139#魔剣ガル、始動
ランディを含む人外四人衆の一人であるガルは、二つの禁じ手を持っている。
一つは『神刀アマテラス』
これは、意思の有した神刀で、ガル曰く相性が悪い(実のところ相性抜群)ので、自ら禁じ手にしている。
もう一つは『マヤの分体』
これは、電脳生命体『マヤ』の能力を一部複製したものだが、これを安易に使うと、カーズに怒られるのだ。
それほど、情報通信が存在している世界では、反則と言えるほど、凶悪な擬似生命体なのである。
したがって、カーズがガミガミ煩いから、禁じ手となった。
そのガルは、
「今回はバレ無いと思うから、いっかぁ……」
とパソコンの前で、『マヤの分体』を使った。
するとパソコンから、音声が流れてきた。
《おはよう、魔剣ガル……私が必要な事態とは、何事でしょうか?》
「この施設で『サクラ』と言う実験体の事を詳しく知りたい」
《了解です、魔剣ガル……その前に、この施設全体を掌握しますので、256秒お待ちを……》
……
…………
《掌握しました。 これで私達が、何をしても外部に漏れることは有りません…………》
ガルは、『マヤの分体』にサクラ・フォン・アルフシュタインと姉のカミーラ・フォン・アルフシュタインの顛末を聞いた。
「まさか、そんな卑劣な会社だったか……予想以上だな。俺様やランディ達も騙して、実験動物にしようとは……死刑確定……」
《そんな事より、ランディ様の傍らに女性が四人もいるのですが、一体何が……》
「ああ、マヤも突っ込み処はそれか……ランディはあれで、楽しそうだから問題ない……」
《カーズ様とアーサー様もキンジと言う下等生物を楽しく飼っているようです……理解不能》
既に『マヤの分体』は、現在のランディ、アーサー、カーズを調べ終わった様だ。
「あの二人に気に入られる雑魚とは、どんなだろな……って、何で俺様だけ呼び捨て?」
《そうプログラムされています》
「おかしいよね? マヤの直轄上司は俺様だよ? おかしいよね?」
《そうプログラムされています……》
「くっそおっ! ……いや、俺様の事より今回の主犯、江屈巣常務と研究室長をこの建物に迎え入れろ、サクラの人体実験に関与した者は、残らず殺す。それ以外は、裸に剥いて正座させる」
《了解です、魔剣ガル……サクラ・フォン・アルフシュタイン殺害に関与した者の内、六名がこの施設にいませんので、呼び出しをかけました……数日中には、全て私の手中に収まります》
「仕事が早いな……」
《あと、数体ほど非常識な強さを持った、生命体が居る様です……さらに、私設軍隊も三十人ほど常駐していますから、その相手は魔剣ガル、あなたの出番です》
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◇ガストブレイク社-研究棟-地下五階◇
ドガガガガッ!
ガルは、ガストブレイク社の私設軍隊と交戦中だった。
「なんでこうなった?」
《ガル、地下九階には研究室長とキリングマシーン、地下十階には、江屈巣常務とゴライアンを配置しました。頑張って下さい》
「もっと、楽な方法が有るんじゃねぇの?」
《因みに、ガルの居場所は何故か、敵に筒抜けになっています》
「犯人、お前しかいないじゃん!」
《ガル、ガンバレ》
「すでに完全に呼び捨てだし……」
《敬称は月に四回までとプログラムされています……もう四回使用しました》
「……『魔剣』って敬称だったのか……」
ガルは、多数の私設兵と警備ロボットを相手に交戦中だった。
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江屈巣乗務は、研究棟からの、緊急事態の連絡を受け、研究棟に急いで来たのだが、様子がおかしかった。
先ずエレベーターに乗ったら、何もしていないのに地下十階まで勝手に降りていった。
事態を把握しようにも、外部に連絡が取れない。
しかし、所内の機能はある程度操作が可能だった。
この事態の原因は、この研究棟にイレギュラー召喚された『ガル』と言う男の仕業だった。
しかし、一体どうやってこの最新設備を乗っ取ったんだ……
しかし、私は少しだけ待てばいいのだ……この研究棟の戦力は万全だ。
しかも、研究棟が乗っ取られたなら、直ぐに本部が動く。
さらに、一日で解決出来ない事態なら、国が動くからな……
フッ、バカな奴よ……
……
…………
………………
しかし、あれから数日経っても、救援は来ない……
本部は、国は何をしてるんだ!
