138#大都市テトヴォー
盗賊に襲われていた親子四人だったが、母親の服を破いていた盗賊が、突然吹き飛んでいった。
「な、なんだ? ごばぁぁぁぁ」
二人目の盗賊も倒れて転がる。
「ぶごぉぉぉぉ」
「ごぎゃぁぁぁぁ」
「ごぶっ!!」
「あべし!」
「たわば!」
「たらばがに!!」
次々と謎の攻撃に倒れ行く盗賊たち。
盗賊の八割が戦闘不能になった辺りで、ようやく盗賊は石の出所が解ったようだ。
その方向には、石を投げていた二人の女性に、一人の男性…………香織・カミーラ・ランディだった。
そして、マーニャとリリスが、盗賊の方に走っていた。
ランディが女性陣に合図する。
「マジックストーン部隊待機、魔法攻撃開始!」
盗賊とランディ達の中間位置にいる、マーニャ・リリスは攻撃魔法を使った。
「いっけぇぇぇ! 火炎弾!」
「我が力、魔の下に凝縮し魔光となり弾けよ。魔光破」
「火弾、火弾、火弾、もえろぉっ火炎弾!」
「光を束ね弾けよ。光破!」
完全にオーバーキルだった。
そして、今回何もしてないひなたが、ランディに寄り添い、
「女の敵は、オーバーキルに限るなぁ……ねぇランディ?」
「う、うん…………(これからは女湯を覗くの自重しないと……)」
「何か言ったかぁ?」
「イヤ……ナニモイッテマセン……」
ランディが倒れた盗賊の近くまで行くと、意識を刈り取られただけのダメージの少ない盗賊を見つけた。
盗賊はランディを見るなり、叫んだ。
「な、なんだテメェ等は!」
「そうですね……武器も持たない少女を殴ったでしょ? 見過ごせないよね?」
盗賊は現状も忘れて、ランディに喰ってかかる。
「テメェらには関係ねぇじゃんかっ!」
ランディはにっこりと微笑んで、
「うん、関係ないか……だから何か? それで君運命が変わるの? さあ出番だよ、ピコピコハンマー」
『主人……ぴこっとはんまあ……』
【第六位契約神器ぴこっとはんまぁ】は、自分の名を間違えてる事に抗議するが、ランディは聞いていない様だった。
「でもさ、君はラッキーだよ。僕の武器は殺傷能力が無いから安心して殴られていいから……どぉりゃゃゃゃゃ!!」
ボガン!
「ぐあぁぁぁ」
ドガン!
「うぎゃゃゃ」
バガン!
「ほぎゃぁぁ」
……
…………
十分後……
「た、助けてくれ! もう殴らないでくれぇ!」
ランディが使用する武器、【ぴこっとはんまぁ】は殴れば、大木槌に叩かれた様な強烈な痛みを受けるが、生命に関わるダメージは皆無と言う、不思議な武器なのである。
「たかだか百二十回殴られたくらいで情けない……」
ランディと、タップリと殴られている盗賊の様子をみて、ランディの仲間達はまったりと会話をしていた。
「なぁ、香織ぃ……多分だけど、香織の投げた石で死んだ盗賊が一番ラッキーだったと思うなぁ」
「そうじゃな……あの距離で全弾、頭部に命中させるとは、ワシも驚いたのじゃ」
「そうかな? 私、ランディの役にたってる?」
「あ~あ、正妻がのろけてますよ」
「ん? のろけって何?」
ひなた・カミーラ・香織・マーニャ・リリスの順だ。
ようやくランディのお仕置きが中断して、盗賊に話しかける。
「助けて欲しい? 良いよ、これで許して上げる……けど、その前に質問。君さぁ『助けてくれ』って言われた時、今まで何人くらい助けて、何人くらい見捨てた?」
「えっ?」
盗賊が呆然としている。
「何人いましたか?」
盗賊はランディの笑顔の裏に冷たい物を感じ取った。
「た、助けてく、ぼぐぅっ!!」
再びランディの、お仕置きが始まった。
「あ~あ、本日一番不幸な盗賊は、この人で決定かぁ?」
「ねぇ、貴女達……もうちょっと待ってて、お兄ちゃんが、悪い人をコテンパンにやっつけてるからね」
「でも、ランディのお仕置きは、子供には刺激が強すぎるんじゃ……」
四人の親子は、助かった感動より、盗賊の阿鼻叫喚に、固まっていた。
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ランディ達は、四人の親子を盗賊から救い出したが、親子にとって数ある危機の1つを回避したにすぎない。
そして、三人の娘の内、上の二人はランディ達を信用してはいなかった。
そして、母親もランディ達に心底感謝をしている物の、この時世に無償で人助けなんか、あり得ないと認識している。
最悪、少ないお金を全て奪われ、足りなければ何処かに売られる可能性も捨てきれないでいた。
ランディ達を複雑な思いで見ていた母親に、ランディは話しかける。
「実は……」
ゴクリ……唾を飲む母親。
「実は……僕達、迷子なんだ」
「「「へ?」」」
母親、長女、次女が、すっとんきょうな声を出す。
「それでですね……恩着せがましくて申し訳ないんだけど、人が多く住んでいる町まで、案内を頼みたいんだ……助けてくれるかな?」
「「「………………」」」
「ねぇママ、ランディ兄ぃ兄ぃに助けて貰ったんだし、今度はシャロ達が助けてあげよう?」
末娘のシャロッシュは既にランディになついていた。
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道中、ランディ達は自己紹介をしあった。
