116#Bチーム【生け贄の祭壇】
エスケープゲーム最後の部屋には、富山健太・新潟秀次・新潟雅子・石川かなた・石川まどかの五人がいた。
新潟夫妻はこの状況を見て、福井麻紀は競争に負けた思ったのだ。
福井麻紀が、殴られていた状況を見ていた石川かなたは、そうではなかったが……
ひとつ前の部屋【人減らしの薬】に比べて、部屋の面積は二十五分の一程度だが、それでも大きめの部屋……部屋の中央には十字架が有り両側には人の手足を拘束できる鎖と輪っかが付いている。
壁側には四人が出てきた場所を起点に、左右の壁に短剣・槍・ハンマー・斧と言った武器が六組掛けられていた。
石川かなたは妹に肩を借りながら呟く……
「なんか、気分の悪くなる仕掛けだな……悪い予感しかしないよ……」
「そうだね……お兄ちゃん」
石川まどかの表情は暗い。
そこに新潟雅子が、おずおずとやって来た。
「あ、あの……あなたのおかげで主人と話すことが出来ました。 ……あ、ありがとうございます」
ペコリと頭を下げて、移動し壁際に座る。
そして、この部屋に入室してから約十分後アナウンスが流れてきた。
『ようこそ、最後の試練【生け贄の祭壇】へ、この部屋は中央の十字架に生け贄を二人捧げるだけで脱出用の扉が開かれます。なお、只今より一時間半経過すると、この部屋は爆発します……それでは健闘を祈ります』
アナウンスの直後、富山健太は武器の置いてある場所まで走り出し、斧を手にして話す。
「おい、お前ら……俺は死にたくないから、この弱ってる兄妹を殺るぞ……脅しじゃねぇぞ、もう一人殺したんだ。恐いものなんかねぇ……そこの仲の悪い夫婦は黙って見てな……」
と言って斧を構える。
石川まどかも黙って見ている筈もない。
手近な槍を持ち、牽制するように矛先を富山健太に向けている。
「へっ、兄貴を庇いながら俺に勝てるかな……もう、俺に恐いモノはねぇんだよ!」
すると、新潟夫妻もいつの間にか武器を手に取り、石川かなたを庇うように槍を構えた。
「んなっ!? な、なんなんだよお前らは、そんな事したってどうにもならんだろ? なあ? あの兄妹を始末すれば、まるく収まるだろ? なあ!」
だが三人は石川かなたを庇う姿勢を崩さない。
暫くにらみ合いが続くと、富山健太がキレ出した。
「お、俺を殺した後はどうするんだよ? 残りひとり、お前ら殺し合えるのか? 出来ないだろ! 何で俺の言う通りにしないんだよ!」
それでも、臆病者風に吹かれている富山健太は三本の槍に立ち向かう度胸は無い。
膠着状態の中、石川かなたが富山健太に向かって話しかける。
「僕が君を助けるって言ったら、僕の作戦に乗るかい?」
「な、なんだと?」
……
…………
富山健太は、石川かなたの言葉に従って動いていた。
今、石川兄妹と富山健太はひとつ前の部屋に来ていた。
新潟夫妻は、扉を見張っている。
富山健太が、福井麻紀の死体を担いで、歩いている。
「おい、お前の名前は? 」
「ん? 石川……かなただけど……」
「石川か……てめぇ、こんなこと予測してたのか?」
「扉の事? 予測はしてないけど、色々やって損はないよ」
石川かなたは、解毒剤の空き瓶を利用して【人減らしの薬】の部屋と【生け贄の祭壇】の部屋の扉の鍵をかからないように試みて成功していたのだった。
そして、もし部屋の出入りが可能なら福井麻紀の死体を利用しようと提案していた。
「しかしよう、これで一人分だ……後、一人……どうするんだよ?」
「それも、考えてるけど……もし失敗したら……僕が生け贄になるよ」
その言葉に石川まどかが驚く。
「お兄ちゃん!? そんなの聞いてない!」
「僕だって死にたくない……でも、僕がこのまま完全に治らなかったら、サバイバルゲームで確実に足手まといになる」
「でも……」
「それより早く行こうぜ。死体を担ぐのは気分が悪い」
石川まどかは、思いきり睨んだ。
この男から話を振っておいて、さらには、生きるためとはいえ、自分の彼女を蹴落としたこのロクデナシ! と感情を込めて睨んでいた。
……
…………
富山健太はやっとの思いで、祭壇の十字架に付いている拘束具に、福井麻紀を取り付ける事が出来た。
そして、
「さあ石川兄、これからどうするんだよ?」
石川かなたは、指を差した。
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◇観戦会場◇
観戦者達は、この状況に大きな賑わいを見せていた。
