間が居たのかね?」
今度はまともな質問だと感じたランディは、詳しく説明した。
「うん、オークメイジの他に、なかなか強かったオークが2体いたよ。後は、ゴミのように弱いゴブリンがわんさか居たけど、数えるのが面倒なくたいだった」
「ふむふむ、情報通りと言っていいかな。間違いなく君たちが倒したと判断しても良いだろう。しかし、うちのマリアンヌから聞いた話だと、君たちはまだFランクのパーティだって話だったんですがねぇ」
ギルド長はマリアンヌを見る。
「だから言ったじゃないですか、信じられないくらい、凄いパーティだって……それをザパンさんか……」
今度はマリアンヌがザパンを抗議の目で見る。
「いくら、有望株のパーティだってFランクだろ? オークメイジの亜種が倒せるはずがない! あの亜種には、戦闘能力高いオークソルジャーが2体もいたと、信頼できる筋からの情報まである」
「ザパン、だがあれは間違いなくオークメイジ亜種の首だ。 ザパン解るな?」
「っ……はい」
「ほらっ、だから言ったんですよ。だってランディパーティにはレベル80の魔法使いに。レベル68とレベル100の戦士がいるんですよ?」
「なっ!?」
(ランクで言えば、A・B・Cランクの冒険者が揃ってるって事か?)
ギルド長も、これには驚きを隠せなかった。
結局、ランディ達は報酬の総額から半分に割った金額を貰うことになった。
残りの半分は、オークメイジ亜種討伐を受注したパーティに、キャンセル料として分割で支払われた。
さらに、ランディパーティにはEランクになる昇級試験を受ける権利を貰った。
ランディ達3人には、冒険者ギルドから1人、ガイド役兼戦闘員補助として、7人で地下10階のレイドボス『ゴブリンエンペラー』2体と戦って貰うことを伝えたのだ。
こうしてランディ達は、退室してマリアンヌと受け付けカウンターがある2階に、戻っていった。
ランディ達を見送ったギルド長のハイハットは、少し間を置いてからザパンに話しかけた。
「ザパン、どうだった? 」
ザパンはステータス看破LV4のスキルを持っていて、本人はハイハットの言葉が聞こえていなかったのか、 冷や汗をかいていた。
「ザパン ……どうした? ザパン!」
「はっ、失礼しました。あのランデイヤと言う男のス、ステータスは、レベル20の僧侶で、能力値は、HP1360 MP578 STR230 SPD290 INT254 MID 324でした。そしてスキルは回復と特殊回復の2つでした」
ザパンは見たステータスを忘れないように、紙に記入する。
「なるほど、規格外の能力値だな。強力な補正値がいくつ重なっているんだ? しかも特殊回復だと!? 噂でしか聞いた事がないレアスキルじゃないか」
ザパンの説明を聞いたハイハットは、自信が記憶している20例以上の追加補正を考えていた。
「孤児補正、三つ子補正、混血補正、多兄弟補正…………」
「ギルド長、まさか異世界人の子孫とかでは……」
ザパンは、今まで噂でしか聞いた事がない『異世界人補正』と『勇者補正』を考えたが、ジョブが僧侶だったため『勇者補正』は除外して発言した。
「ははっ、ザパンよ飛躍した考えだな。流石にそれはないだろう。考えられるのは、たまたま補正値が多く重なったところに、成人するまでに徹底的に鍛え上げたって事だろう。だが既に低く見積もってもレベル50の僧侶のステータスを超えている」
「はい……SPDに到っては、レベル58の僧侶と変わらないですから」
「ザパン、後日の昇級試験はそれなりの、冒険者を雇わないとな。それと彼のパーティで、残りの5人のステータスを知りたい。出来るか?」
「はい……ただ詳しく調べるなら、1日に4人が限度です」
「そうか、ならレベルの低い2人は能力値まででいい。それなら可能か?」
「はい、それでしたら何とか」
「ならそれで頼む」
こうして、冒険者ギルドにランディの力の一部が露見してしまったのだ。
しかし、それは『ライアーフィルム』で偽造されたステータスだったが。
ランディがギルド長のハイアットと話し合っている頃、リリス&ひなた&カミーラ組と、香織&マーニャ組は、それぞれある人物に絡まれていた。
『巻き添え召喚』を長い間休んでしまい申し訳ございません。
ブックマークの多い『神罰転生』を優先させてしまいました。
しかし、忘れられないよう、無理矢理投稿しました。
長続きしないでしょうが、よろしくお願いいたします。




