153#対決! オークメイジ亜種
オークが治める、ゴブリンの集落にある広場で、ランディが集落の長である緑色のオーク『オークメイジ亜種』と話をはじめた。
「ヨウコソ、我々の集落へ。 で、なにゆえこんな場所に迷い混んでキタノダ?」
オークメイジ亜種の人間語は、なかなか上手だ。
ランディは正直に答える事にした。
「食料調達のため『ブタシシ』を探しに、この森まで来ました。 中々見つからなく、ここまで来ました。 出来ればでいいので『ブタシシ』の生息場所を教えてくれませんか?」
「なるほど……して、あなた方以外の人間は来ているのか?」
オークはランディの問いに答えない。
「仲間はいませんが『ブタシシ』は?」
「仲間はいないと……ソウソウ『ブタシシ』の話は諦めてなさい。 既に『ブタシシ』の大半は我々が飼育して、残りは森にナレタ者でも数日かけて探す事にナルダロウ」
「じゃあ、頑張れば見つかりそうですね」
「フゴゥ、諦めてと言ったのは、あなた方を新たな家畜として飼育するからなンデスよ。 これからあなた方を子供を産む家畜トシテ、使います。 産まれた人間の子を儀式トシテ使えば、我の魔力も上がり、エンペラーの道も開けよう。 さあ、お前達……胴体さえ無事なら構わない、コヤツラ捕らえよ!」
すると、2つの兵舎からわらわらと、ゴブリンが湧き出してきて、後方からもゴブリンの一団が出現する。
「戦闘開始! 香織ちゃんは後方の一団に変更!」
ランディの合図とほぼ同時に、リリスと香織が魔法の詠唱を始めた。
『冥府の番人よ、混沌の闇より黒龍の力を開放し、その力を彼の者に浴びせよ。魔天黒龍破』
「大気中の酸素よ、我が魔力と混じりあい爆炎の刃と化せ……ファイヤーボール」
ゴブリンの3つの大集団は、リリスと香織によって全滅する。
武器をゴブリンから受け取った二人のオークソルジャーは、受け取った瞬間の隙を、カミーラとひなたに突かれた。
ランディもオークメイジ亜種に向かって、カミーラひなたコンビより、1秒遅れて特攻した。
「火弾、火弾、火弾! 火球」
マーニャは魔法を連発しながら、ランディ達の武器を回収しに行く。
大多数で一気に捕縛する予定だった、オークメイジ亜種は、逆にゴブリン兵の殆どを失った。
「何だと!? クッ、闇撃LV2!」
サッカーボールサイズの闇魔法が、ランディに向かって射出されるが、ランディはこれを避けてしまう。
「避けただと!? ブゴッ」
ランディのパンチが、炸裂する。
「くっ、なかなかの威力だが、それで私を倒すにはあと、100回以上の攻撃が必要ダナ。 それまでにコチラハ5回は殺せるダロウ」
オークメイジ亜種は『スタッフ』と言われる長い杖を持ち、ランディに殴り掛かる。
お互い5回の攻防を繰り広げ、オークメイジ亜種は5回、ランディは1回ダメージを受けるような打撃を受けた。
「なかなかの攻撃だけど、僕を倒すにはあと、300回くらい、今のを繰り返さないとダメだよ」
ランディはオークメイジ亜種の真似をする。
「フゴッ、闇撃LV1」
ランディはこの攻撃も難なく避けるが、避けた先にはオークメイジ亜種の杖があり、殴られてバランスを崩した。
ランディは久し振りの、骨のある敵に喜んだ。
「第6レベル呪文……ストライキングス」
この呪文で、ランディ、ひなた、カミーラの腕に、魔法ダメージの追加効果が付与された。
戦っていると、強いのは三人のオークだけで、ゴブリン達は雑魚同然だった。
それでも、マーニャの『火弾』1発では死なない個体もいることから、ゴブリン達も鍛えているのは間違いない。
「第3レベル呪文……リバース……シリアスダメージ」
「ゴプァァァァッ、ブゴッ」
ランディは自分の攻撃命中率を上げるため、回避に力を入れていないせいか、ちょくちょく被弾している。
だが、大きな一撃は貰っていない。
代わりに、オークメイジ亜種のHPはガンガン減っていく。
