133#Bチーム【キンジの奮闘記】
アーサーさんが、(おれの読みでは)急いで戻りたいのを我慢している中、みんなに気を使って強歩程度で進んで行く。
拠点に着いたら、例の新築平屋一戸建てが二つ増えていたけど、カーズさんがいない……カーズさんは一体何処だ?
カーズさん……まさか、もう…………
すると、アーサーさんが、何かを見つけた様だ。
「あっち 何か 有る」
と、言ってから、飛んで行ってしまった。
目を凝らすと、確かに何が海に黒い物体が、見える気がする。
みんなも、おれの緊張が伝わっているのか、何処と無く怯えた表情だと思う。
くそ犬も、新参者の熊野郎も、黙って海を見続けていた。
暫くすると、黒い物体が大きくなってか来た……いや、近づいて来たんだ。
ゴクリ……おれは警戒しながらそれを見守る……
あっ、アーサーさん発見! そしてカーズさんも居た。
この状況について行けないが、二人とも無事みたいだ。
そして……その黒い物体はクジラだった。
「まあ……あれだけ大きいと、私一人の力では無理でしたね……」
もう、常識外れもいい加減にしてぇぇぇぇ!!
……
…………
事の顛末をカーズさんに聞いた。
クライミングツリーで出現した大木を、あっさり一戸建てに変えたカーズさんは、暇になって漁に出掛けたんだそうな。
そこで、偶然? クジラと遭遇。
ご馳走の出現に、はしゃいだカーズさんは、第7レベル呪文の『ドラゴニックサンダー』でオーバーキルした後、岸まで運ぼうとしたが、大物過ぎて動かせなかったらしい。
しかも潮の流れが沖に向かって流れていたから、アーサーさんに助けを求めたって事だ……
はぁ…………人騒がせな……カーズさんの救援信号なんて、魔王とかが来たのかと思ったぜ。
クジラの、解体ショーを見終わったら、カーズさんと、アーサーさんは、クジラの調理を女性三人組に任せて、サバイバルの生き残りを探しに行くって聞いた。
カーズさんの『運営に大金払わせる』作戦が始まった。
おれは、留守番だ……めっちゃ不安なんだけど……
「カーズさぁん、アーサーさぁん、早く帰ってきてくださぁぁぁい!」
おれは、声を大にして叫んだ。
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新潟夫妻の居る拠点付近は、ゴブリン達はやって来ていない……しかし、大蜘蛛が複数、拠点から見えるところに陣取っていた。
餌の気配でも、するのだろう……新潟夫妻は青ざめ、サバイバルゲームの生還を諦めかけた時、救いの魔の手がやって来た。
『救いの魔の手』とは正確な表現のはずだ……
あの大蜘蛛が、ダンボールを破り捨てるかの様に千切れて、散乱しているのだから。
大蜘蛛は、ものの二分弱で全滅してしまった。
「二名 生存 確認 保護 する」
大蜘蛛の身体の一部を食べながら、アーサーは、目玉をカーズに差し出す。
「やめなさい、私は緊急時以外は食べませんよ? それに、貴重な目玉はアーサーが食べなよ」
と、言いながら、拠点の扉を蹴破る。
中には、震えて抱き合っていた、新潟夫妻がいた。
それも当然と言えるだろう。
二メートルを超える巨漢が鉄棒を振り回し、大蜘蛛を惨殺したあと、そのまま食べていて、それを当たり前の様に見ていたもう一人が、たったの一蹴りで扉を蹴破ったのだから……
新潟夫妻のアーサーとカーズの第一印象は、地元のヤクザが可愛く感じられるくらい、恐ろしかったと言う。
結果、カーズは新潟夫妻の警戒を解くのに、一時間以上を費やした。
そして、新潟夫妻が落ち着きを取り戻した頃、アーサーが爆弾発言をした。
「お前 妊娠 してる 身体 いたわる」
普段なら、信じることの無い話なのだが、新潟秀次、新潟雅子ともに、最悪の想像をしたのだ。
そう、新潟雅子は心当たりが有った、有りすぎたのだ。
新潟秀次も、運営の用意した動画を思い出してしまった。
一気に、二人の取り巻く空気が悪くなる。
しかし、カーズとアーサーは、雰囲気が悪くなった事を歯牙にもかけない。
「アーサー、周期は判るか? それによっては、気を使わないとな……」
「ガル程 精度 無い 推定 妊娠 第一週」
「「えっ!?」」
「ははっ、ガルは受精日まで見切りますからね……って、サバイバルゲーム中にしてたの? 随分余裕だな……外敵の心配をしないのですか?」
カーズが少し呆れ顔で、新潟夫妻を見ていた。
「「えっ? えっ? ええっ!?」」
