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150#我ら、未来のSランクパーティ『フォースターズ』

 ◇ギルド会館二階◇


 ランディが昇級クエストを受注した翌朝、マリアンヌを待っていると、四人の赤毛の冒険者に絡まれた。


 一人はロングソードを背中に収め、部分部分に金属製のプロテクターで防御をしている男が、ランディに、話しかける。


「よう、お前が有名人の『成金のランデイヤ』かニャ?」


「にゃ!?」

 ランディは不名誉な異名より、語尾の『ニャ』に食いついた。

 

 すると赤毛の女性がランディと男性の間に割って入る。

「ジャカ(にい)、相手はびびってるの。 同じGランクの冒険者とはいえ、ジャカ兄は格が違いすぎるから、優しくなの」


 さらに、もう一人の赤毛の女性も会話に交ざる。

「ジャカ兄、弱い者イジメは、恥ずかしいだわさ」


「わさ!?」

 珍しい語尾に、ランディはまたしても驚く。


 そして、プレートメイルを着込み、ラージシールドを持った男も、話に参加する。


「しかし、噂通り五人とも、すごい美女れすね。 でもこの男はいったい、いくらつぎ込んだのれすか?」


 

 ランディはクルリと香織達の方を振り向いて、悲しい顔をした。

「僕、いつの間にか酷い男になってませんか?」


 ランディはこの数日で、新参パーティ『ランディパーティ』は異国の大商人のどら息子が、美人の傭兵とメイドを引き連れ、冒険者の真似事をしていると、噂されていた。



 ランディがしょんぼりしていたら、マリアンヌがやって来た。


「皆さん、口喧嘩は止めてくださいね。 だって、これから同じクエストを受ける仲間なんですから」


「えっ? 口喧嘩って言うより一方的に(けな)されていただけなんですが? それに仲間って、まさか君達が……」


 すると、赤毛四人衆の長剣を持った男が、半歩進み出た。

「そう、オレが新進気鋭のパーティ『フォースターズ』を束ニャる、リーダーのジャカルタニャ」


 プレートメイルを装備している男が、ジャカルタの隣に来た。

「俺が兄妹達を護る最強の盾、ジャミラスれす」


 ジャミラスの隣に、身体の一部分を防御して、動きやすい防具を着た双子と思われるそっくりの女が、揃って出た。


 二人の違いと言えば、持っている武器くらいだ。

 木製のスタッフを持った女は、

「あたしは、未来のSランクパーティ『フォースターズ』の後衛をあずかる天才魔法使い、ジャルミネなの。 今のうちに何か奢ってくれるといいの。 有名になってからじゃ、手遅れなの」


 短剣を持った女も自己紹介をする。

「あちしが、レアジョブ『僧侶』のジャイコだわさ」



 ランディは冷や汗をかいていた。

 理由は、最後の『ジャイコ』以外の名前を忘れてしまっていたからだ。

(ヤバイ、ジャイ子のインパクトがつよすぎて、残りの名前忘れた……どうしよう)


 

「オイ! お前らもさっさと自己紹介をするニャ」


(よし、この人は『ニャーさん』にしよう)

「僕はランデイヤって言います。 後ろにいるのは、香織ちゃん、マーニャ、リリスたん、ひなたん、カミーラ、以上です」


 プレートメイルを着たジャミラスが、ランディの自己紹介に文句をつける。


「なんてつまらない紹介をするのれすか? こちらは、一人一人紹介したのれすよ?」

 

 今の言葉でランディは彼の名前を覚えた。

(うん、彼はレス君にしよう)


「まったく、常識がなってないの。 一人づつ紹介しなさいなの」


「ああ、解った」

(決まった、この魔法使いちゃんは、なの子にしよう)