母親の名前は『エフィス』。
十六歳の長女が『アハット』。
十三歳の次女が『シュニム』。
十歳の末娘が『シャロッシュ』だ。
ランディは、母親のから色々と話を聞いていた。
ランディの肩の上にはシャロッシュがいて、はしゃいでいた。
シャロッシュは、この世界のこの年齢にしては少々幼かった。
ここから一番近い町は、この国『ストマティア』で大変栄えてる都市の一つ『テトヴォー』だと言う。
この親子が、その『テトヴォー』出身と聞いて、色々と話を聞いた。
『テトヴォー』は都市と呼ばれるだけあって、規模は大きく『魔石』と呼ばれる資源の恩恵によって、大きく発展しているって事だった。
その魔石は、広大な地下迷宮にいるモンスターを倒すと、出現する資源らしい。
「魔石は、モンスターの死体から剥ぎ取るの?」
聞くと……
「迷宮のモンスターは、倒すと消滅して魔石になるんです」
と、エフィスは答えた。
「えっ?」
「しかも、たまにですが魔石以外のアイテムもドロップすることが有るんですよ……例えば……えっとぉ、ゴブリンは……ゴブリンの耳で、強いモンスターの、ライカンスロープとか言う種類は、回復薬をドロップするんです」
「…………!」
エフィスの説明を聞いていた、ランディの表情が固まる。
(魔石? ドロップアイテム? 回復薬? まるでゲームみたいな世界じゃないか……それにストマティア王国って、どうも聞き覚えが有るんだよな……)
ランディの表情の変化に気づかないエフィスは、さらに自分の知ってることを話す。
「ランディさんは、大きな町や、都市は初めてなのよね? 都市では魔石は色々な恩恵を与えてくれます。物を冷す、温める、明かりを灯したり、物を浮かせたり、武器、防具の強化にも使われる、万能の石なんです。そして、地下迷宮の有る都市を中心に栄えているんです」
ランディは、そこで一つ気になった事があったのでエフィスに聞いてみた。
「エフィスさん、なぜそんな便利な都市から、田舎に移り住んだんですか?」
エフィスは少し影を落とした顔になり、教えてくれた。
「地下迷宮の在る都市は、それはとても便利で、素晴らしいのですが……物価が高いんです。私達が以前住んでいた都市は、優れたスキルを持っていないと暮らし難いんです。後は命がけで地下迷宮で魔石を集めて稼ぐしか……それで私達が親子はこの都市で暮らし難くなりまして、都市に比べて不便になりますが、農業を家族で始めようと引っ越しましたの」
ランディは、旦那が居ない理由を、盗賊に殺されたのではなく、地下迷宮で命を落とした可能性も有ると思ったが、聞かない事にした。
「特技の無い人々は、農業を営んだ方が豊かにくらせるんですよ……地下迷宮も戦闘用のスキルが無いと余り稼げませんから……」
ランディは、地下迷宮の話を聞いている内に、自分も入りたくなってウズウズしていた。
エフィス達親子は、盗賊の支配から逃げるため、飲まず食わずで、都市にいく予定だったが、ランディ達が危険を排除してくれ、さらに食事も分けてくれたので、野宿をする事にした。
夜食も終わり、夜も更けてきた。
「それでは念のため、見張りはひなたんでお願いします」
「了解、まかせなぁ」
とひなたは、真面目な表情、軽い口調で答えた。
実はランディ達は、野宿をする場合、ひなたと、カミーラが交代で見張りをすると取り決めていた。
『エルダーゾンビ』ひなたと、『ノスフェラト』カミーラは、睡眠を必要としない種族だからだ。
だからといって、寝ようと意識すれば眠る事は出来るのだが…………
このやり取りを見て、アハットとシャニムは、ランディの評価を下げ、自分も奴隷にされるかも知れないと、警戒を強めていた。
翌日……
アハットとシャニムがランディを警戒していため、ランディは熟睡する事が出来ずに呪文の再取得は出来なかった。
ランディはこっそり用意したカロリー○イトで食事した後、都市『テトヴォー』に向かって歩き出した。
……
…………
時間が昼に差し掛かる少し前……ランディ達は目の前の景色に息を呑む。
「す、凄い……」
ランディ達は都市の入り口まで、まだ一時間以上かかる場所にいるのに、都市の大きさに圧倒されていた。
都市の端から端まで、余裕で半径十キロは有るであろう広さ、堅牢ではないが三重に構えられいる防壁……そして、中心部の密集した建物の多さ。
日本の都心部を知っているランディ・香織・マーニャ・ひなたでさえ、驚きに目を丸くしていた。
ここが、ストマティア王国の誇る二大都市の一角、人口10万人超、冒険者を2千人以上を擁し、無限の資源が取れると言われる地下迷宮を、2ヶ所も保有する大都市『テトヴォー』の姿だった。
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ランディの転生物語を書いてみました。
題名は『神級回復呪文使いが、転生したら……こうなった』
http://book1.adouzi.eu.org/n9057df/
です。
気になる方はどうぞ、って言うかミテ~~~。