事態を飲み込めていない、新潟夫妻だった。
……
…………
私は、新潟秀次。
恐くて不思議な二人組に雅子が私の子を宿していると教えられた。
そんな、荒唐無稽な話を誰が信じるだろう、それよりも私は、あの男との子を身籠ったのかと疑った。
私は、不思議な存在感を発する、カーズさんにすべてを話した。
……
…………
するとカーズさんは、こう言ってきた。
「秀次さん、あなたは生爪何枚まで剥がして耐えられますか?」
「はぁ?」
「私達四人は十枚剥がされても余裕で耐えられますが、一般人は二、三枚剥がせば、心が折れるみたいですが」
そりゃそうだろう……剥がすぞと脅されるだけで、言うこと聞いてしまいそうだもんな……
「使い方にもよりますが、快楽の拷問とは、それを上回りますよ……雅子さんが、堕ちたと見えるのは精神の自己防衛ですよ……たった一度の過ち、許して差し上げなさい」
「そ、そんな簡単に……しかも、一度では……」
「一連の行動を一まとめにして、一度と言っているのです。秀次さんは、雅子さんに好かれていますよ? 自覚無いんですか?」
私は、雅子との情事を思い出す。
「…………」
「ならば、先の騙された件を切っ掛けに、成長しなさい…………いや、もう成長してますね? そうですか…………」
カーズさんは、何故、独りで納得してるのだろうか……
「秀次さん、あなたはこのゲームクリア後は、特権階級を選びなさい、雅子さんは五億。そして、それを利用して、事業を始めて、秀次さん夫婦を陥れた、『バカ社長』に制裁をしてあげましょう」
「私が事業!? だって私は……無能……」
「違いますよ、あなたは一般的に、天才と呼ばれる部類に入ります。まあ、兄さんと比べたら、ミジンコ程度の天才ですがね」
何を言っているんだこの人……
「多くの天才と呼ばれる者には欠陥が有ります。秀次さんは忘れ物とか、多くありませんか?」
「っ! 何で知って……」
「秀次さんのバカ社長は、使い方を誤りましたね。あなたは、トップ下のNo.2向きです。しかも欠陥を補う秘書が必要ですけど……良いですか、こうするんです………………」
……
…………
カーズさんの長い抗議が終わった。
何故か、彼の言うことに信頼が置ける。
カーズさんの案に従って、力を付けてあの男に復讐しよう。
その間雅子は、アーサーさんに片言で、励まされたらしい。
色々言われたらしいが、理解出来た話はこうだった。
「お前 経験 積んだ それだけ」
雅子は、この台詞で自分が深刻に考えているのが、馬鹿らしくなったと言う。
私達はその後、かなたさんとまどかさんが、別世界に逝ってしまったと聞いた。
きっと死んだ事を、言葉柔らかに言い換えたのだろう。
雅子と二人で、あの兄妹の分まで生き抜き頑張ることを誓った。
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何故カーズさんが居ない時に、こんなに敵がクルンダ?
おれ達は、十体近いゴブリンの集団に見つかった。
この数だど、くそ犬や熊野郎に任せても、手傷は負うだろう……
アーサーさんが、無傷のおれと、怪我をしたくそ犬&熊野郎を見てなんて言うだろう……
ヤバイ死ぬ、アーサーさんに修行と言う名目の死刑執行が行われてしまう。
それに……おれはカーズさんの一番弟子(自称)だぁ!
「くそ犬、熊野郎、 見てろ! 先輩の闘い方を!」
ゴブリンどもが、グギャグギャ言いながらやって来る。
~敵プロフィール~
ゴブリン レベル1×8
HP 66*68*70*61*60*66*65*69
棒術 G
装備 こん棒
ゴブリンソルジャー レベル5
HP 301
棒術 E
装備 こん棒 厚手の服
おれはマジックスクロールを取り出しだ。
そう、悪人の背中の皮で作ったあのスクロールだ。
「氷界より極寒の吐息を召喚し、此の地に向かい降り注げ……フロストサークル!」
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ゴブリンを中心に、超低温の衝撃が襲った。
ゴブリンは、ボスのソルジャーを除き、カチカチに凍り付き砕けてしまった。
残ったゴブリンソルジャーは、速度を上げキンジに向かって走った。
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うひゃぁ 一体、撃ち洩らしたぁ!