そして『ガル』とやらは、一日毎に一階下層に降りてきている。
どうやら、地下十階の管制システムまでは、掌握されていない……地下二階の『エスケープ・サバイバルゲーム』担当の所員が、トランクス一枚で仕事に従事している……いや、室長だけは、荒縄で縛られて山芋を塗られていた。
もしかして、あいつについた嘘がバレて、怒らせたのかもしれない……面倒な事になったな……
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しかし、江屈巣常務の余裕は、ガルが地下五階まで降りたところで、消え去ってしまった。
地下四階まで不殺を貫いていたガルは、地下五階から豹変して、サクラ殺害の関係者を、片っ端から残酷に始末していたからだ。
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あの男は、地下九階まで来ていた。
不味い……このままでは殺される……何か出来ることはないか……
しかし、一週間以上、外部と連絡が取れないのに、何故本部や、国は動かないんだ? 外は何が有ったんだ?
ん? 地下九階に、開発が完了したばかりの『キリングマシーン』が有るじゃないか……何故地下九階に……?
しかし、これは幸運だったな……ここからでも、『キリングマシーン』を起動できる様だ。
カタカタカタカタ……
「よしっ、キリングマシーン、起動! ……キリングマシーンよ、侵入者を排除しろ!」
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『ガル、キリングマシーンが来ます……頑張って下さいね……』
「いや、その機械ちゃんは、支配下に置こうよ? 朝飯前だろ?」
『私は、食事を採りませんので……』
「ああっ! もうコイツ嫌い! むっ、来たか?」
キリングマシーンは、巨大なカッターを装備して、ガルに襲いかかってきた。
今までの私設兵や警備ロボットは、主に銃器を使用していたので、飛び道具無効のガルには、イージーな闘いだった。
ギィィィン!
キリングマシーンの武器は壁を削るくらい威力の有るものだった。
「おお……まともに喰らったら、危ねぇな……よし、雷神剣を使おう…………東方の神々よ、我が剣に宿りて……雷神!」
バリバリバリッ!
ガルの放った電撃で動きが止まるはずの、キリングマシーンはガルの首を跳ねた。
だが、それは残像で間一髪、キリングマシーンの攻撃を避けていた。
「機械のクセに、電撃が効かねぇのかよ……しかも、殺気や予備動作が無いから避けづれぇ……」
この闘いは傍から見ていると、キリングマシーンの猛攻に、必死になって逃げている様に見える。
しかし、実際は『皮を切らせて、身を切り刻む』闘いだった。
きっと、この様子を見ている江屈巣常務は、大いに歓んでいる事だろう。
ガルの切り傷が、血で目立つようになった時、キリングマシーンは、バラバラになって破壊された。
『ガル、お見事……奥の部屋のロックを外しました、研究室長が中に居ますよ』
「俺様は、ゲームのキャラかい……まあ、良い……おい! マヤ……音声は向こうに繋がっているか?」
『今、接続しました……どうぞ』
「おい、変態エックス! 研究室長のお仕置きの準備が終わったら、次はお前だ……サクラと同じ事をしてやるから、期待してよろ!」
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来てしまう……あの化物が来てしまう。
江屈巣は焦っていた……無理もないあのキリングマシーン相手に、その半分にも満たない長さの短剣で、血を撒き散らしながら、キリングマシーンを破壊した化物の姿を思い出していた。
それは、モニター越しでも、充分江屈巣を恐怖に落とし入れる事が出来た。
「何か、ないか……何が…………あっ、何故これが? ……いや、そんな事はもういい……コイツがいれば、私は助かる! 」
江屈巣は、幾つか機械を操作して、高らかに叫ぶ。
「ゆけ! ゴライアン!! あの化物を犯して喰ってしまえ!」
……
…………
………………
江屈巣とゴライアンの前に、小型のスピーカーを懐に入れているガルが現れた。
「くくっ、やっと来たか化物め、だが化物同士なら、私のペットのゴライアンの方が上だ、やってしまえゴライアン!」
「ごあぁぁぁぁぁぁ!!」
『ガルこれが、ラスボスです。かなり強いので頑張って下さい』
「ん? おっ! 『リビドーモンキー』じゃないか……三日間やりまくって、耐えられた者だけを伴侶にするって言う……コイツのキ○タマ、良い薬になるんだ……いただきだな……」
ガルは、一瞬でクロスボウを取り出し、発射した。
ボウガンの矢は、ゴライアンに命中したが、ゴライアンは堪えた様子は見られない。
ガルに、急接近して掴みかかる。
ガルは余裕で、ゴライアンの腕を掻い潜り、抜刀した。
「ギョエェェェェェ!!」
