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133#Aチーム【野犬登場】

 ランディは、ヤシの実を見つめながら、暫く考えこんでいたが、突然手をポンと叩いて、大きめの石を大量に用意していた。


 香織・マーニャ・リリス・ひなたは、ランディをだまって見守っている。


 石と石をぶつけて、次々と砕いていくランディ。


 香織・マーニャ・ひなたはランディが何をするか理解したが、それでもヤシの実には通用しないと思っていた。

 リリスだけはランディの行動が理解できていないが、盲目的に信頼しているため、ワクワクしながら、ランディを見ていた。


 ランディは、砕かれた無数の石から鋭利になっている石を一つ拾い上げて呪文を唱えた。

「第2レベル呪文……ストライキング」


「「あっ……」」

 香織とマーニャは合点がいったようだ。


 ランディは石に魔法の追加効果を付与したのだった。


 ランディの持っている石は、一般のサバイバルナイフより、殺傷能力が高くなっていた。


 ヤシの実を強化した石で一部を割り、器用にペットボトルに注いでいく。


「うん、だいぶココナッツジュースが採れたね、若い実だったみたいです」


 ランディはヤシの実が熟すと、内部の水分が減っていくのを知っている様だ。


「なぁ、ランディ……さっき呪文を節約するって言ってなかったかぁ?」


 ひなたの突っ込みに、ランディは、

「確かに、節約しますけど……ここぞという場面で使えなきゃ、それこそ勿体ないよ?」


  「さすがランディ…………ねぇ、食べ頃の私を食べないのも、勿体ないと思わないかぁ?」


「こらっ! そこの四番目! 私を差し置いて、そう言うのは無し!」

 すかさず抗議するマーニャ。


 ランディはこの手の、仲の良い争いは無視する事にしている。

 何故なら、面倒だからだ。



 水分を抜き取ったヤシの実を、無理矢理Tシャツに詰めて持ち歩く。


 ランディ達一行は、海岸線に沿って南下を続ける。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 一方、


 宮城陸、山形葵、福島美月の三人は、雑木林を掻き分けて『五・3』の座標付近に到達した。


 そして、単純な造りの、木造の家を見つけた。


「陸さん、家があるよっ! これで野宿しないで済みますねっ」


「リクさん、早速なにか良いものがないか、見て来ます」


「あっ、おい……」

 宮城陸は無警戒に家の中に入った二人に呆れながら、自分も後を追った。


 家の中には雑な造りながらも、平屋2DKと言った感じになっている。


 そして、テーブルには一枚の紙と錆びた鉈、小振りの包丁に鍋、マッチに新聞紙の束が置いてあった。


 宮城はエスケープゲームを思い返していた。

(エスケープは、意地悪だが必ず救済方法があった。なのに、サバイバルは先に救済手段を提供してきた……恐らく後半……二週間過ぎた辺りから何か起きるかもな……)


