128#ランディ【一繋ぎの鎖】
◇ガストブレイク社・研究棟◇
ここ地下二階では研究ではなく、エスケープ・サバイバルゲームの管理・運営・映像の編集・調整などを行っている階層である。
この、研究棟は地下十階、地上二十階建ての構造で、非合法な部分は全て地下階で行われている。
その地下二階のエスケープ・サバイバルゲームの室長を含めた全員が地下五階までしか、行ったことがない。
その地下七階で、研究者達が喜びの声をあげていた。
それは、『カミーラ・フォン・アルフシュタイン』
が実験体として、使用許可が出たからだ。
更に未知の人間型生命体も数体提供できると聞いていた。
「やったな……新たな実験体で、更に不老やその他の研究も進むな……」
前の実験体は使いきってしまったが、今まで空想止まりだった研究等が出来て、更に軍事用の合成生物も完成した実績がある。
「今度も、三ヶ月くらいかけて、ゆっくり臓器を摘出するのか?」
「前回で耐久実験は終わっている……新たな実験体が到着したら、すぐに細かく分解しよう」
「あと、な……新しい生命体って聞いたか? 只の人間だったら拍子抜けだな」
「ああ、それがな、生命力測定値は測定不可級だってさ……人間のわけないだろ」
「そうか……一ヶ月後が楽しみだな」
「ああ……そうだな」
そんな非道な会話が繰り広げられている、その上階の地下二階では来訪者達との交渉が終ったところだった。
室長は予想以上に上手くまとまった交渉に一息ついたが、今回の来訪者達は今までの来訪者と全く別物と認識した。
Aタンカーの来訪者五人は、トランプを使い『七ならべ』のカードゲームをして遊んでいた。
更にBタンカーの来訪者三人は、自作したサイコロの目に好きなお題を書いて遊んでいた。
そして、この研究棟に来た一体の来訪者も直接対峙したネゴシエーターも、必要以上に消耗していた。
『交渉は殆ど我社の希望に添えたのですが、全て見透かされた気がしてなりません……あの機械的な両目でもう見られたくないです』
なんて言っていたからな……
彼には地下二階~地上二階まで自由に行動出来る権利を与えた事以外は、此方の思惑通りに言った。
使えれば利用して、そうでなければカミーラと仲良く地下六階送りになるって話で纏まっている。
しかし、地下五階より下は何をしているんだ……『ホワイトパンドラ』や『ブラックパンドラ』以上の秘密が有ると言うのか?
~~『ホワイトパンドラ』は召喚装置で、『ブラックパンドラ』は転送装置となっている~~
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
◇観戦会場◇
興奮冷めやらぬ会場に緊急を告げるアナウンスが流れてきた。
『皆さま、突然ですが、こちらで緊急事態が発生いたしました。』
観戦会場は静まり返る。
『我社のホワイトパンドラにより、来訪者が確認されました』
「どういう事だ、それは?」
「『ホワイトパンドラ』って食用肉の召喚装置よ……たまに意図しない生物が、紛れ込むんですの」
事情を知っている者は、知らぬ者に説明している。
同じ狂った者同士仲が良い。
『その来訪者が、わが運営の必死の交渉の末、なんとこのゲームに参加してくれる事になりました。そして突然ですが三十分後、Aチーム第二段・Bチーム第二段のエスケープゲームを開催いたします。』
突然のサプライズに湧く観戦会場。
『それでは、新たなチームのメンバーを紹介します。未知の世界からやって来た、来訪者』
ランディの、顔写真がモニターに写る。
「なんだ、来訪者だから期待したら、ただの人間じゃないか……」
「でも、それはそれで絶望に満ちた顔で死んでいく様が見れるから良いのでは?」
「今回ここにいる我々は運が良いですな……」
観戦者の言葉を待たずにアナウンスは続く。
『連続で紹介します……続いて来訪者《香織》・来訪者 《マーニャ》・来訪者 《リリステル》・来訪者 《ひなた》……』
次々とモニターに顔写真が、写っていく。
『そして、最後はゲーム盛り上げる為に来た、運営からの刺客『カミーラ・フォン・アルフシュタイン』!!』
「「「おおぉ!!」」
「吸血姫カミーラだ……運営も本気じゃないか」
「私はカミーラが、仲のよいグループを引っ掻きまわしたゲームをはっきりと覚えていますぞ」
カミーラは過去2回運営側の刺客として、場を盛り上げていたのだ。
『続いて、もう一チーム……来訪者 《キンジ》・来訪者 《アーサー》・来訪者 《カーズ》・そして、使い捨て同然のメイドを3人数合わせに用意しましたが、彼女らはこのゲームを映像で数回見てると情報が入っています。《マリ》《エリ》《ユリ》の三人です』
新たに六人の顔写真が写し出される。
