148#リリスのスキル
ランディパーティは、昨日のドロップアイテム納品クエストを四つ、立て続けにクエストをクリアしたことから、一部の冒険者の間で不名誉な噂が流れていた。
『大金持ちの道楽息子、『女好きのランデイヤ』が、ドロップアイテムを金に困っている冒険者たちから買い漁って、クエストをクリアした』と…………
実際、この方法でFランクまで上がる事は出来るが、Eランク昇格には個別の試験があるので、Fランク止まりになってしまう。
そんな理由から、一人前の冒険者と呼ばれるのは、Eランクになった冒険者たちの事を差す。
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◇総合ギルド会館◇
ランディは、このまま地下迷宮に潜れば、二・三日中にFランクになるための得点が貯まると言われて、五階層以降の情報を教えてもらうために、マリアンヌと二階で打ち合わせをしていた。
そして、香織とカミーラ組、リリス・マーニャ・ひなた組で、別行動をしていた。
ランディは走って三十分以内の距離ならば、自由行動を認めていた。
ただし、単独行動は禁止で必ず二人以上と厳命していた。
急な巻き添え召喚に対する対策と、強敵に対する対策だろう。
香織とカミーラは、暇そうにしていたドドンガに捕まった。
「よう、嬢ちゃんたち、結構稼いでいるみたいじゃないか……坊っちゃんはどうした?」
香織とカミーラは、ドドンガを情報収集するための手段とする事にした。
「ドドンガといったの、あっちで話でもするか?」
……
…………
少々雑談をした後、ドドンガはカミーラに質問をぶつけた。
「なあ……あの話は本当何だな? 弱味を握られて射るわけじゃないよだよな?」
「嘘などつかん……それにランディ達といるとサクラの事を良い思いでしか浮かんでこない……不思議なのじゃ」
カミーラの真剣な眼差しを見て、ドドンガは少々勘違いしながらも納得した。
「ところでドドンガは、スキルの使い方を知っておるか? ワシは『氷魔法』があるのじゃが使い方が解らないのじゃ」
ドドンガは数日前の記憶を思い起こした。
「おや、たしかそのお嬢ちゃんは戦士だったよな?魔法がつかえるのか……」
「なんじゃ?『戦士』が魔法を使えるとおかしいのか?」
「いや、そうでも無いが、話が長くなるかも知れないがいいか?」
香織とカミーラは頷く。
「まずなぁ、スキル(特技)には、先天性スキルと後天性スキルがある。先天性スキルは、生まれ持ったスキルの事だ、だいたいある年齢になるとレベル1になって、後は鍛えていけば、レベルが上がるんだ。後天性スキルは別名職業スキルとも言われてな、レベルが0から始まって訓練に訓練を重ねないと、中々レベルがあがらねぇ。まあ、スキルレベル1まででなら、なんとかなるらしいのじゃがな。 例えは『戦士』なら剣技と攻撃力上昇だな、『重戦士』なら物理防御に魔法防御だな、魔法士なら六つある属性のうち、二つを覚える。そして殆どのスキルは『スキル名』を発すると自動発動するんだ」
カミーラが頷くように感心している。
「ふむ、ふむ……なるほど……暗記したのじゃ。して、氷魔法はどんな掛け声じゃ?」
「目標物に指を向けて、『氷礫』と『レベル』を言うのだ。例えば『氷礫レベル2』とな……おおっとここでは言うなよ? そして、火属性なら『火球』土属性なら『土弾』風属性なら『風刃』闇属性なら『闇撃』光属性なら『光破』となる。ほかのスキルを知りたいなら、誰か紹介するぞ?」
「よろしく頼むのじゃ」
香織とカミーラは、期待以上の情報を手にした。
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二階にいるランディは、マリアンヌに地下迷宮の話を聞いていた。
「……それでですね、五階層に降りる道は二つしかありません。そして各五階層最初の部屋には『レイドモンスター』が待ち構えています。レイドモンスターは非常に強く、複数のパーティで攻略するのが定石ですが、ランデイヤさんのパーティなら問題無いかと思います。あくまでも『ウノ』の地下迷宮は初心者用の迷宮なんです。そして、五階層にはレイドモンスターとボーナスステージ以外のモンスターは出現しません。」
ランディはここまで聞いて、質問をした。
「他にどんなスペースがあるの? それにボーナスステージも気になるなぁ」
マリアンヌは引き続き説明してくれた。
「五階層には、モンスターがいないことによりセ―フティエリアと呼ばれていて、露店があります。 ただし、相場より高いですよ。人気なのは、傷んだ武器を修復してくれる鍛冶屋とか、回復ポーション・プロテクションストーンですっ、僧侶の人数も限られていますから、保険でいくつか持っていくのをおすすめしています。 後は転送スペースがありまして、魔石を加工した帰還魔石で瞬時に地上に帰る事が出来ます」
「へぇぇ、便利なんだねぇ……でも『帰還石』って名前だけあって帰り専門なんだよね?」
「はい、そうなんです。因みにF級冒険者になるための試験は、五階層のレイドモンスター討伐です。そして、北側はガルガンスライム四体、南側はコボルトキング一体にコボルトジェネラル五体です。だいたい二組から三組のパーティで挑むことになります。なので、あと普段のモンスターは半日で復活しますが、レイドモンスターの復活は二日かかりますので不用意に倒さないで下さいね。今回の話はここまでです」
ランディは、五階層のレイドモンスターが乱獲されていたら、いつまでも昇級試験出来ないんじゃね?
