129#ランディ【人減らしの薬】【生け贄の祭壇】
◇観戦会場◇
辺りは、通夜の様に静まり返っている。
観戦者達一同は、特別ゲストのランディ達が、どんな死に方をするか、期待して待っていたのだから。
モニターの右上には、臨場感を出すために、爆発までのカウントダウンのデジタル数値が表示されているのだが、全員が脱出した時点でカウントは止まっている。
その数値を見て、1人が漸く重たくなった唇を動かす……
「残り『2:02』……たった58秒で全員脱出しやがった……」
ある男の呟きを、皮切りに観戦会場内が、人々の声で溢れ出した。
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◇【人減らしの薬】◇
カミーラは、まだ口をポカンと開けたまま佇んでいた。
(な、なんだったのじゃ、今のは……いつ鍵が同じ物だと解ったのじゃ? それに鎖が連動しているなんていつ解ったのじゃ? しかも残りの女子等も、この男の言葉に迷いなく従った……わ、ワシの出る幕が無かった……)
すると、ランディがカミーラの所に歩み寄ってきた。
「Dcup金髪美女さん、さっきはビックリしたでしょ? でも『早く』って言ってたから、最速の方法を選んだよ」
(なんじゃと? あの男、他にも脱出方法を考えていたじゃと!? ……く、くくくっ面白い……面白い男じゃ…… )
「カミーラじゃ、ワシの名前はカミーラじゃ、主はランデイヤ、ランディどっちじゃ?」
カミーラがランディに名前を聞くと、ランディ数秒間悩んだ様子を見せた。
「…………ランディでいいよ」
と答えた。
カミーラは、ランディの動きに疑問があったので、質問する。
「何故……何故あれの鎖が連動してるとわかったのじゃ? それに鍵の事も……」
ランディは、ちょっとだけ不思議そうな表情をしてから答える。
「だって、どっかのオッサンが、【一繋ぎの鎖】って言ってたじゃん……だから鎖は1つに繋がってるでしょ? なら前後に動けば、うまく行くじゃん」
「あっ…………か、鍵は……」
カミーラが言い終わらないうちに、ランディが回答した。
「じっくり見たら、造りが単純だったからね……読み通り」
ニヤっとするランディ。
(このランディとか言う男……人間なのに、ワシと同等の視力を持っているのか? ……アナウンスの後、真顔になったのは、死のゲームに緊張したのじゃなくて、鍵の形状をじっくり見ていただけじゃったのか…… ふふ……ふははっ……ランディ、か……気に入ったのじゃ、他のおなごには悪いが、ワシの物にしたい……ワシの眷属にしたいのう)
……
…………
………………
暫く待機していると、アナウンスが流れてきた。
『ようこそ、この【人減らしの薬】へ……現在この部屋には現在致死性の猛毒ガスが散布しています。 とは言っても、解毒薬を摂取すれば簡単に助かる程度の毒ですが……』
ランディはこの時、こう思考していた。
(何!? 全く自覚症状が無いぞ……なんて毒だ……あれっ? たしか僕を含め、みんなが装備しているexclamationバックルには、毒無効の効果があったよな……)
『先ず解毒剤を、一本差し上げます。誰か飲んでみて下さい』
中央の部屋に有るテーブルに一本の小瓶が出現した。
「カミーラさん、先ずあなたが解毒剤を飲んでください……たぶん解毒剤はまだ出ますから」
「よいのか? 全員分出るはずは無いぞ?」
(この男……どこまで理解してるのじゃ?)
