145#G級クエスト乱獲
ランディの朝は早い……早いとは言っても、呪文を覚えるために、六時間は寝ているので、早過ぎると言うわけでも無い。
ランディは九節棍を上手く扱うための練習をしていた。
初めはランディ一人だけであったが、練習が終る頃には九人のギャラリーがいた。
「やっぱりお兄ちゃんも大概チートだよね? 昨日より使いこなしてるよ」
この中で唯一ランディの事を警戒していたシャニムは昨日今日でかなり驚いていた。
シャニムはランディの事を、女五人の弱みを握っているか、大金をチラつかせて、自由に使う我が儘な男の認識があったからだ。
だが、実際昨日の入浴騒動では、男湯と女湯に分けた事に、不平不満を言って、一緒に入ると大騒ぎしていた。
あれ? 話が違うな、と思っていたら、地下迷宮で稼いだお金は独り占めする事なく『僕の稼ぎはみんなの物。君達の稼ぎは君達の物』と言っていた。
そして、だらける事なく、今も体を鍛えている。
シャニムはこの男が理解出来なかった。
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◇地下迷宮『ウノ』地下三階◇
この日は、朝から地下迷宮に潜っていた。
今日もほとんどランニングに近いペースで迷宮の中を突き進んでいた。
三階層では、スライム・コボルト・化けキノコのエンカウントは極端に減り、代わりにジャイアントバット・ワーラット・ジャイアントスネークが多目に出現していた。
そして、一階層で見たスライムより大きいスライムを発見した。
~敵プロフィール~
ラージスライム ×2
HP 160*160
モンスターランク 2
備考
物理攻撃半減
魔法攻撃倍化
「スライムは魔法に弱いと聞いたが、マーニャ殺ってみて」
「お兄ちゃん、了解。いけっ火球、火球」
ボシュ……ボシュ……
ラージスライムは、マーニャの魔法に一撃で消滅してしまった。
代わりに六個づつの魔石を落とした。
「マーニャ最弱の魔法で一撃か……ここの迷宮って二十五階層までだっけ……いくらなんでもそこまで行けば、強敵だよな?」
「お兄ちゃん、弱っちい人を殺さず燃やすために『火球』より弱い魔法を使えるようになったんだよ」
するとこの階層では珍しい、通常サイズのスライムがひょっこりと出てきた。
~敵プロフィール~
スライム
HP 80
モンスターランク 1
備考
物理攻撃半減
魔法攻撃倍化
「あっ、丁度いいわ。発火!」
ボッ……
スライムは一撃で消滅した。
「消えてんじゃん!」
「ス、スライムが弱すぎるのよっ! ねっお兄ちゃん、一気に十階層くらいまで行っちゃお?」
「…………」×5
こうして、ランディ達は三階層と四階層で乱獲しまくった。
この迷宮は広大とは言え、昇降できるポイントが四ヶ所もあるので、そんなに時間はかからない。
今回のランディパーティの収穫はこうだった。
スライムゼリー、十五個。
コボルトスパイス、十一個。
特薬キノコ、十二個。
蝙蝠の羽、六個。
鼠の尻尾、五個。
蛇の皮、七個。
極小サイズの魔石が、六百九十一個も集まった。
それは、一般冒険者から比べると桁違いの収穫だった。
この桁違いの収穫には、理由があった。
先程も述べたように、ランディパーティはゆっくり歩かない……普通なら不意打ちを受けてもおかくないのだが、ランディと、カミーラの索敵能力が凄まじく、発見→一掃の繰り返しだった。
さらに、ランディ・カミーラ・ひなたが全くの疲れ知らずで、ガンガン動き回っていたのだった。
「はぁはぁ、カミーラさんとひなたさんは、人間じゃないから解るけど……なんでお兄ちゃんは疲れないの? おかしいよね?」
「ゼッ、ゼッ、ゼー……マ、マーニャ……こういった時は、ランディも人間に数えちゃダメよ……はっ、はぁぁ」
「ハッハッ、ハッハッ……ハァァ さ、さすがわたしの、らんでぃね、はぁはぁ」
「人間じゃないなんて、失礼ですよ香織ちゃん。ちゃんと戦いの合間に休憩をとってます」
「ランディ、索敵しながらの移動は休憩時間に入りません……もう化け物なんだから……」
「香織ちゃん……僕は、地味に傷ついてます」
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◇ギルド会館二階◇
ランディはマリアンヌを見つけ、手空きになるのを待ってから話しかけた。
「マリさん、クエスト達成の報告に着ました」