と、呟いていた。
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そして一階にいた、マーニャ・リリス・ひなたは、三人組の男にナンパされていた。
「なあ、君たち……オレたちとパーティを組まないか? オレたちは今、売り出し中の『フレッシュナイツ』っパーティなんだ」
「今、オレたちと組んだら、きっと楽しい思うぜ」
「そうそう、なんだったら他のパーティに、臨時で参加してみれば、うちのパーティの良さが判るってもんだ」
三人は、若くて美人の冒険者達が、自分たちと同じ人数で歩いていたので、押せ押せで勧誘していた。
「えっと、あの……」
困っているリリスを、少し照れていると勘違いしている三人は、自分たちをガンガンアピールしていた。
そんな時、ランディが二階から降りてきて、リリス達を見つけて、話しかけた。
「あのう……僕の家族に何か用ですか?」
「「「は? 家族?」」」
男達は、ランディを指差しながら聞いてきた?
「えっ? 家族って、似てないけどお兄さん?」
「はあ……お兄ちゃん、ここは『妻』とか『嫁』とか『愛人』とか言わないかなぁ……」
ひなたもコクコクと頷いている。
男の一人は、
「わかった、とにかく保護者みたいなもんだな……兄ちゃんも若いのに、面倒見がいいなぁ……あっ、オレ達『フレッシュナイツ』ってパーティなんだ、臨時で良いならオレたちと地下迷宮に行かないか? 近いうちに、でかい顔をして歩けるようになるぜ」
ランディは下心を少々感じたが、悪気の無い雰囲気の三人に『困っている時は助けてあげても良いかも知れない』程度の好感触を受けた。
「あっ僕は、パーティリーダーなんで、僕が忙しい時に、うちのメンバーでお邪魔させてもらいますよ」
このギルドのルールでは、パーティリーダーは他のパーティに入る事が出来ない。
例外として、『非公式で同行する』『同一クラン内での同行』は有りなのだが……
「そうか……君が強ければ、みんな集めてクランを立ち上げてもいいんだけどな……」
ランディの実力も知らないのに上から目線の三人だった。
そして、話が長くなりそうな気配を察知して、ひなたが、よそ行きモードで話してきた。
「お誘いありがとうございます。もし、リーダーが忙しい時は、力を借りるかもしれないので、その時はよろしくお願いします。 それてば今日はこの辺で……ではまた」
とお辞儀をして、ランディを引っ張って移動した。
少し離れてから、男達の声がした。
「ああ、また今度なぁ!」
「オレたち、三日に一回はここにいるから!」
「君なら、すぐにうちのヒロインになれるからねぇ!」
と、手を振っていた。
「ひなたさんの営業スマイルは強烈ね……どうせなら暫くあっちに行っちゃえば?」
マーニャの発言に対して、ひなたが返す。
「ふふん、作り物の笑顔に騙される程度の、男なんて要らないぞぉ……でも、今度みんなでからかいに行くかぁ?」
「ひなたんとマーニャは問題ないけど……リリスたんと香織ちゃんはもう少し、力を底上げしてからだね」
「はぁい……ランディは嫉妬しないなぁ、つまらないなぁ」
「うん、リリスもらんでぃ以外は興味無いって」
リリスはもう一人のリリスと会話をしていたらしい。
どうりで大人しかった訳だ、とランディは思った。
ランディ達はみんなと合流して、第一の地下迷宮『ウノ』に、潜って行った。
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◇地下迷宮『ウノ』四階層◇
ランディ達は、何の問題もなくこの階層まで降りてきた。
一階層で、わりと多くの人達とすれ違ったが、二階層・三階層では、一度づつしか出会ってなかった。
「しかし、いくら広い迷宮だからって二階に降りてからほとんど、冒険者に会わないって不思議だなぁ」
ランディ達は世間話をしていたら、数体のコボルトと遭遇した。
~敵プロフィール~
コボルトソルジャー ×3
HP 200*200*200
モンスターランク 2
スキル
剣技 1
装備
錆びた剣
ランディ・ひなた・カミーラは一撃でコボルトソルジャー消滅させてしまった。
「物足りない」
「物足りないぃ」
「物足りないのじゃ」
「「「………………」」」
ランディ達は、極小の魔石を十五個拾ってから地下四階層を目指して進んだ。
