140#Bチーム【救出】
ランディの出番はありません。
マリ・ユリ・エリの三人は、多数のゴブリンに襲われ、風前の灯火だった。
ゴブリンの、じっくりといたぶる様な攻撃で、マリに続いてエリも重傷を負ってしまった。
しかもマリとは違い、意識も無くビクン、ビクン、と痙攣していた。
抗う術も無いユリは、手を広げ二人を守る意思を見せる。
そんな姿を見てゴブリンは、手加減をしてユリをこん棒で殴った。
歯が三本も折れて、血を撒き散らし、倒れたユリだが、気丈にも両手を広げ、後ろの二人を庇う姿勢をとった。
マリはユリの姿をみて、泣き叫ぶ。
「ユリぃ! もうやめてぇぇ!! 動けない私達のために、犠牲にならないでっ!」
手加減をしたとは言え、泣き叫んで逃げる姿を、想像していたゴブリンは、機嫌が悪くなり、力一杯殴ることにした。
「ゴギャゴギャ……」
ゴブリンがこん棒を振りかぶり、マリはたまらず目をつむる。
だが、ユリは目を閉じなかった。
ゴブリンの降り下ろす、こん棒がスローに感じた。
ユリの脳は、一秒間を十秒間の様に感じるくらい覚醒していた。
ただ、それは別の光景も見えてしまう事になった。
突如、ゴブリンの頭上に、鉄製の棒が見えた。
その鉄棒は、ゴブリンの頭を『U』字に変形させ、目玉を飛ばし、首から胸、胸から腹、腹から腰へと移動して、ゴブリンを二つの肉塊に変えた。
一体、どれだけの力と速度があれば、そんな事が可能なのか……
割れた、ゴブリンの肉塊の間から見えたのは、身長二メートルを超える大男、アーサーだった。
「遅刻 した スマン」
助けが来た事を、理解したマリとユリは、同じ台詞で、アーサーを迎えた。
「「う、クズッ、お、遅いよう……」」
彼女らは、アーサーに遅いなんて、言う資格など無いのは解りきっていたが、手遅れのエリを思うと、そう言わずにはいられなかった。
アーサーは、手近なゴブリンの頭を吹き飛ばしながら、別の行動の呼び動作を行った。
「第1レベル呪文……神速……ライトヒール」
一瞬にして、エリの所に到達したアーサーは、回復呪文を使用した。
これにより、死にかけだったエリのHPは、八割方回復した。
完全回復しなかったのは、アーサーのクレリックとしてのレベルが低いのと、エリのHPが、殆ど0だったからだ。
「次は お前達 覚悟 しかた? 」
アーサーは、ゴブリンに向かって話しかけた。
痙攣していたエリが、急に動かなくなったので慌てて駆け寄ったが、綺麗な呼吸で眠っていただけなので、安堵してアーサーの方を見た。
しかし時既に遅く、まだ四体もいた筈のゴブリンは、全滅していた。
「えっ? ええっ!?」
素手で、あの鉄製の扉を壊すくらいだから、ゴブリンに負けないとは、思っていたけど、アーサーから目を離したのは、十秒も無い……
ちょっとよそ見したら、ゴブリンはもう……だったのだ。
数秒で、ゴブリンを全滅させたアーサーが、三人の前まで来た。
「回復呪文 もう 無い 応急処置 する」
……
…………
「「「ありがとうございました」」」
意識を取り戻したら、一番元気なのは死にかけていたエリだった。
「お前ら 守る 俺の 陣地 来る 明日には 三人とも 完璧 治す」
木の枝を使い、骨折箇所を押さえて、傷口に近くに生えていた薬草を貼り付け、痛み止めも、十数分で調合したアーサーに、感心するマリ・ユリ・エリの三人。
三人は、回復呪文でエリを治したアーサーに驚いたが、薬草・痛み止を作成した時に、不要になった素材と、近くに巣を張っていた蜘蛛をパクリと食べていたのを見て、もっと驚いていた。
アーサーは、エリを歩かせ、マリとユリを前後に抱き、この場所を後にした。
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「カーズさぁん…………って事は、あの二人を殺したんじゃなくて、赤ん坊にして何処かの世界に送ったって事ですか? 」
「だから、そうだと言ってるだろう? 理解が遅いな……ふぅ」
だって仕方ないじゃん……当たり前の様に、『転生させたから』って言われても、理解に苦しむよ。
しかし、おっかねぇな、第8レベル呪文は……
あれっ? でも……赤ん坊になったら、幸せになれるかどうかなんて、親次第じゃね? 聞いてみよう。
「カーズさぁん、でも赤ん坊からやり直したら、幸せになるかどうかなんて、親によるんじゃ……」
「うん、正解。だからなるべく平和で、娯楽の有る世界に送った」
「ええっ!? カーズさんって、そんな色々な世界に、転生できるんですか? もう、神様じゃん」
おれ、の言葉に珍しく困った顔をしたカーズさん。
「いや、私が送れる世界は七つくらいだ……それ以上必要ないし……今回は本国に送った……」
「えっ? えっ!? ええっ~~~~~~!」
今何? 『本国』って言ったよね? ドユコト?
「ちょちょちょちょちょちょちょちょちょ……」
「落ち着けキンジ」
バシッ!