「ランデイヤさん、こんにちは。はい、すでに依頼主からの感謝状付きで確認出来ています。 聞きましたよ昨日の内に依頼を達成したんですよね。 よく見つけましたね、驚きました。……ちょっと待ってください…………ランディパーティ全員のカードを提出して下さい。 」
マリアンヌはステータスカードを怪しげな装置に置いて何かを入力している。
「……はい、ランディパーティは『迷い猫を探せ』達成です。初クエスト達成おめでとうございます。…………で、ランディさん、こんな時間に来たって事は待ちきれないで、地下迷宮に少し入っちゃたでしょ。えへんっ、私鋭いんです……図星でしょ?」
「おお……さすがマリさん、鋭いですね。それでですね、クエストの受注をしたいのだけど」
マリアンヌは、にぱっと微笑み話す。
「わかります、ランデイヤさんのパーティならすでにドロップアイテムの三つや四つくらい手に入れても驚きません。 どのクエストにしますか?」
ランディの、選んだクエストはこれだった。
『☆スライムゼリー』
報酬……銅貨各十六枚、得点……1
個人……○、パーティ……○
備考……納品数、一人あたり二個
期限……十日
マリアンヌはランディの選んだクエストを読みあげていた。
「スライムゼリーはランディパーティですと、六人なんで、十二個集めて来て下さいね。あっ、実はもう五個くらい持ってますとか言って驚かせてくれるのかしら」
マリアンヌは、色々な種類の笑顔を振り撒き、コミュニケーションをはかっていた。
もちろんランディのモチベーションを上げるためである。
そのマリアンヌの表情が強ばる。
「……えっ?」
ランディはそのまま、スライムゼリーを十二個マリアンヌの目の前に置いたからだ。
「はい、十二個集めてみました」
「は? へ? ……ええ~~!?」
……
…………
マリアンヌは気を取り直して仕事を開始した。
「はい、確かに『スライムゼリー』十二個確認しました。クエスト達成です」
(そうね、このパーティは高レベルが三人もいるのよね、スライムが頻繁に出現したポイントで乱獲したのね……ならあり得ない数字じゃないかも……)
マリアンヌが一生懸命、冷静さを保とうとしている最中、ランディは次のクエストを要求した。
ランディの選んだクエストはこれだった。
『☆特薬キノコ』
報酬……銅貨各十六枚、得点……1
個人……○、パーティ……○
備考……納品数、一人あたり二個
期限……十日
「はい、『☆特薬キノコ』ですね。特薬キノコも一人当たり二個なので…………十二個で、す……うそ……」
ランディは特薬キノコをマリアンヌの前に、トントンと並べ出す。
「九、十、十一……十二個っと、はいどうぞ」
「あ、あははは……モンスターが落とすアイテムって、平均すると五・六体に一つのくらいなんですけど、ランデイヤさんは、凄く強運なんですねぇ、あはは……はい、クエスト完了です、次はどうします? アイテムがたまってからがお勧めなんですけど、ランディパーティなら、受注してから狩を始めても問題無いですね」
「じゃ、マリさん『☆コボルトスパイス』をお願いします」
『☆コボルトスパイス』
報酬……銀貨各二枚、得点……1
個人……○、パーティ……○
備考……納品数、一人あたり三個
期限……十日
「はいぃ……『コボルトスパイス』は一人当たり三個なので、えっと十八個……ぶっ……」
ランディは、コボルトスパイスと呼ばれるペットボトルに似た形状をした物を次々とマリアンヌの前に置き出した。
「…………十六、十七、はい十八個」
「ランデイヤさん、驚かし過ぎです。あなた方はいったいどうやったらそんなにドロップアイテムを集められるんですかっ!」
詳しく説明はしないが、コボルトスパイスとは、調味料の入った容器で、その容器は中身が空になると消滅する特殊な入れ物で、複製が出来ないのは、この世界では常識であった。
他にも回復ポーションなど、地下迷宮で入手した容器は使用後に消滅してしまう。
「はい……『☆コボルトスパイス』クエスト達成です」
(やられました、またこのパーティに度肝を抜かれました……私、寿命が縮んだかもしれません)
「じゃマリさん、次は『☆スライムゼリー』を受注しますね」
「はい、『☆スライムゼリー』を受注しましたけど……まさか、まさかよね?」
マリアンヌは道具袋に手を突っ込んでいるランディに、戦慄した。
(やめて、ねえやめて……嘘だといって、袋から出すのはきっと花束よ……そうでしょ?)