このオークキングよりも若干強い個体は、1対1の戦いで人間に押されているのが信じられなかった。
「プゴォォ、お前ラ、早くコッチヲテツダエ!」
だんだんとアクセントに、品がなくなっていくオークの言葉につられて、ランディもひなたとカミーラをチラ見すると、ちょうどオークソルジャーが、二人にかじられている所だった。
「ま、不味いぃぃ、 後で魔法のお肉を食べるぅ」
「ペッ、オークの血は不味いのじゃ、後でランディにちょと血を分けてもらおう」
「…………」
「…………」
そして、オークソルジャーがひなたとカミーラに倒さされた頃、オークメイジ亜種も残存HPが5%にまで下がった時、絶好の攻撃の機会が廻ってきた。
杖についてる玉を割り、MPを回復させて、叫ぶ。
「イマダ! 闇撃LV3、変形ダークランス!」
オークメイジ亜種、最大の魔法が放たれた。
ランディも同時に呪文を唱えていた。
「第6レベル呪文……スペルイミュニティLVⅡ」
大きな闇の塊が、幾つもの大槍に変形してランディを、突き刺すために発射される。
しかし、闇の大槍はランディに刺さる直前にかき消される。
「ブゴ? ナンダト!?」
驚いて、隙のできたオークメイジ亜種にランディのとどめの一撃が決まった。
「ゴアァァァ !!」
ランディがオークメイジ亜種を、倒したとほぼ同時に、敵対勢力は全滅していて装備も回収されていた。
残るは、ひれ伏しているゴブリン達がいるだけだった。
「コウサンシマス、ナンデモ、サシアゲマス、ドウカイノチダケハ……」
ランディはゴブリン達を見ている。
呪文で見える敵対反応は、赤色点灯から点滅になっている。
ランディは1つ仮説を立てた。
(もしかしたら、敵対したいが、怯えててが出せない状況になると点滅になるのかな)
結果、ランディのとる行動は決まった。
「分かった、降伏した者は殺さないよ。 その代わり家畜のブタシシを貰うよ。 あとオークの住居を調べてもいいかな?」
「ブタシシハ、ゼンブモッテイッテ、シマウノデスカ?」
「この集落のブタシシの数は?」
少し間を置いてから、別のゴブリンが答えた。
「オヨソ、70トウデス」
「う~ん、なら20頭ほど貰おう、これなら影響ないかな」
「ハイ、ノコシテクレテアリガトウ、アノイエハ、スキニシテクダサイ」
「ありがとう」
「アリガトウ」
「アリガトヲ」
この中には人間語の上手い個体もいるようだ。
そして、このやり取りで点滅していた敵対反応の半分は消失した。
……
…………
ランディが調べている住居の中は、とてもオークが住んでいたとは思えない程の書物があった。
その中には、森を迷路に作り替える方法や、魔法について詳しく書かれている物、戦闘の技術的な指導書等もあった。
ランディは、3つの書物に目をつけた。
1つは、オークメイジ亜種が使っていた変形魔法で、記述には攻撃魔法はLVが、上がるにつれ広範囲になるので、乱戦時でも使えるよう変形出来るような技術が記されてあった。
もう1つは、 王神流の基礎と応用を学ぶための指導書だった。
最後の1つは、日本語とユーフォリア語の翻訳本だった。
ランディ達は、祝福の影響で、転移先の主流言語と母国語を使える。
したがって、ランディ、香織、マーニャ、ひなたはランディが注目した本が、翻訳本であると直ぐに気づいた。
「うわぁ、お兄ちゃん。 これってこの世界に日本人がいたって事じゃない」
「しかも、王神流の指導書もあるぞぅ? カミーラの同郷もいるのかぁ?」
「いや、ワシの世界での王神流の始祖は異世界人と聞いたのじゃが」
「でも、翻訳本と教本は凄く古い本よね」
香織が、2冊の本がとても古い年代物だと指摘する。
「まっ、ここの本は何冊か持ち帰って後日、考察をしよう。先ずはブタシシをもって帰らなきゃ」
ランディはクリエイトアイテムで滑車付きの、檻を出した。
ランディはこのオーク達が珍しい個体かも知れないと考え、生首をバックパックに入れて持って帰る事にした。
