154#凱旋、緊急クエスト
ランディは、自分達を監視していた見張りが、1人いる事に気づいていた。
その監視が移動したのを見計らい、その後を追いかけた。
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ランディ達を狙っていた2組の冒険者は、合わせて7人、全てEランクの冒険者だ。
彼らは、ブタシシを8頭以上捕まえられたら、報酬の他に、酒場で飲み放題の約束を、飲み仲間に取りつけていた。
彼らを便宜上『追い剥ぎA~G』としよう。
追い剥ぎたちは、人数上の不利からその場で襲うことは諦めて、夜襲をかける事にした。
今は見張りが戻るまで、10人分の死体の処理と、今後の金の使い道を語り合っていた。
「1人あたり金貨3枚かよ、ホクホクだな」
「いや、あのブタシシは生きていたぜ。 生け捕りは報酬上乗せだぜ……金貨4枚はいけるぜ」
「まてまて、10人分の身ぐるみまで剥ぐんだ、装備は大した事ないが、身なりは悪くなかった。 そいつを計算に入れれば、少なくても金貨6、7枚は手に入る」
「しかしブタシシ21頭か、運ぶのが大変だな」
「だが、寝込みを襲うとは言え、10人を相手に確実に殺れるか?」
「それなら、問題ない。 あいつらは先日、Fランクに上がったばかりのヒヨッコだ」
「それに、俺らにはこいつがいる」
追い剥ぎDが指した『こいつ』とは、追い剥ぎGの事で、身の丈に合わない魔法スキルを備えた魔法士である。
彼は『氷礫LV4』を使用す事が出来るが、MPが少ないために、連発する事が出来ない。
だが、長時間戦う地下迷宮と違い、夜襲なら一発勝負のため、かなり効果的だ。
そして、偵察に出ていた追い剥ぎFが帰ってきた。
「見張りは2人で、交代で寝ている。 殺るなら今だぜ」
「そうか、では作戦をまとめよう……」
……
…………
相手の作戦を丸々聞いていた、ランディとカミーラ。
香織とひなたは少し離れた場所で、ランディが戻るのを待っていた。
ランディと、カミーラは一旦距離を置いて、ひなたの待機している繁みまで戻る。
「よかったぁ、あいつらに殺意があるから、遠慮なく殺れる。 いくら悪党でも、殺意がない相手を殺すのは嫌なんだよなぁ」
「主殿はあまいの……」
「全くだぁ、ランディの敵は死刑だって、相場が決まっているなぁ」
「ひなたん? 徐々にマーニャ化してきてませんか? ……それじゃカミーラは僕の合図で『氷礫LV4』で不意打してあげて。そのあとに僕が1人で仕掛けるから、漏らした相手の始末をみんなに任せるからね」
香織、ひなた、カミーラが布陣したところで、ランディが仕掛ける。
「第2レベル呪文……サイレント」
ランディの呪文により、追い剥ぎ集団を中心に、音が消えた。
彼らは、何人かは驚き立ち上がるが、その瞬間、カミーラの直径約4メートルの氷礫が襲った。
音の無い悲鳴を上げる中、ランディが九節棍を振り回しなが追い討ちをかけた。
急な起きた無音状態と相まって動ける者達は、全力でこの場から脱出した。
この奇襲に生き残ったのは4名、1人は気絶し、残りの3人は、無音空間から出たところで、それぞれひなた、カミーラ、ランディに捕まる。
香織が待機していた場所には移動しなかった。
九節棍に足を取られた追い剥ぎGは、ランディの顔を見て、はっとなった。
彼は狩る立場から、狩られる立場に変わった事を悟った。
「お、お前は昼の……な、なんで」
「聞いていましたよ、僕たちを殺してブタシシを強奪するって……だから同じ事をしに来ました」
「バカな……だからって『氷魔法』まで真似できるなんて、Fランクになったばかりの人間が、そんなバカな」
「あっそれは偶然だわ。 さあ、逝ってらっしゃい」
九節棍の縦横無尽な攻撃に、なす術もなく倒れた。
奇襲の結果、2人の追い剥ぎ冒険者以外は、命を落とした。
くしくも生き残ったのは、ランディが担当した追い剥ぎ達だった。
「あれぇ、死んでもらおうとしたのになんで生きてるの? 君たち、僕にチャンスをくれないか? 次はきっちり殺すから」
「ヒィッ!?」
「た、助けて」
「ほう、僕たちを殺すつもりで来たのに、助けを乞うとは……これなら殺せそうだ」
ランディは融合して、いくつか便利になった点と、不便……しいては不利になった事がある。
代表的なのは記憶の喪失なのだが、ランディの攻撃度合いで『絶対殺す』『殺す』『死んでも構わない』『倒す』『泣かす』『転がす』があるのだが、
融合前とくらべて『死んでも構わない』くらいの攻撃だと、生存者がかなりの確率で増えていた。
本来なら、日本人がベースで融合したのだから当たり前なのに、ランディ本人は『死んじゃってもかまない』攻撃を繰り出してるのに、殺せていない事を不思議に思っている。
再度、始末しようとしたランディを、カミーラが止める。
「主殿、待つのじゃ。 ここわワシに任せてくれ」
「そんな可愛い声で言われたら、待つしかないね」