しかし、マリアンヌの目の前には、スライムゼリーが次々と置かれている。
「イヤァァァァァ!! うそよっ嘘だと言ってよ、なんで、あり得ない事がポンポンおきるのよ~~っ!!」
……
…………
「取り乱して、すみませんでした……」
瞳を赤くしたマリアンヌは、今日だけで五つのクエストを処理していた。
(えっと『迷い猫』と『スライムゼリー』が二回、『コボルトスパイス』に『特薬キノコ』一度じゃ計算しきれない……)
マリアンヌは、あまりにも銅貨の報酬が多いので、助っ人を呼んで計算した。
「ランデイヤさん、今回のクエスト報酬は、銅貨が二百八十枚と、銀貨が十二枚なんですが、銅貨の支払いが多いので、銅貨八十枚、銀貨十二枚、金貨二枚にして報酬を払います。あとランデイヤさん、休憩はしっかり取ってくださいね。ランディパーティは五点貯まりましたので、Fランクになるための得点の半分を集めました。 ……はぁこの調子なら後、二・三日で資格を手にしますね……ガンバッテクダサイ……」
マリアンヌ最後の言葉は、全く気持ちが入っていなかった。
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ランディはクリエイトフードフリーを使い大量の野菜をエフィスにあげた。
最初は遠慮がちだったエフィスも、ランディの押しが強く、結局ランディ甘えて、食材を貰うことにした。
『これなら、高いけど……あの調味料が買えるわね』と上機嫌だった。
夕食を作っていた、エフィスとアハットが驚きの悲鳴を上げていた。
エフィスたちは、食材使いどころを探るために、柔らかい物はそのまま食べて、味見をしていたのだった。
この世界の食材も決して悪い物ではないが、ランディの出した食材は、日本で品種改良を何十年も費やして、たどり着いた食材である。
そんな食材が、この世界の素の食材、に劣るわけが無い。
ランディはそれをネット通販で購入して食べたことがあったのだ。
……
…………
みんなで二つのテーブルを取り囲み、食事をしていると、シャニムがランディに話しかけた。
「ねぇ、なんで……ひなたさんのだけ、夕食を食べさせてあげないの?」
ひなたの前だけは、ランディの呪文で召喚した、肉だけが置いてあった。
そして、そのまま出すのは忍びないとランディが感じて、軽く炙ったり、こんがりと焼いたり、グツグツと煮立てて、ひなたに上げていたのだ。
しかし、シャニムの目には、ひなただけがランディに意地悪をされていると感じたのだ。
「シャニムだっけか……私はちゃんと夕食を食べているぞぉ」
「違うの、なんでひなたさんが、意地悪をされているの? 」
と、ひなたの皿を指差す。
「…………シャニム、今から言うことは嘘じゃないからね……」
久しぶりに、真顔になったひなたは、語り出す。
ひなたは、突然不治の病に患い、人が食べる食事が食べられなくなり、怪我も自然治癒をしない肉体になってしまった。
と説明した。
もう、死を待つしか無い私を救ってくれたのは、ランディだった。
彼は、不思議な魔法で私の怪我も治せるし、食べても食べても吐いてしまう私に、美味しく食べられる食材も出してくれたの。
私は、ランディの愛と優しさによって生きていられるのよ。
と語った。
事情を完全に把握している、香織、マーニャも、もちろんだが、八割がたしか理解していない、リリスとカミーラも、顔付きが神妙になった。
「あっ……」
シャニムは、自分の考えの浅さを恥じた。
「わ、私……そんな……知らなくて…………ごめんない」
ガタッ……
席を立って走り去ろうとしたシャニムだが、高速移動したカミーラに、肩を押さえられた。
「シャニムとやら、本当に詫びたいのなら、この場は笑顔で、この料理は美味しいね、と誉めながら談笑するが良い……主殿はそれが一番喜ぶ人なのじゃ……」
「……うん……ぐすっ…………」
それから、談笑こそ無かったが、この部屋の雰囲気は、温かい何かに包まれている様だった。
そうして、一日がまた終わった。
~ランディパーティの懐事情……金貨二十二枚、銀貨十二枚、銅貨八十枚~