ランディは2往復して、待ち合わせ場所である森の入り口まで来たが、自分の失敗に気づいた。
ランディが確保したブタシシは20頭。
対して、運べる移動用の檻は8頭分だった。
「あっちゃあ、やっちまった。 仕方ない、第3レベル呪文……クリエイトアイテム」
ランディはブタシシが、10頭分は入れられる大型の檻を出現させた。
「いい? みんな。 ニャーさん達が、こいつに突っ込みを入れたら、何とか誤魔化そう」
「うん!」
「「「…………」」」
「あ、主殿? 誤魔化せるイメージが浮かばないのじゃが」
……
…………
日も傾き始めた頃、ジャカルタ4兄妹が1頭のブタシシを引きずって帰ってきた。
「ブタシシは1頭しか見つからニャかった。 今回はついてニャいニャ……おっ、ランディはもういるのか。 ランディ収穫はどうだったニャ、ニャ……ニャにぃぃ!?」
ジャカルタ達の目に映ったのは、20頭のブタシシと往路にはなかったはずの、巨大な檻付きの荷車だった。
「ラ、ランディ、いったい何があったのニャ?」
「そうれす、このブタシシの数はおかしいれす……って、ジャカ兄、このブタシシ生きてますよ?」
「あ、あなた達は何者なの? ブタシシ20頭、全て生け捕りとかあり得ないの」
「ちょっと待つだわさ。 ブタシシより突っ込み処は、聳え立つ檻だわさ、いったい何処から持ってきたんだわさ?」
ランディは、人差し指をつきたて口に持っていく。
「ブタシシ3頭あげるから、ナイショって事で……」
ウインクするランディだった。
ジャカルタは悩んだ。
ブタシシの大量生け捕りは、非常に気になる……が、言いたくない事を詮索するのは、冒険者として『タブー』だ。
現に自分も隠し事の2つや3つくらいある。
だが、問題は口止め程度で、ブタシシを3頭も貰うって事にある。
ただ、今回はブタシシがかなり欲しい状況なので、考えに考えた。
「分かったニャ、ブタシシはありがたく頂くニャ。しかし、これでは俺も気がすまニャいニャ。 それで、ジャイコをデートに誘ってもいいニャ」
「ガーン! あちし、ジャカ兄に売られたわさ」
「ジャイコ、頑張るの。 ブタシシ3頭分、たくさんつくすの」
既に、ジャカルタとジャミラスはブタシシを自分の荷車に、乗せている最中だ。
「ジャカ兄、ブタシシを3頭も貰ったのれすから、ジャルミネも付けた方が、いいと思うれす」
「そうか、ジャルミネも付けるか……ただのデートだし、問題ないか」
二人の兄をジト目で見つめて、ジャルミネはつぶやく。
「あたしも売られてしまうの。ジャカ兄とジャミ兄は非道なの」
……
…………
………………
帰り道、ランディとジャカルタパーティは、2組みの冒険者とすれ違った。
ランディは冒険者達の不穏な気配を感じて、第3レベル呪文『ディテクトイービル』を使った。
ランディの予想通り、冒険者達はブタシシを強奪する気満々のようだった。
ランディとジャカルタ達は夜営をして、マーニャ、リリスが見張りとなった。
「今夜はランディ達に見張りを任せるニャ、比較的安全な道だから、気を張らないでもいいニャよ」
「しかし、想像以上の馬鹿力れすね」
カミーラ、ひなたは4頭を乗せた荷車を一人で牽引して、ランディは9頭を乗せた大型の荷車を、呼吸を乱さず牽引していた。
「まさか、二人がかりで運んでる、ジャカ兄たちより余裕とはびっくりしたわさ」
「きっと、痩せ我慢なの、ランディも早く寝るの、無理してると明日に響くの」
ジャカルタ達が寝静まった時、ランディ、ひなた、カミーラは
ムクリと起き上がった。
「さぁ香織ちゃん、活きましょうか」
「ランディ、やっぱり彼奴等は『黒』かぁ?」
「はい、真っ黒です。 念のため、様子を見てから仕掛けますよ。 リリスたんマーニャ見張りをよろしく」
「うん、解った。 」
「任せて、お兄ちゃん」
「さあ、行きましょう」
ランディ達は、すれ違った冒険者を覗きに、音もなく出かけた。
来週の投稿は間に合わないかもしれません。