観戦者達は誰が死ぬか、顔写真を頼りに予想をして、莫大な金額を賭けていた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
【一繋ぎの鎖】
ランディ達は……いや、ランディは『宴会』と『ゲーム』の単語につられ自ら首輪を嵌めていた。
そして、ランディの仲間たちも渋々首輪を嵌める……
「お兄ちゃん……何かあったら責任取ってよね」
マーニャの、唇はへの字だった。
「なんか、ドキドキするな……」
ランディは首輪と鎖をカチャカチャならして、新しい玩具を貰った子供の様な表情をしていた。
「ダメよマーニャ、聞いてないわ……」
香織は、ため息を一つ ついた。
……
…………
少し時間を巻き戻し……
ランディ達が【一繋ぎの鎖】の部屋に着いた時は、金髪の気品漂う美女が首輪に繋がれていた。
カミーラは既に待機していた。
「こんにちは、僕はランディ。 貴方も宴会が目的でこのゲーム参加したんですか?」
「ランディ、この人はたぶん賞金五億の方だと思うわ」
香織がランディに説明をする。
「そなたらは? 何者じゃ?」
ランディはカミーラの声色に驚愕する。
「うおっ?! 外見に似合わないロリ声に、裏リリスたんみたいな口調……ギャップ萌えするなぁ」
ピクリと反応したカミーラだったが、何も言わない。
「らんでぃ、どおじゃ? 燃える?」
カミーラの声色を真似ようとしているリリスだが、真似できていない。
「リリスたん似てないけど可愛いよ……」
「エヘヘ……」
照れるリリスだった。
カミーラが綺麗な艶のある真っ赤な唇を開いた。
「ぬしらも賞金目当てか? それならライバルじゃの……いざとなったら蹴落とすから、覚悟するのじゃ……」
カミーラの宣戦布告にもランディは動じない。
「良いなぁ萌えるなぁ……」
カミーラは、ランディがどんな人間か測りかねていた。
「…………」
……
…………
暫く待機した後、壁のスピーカーから声が聞こえてきた。
『このエスケープ・サバイバルゲームへようこそ諸君、先にも話をした通り、三つの部屋を脱出出来た者だけが、サバイバルゲームに参加出来、見事30日間生き残れば、金五億が与えられます』
「おじさぁん……宴会忘れてるよ、宴会」
ランディが即、突っ込みを入れる。
『そして、先にも伝えましたが、ルールの説明します。……このゲームの途中退場者の殆どは死亡となります』
ここにきて、ランディの表情が、やっと真剣な物になった。
カミーラは、
(このランデイヤと言う男、鈍いのかやっとビビりおったか)
口の端を僅かに上げた。
さらにアナウンスが流れる。
『それでは見事、このゲームに生還して、大金を手に入れて下さい…………第一の部屋【一繋ぎの鎖】制限時間は三分。目の前にある鍵を使い、首輪を外して左にある扉からこの部屋を脱出して下さい……』
壁に鍵が掛かっている反対側のカーテンが外れる……
すると鋭利な刃物が無数、壁から生えている。
リ「うわっ」
か「ランディ」
ひ「おお……」
マ「お兄ちゃん……」
ラ「むっ?」
カ「きゃぁ!」
カミーラはわざと悲鳴を上げてみた。
そして、カミーラは慌てるような素振りを見せてから、前進しようとしたとき隣にいるランディに、肩を押さえられた。
「な? 何をするのじゃ……早くしないと……」
と焦る表情を作る。
すると、ランディは、
「早く脱出したい? 分かった。 マーニャ、リリスたん、ひなたん、前進! それと同時に、香織ちゃんとDcup金髪美女さんは、僕と一緒に後退!」
既に、ランディの目力によって、カミーラのバストサイズは看破されている様であった。
カミーラはランディに引きずられる。
「え?、な、にをするのじゃ」
「見てれば解るよ」
直ぐにマーニャ・リリス・ひなたの三人は壁の部屋までたどり着いた。
「よしっ、鍵を持ったまま僕の所まで来て、香織ちゃんとDcup金髪美女さんは、少しだけ前進」
ランディの号令と共に歩くと、部屋の中央からやや刃物よりの位置で六人が合流した。
そして、この立ち位置なら、鎖にも弛みがある。
「では、鍵を使って首輪をはずすよ? マーニャは僕、リリスたんは香織ちゃん、ひなたんはDcup金髪美女さんね」
ランディは人物を指定しないと、三人とも自分の所に来て、時間のロスになると予想していた。
ガチャリ・ガチャリ・ガチャリ。
首輪が三つ外れるとランディが、指示を出す。
「はい、そのまま鍵を相手に渡して、首輪を外して貰いなさい。マーニャはい鍵……」
「は、はい……にゅふふ」
この非常時に、マーニャはランディに指名されて、デレていた。
時間にして、一分弱の出来事だった。
ランディ達は、口を開けたまま固まっている、カミーラを連れて【一繋ぎの鎖】の部屋を脱出した。