「リク……さん?」


「ん? ああ……何でもない。とりあえず、紙に何が書いてあるか見るぞ」


『セイフティーゾーン・対応生物・熊、犬』

 と書かれていた。


 宮城は、改めて他の物品をみる。

 鉈は錆び錆びになっていて、薪を割るにも苦労しそうだ……武器として扱うなら、熊はもちろん、犬すら厳しい……

 次は包丁……鋭そうだが、刃渡りが短い上に、厚みがなく薄い……戦闘には使えそうにない……直ぐに折れてしまうだろう。


 本当によく考えている……

 それにマッチと新聞紙……かなりの量があるがそれでも毎日使えば二週間くらいしか持たないだろう。


 ひとまず安全と思われる拠点を見つけたから、次は葵が持っているカードの座標『二・2』に移動しながら、食料と水の確保を考えておくか……


「よし、移動するぞ、お前たちはどうする?」


「「…………」」


 めんどくさい……

「美月と葵はどうする?」


「「ついて行きますっ」」


 ……マジでめんどくせぇ。



 始めは、美月の方が俺に陸さん陸さん、と近寄ってきた。

 葵の方も『宮城さん』と言っていたのに、この島に上陸する頃には『リクさん』になっているし、しまいには自分の事を名前で呼べと言いやがる……

 はぁ……めんどくせぇ……


 ……

 …………

 ………………


 家から真っ直ぐ海岸に向かって、砂浜を北上する。

 海岸に出た時に、木の枝で目印を付けた。



 しばらく北上して、座標『一・1』に差し掛かったと思う……。

 陽の光りのおかげで何となく判る。


 そこで、南東に進路を切り替える……

 問題はうまく『二・2』にたどり着くかだ。

 仮にうまくたどり着いても、雑木の中で何かを見つけられるのか……


 案の定なかなか見つからない……

 暗くなる前に切り上げようと思ったら、葵が『見つけましたぁ!』と叫んでいる。


 おれは、この中でよく見つけたと感心しながら、

 葵の声の方に歩いていくと、その場に不自然な巨大なポールに、大きな旗がなびいていた。


「…………チョロすぎんぞ?」


 ポールの下には木箱が有り、二十個に小分けされた携帯食料と紙パックの水、ライター、着火材が入っていた。


 二十日分か……三人で分けたら、約一週間だ……やはり水と食料の確保は重要だな……


『キャッキャッ』と喜んでいる二人を無視して帰りは、木の実や山菜、茸を探しながら海岸に向かった。


 砂浜を等間隔の歩幅で南下する……

 6528歩、歩いた所で目印に辿り着いた。


 当然、誤差は有るだろうが、一歩辺り50㎝の歩幅で歩いたつもりだ。


 座標『二・1』から座標『五・1』まで約3264メートル……となると、地図の一マスは1088メートル……

 当然誤差だらけだろうから……大体1㎞でいいな、島の全体像が知りたかっただけだし……



 こうして陽が落ちる前に、拠点に着いたが、拾ってきた植物と茸、食べれるのか?


「なあ、この茸……焼けば安全に食べれるか?」


「陸さん、ダメです! 毒茸は焼いても毒茸ですっ! さらに、食用茸でも、火を通さないとお腹を壊しますよ」


 俺は今初めて、美月を連れて来て良かったと思った。


「すると、この草もダメか?」

 俺は柔らかそうな、山菜と思われる物を、美月に見せた。


「これは……たぶん『ニラ』ですね……独特の香りがします。あとは……『ふき』『うど』『こしあぶら』『わらび』『うるい』『しおで』……他は判りませんが、今言った物ならたぶん大丈夫です。念のため、少量で食して、体調を確認してから、本格的に食べると良いです」


 美月(こいつ)こんなに使えるやつだったのか……

 宮城陸は、良い意味で呆れていた。




 一方、山形葵は焦っていた。

 エスケープゲームでは、泣くか、おどおどするばかりで、真っ先に脱落しそうなあの福島美月が、リクさんの役に立っている。


 社会に出れば、圧倒的に私が優秀だと言えるのに、このサバイバルゲームでは、私だけがお荷物になっている。


 山形葵は無性に焦り出した。



 その日の夜は、携帯食料で食事をして一夜を明かした。


 地図~~宮城陸~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 軸 ─1 2 3 4 5 6 7 8 9 0

 ─ 海海 海 海 海 海 海 海 海 海 海

 一 海┏ ━ ━ ━ ━━━━━┓ 海

 二 海┃ 食 □ □ □ □ □ □ ┃ 海

 三 海┃ □ □ □ □ □ □ □ ┗ ┓海

 四 海┃ □ □ □ □ □ □ □ □ ┃海

 五 海┃ 林 家 □ □ □ □ □ □ ┃海

 六 海┃ 林 ┏ ━ ┓ □ □ □ □ ┃海

 七 海┗ ━ ┛ 海 ┃ □ □ □ □ ┃海

 八 海海 海 海 海 ┃ □ □ □ ┏ ┛海

 九 海┏ ━ ━ ━ ┛ □ □ □ ┃ 海

 零 海┗━━━━━━━━━┛ 海

 ─ 海海 海 海 海 海 海 海 海 海 海


 ━┃┏┓┛┗ =海岸線

 林=雑木林

 家=セイフティーゾーン

 食=食料


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 翌日、宮城陸達三人は、福島美月のカードに、記載されている『九・6』の座標に向かって探索を始めた。



 途中、綺麗な川を見つけたが、簡単に渡れるようになっていたので、苦もなく南下していった。


 だが、その後宮城陸達に試練が待っていた。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 運営は、サバイバルゲームのために野犬を解き放った。

 その野犬は餌もほとんど与えられずに、『A島』『B島』の双子島にそれぞれ数匹、送り込まれた。


 A島のある地点に一匹の野犬が彷徨いていた。

 この野犬は、狩の能力が低かったために、仲間に見放され、独りでさ迷っていたのだった。


 その野犬が、餓死を覚悟し始めた時、ある臭いを感じ取った。


 それは人の臭いだ……恨みのある人間の臭い……

 野犬は最後の力を振り絞って、臭いの元を辿っていった。


 そして、三人の人間を見つけた。

 慌てて走ったせいか、その内の一人に見つかる。

 野犬は三人を観察する……


 三人の人間は、野犬が知っている不思議な武器(麻酔銃)を持っていない。

 しかも、二人は怯えているように見える……

 残りの一人を噛み殺せば、確実に三人の食べ物にありつけるだろう……


 野犬は一人の男に向かって襲いかかった。

 宮城陸に向かって襲いかかった。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 宮城陸達は、突如野犬と遭遇した。


 やっぱな……サバイバルにしちゃあ、ヌル過ぎだと思ったぜ……


 だが、犬が一匹……落ち着いて対処すれば何とかなる!