 言葉と思考が別々のランディだった。


 ランディは香織達に向かって、お願いした。

「じゃ、自己紹介をお願いね」


「私は香織です。えっと『ジョブ』でいいのかな?」


 香織はランディの方を見る。


「『ジョブ』でも『職業』でもいいんじゃない?」

 とランディは教えていた。

 あまり、呼び方にはこだわらない様だ。


「ジョブは盗技士です。 ナイフ投げが得意です。 ランディこれでいいかな?」


「グッジョブ! 香織ちゃん、もう大好き」


 香織はランディの言葉に顔を赤くして俯いた。

 それが、ランディをますます喜ばせる事を知らずに。


「わたしはリリス、魔法使いだよ。 闇魔法と光魔法を使うんだ。 あとステ……ムググ」


 リリスは『ステータス看破』のスキルを喋ろうとしたけどランディに口を塞がれた。


「リリスはステキでしょ? って言ってます。 あはは」

 

「私はマーニャ、魔法使いよ。 お兄ちゃんの障害は何でも燃やすからね。 はいひなた、タッチ」



「燃やすって事は、得意魔法は火魔法なのかニャ」


 マーニャの、爆弾発言に少し引き気味のジャカルタだった。


「私はひなたと言います。 ランディさんのもとで重戦士をしています。魔法防御と物理防御、あと剣技のスキルが少々使えます。 経験不足で不馴れですが、みなさんよろしくお願いします」


 ひなたの言葉に、同じ職業のジャミラスが反応する。

「ほう、職業スキル以外にもスキルがあるれすか。 僕が優秀じゃなかったら嫉妬したれすよ?」



(ひなたんよそ行きモードだな)

 なんて、ランディが考えていたら、カミーラの自己紹介が、始まった。


「ワシは、カミーラ・フォン・アルフシュタインじゃ。 そこの主殿の警護役じゃな。 ワシは戦士じゃが速力上昇と魔法防御も使うぞ」


(えっ? カミーラそんな設定にしたの?)


 ランディが驚いていると、別の意味でジャルミネも驚いていた。


「戦士で、そのスキル……生まれながらの天才なの? それに、ずいぶんと長い名前なの。 もしかして貴族?」


「元じゃがの……」


 ジャルミネがランディに向かってすごい剣幕で捲し立てる。

「あ、あなた元貴族の天才を雇うとか、どんだけ金持ちなの? おかしいの」


 もう一人の女性ジャイコも頷く。

「あちしもそう思うわさ」


(ニャーさん、れす君、なの子にジャイ子、よしっ完璧に覚えた)


「ふん、金ばかりに頼ってると、せいぜいFランク止まりニャ。 Eランク以上の試験には個人試験があるからニャ」


「ちょうどいいれす、ついでにジャカ兄が、レイドボス戦で、冒険者って物を教えてやるれす」

「それがいいだわさ」


「そうだニャ、これも何かの縁ニャ。 特別に俺達が教えてやるにゃ」


「そうそう、報酬は晩ごはんでいいの。 たくさん奢ってなの」


 ランディはイニシャチブを取られて、呆然と四兄妹の話を聞いていた。



 こうして、この日の午後に『合同ランクアップクエスト』が開始となった。


  ……

 …………


 ◇地下迷宮ウノ・一階◇


 見事なコンビネーションで、索敵・前進を繰り返し、コボルト等を発見しては、瞬時に始末するジャカルタ四兄妹。



 ランディは、後ろをテクテクと着いて行くだけだった。

(これは、本当にご飯を奢らなくちゃね)


 マーニャがジャカルタ達を指差しながら、語る。

「これよ、これ。 ねぇみんな、これがダンジョンの進み方の基本よ。 まさか香織さんと私以外全く出来ないとは思わなかったよ」


 そう、ランディパーティの内、ダンジョン経験の豊富なマーニャと、隠密行動が得意な香織以外は、適当に突っ走っていたのだ。


 そう通常のパーティなら、百メートルを三分程度かけるなら、ランディ、ひなた、カミーラは三十秒弱で進んでしまう。


 なので、マーニャがジャカルタ四兄妹のまっとうな移動術を見て『あれが手本だから』と、言い続けていた。


(マーニャ、酷い。 僕とカミーラとひなたんは、ちゃんと索敵してますよ?)