「いいの、いいの……」
(万が一毒が効いても、回復呪文があるしね……)
続いて流れるアナウンス。
『これから解毒薬を置いている四つの小部屋を出現させますその小部屋には解毒薬が一本置いてあります……解毒薬を飲んだら体調が戻るまでの二時間弱、休んでいてください……この部屋の試練はこれだけです。』
このアナウンスの直後、部屋の四隅に一m四方の『小部屋』と言うより『大きな箱』と言った方が似合う物体が出現した。
ランディが四隅の小部屋を確認して、ホット一息ついた。
「良かった人数分の解毒剤はあるみたい……みんなそれじゃ念のために、解毒剤を飲んできて」
ランディの言葉に香織やマーニャが質問する。
「ランディはどうするの?」
「お兄ちゃんは解毒剤飲まなくても大丈夫なの?」
ランディは答えた。
「香織ちゃん、マーニャ、僕を誰だと思ってるの?」
香織を含めた心配していた女性達は、はっとした。
か「そっかぁ、そうだよね……」
マ「あはは、忘れてたよお兄ちゃん……」
リ「やっぱり、らんでぃは凄いなあ……」
ひ「私もゾンビだから大丈夫だけど、どうするぅ?」
「念のために、一口飲んで平気なら、飲み干してごらん」
そう言って、みんなは散り散りになり、小部屋に向かって歩いて行った。
カミーラは、その4人の女性達の足取りを見て気づく……
(足取りがしっかりしているの……毒が効いていない……だから念のためなのか……するとこの男のも当然……)
「ランディで良いかの?」
「どうかしました? カミーラさん」
「ランディは毒の影響は……無いのか?」
ランディはカミーラの声を聞いて、常人では見えない程速い正拳突きをして見せた。
(は、速い……)
「な、なるほど……ランディも毒が効かぬか……」
ランディはカミーラを見つめ
「も?」
と聞いた。
(あっ……しまった)
「わ、ワシも少々では有るが毒に耐性が有るのじゃ」
「ふうん……」
と、たいして気にしていないランディだった。
……
…………
………………
◇【生け贄の祭壇】◇
ランディ達六人は『エスケープゲーム』最後の部屋に来ていた。
ランディは部屋の外周の壁をコンコンと、叩きながら一周すると、鎖を調べながら香織と話している。
「いやあ、あの【人減らしの薬】には騙されたよ……だって九人分の解毒薬が有るんだもんなぁ」
「でも、メモリに気付いていないと、一人分足りなくなるから、意地悪だと思うわ」
等と話していた。
そして、この部屋に入室してから約十分後アナウンスが流れてきた。
『ようこそ、最後の試練【生け贄の祭壇】へ、この部屋は中央の十字架に生け贄を二人捧げるだけで脱出用の扉が開かれます。なお、只今より一時間半経過すると、部屋は爆発します……それでは健闘を祈ります』
ランディはこの後、腕を組ながら頭を捻っている。
カミーラは、これをチャンスと判断した。
(ワシの眷属にするチャンスじゃ)
「ランディ、ひとつ良い方法があるのじゃ……」
「カミーラさんどん、なっ!?」
カミーラは、一瞬でランディに近づき、首筋に噛みついた。
「かっ……あっ……」
ランディは目を見開いて、動かない。
カミーラは噛み付き、血を一口飲んだ瞬間、驚いた。
それは、今まで飲んだ事も無い極上の血液だったからだ。
「「「「ランディ!?」」」」
突然の出来事に驚く、香織・マーニャ・リリス・ひなた。
特に香織とリリス、マーニャは不意打ちすら余裕で避けるランディが、首筋に噛まれる行動を許した事が信じられなかった。
瞳をトロンとさせて、騒ぎ出す女達に向けて話す。
「すまないの……ランディはワシの眷属にしたぞ……それにしてもランディの血は、異常な程に美味じゃった……」
焦りと警戒を表情に出す香織達……
「ついでに申し訳ないが、ソナタらの内二人は、鎖に繋がれて貰うのじゃ…………さぁランディ、最初の仕事じゃ、まずは香織と言う女から鎖に繋いでしまえ」
「えっ? 無理!」
キョトンとして、カミーラの命令を断るランディ……
「な、なんじゃと!? 」
(今までワシに噛まれて、魅了されなかった者などいないぞ……)
「さて、カミーラさん……これはどういう事かな?」
カミーラは背筋に冷たい物を感じた。
(こ、こやつ……強い! ワシと同格か? しかし何故魅了が効かない? もう一度試すか……)
カミーラはゆっくり動いた後、急速にランディの背後に回り込み、首筋に目掛けて噛み付こうとした。
「あっぶねぇ……何で避けづらいんだろ?」
カミーラの噛みつきをギリギリで避けたランディは不思議そうだった。
カミーラのランディに噛み付く行為は『攻撃』ではなく、『仲間にしたい』だ。
結果、攻撃に対して敏感なランディも、一歩反応が遅れてしまうのだった。
……
…………
それから三分後、カミーラは降参した。
「参った……ワシでは勝てない……好きにするが良いぞ」
(すまん、サクラ……まさかワシより強い者がおるとは……)
実際、カミーラは三分間の戦闘で、殆んどダメージを受けていないが、ランディに勝てない事をは理解出来た。
しかも、いざとなったら、残りの四人の女性も加勢する筈……
ワシは恐らく鎖に繋がれるじゃろう……
そう覚悟をした。
そして、ランディはワシに向かってこう言ったのじゃ。
「今回は僕の勝ちだね、次回が楽しみだ……」
「は?」
「次はサバイバルゲームだね。どんな作戦を考えているのかな? あっ言わないで、楽しみが……」
この男は…………
「それより、この部屋はどう脱出するのじゃ?」
(いくらランディに、負けてもこれは言えんのじゃ)
カミーラは脱出法を知っていた。
「ふっ、カミーラさん……僕は天才ランディですよ、答えはこのハンマーに有る!」
(なんじゃと!? こやつ気づいていたのか?)