「おい! 上着をくれっ、早く!」


 遅い来る野犬にブラックジャックで叩きつけたが、野犬は一時怯んだだけで、唸りを上げて宮城陸の隙を探している。


「リクさん!」


 宮城陸の叫びに、いち早く対応した山形葵は、自分の上着を宮城陸に渡した。


 宮城陸が一瞬、山形葵に向かって振り向いた時、野犬が飛びかかってきた。


 宮城陸は、素早く上着を右腕に巻き付け、野犬に噛ませ、持っていた包丁を、野犬の眼に突き刺した。


「ギャワァァァァン!!」


 その後、ブラックジャックでメッタ撃ちをして、宮城陸は野犬の退治に成功した。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 一方、ランディ一行は『九・2』で武器と火打石、油紙を『九・6』で携帯食料とライター、着火材を見つけ、『九・8』の座標付近で三匹の野犬と遭遇した。

 野犬等は餓えていた、ランディ達を食料と認識している様だ。

「「「グルルルルルゥ……」」」



「ランディ……」

 ぽつりと香織がランディに呼び掛ける。


 もちろん、ランディを心配してでは無い。

 ランディどうする? って聞きたかったのだが、ランディの表情を見て聞くのをやめた。

 ある程度想像出来たからだ。


 そして、ランディの言葉は香織のほぼ予想通りとなった。

「食料?」


「「グル?」」

「グルルルゥ……」


 ヒロインズ「………………」


「ふはははっ、食料自らやって来るなんて……僕ってラッキー! 世界は僕を中心に廻っている!数は三皿と物足りないが、手は抜かない!」



(三皿じゃなくて、三体!)×4

 今、香織・マーニャ・リリス・ひなたの四人の心が一つになった。


 ランディの異様な気配に、気づかなかった一匹の野犬が、ランディに飛びかかった。

 その野犬は脳天を樹に強く打ち付けられ、数瞬で四肢の間接をはずされた。


「一皿目、確保!」


 ランディの声を切っ掛けに、餓えている筈の野犬は 、一目散に逃げ出した。

「キャイ~ン」

「キャンキャンキャンキャン!」


「逃がすかっ!」


 ……

 …………

 ………………


「くっそう……一皿取り逃がした……」

 ランディは気絶している野犬を引きずり帰ってきた。

「なぁ、香織……人間って犬より速く走れるかぁ?」

「ううん……無理よ……」

「でも、ガルに遅いって言われたよね?」

「リリス、短距離はガルさんより遅いけど、五千メートル走や百キロの荷物持って走らせたらお兄ちゃんの方が速いよ」

「はぁ……凄い人にプロポーズされちゃったなぁ」


 沈黙を決め込んでいたランディも、さすがに抗議する。

「いや、してないし……それより一皿逃がしたのが悔しい……みんなゴメン」


 途中、ランディに追い付かれそうになった野犬は、二手に別れて逃げた。

 そのお陰で、一匹はランディの毒牙から逃げる事に成功したのだった。



「ねぇ、その犬……本当に食べるの?」

 香織が困った顔で聞いている。


「運営の好意を無には出来ないよ……しっかり感謝して食べましょう」

 ランディは気絶している二匹の野犬に手を合わせて感謝している。


「お兄ちゃん、せめて原型のまま食べるのはやめて」


「うん、適当に解体したら、海水を使って塩焼きにしよう」


 ランディ達は、付近を探索しながら、北上していくと、途中で切り立った谷になっていて、真っ直ぐ北上出来なくなった。


 ランディはここで野宿することを決めた。




 地図~~ランディ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 軸 ─1 2 3 4 5 6 7 8 9 0

 ─ 海海 海 海 海 海 海 海 海 海 海

 一 海┏ ━ ━ ━ ━━━━━┓ 海

 二 海┃ □ □ □ □ □ □ □ ┃ 海

 三 海┃ □ □ □ □ □ □ □ ┗ ┓海

 四 海┃ □ □ □ □ □ □ □ □ ┃海

 五 海┃ □ □ □ □ □ □ □ □ ┃海

 六 海┃ □ ┏ ━ ┓ □ □ □ □ ┃海

 七 海┗ ━ ┛ 海 ┃ □ □ 谷 □ ┃海

 八 海海 海 海 海 ┃ □ □ 林 ┏ ┛海

 九 海┏ 武 ━ ━ ┛ 食 林 林 ┃ 海

 零 海┗━━━━━━━━━┛ 海

 ─ 海海 海 海 海 海 海 海 海 海 海


  ━┃┏┓┛┗ =海岸線

 林=雑木林

 家=セイフティーゾーン

 食=食料

 武=武器

大変更進が遅れました。

すみませんでした。


皆様良いお年を。

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