 と、口を『へ』の字口にして、進んでいた。


 マーニャの言葉を聞いていた、ジャカルタはニヤリとしていた。

「ふっ、そこのマーニャは良く解ってるニャ。 存分に勉強するといいニャ」



「ニャーさん、晩ごはんはマタタビでいいかニャ?」

 ランディはジャカルタ達に聞こえないように喋った。


 一階層をほぼ最短で進み、二階層に続く大きな階段を降っている。


 ジャカルタ達は五階層にいる、レイドボスまでの近道を把握していた。



 ランディは、四人の動きを見て感心していた。

(確かに、ニャーさんとれす君の動きは良い。 あれならモンスターの不意打ちを受ける事は、ほとんど無いだろう。 逆に不意打ちを与える事も出来そうだな。 とてもGランクとは思えないな。 よしリリスにこっそりと覗いて貰うか)


 ランディはリリスのところまで駆け寄り、ジャカルタ四兄妹のステータスを見てもらう様にお願いした。


「リリスたん、声を小さくして、あの四人組のステータスを見ることが出来る?」


「うん、わかった。 ん、ステータス」


 ……

 …………


 ランディは、リリスから四人のステータスを聞いて、反芻していた。

(ニャーさんがLV48、HP2480。 れす君がLV42、HP2600。 なの子がLV37、HP1190。 ジャイ子がLV37、HP1540。 もしかして僕はGランクやFランクの冒険者をなめていたのか? 香織ちゃんやリリスたんより強い。 これは、鍛え直さないと……)


 ランディの、瞳に炎が灯っていた。



 三階層では、度々数の多いモンスターが出現して、ランディ達が何回がモンスター退治を手伝ったが、出番は多くなかった。


 ランディパーティをチラ見していたジャルミネが、呟くように言った。

「あなた達には連携を感じないの。 でも、なかなか強いの」


「なるほどニャ、ギルドもバカじゃニャいニャ。 だからオレ達のパーティと、合同パーティを組んだんだニャ」


 もちろん、ギルド側にそんな思惑は、微塵もない。



 四階層に入り、人工石エリア、 砂丘エリア、岩場エリアを抜けて五階層に降りることが出来る階段の前までやって来た。


「この先はガルガンスライム……バカでかいスライムが四匹いるニャ。 まあでかいだけで大したことないニャ。 お前達には二匹を任せるニャ。 魔法使いが二人もいるから、楽勝だニャ。 じゃあ行くニャ」


 大きく長い階段を降りきると、大きな黒光りする扉が聳えたっている。

 扉に手を当てると、自動で開き出す。


 さすがに、それを見るのはみんな、初めての様で、感嘆の声をあげていた。


「凄いだわさ」

「感動なの」

「凄いれすねぇ」

「みんな、油断するニャよ」


 大広間のに入ると間もなく、扉が勝手に閉まって行き、中央まで歩くと四隅から、ランディたちが今までみたスライムより桁違いの大きさである、スライムが出現した。



  ~敵プロフィール~


 ガルガンスライム ×4

 HP 400*400*400*400

 モンスターランク 4

 備考

 物理攻撃半減

 魔法攻撃倍化




 今回は、ギャラリーがいるため、ランディは皆に手加減をするように言い渡している。


 ガルガンスライムは、物理攻撃に効きにくい特性と、高めHPを利用して、防御体制から、相討ち狙いで攻撃する習性を持っていた。


 リリスとマーニャが最弱の魔法を放つ。

「闇撃LV1」

「火球LV1」


 防御体制をしているガルガンスライムは、魔法ダメージを半減させるが、元々魔法攻撃が弱点のため、プラスマイナス0になって、通常の通りのダメージを負い、消滅してしまう。


「氷礫LV2」


 さらに、カミーラがもう一体のガルガンスライムに魔法攻撃をしかけ、一撃で消滅させた。



 手空きのジャイコがその様子を見て『ギョッ』としていた。



 一方、ジャルミネもカミーラと同じく火魔法を使い、ガルガンスライムを一撃で(ほふ)っていた。


 別のガルガンスライムはジャカルタとジャミラスが相手をしていた。

 

