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141#Aチーム【王神流】

 ランディは、香織たちにカミーラを暫定的な仲間にしたと伝えた後、今後の方針を決めた。


 カミーラから、聞いた情報では、サバイバルゲームで規定日数に達すると、大型無人船が島に来て、自動でガストブレイク社の本拠地近くまで、たどり着く様になっていると。


 カミーラの妹、サクラ殺害のメンバーは、カミーラに任せて、それ以外の重要人物は、裸に剥いて山芋を塗り付けるとランディは言った。


 奇しくも、ガルが実行していた事なのだが。

 そして、ガストブレイク社に、対するお仕置きとして、生存者を出来るだけ助け、会社に五億づつ支払わせると言う、ルールに沿った範囲での嫌がらせを発案したのだった。


「カミーラ、この島には僕達以外に、三人の参加者が居るんだね」


「その通りじゃ、ワシの役目はランディ達を妨害しつつ、その三人が不甲斐ないなら、助け……頑張っているなら、妨害する手はずじゃった」


「なるほど……なら、その三人には、ゲームの楽しさを損なわない範囲で協力しよう」


 ランディは、まだこのサバイバルゲームを、楽しむつもりでいた。



 香織達にも、カミーラの置かれた状況を簡単に、説明してあったが、ランディの軽い感じの言動に、マーニャとひなたが、『カミーラさんの事を、気づかって』と言っていたが、この軽い応対がランディ流の気づかい方だった。


「泣くときは、思いっきり泣き。遊ぶときは、めいいっぱい遊び。復讐するときは、ガッツリ復讐する……カミーラも、僕と行動するならそれを心掛けよう…………ウジウジしてる暇は与えませんよ?」


 当初、カミーラもランディの言葉に面食らったが、数日後には、カミーラにとって、『ランディ流気づかい』が良手だと気づく事になる。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 B島より、数日遅れて送り込まれたゴブリン軍団に、宮城陸は苦戦を強いられていた。


 初の遭遇では、ゴブリン二体だったため、宮城陸が、快勝したのだが、二度目の遭遇は、四体だった。


 福島葵と山形美月まで、守ることは出来ない。

 かと言って、この場で見捨てるわけにも行かず、拠点に戻り、籠城する結果となった。


 ゴブリンは、何故か拠点には攻め要らず、その数を倍にして拠点の回りをウロウロと徘徊していた。


 そして、備蓄の食料も少なくなって来た時…………


 ……

 …………


「ゴブリン発見! 」


 そこには、熊を背負ったランディと、五人の美少女がいた。


 香織、リリス、マーニャが、『ジェイソン』が持って来ていた、ダガーを装備。

 ひなたは、剣。

 カミーラは、リリスが持っていた槍を貰い、装備している。



 ランディは、八体のゴブリンを瞬時に分析して、戦闘開始の合図をした。


「香織ちゃん、リリスたん、マーニャは魔法無しで一人を相手にして。ひなたんは二人、カミーラはゴブリンの誘導及び三人!」


「「「うん!」」」

「わかったぁ」

「わかったのじゃ」


 カミーラは、ゴブリンをうまく分散するよう誘導しつつ技を放つ。

「王神流槍術、奥義、正!」

 ゴブリンの頭部に穴が空いた。


 ランディは、カミーラを見て確信する。

(おおっ、スゲェ……王神流って、ガルが使ってる剣術じゃないか……もしかしたらカミーラは武器攻撃は、かなり強いかも知れないな……それでも、この動きなら、負ける気はしないけどね……呪文を使えば)


 この中で、最も弱いと思われる香織とリリスも、ゴブリン相手に、危なげ無い戦いをしている。


 流石に、瞬殺と言う訳には行かなかったが、香織は無傷、リリスもかすり傷程度で、戦いを勝利に納めた。


 マーニャとひなたも、戦い方は我流で練度は低かったが、身体能力がずば抜けていて、二体のゴブリンをあっさりと倒した。


 カミーラは、軽やかなステップにフェイントを混ぜ、ゴブリンがカミーラによって、隙だらけになった所で渾身の一撃を喰らわすと、ゴブリンの上半身と、下半身は別れを告げた。


 ランディは、目をキラキラさせながら、

(完全にオーバーキルだな……切断に向かない槍で、ゴブリンを二つにするのは、並じゃ出来ない)