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◇地下四階層、大広間◇
リリスと香織体力も持久力も限界に近づいた辺りで、ランディが休憩しようと言って休むことにした。
すでに周辺のエンカウントモンスターは一掃してある。
「さて休憩がてら、この世界のスキルを使ってみようじゃないか……第3レベル呪文……クリエイトアイテム!」
ランディはアウトドアに使うような椅子を、二十個も出現させた。
「主殿……そのイスの数はいったい……」
「僕の呪文では量の調節は出来ないんだよね……それよりみんなの攻撃魔法のレベルをもう一度確認しよう……」
「私は、火魔法が『3』に風魔法が『1』だよ。お兄ちゃん」
「わたしは、光と闇が『1』だよ、ランディ」
「ワシは氷魔法が『5』になっていたのじゃ」
「ほえぇ、カミーラ姉さんすごぉい!」
リリスに誉められにっこりとしているとランディがリリスに向かって話した。
「この場で一番凄いのはリリスたんだよ。リリスたんには、ステータス看破のスキルがある。使い方は『ステータス』だ。さぁやってごらん」
「うん! ステータス! …………あ、出たよ……らんでぃ」
リリスの瞳の左上には、こう写っていた。
※リリステル、魔法士LV28
※HP 1206/1206、MP 668/708
リリスは、ランディに自分の見えている物を話した。
リリスの話で、ある程度理解したランディは、全員のステータスを見て貰うことにした。
「ステータス・ステータス・ステータス・ステータス・ステータス! …………わぁすごぉい ……えっ?」
どうやら、全員のステータスが見れて喜んでいたリリスだが、ランディのステータスを見て、驚きに変わる。
リリスの瞳には、みんながこう映っていた。
※ランデイヤ、僧侶LV200
※HP 11820/11820 、MP 4000/4000
※エンドウカオリ、盗技士LV24
※HP 1360/1360、MP 756/756
※マーニャ、魔法士LV80
※HP 2600/2600、MP 1360/1360
※マエバヒナタ、重戦士LV68
※HP 5260/5260、MP 1080/1080
※カミーラフォンアルフシュタイン、戦士LV100
※HP 6500/6500、MP 1700/1700
※リリステル、魔法士LV28
※HP 1206/1206、MP 468/708
リリスは、みんなの頭上に名前、職業、レベル、HPとMPが表示されて喜んでいたいたが、ランディのレベルとHPの異常さに今頃気づいたのだ。
「どうしたの? リリス?」
マーニャの質問にリリスが答える。
「らんでぃのHPがすごいの……嘘みたいにすごいの」
香織はリリスの言葉に納得した。
香織はランディのステータスカードを直接みて、驚いていたからだ。
「じゃあさ、リリスはみんなのHPが視れるんだよね? このさい皆で共有しようよ」
マーニャは、カミーラとひなたのステータスカードはみていたが、他は見てなかった。
「うん、えっ? この順番……んっ分かったよリリス」
リリスのこの手の独り言は別人格のリリスと話している時だ。
「じゃ言うね。香織はレベル24でHPが1360。わたしがレベル28でHPが1206。次にひなたがレベル68でHPが5260。でねマーニャがレベル80でHPが2600。カミーラ姉さんがレベル100のHPが6500なの…………」
一息ついているリリスにマーニャが催促する。
「で、お兄ちゃんは? 驚くって事はカミーラさんより上なんでしょ?」
「ワシはノスフェラト補正が、かかっておるから簡単には負けないはずなんじゃが……」
「らんでぃは……レベルが200で、HPが……い、11820もあるの……ねっ、おかしいでしょ?」
リリスの物言いにランディは苦情をいれる。
「失礼ですよリリスたん……普通です」
「主殿は『普通』の意味が解っておらぬようじゃ……ワシはノスフェラトの中でも『貴族』と呼ばれたほどなのに……ワシよりレベルが二倍もある」
「私の火炎弾でも大丈夫な理由は、これだったのね……もう人外だよ……」
「みんな酷い…………」
……
…………
気を取り直したランディは、この場所で、手に入れた『スキル』を検証することにした。