ガルが抜刀した剣は、六王剣が一つ『獣王剣』日本刀脇差しサイズで、対獣戦に凄まじい威力を発揮する。
「ん? 傷が、塞がる?」
ゴライアンの傷が、ゆっくりと塞がって行く……
「リビドーモンキーに再生能力だと!?」
《ガル、この生き物は、サクラの細胞を使って出来た亜種です。しかも、江屈巣常務の血を混ぜた事により、彼の頼みを、ある程度聞けるようになりました。恐らく、身内だと誤認してるのでしょう……因みにサクラの正体は、88%の確率でノスフェラトでしょう》
「ちっ、ノスフェラトが混じってるのか……獣王剣でも、充分勝てそうだが……今回はあれを使おう……」
「殺れぇぇ! ゴライアン! 調子に乗った化物を血祭りに上げろぉ!!」
ガルから受けた傷が、再生しているのを見て、江屈巣は勝利を確信した。
「調子に乗ってねぇよ…… 出よ、『神刀アマテラス』!」
ガルが引き抜いた剣は、余程の事が無い限り、使用しない筈の剣だった。
『ギャーハッハッハッハァ! 俺様、満を持して参上!』
ゴラ「ゴフ?」
えく「なっ?」
マヤ《えっ?》
江屈巣常務だけでなく、ゴライアンとマヤまで、剣が喋っている状況に驚く。
『よう、魂の相棒ガル、この場で俺様を使うとは英断だな……急いでるんだろ? さあ行くぞ、今回のお題は「ロリ妻求む」を三回、三十三デシベル以上の音圧で叫べ』
「チックショウ……やっぱり喚ばなければ良かった……しくしく……ロリ妻求む! ロリ妻求む!! ロリ妻求む!!!」
『全て三十三デシベルぴったり……流石は、魂の相棒ガル。これで、俺様を縛る枷は解かれた。行けい!』
ここからは、圧倒的な戦いになった。
理由は二つ。
一つは、『アマテラス』の神気に当てられ、ゴライアンの動きが悪くなっていた。
もう一つは、ゴライアンの再生能力がかなり鈍くなってしまったからだ。
最後にゴライアンは、江屈巣常務の後ろに隠れる様に、逃げた。
「な、何をしている、ゴライアン!? は、早くあの化物を、殺せ!」
『ぎゃーはっはっはっ、このリビドーモンキー、このオッサンを兄貴と勘違いしてやがるぜ。そうだ、兄貴に責任を取らせよう!』
その瞬間、江屈巣常務は、ガルの手刀により、意識を刈り取られた。
「おい、サル! お前は特別に生かしておいてやる…………が、報酬は貰うぞ……」
『チョット待て、ガル! まさか、それをこの俺様でやるのか?』
ガルは獣王剣で、ゴライアンの『逸物』を切り取った。
「ギョエェェェェェ!! ……………………」
流石のゴライアンも、気を失った様だ。
「素材、確保」
『はぁぁぁぁぁ…………俺様を使ってあんな物を切るのかと思ったわ…………ほっ』
神刀アマテラスは、ほっとした言葉を洩らした。
「アマテラスには、他にやって貰う事が、有るからな」
《ガル? それは一体…………》
ガルの言葉の意味が、理解できない『マヤの分体』だったが、直ぐに理解する事になる。
ガルは何も無い空間を、『アマテラス』で素振りした。
《ぐあぁぁぁぁ!? ま、まさか……まさか……》
「はい、そのまさかだな……マヤよ……ちょっっっっと、調子に乗りすぎだな……」
『ぐあぁぁ……まさか、神刀を抜いたのは、この為…………』
マヤの分体は、非常に苦しそうな声を出している。
「学習しような、マヤ……何度も本体が痛い目にあったのは、記録済みだろ?」
《うぐぅ……痛いです……痛覚の存在しない私に、何故、これほどの痛みを……》
『ぎゃーはっはっはっ…………バカだなこいつは……お前の本体が、人間を核爆弾で、滅ぼそうとした時に、痛い目に合っただろう?』
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電脳生命体『マヤ』は計五回、人間は不要と自己学習して、人類に戦争を仕掛けた、未知のプログラムだった。
しかし、その五回とも、ランディ・カーズ・アーサーの三人に理不尽な程、痛い目に合っていたのだ。
そして現在は、ガルの配下として、別の世界の何処かで、活動中なのであった。
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そして、ガルとアマテラスのお仕置きを受けた、マヤの分体は、今後ガルにも、一目置く存在として、認識を改めた。
この、ガルとマヤの分体の騒動により、サクラ殺害に関与した人間は、二名を除き、この世を去った。
さらに、エスケープ・サバイバルゲームの担当者達は、望まぬゲームを強制させたとして、今後一ヶ月トランクス一枚の姿で、働く羽目になった。
……
…………
………………
そして、幾日か経過した、ある日。
《ガル様……オークキングの座標を特定しました。パンドラで召喚して、島に送り込めば、緊迫感が出ますよ? どうですか? 》
「よし、かなり物足りないが、アーサーの所にぶち込もう……あいつは俺様を放置しやがったからな」
次は、マヤの分体ではなく、ガルが調子に乗っている様だった。