物凄い勢いで、襲ってくるゴブリン。
初撃は、何とか避けた。
避けるついでに、ダガーを振ったが掠めただけだ
ゴブリンも、おれの攻撃は見えてるらしい。
ゴブリンは体勢を崩しながらも、再び殴ってきた。
チッ……おれも完全に避けられなくて、こん棒が頬を掠めた……
掠めた箇所が熱く感じる。
このゴブリンの攻撃はゾンビよりも早くて上手い、何回も避けきれるもんじゃない……
やはり、数回の攻防で体勢を崩したおれは、ゴブリンの攻撃を受ける事になった。
分厚いローブと木の枝で防ぐ筈だったゴブリンの一撃は、俺に大きな痛みとダメージを与えた。
「ぐわあぁ」
だけど……だけどな……
「アーサーさんの手加減攻撃よりも軽いんだよぉ!! ……魔法の矢よ、敵を射て……マジックミサイル!」
おれの二発の光弾はゴブリンに命中する、おれはゴブリンがこれで死なないと仮定して、次の攻撃を仕掛けた。
おれの読み通り、ゴブリンはマジックミサイルで死ななかったが、相当効いたらしく、次のダガーの一撃をゴブリンはまともに受けた。
「グギャ……グギ…………ャ」
ゴブリンは動かなくなった。
しかし……ゴブリンの一撃を、まともに受けたけど……痛いだけで、おれの動きに影響は無い。
おれ……強くなってる?
「ワン、ワン、ワンッ!」×3
(お疲れ様でした、兄貴、強いんですねっ!)
「ゴウ、ゴフゥ、ガウ!」
(先輩を侮ってました、これからは、兄貴と呼ばせて下さい!)
こいつらの言葉は解んないが、おれを見ている瞳が以前と違う気がする……もしかしておれの素晴らしい闘いを見て尊敬したのか?
どうだっ、動物供! これがカーズさん達の一番弟子の力だ!
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実際は、マジックスクロールによる『フロストサークル』で犬と熊は完全に怯え、キンジの体術は理解していなかった。
~~~~
……
…………
そして、カーズさんとアーサーさんが、誰か二人を連れて帰ってきた。
「お帰りっすカーズさぁん、おれ頑張ってゴブリンを、撃退しましたよ! スゴいでしょ?」
するとカーズさんとアーサーさんは、周囲をキョロキョロしてから答えた。
「キンジ、雑魚相手にフロストサークル使ったの? がっかりだな……」
キビシィィ!
アーサーさんは、強敵だったゴブリンの腕を引き千切り、かぶりつく。
もっしゃもっしゃ……
あのぅ……アーサーさん?
「むっ? カーズ こいつ ゴブリン ソルジャー キンジ 荷が重い」
「ほう……前言撤回です、お詫びにライトガントレットとプロテクションリング+1をプレゼントしましょう……因みに、ライトガントレットは日本円計算で二十五万円くらいでね……」
「マジっすか? 有り難うございます!」
「プロテクションリング+1は二億五千万円相当だから、大切にして下さい?」
「にっ!?…………」
おれは、あまりの金額に気を失った。
「キンジ 気絶 笑える ハハハ」
……
…………
………………
こうして、おれ達は浜辺に三軒の家を中心に活動した…………ってヤシの実ジュースと鯨料理で、みんなでワイワイさわいで毎日宴会みたいだった。
朝は、元気にランニング。(おれだけ追加メニュー有り)
昼は、惣菜さがし。(メインの食材は、鯨。大量にあるし、痛んでもアーサーさんの『ピュリファイフード』で鮮度復活)
夜は、宴会。(カーズさんが個別に、これからの人生相談をしている)
そして、ある日…………大型船がこの島にやって来た。
そう、おれ達は『サバイバルゲーム』をクリアしたんだ。
新潟夫婦やマリ、ユリ、エリも嬉し涙を流している
アーサーさんも『オークキング』と言うメッチャ強いやつを倒して満足していたしね。
……でも、これだけ悪どい運営は、素直に金五億なんて渡すのかな? そんな心配をしてるのは、おれだけ? わずかな不安を胸にしまい、おれは大型船に乗り込んだ。