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◇観戦会場◇
「め、滅茶苦茶だ……」
「どなただったかしら? 彼を頭脳派と言ったのは……」
「【一繋ぎの鎖】では、頭脳を……【人減らしの薬】では致死性の毒に効かない肉体を……【生け贄の祭壇】では、カミーラに勝利出来る戦闘能力を、見せた上でこれか……」
「ランデイヤと言ったかしら? 彼は人間なの?」
「でも、サバイバルゲーム初の生存者がでるかも知れませんね……」
「運営側の生物が、死ぬ場面を見るのも悪くないな……」
「ランデイヤ……お前のために、サバイバルゲームをリアルタイムで見るぞ……」
観戦会場は静けさから、一転ランディ応援ムードに変わっていった。
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◇ガストブレイグ社、研究棟◇
ここでも、エスケープゲームを観戦していた。
社員A「カミーラが敗けを認めた……」
社員B「いや、カミーラが本気を出せばカミーラが勝つに決まっている……カミーラの再生能力はとんでもないぞ……」
社員A「だが、それでは部屋の爆発は避けられない……」
社員B「なら、カミーラの選択は間違ってはいないな……室長」
そこで、沈黙していた室長が答える……
「ランデイヤ……欲しいな……しかしそれは江屈巣常務次第だ……我々のチームはお得意様からたくさんの金を落として貰うことだ」
「「はい……」」
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◇待機部屋◇
既に、三つの部屋を脱出して、この部屋を散策する中、
「お兄ちゃん、最後のあれはNGだと思う……」
「ランディには、ビックリだぁ、なぁ香織」
「何?、みんなだって楽しそうだったじゃん」
「ランディ、楽しそうだったのは、マーニャとひなた」
「そうなの? じゃ楽しく破壊した娘に、クレームが!? ビックリだぁ」
くだらない会話をしていた。
ランディは、最後の部屋をハンマーを使い五人がかりで扉を破壊したのだ。
特に、ランディひなたの攻撃力は物凄く、二人で破壊は達成していであろう。
この部屋にたどり着く前に、磁力の通路で、ランディは装備していた、メイスとチェインメイルを手離すことになってしまった。
マーニャと香織のダガーもここで失う事になったが、マジックアイテムの『リターントゥダガー+1』とバックパックにしまっていたダガーは無事だった。
サバイバルゲームは五日後……それまで、この何もない部屋で待機する事になる。
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一日後……
ランディは、香織たち四人に重大な事を打ち明ける。
「みんな、かなり困った事にこの状況だと僕は熟睡出来ないみたいだ」
香織がいち早くランディの言葉ね意味に気づく。
「それじゃ、呪文が……」
「うん、再取得出来ない……原因はカミーラさんと、たぶん隠しカメラだと思う……」
リリスは、ランディが寝れないと聞いて心配する。
「らんでぃ、これからずっと寝れないの?」
「いや、休息は充分に取れる……けど呪文は覚えられないな……お陰でゲームとは言え、本気になって来たよ……」
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五日後……
サバイバルゲームの幕が上がった。