痛い……殴られました。
「カーズさぁん、本国ってなんすか? まさか根なし草の、カーズさん達にも家と家族が有ったりするんですか?」
そうだよな、カーズさんとアーサーさんに、親子や帰る家が有っても不思議じゃないよな。
「家族? いないな……カレアスの秘宝の影響で手に入れた大地を使って『帝国』を創ったんだ……帝王は建国時からいないし、私達大公も行方不明の、とんでも国家だけどなぁ……」
「………………」
聞かなかった事にしよう。
……
…………
拠点に戻ると、弟分のくそ犬どもが待っていた。
「わん、わん! わんっ?」×3
(ダメ兄貴、おかえりっす! ご主人様は?)×3
「アーサーさんは、お土産もってそのうち帰ってくるよ」
何を言ってるか解らないが、くそ犬どもに、話しかけた。
「キンジ、犬と意思疏通が出来るのか? さすが(同類?)」
「仲間じゃなぃっす」
犬の言葉は解らなくても、カーズさんの心の声は聞こえましたよ。
……
…………
暫く待っていたら、アーサーさんが帰ってきました。
「ただいま 土産 連れて来た」
あっ、マリ・ユリ・エリの三人だ……うち二人は結構な怪我をしている……アーサーさん回復呪文使わないの?
「アーサーさぁん、もしかして、回復呪文使いきったんですか? 」
「キンジ 正解 今回 ライトヒール 一回だけ」
ふうん……一体アーサーさんは、日にいくつまで使えるんだろう……
「明日は回復呪文、何回覚えるんですか。」
「ライトヒール 四回 クリエイトウォーター 一回 クリエイトフード 一回 ヒール 二回 ライトキュア 一回 シリアスヒール 一回 シリアスキュア 一回 回復系 覚える」
なるほど、 アーサーさんのクレリック呪文は、第1レベル五回、第2レベル三回、第3レベル二回、第4レベル一回って事ね。
思ったより少ないけど……本職が戦士だから、これでも異常だよな。
「私は『クライミングツリー』以外は、平常モードかな……」
うえっ? カーズさんが『クライミングツリー』を、使うんすか? 一体何本出るんだろう……
……
…………
翌日……
マリ・ユリ・エリの三人に、ライトヒールをかけて完全回復させた後、カーズさんが女性三人のために家を作るらしい……
「第2レベル呪文……クライミングツリー」
うひゃあぁぁぁぁ!!
バカデカイ木が、七本も出たぁ!!
「凄いっす、カーズさぁん、凄いっす これが極めたクライミングツリーっすか……」
「いや、キンジ……クライミングツリーの最大値は、十本だ。不要だから加減したんだ。」
おれと、アーサーさんで三本なのに……カーズさんやっぱスゲー……おれも、いつかはカーズさんみたいになりたい!
カーズさんの家造りを見学しようと思ったら、アーサーさんに、食材探しに連れていかれた。
今回の食材回収員は、 マリ・ユリ・エリ・くそ犬・おれとアーサーさんと大所帯だ。
今回、カーズさんの助言のお陰で、昆虫類はアーサーさんだけが食べる事になって、女性用に、小動物を見つけろって言っていた。
さすがカーズさん、まじで助かる。
しばらく、散策していると、大きな熊と遭遇した。
「小動物 発見 食べる」
はいっ! ダウトォォォ!! アーサーさんの物言いに突っ込みを入れる。
二メートル超える熊に『小動物』とか、いきなり『食べる』とか、非常識も大概にお願いしますよ? 今回は、一般人もいるんだから。
熊は、アーサーさんを見て、猛然と突っ込んで来た。
さすがは、熊だ……あのアーサーさんと、戦うつもりらしい。
しかしおれは、またしてもあり得ない光景を見ることになった。
その姿とは、熊の『スライディング土下座』だった。
何それ? 普通勝てないなら、腹とか見せてクゥンクゥン鳴くよね?
土下座って何? 人間臭いよ? お前。
「お前 ペットに なりたい のか?」
熊野郎は、土下座の姿勢を維持しながら頭を縦に振っている。
えっと、基本ね……熊はさ、人の言葉をさ、理解しちゃ行けないと思うんだよ……
「お前、ちょっとだけ 腕力 有る でも 犬 キンジ の 後輩 それでも いいか? ダメなら お前 晩御飯」
一生懸命、コクコクと頷く熊野郎。
こうして熊野郎は、おれとくそ犬の後輩になった。
本当は熊の着ぐるみを着た、大男なんじゃね?
……
…………
はぁ、もっと馬鹿で、でかくて、旨そうな、動物なんて、いないもんかな……
大物を、見つけることが出来ずに、時間ばかり過ぎて行く……すると……たぶんだけど、カーズさんのいる方向から、爆発音が聞こえた。
これは、カーズさんの『ファイヤーボール』?
おれの予想は、以外にも当たってしまった……そう……アーサーさんの予想外な言葉を貰って……
「ファイヤーボール カーズ 救援信号 カーズ ピンチ」
ええつ!? カーズさんがピンチって、一体この島で、何が起きたんだ?
おれは不覚にも、足がカクカクと笑っていた。