「んなっ!? 主殿はワシまで、落とすつもりか?」
「香織ぃ、もう落ちてるのに自覚がない、鈍感お姉さん発見」
「なっ、ひなた、うるさいのじゃ。 ……コホン」
カミーラは生き残った2人の追い剥ぎ達に近づく。
「ぬしらは、生き残りたいか?」
肯定する追い剥ぎ達を見て、カミーラは頷く。
「ならば、ワシから依頼を2つ出そう。 1つはこの死体の処理だ1人につき銀貨2枚」
と言って、カミーラは金貨を1枚置く。
「もう1つは、鬼ごっこじゃな。 無事に主殿から逃げきる事。 報酬は前渡しじゃ」
と言って、金貨を新たに2枚置き、小声で話す。
「生き残るヒントを出すぞ。 この国から出ていけば、絶対に捕まらないぞ? それに5人の遺体から金目の物を取れば、移動費になるじゃろ」
声のボリュームを戻して話す。
「鬼ごっこ開始は、明日の明朝じゃ。 依頼を受けるか?」
「や、やる」
「わかった」
「と、言うわけじゃ、主殿」
カミーラを見て、ランディは向きを変える。
「じゃ、戻りますか? 」
ランディの言葉に、この場を去る。
ランディ達が視界に消えてから、無言で死体の処理をしていた、2人だが、ふと1人が口を開いた。
「なあ、お前って宿屋暮らしだよな?」
「ああ、なんでだ?」
「死体を埋め終わったら、真っ直ぐブルーガリアに行かねぇか? 」
「ブルーガリアか……悪くねぇな、彼処にも『ウノ』のダンジョンがある、俺たちのランクでも大丈夫だ」
「じゃ、これが終わったら真っ直ぐ、行こうぜ。金を集めたら、なかなかの金額になった」
彼らは、死体を処理することに疑問を挟まず、終わらせてから、逃げるようにいなくなった。
この、2人はカミーラのチャームにかかっていたのを、自覚していなかった。
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翌朝、何事もなかったかの様に出発したランディとジャカルタ達は、無事に都市までたどり着いた。
大量のブタシシを運んでいる事で、通行人の注目を浴びながら、ギルド会館近くの依頼者がいる場所まで来た。
「おおお!? なんじゃ、その数は……大量じゃねぇか! しかも全て生きているだと!? 凄く出来の良荷車にも突っ込み入れたいが、それどころじゃねえ! モツが大量に出荷出来る。 みんな来い! 査定を始めるぜ!」
……
…………
こうして、ランディパーティは、クエスト『祭りの準備に』多大な貢献をして、生け捕りの上乗せ分と、荷車の下取りもして、金貨を40枚も貰った。
ギルド会館2階では、担当受付嬢のマリアンヌがブタシシの捕獲数に、驚いていた。
「ランディさん、商工ギルドから感謝の言葉を頂いています。 でも、生きたまま17頭ってドンだけですか? どうやって運んだんですか? それに今年は例年の半分しか集まっていなかったんですから。 こんな幸運に恵まれた方なら、今朝発令された緊急クエストにも、貢献出来るかもしれませんね」
ランディは初めて耳にした『緊急クエスト』について聞いてみた。
「うふふ……それじゃあ、あっちのテーブルでゆっくり話しましょうか?」
ランディは受付の仕事はどうした? と聞きたかったが、話を聞きたいのを優先させて、突っ込みを入れるのは止めた。
塩味の効いた固い干し肉と、ほうじ茶に似た飲み物を前にして、マリアンヌと話す。
ランディの両隣にはマーニャとひなたがいる。
香織、リリス、カミーラは別行動だ。
マーニャはゲームの世界に詳しく、非常に頭がよいため、ランディのサポートとして、隣に座っていた。
ひなたは、以外にも迷子になりやすいため、ランディに預けられた。
カミーラに『香織に楽をさせてやるのじゃ』と言われて。
「もう、ランディさんのクエスト消化速度には、驚かされます」
マリアンヌもいつの間にか『ランデイヤ』から『ランディ』に、呼び名が変わっていた。
「あの支部の商工ギルドの希望数は、約30頭ですから、ランディパーティとジャカルタさんのパーティのお蔭で目標数に達したんじゃないでしょうか? しかも今回は内蔵も食べられるんですから。グフフ」
「マリーベルさん、ヨダレが出ています。 それに緊急クエストは?」
「はっいけない私としたことが……」
「お兄ちゃん、いい加減名前を覚えたら?」
「マリアンヌも、すでにスルーしていたぞぉ?」
マリアンヌは真面目な顔になって話始めた。
「今朝になって、緊急クエストが発令されたの。緊急クエストは依頼主と都市や国の税金から支払われるし、ほとんどの冒険者が受注出来るから、注目度の高いクエストなんです。 もちろんギルドも、ポイントを奮発するから、冒険者さんのランクアップのチャンスにもなります」
ランディはどんなクエストなのか知りたくて、マリアンヌを煽った。
「で、どんなクエストなんですか? 教えて下さい」
そう言われて、マリアンヌはお茶を飲む。
それに、つられて一呼吸遅れてランディ達もお茶を口に含む。
「オークメイジの亜種が、出現しました」