と感心していた。



 ……

 …………


 僅か数十秒で、戦いを終わらせてしまった。


 カミーラは戦いながら、みんなの戦いも観察していたようで、助言を始めた。


「ひなたと言ったな……剣は初めてか?」


「えっ? うん、あっ はい」


「そうか、非常に教えがいがあるの……ひなたなら一年かからず、王神流剣術の『下位』を習得出来るぞ」


「えっと……カミーラさん、その『王神流』って凄いんですか?」


 ひなたの言動は、他所行き仕様だった。


「ふっ……ひなた言葉遣いは、いつも通りで良いのじゃ……身体能力はワシと比べて半分以上もある……したがって、基礎を身に付ければ、直ぐに『王神流 』を名乗れる」


 カミーラのセリフにマーニャが、食いついてきた。

「カミーラさん、私は? 私は?」


「マーニャだったかの? そなたは、我流じゃな……しかし、スピード、パワー、初撃の入りは文句無しじゃのマーニャならその短剣がちょうど良い、王神流短剣術を習うが良い」


「えっ、カミーラさん、その王神流短剣術を教えてくれるのって、教えられるの?」

 マーニャの瞳は期待に満ちていた。


 すると、カミーラの瞳は急に優しいものになり、答えた。

「良いぞ、ワシはこう見えても、あの『王神流』の『上位』者じゃからの」


 すると、じっとカミーラを見ていたリリスの視線に気づく。

「そなたは……リリスじゃったかな?」


「うん!」


「リリスは、今見た限り無手の方が得意と見た」


 ランディが、いきなりリリスの素質を、看破した事に、驚く。


「なので、王神流下位を名乗れるのは難しい……でも、基礎を学んで悪いことは無いのじゃ、マーニャと一緒にやってみるか?」


「うんっ!」


「因みにある程度、基礎を学んだら、短剣の両手持ちにすると、攻撃の幅が広がるのじゃ」



 そして、カミーラは香織をみる。


「そなたは、香織じゃったの……香織は短剣を使っておったが、見る限り小剣の方が向いていると思うのじゃ…………それに……香織はもしかしたら、王神流の使い手に習った事があるのか?」


「あっ……もしかしてガル?」


 香織の言葉にランディも頷く。


「そうか、もし小剣が有れば、教えられたのじゃがの……」

 と少し残念そうだ。


 この時カミーラは、四人の女性それぞれに、妹のサクラと重ね合わせていた。


 佇まいは香織、瞳はマーニャ、返事の仕方はリリス、背格好はひなたと言う感じに……


「カミーラさん、カミーラさんは王神流でどのくらい強いの?」

 マーニャはこう言う話題が好きだ。


 そして、マーニャの質問に優しく応える。

「そうじゃの……王神流には、両手持ち用の『大剣術』一般的な『剣術』それに『短剣術』『大槍術』『槍術』『斧術』があるのじゃ…………そして基礎を習得すれば、『下位』を名乗れ、数多(あまた)ある奥義の内、一つでも習得すれば、『中位』を名乗れる」


「うん、それでカミーラさんは?」


「ワシは勿論『上位』じゃが、その『上位』は数字で階級を表すのじゃ、ランディ……一発ワシの奥義を受けてみるか? 」


「良いよ、まあ来ると解っていれば初撃なら避けられ……いや、受けてやるよ……第6レベル呪文……鋼皮LVⅡ。さあ、来なさい」


 ランディの気迫に触発されたカミーラは、手加減をする気が、消えて無くなった。

「ふふっ、血が沸くのじゃ……王神流第十一位、カミーラ・フォン・アルフシュタイン参る!」


 カミーラは、助走をつけてランディに斬り込む。

「王神流秘奥義、鬼人剣!」


 カミーラの槍は、左右に別れるように見え、ランディの両胴を襲った。


 ドン! ドン!


 カミーラの槍は、ランディの両手に当たり、カミーラは次の攻撃体制に入った。

 どうやら、カミーラの『鬼人剣』は瞬時に左右二連撃した後、次の攻撃体制に入る所までが、『形』なのだろう。


「なっ!? ……」

 カミーラは、連撃を両腕で防がれて、なお無傷のランディに驚愕した。


「痛ぁ……流石カミーラ……強烈な痛みだった」


「流石のカミーラさんも、ランディの不思議な呪文には勝てないかぁ……」


「ランディ……お主は化物じゃな……ワシの師匠の師匠も化物じゃったと聞くが、どちらが化物か試して見たいのじゃ」


 ランディも、カミーラの『師匠の師匠』に興味があったようで、聞いていた。

「カミーラの知ってる化物さんて、どんなの?」


「ワシは直接知らないが、王神流第八位の剣士で、三つ目の秘奥義、『流星剣』を使う、正真正銘の化物なのじゃ」


「それじゃ一位から七位ってどれだけ凄いのかな?」

 珍しく、香織がこの手の話題に、食い付いて来た。


「う~ん、ワシが思うに、五位からは空想上の理論じゃと考える。剣速や、剣圧を極めた状態で、さらに二倍、三倍も力を上げたり、斬撃を十メートル以上も飛ばす『魔神剣』や『真魔神剣』など実現など不可能じゃ……」


「ふぅん……でも、王神流って有名なのね……ガル以外の使い手を、初めて見たわ……ねぇランディ、ガルって、どのくらいの階級だったのかな?」

香織はランディを見る。


「う~ん、ガルの秘奥義なんて、記憶に無いかならなぁ……」

(でも、ペタストラムとバトルした時、それらしい五連撃を放っていたけど……アレかな?)