 そして、ランディの視線はその二人に向けていた。

(なるほど、半歩前に出てスライムのヘイトを、れす君に集めているのか)


「硬壁!」

「二連撃」


(うん、二人とも雑魚相手に油断してない……リリスや香織ちゃんの手本になるね)


 香織とひなたも出番が無いため、ランディと一緒に二人の見学をしている。


「香織ちゃん、ニャーさんはもっと上位の剣技スキルが使えるのに、剣技レベル1の『二連撃』を使ってる。 理由は解るかい?」


「えっと、レベルの高いスキルを使うと、次のスキルが使えるまでに、時間がかかるから、それを考慮してるのよね?」

 

「多分そうだ。 大技はリキャストタイムが長い。 まあ、相手が弱すぎるからってのも考えられる」


「二連撃!」

「二連撃」


「ほう、れす君も剣技スキルが使えるんだ。 なるほどこれは良いパーティだ」


「でも、ニャーさんにれす君って、ランディ名前忘れたんでしょ?」


「……あっ終わった」


 ランディは誤魔化すように、最後のガルガンスライムが消滅したのを確認した。

 最後に倒したガルガンスライムはドロップアイテムも落としていた。

 しかも、一度に十個もドロップしていた。


 その頃には、ひなた、カミーラ、マーニャとリリスが魔石の回収を終えていた。


「ニャ、ニャんだと!?」

 ジャカルタはガルガンスライムを自分より早く倒した事に驚いている。


 ジャイコがジャカルタに駆け寄り、経緯を話していた。

「ゴニョゴニョ、ゴニョゴニョゴニョゴニョ、ゴニョゴニョだわさ」


「ニャるほど、噂は伊達じゃないニャ」


 ジャカルタが知っている噂では、『大商人のボンクラ息子が、美人の護衛とメイドを引き連れ、有名な地下迷宮に冒険者の真似事をして遊びに来た』となっている。


 現に、ガルガンスライムと戦ったのはランディパーティのうち三人だけだった。


「おまえ、名前はニャんだったかニャ」


 どうやら名前を忘れているのはお互い様のようだ。


「僕は、ランデイヤですよ」

 ランディは気に入った相手以外は本名の『ランデイヤ』で自分を紹介している。


「ランデイニャか?」


「ランデイヤ!」


「ランデイニャ?」


「ランデイヤ!! 」


「ランデイニャ??」


「もう、ランディでいいです」


「じゃあランディと呼ぶニャ」


 別に気に入らなくても、ランディと呼ばせる事もある。



 レイドモンスターを倒すと、入口と出口の両側の扉が開いて、暫くの間は自由に通行可能なる。


 次の広間は帰還の部屋と言って、地上に脱出出来る魔方陣がある。


 この陣内で『帰還魔石』略称『帰還石』を使うと、一瞬にして地上の、とある広場に移動できる。


 そして、ギルド職員が待機していた、ロモスに手形を見せてた。


 ロモスは予想外だったせいか、道案内や他のパーティが支援していたか疑っていた。


 もし、それが事実だったとしても罰則規定はない。


「おい、最初に倒したガルガンスライムは、アイテムを落とさなかったか?」


 ジャカルタは変な顔をして答えた。

「ニャぁ? ドロップアイテムは最後に倒したガルガンスライムニャ」


「むっ、あってるな」


 どうやらロモスはカマをかけた様だった。


「じゃあギルドまで行きますか。 Fランク入りおめでとさん」


 ……

 …………

 ………………


 ランディ率いるランディパーティとジャカルタ率いるフォースターズは、あっさりとFランクに昇格した。


 そして、今回の地下迷宮探索でランディは銀貨十枚とスライムゼリー五個を手にしていたが、その銀貨は風前の灯火だった。


 ジャカルタ四兄妹とリリスは競うように食べていたからだ。


「銀貨がドンドン減っていくんだけど?」



 この日のランディパーティは、ほとんど稼ぎがなかった。



 ~ランディパーティの懐事情……金貨三十二枚、銀貨四十四枚、銅貨七十八枚~


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