 カミーラもガルに興味が沸いた様で、

「ははっ、『奥義』はともかく『秘奥義』はそうそう習得出来る技じゃないのじゃ…………その、おぬし等の知り合いのガルとやらは『上位者』なのか?」


 その問にはリリスが答えた。

「うん、凄いよ。ガルの剣どころか、持ち手も見えなかったのよ……たしか『神速剣、刹那』って言ってたよ」


「んなっ? 『刹那』じゃと!?」

(バカな……神速剣、五段目の奥義じゃないか……ワシでも二段階目じゃと言うのに……)

 

「リリス、して……王力剣の方はどうじゃ?」


「うんとぉ……苦手って言ってた」


「そうか、そうじゃの……十位以下がそんな簡単に見つかる筈無いのじゃ……」


 ~~~~

 因みに余談ではあるが、カーズが王神流短剣術の第八位、ガルが王神流剣術の第六位、アーサーは王神剣術で、第一位である。

 ランディは未習得。

その中でガルは少々特殊で、奥義を使う際、技名を言葉にしない……ガルは隠密系なので当たり前なのだが、『王神流』は階級を名乗る、技名を言うのが常識になっている。

 第一位とは、王神流発祥の世界ですら、千年以上の長い歴史を誇る中、五人しか確認されていない。(アーサー含まず)

 ~~~~


 そんな話をしながら、ランディ達は、宮城陸達が籠城している、家の前までやって来た。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 宮城陸は、多数のゴブリンに囲まれて続けてしびれを切らす寸前だった。


 彼には、この状況を覆せるかもしれない手段が、一つだけ持っていた。


 それは、宮城陸一人だけこの場を、ゴブリン軍団から走って逃げて、福島美月、山形葵の二名を見捨てたと思わせてから、拠点付近に戻って、ゴブリンを各個撃破する。

 と言う作戦だったが、宮城自身、勝算が五分五分の作戦だった。


 しかし、このまま籠城していても、埒が開かない。

 宮城陸は憔悴している二人をチラ見してから、外の様子を、家の隙間から覗き見た。



「はぁ? 何だぁ?」


 宮城陸から見えたのは、熊を担いだ男の姿だった。

 宮城陸は、状況を把握する事も忘れ、外に飛び出して行った。


 後を追う、福島葵と山形美月。


 三人が外に出ると、そこにはランディと五人の女性が居た。


 宮城陸は、かつてないほど焦っていた。


 宮城陸は、喧嘩で負けた事が無い。

 理由の一つに、自分より数段強い者を直感で感じる能力が有るからだ。


 宮城陸は、熊にすら感じた事がない、圧倒的強者の気配を四つも感じ取っていた。


(駄目だ……打つ手が無ぇ……こいつらの目的は何だ?)


 そして、この中で空気の読めない福島美月が、

「すみません、どんな用事ですか? もしかして、仲間ですか?」

 と、笑みを浮かべた。


 山形葵はこの時、頭の中で、こう叫んだと言う。

『美月の大バカ者!! 十中八九略奪に決まってるじゃない! 三対六じゃいくら陸さんでも、勝ち目が……』

 しかし、山形葵の心配は、無駄に終わった。


「すいませ~~ん、熊を仕留めたんだけど、美味しく調理出来る人居る? 報酬は熊肉食べ放題なんだけど……」


 ランディの言葉に、宮城陸は盛大にズッコケたかったが、なんとか平静を装う事が出来た。

 そして、福島美月を見る。


「あの~、普通でいいなら、料理が出来ますけど、調味料が……」


 ランディは、カミーラを襲った刺客から奪った食料、調味料を出した。

「これで、行ける? 何せ、うちの姫様達と来たら……」

 ジト目で、香織達を見る。


 実は、マーニャとカミーラの料理は壊滅的で、香織とリリスは普通に下手で、まともだった筈のひなたは、味覚を失なった結果、味見が出来ずへたれ同然に成り下がっていた。

 この中では、ただ焼くだけのランディが一番上手いと言っても過言ではない。


 宮城陸は、ランディを警戒して、料理の報酬を、わざと吹っ掛けてみた。

 ランディの人柄を試すためであった。


「うん、僕より美味く出来たらそれで良いよ、僕らの食料、全ての均等配分しよう」

 元々ランディは、この三人に生き残って貰うのが目的だったので問題無かった。


 こうして、ランディは宮城陸率いるグループに溶け込む事になった。



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