「なんだ? この裏技は……アリなのかこんな事」
「いや……私は一回だけこれを見ましたよ……人間の思い込みを覆す、この方法を……」
「欲しい……欲しいなこの男……我社に欲しい……」
「もし、サバイバルを生き延びる事が出来たなら私のペットにしたいわね……」
「これはサバイバルゲームが楽しみですな。なにせサバイバルゲームまでに生き延びた人間は少ないですからな……五日後のサバイバルのためにワシは全ての予定をキャンセルするぞ!」
「私は流石にそこまで時間に余裕が無いので……毎日こちらに寄るくらいが限度ですわ」
「しかし、五人も生き残るなんて、今まで有りましたかな?」
その問いに手を上げる観戦者はひとりもいなかった。
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私は新潟雅子。
このエスケープゲームに生き残った。
この世の中は、非情にも理不尽な出来事だらけで構成されている……
若いころ、バカな彼氏に騙され、貢がされ、最後に彼氏の友達に輪姦された。
幸いな事に、レイプ後、拒絶反応が出たのは、柄の悪い男と彼氏に似た顔の良い男だけだった。
だから、私は人の良さそうな無害な男性『新潟秀次』と結婚した。
だけど、穏やかな性格のせいか、あの人の収入はかなり少ない……そして全く昇給もしない。
食料が異常に高騰しているこの時代、私も働かなければ生きていけない……
そんなの中、あの人が仕事で致命的なミスをしたとあの人の勤める会社の社長から連絡が来た。
そしてあの人を庇ってくれる代わりに身体を要求されて、嫌々身体を許してしまった。
だけど、回を重ねる内に私はいつの間にか、この状況を喜んで受け入れてしまっていた。
そんなある日、私は謎の集団に誘拐された。
その集団の名前は知らないけど、あの人は『運営』と言っていた。
その『運営』が、私の不貞をあの人にばらしてしまった。
生死のかかったゲーム、まわりは敵ばかりの筈。
そして、主人も怒りで私の敵側になってしまった。
やはり、この世は理不尽で構成されていた。
でも、石川かなたって若い青年が状況を一変させた。
彼は、生死のかかったゲームでも私を気づかい、助けてくれ、終わりかけていたあの人との関係も、話をする機会を作ってくるまでにしてくれた。
そして、全く話を聞いてくれなかったあの人が、『まだ許せない』と言いながらも、『また話そう』とまで言ってくれた。
彼は【人減らしの薬】の部屋の毒で、体調がまだ治っていない。
その時、彼を守るために震える手で槍をもった。
でも、あの人が私の隣に来て、私と一緒に槍を持ち、彼を一緒に守ってくれた。
この時、私はまだ許されていないのに、あの人と同じ行動をしたのがとても嬉しかった。
そして、みんなで守った彼が、奇跡を起こした。
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「お兄ちゃん、よくそんなの思い付いたね」
「ん? たまたま上手く行っただけだよ……」
石川かなたは、鎖の長さに遊びがあるのを利用して、福井麻紀の死体に二人分の手輪と足輪を取り付けたのだ。
「だって、二人分の生け贄って言ってたのに……」
「そこなんだよ、このゲームを管理している運営は、監視はしているだろうけど、遠隔操作とかは してないと思うんだよね?」
「えっ? お兄ちゃん、なんで?」
「手輪と足輪が、この場に似合わないんだ」
「???」
石川かなたは説明を続ける。
「手輪は精密に製造されていて、大きいんだ。だから手輪を弱電の送信部と仮定して、足輪の受信部が人間と言う伝導体を通してスイッチが入って、扉が開くんじゃないかと思ったんだ……もし、受信部が人間の電気抵抗値を測れたらダメだったけどね」
~~実際は足輪が送信部で足を嵌めることにより、微弱な電流を流す仕組みになっていて、大きい手輪が送受信装置になっている。
人間を通して足輪からの電流を受けると、一個につき一種類。
計四種の電波を飛ばして、扉を開ける動作が完成する仕組みになっていたのだ。~~
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石川かなたは、【生け贄の祭壇】にある武器はサバイバルゲームに役立つだろうとみんなに提案して、一人一つの武器を持たせた。
ただ、石川まどかは、兄に肩を貸しているため、槍を一本持っているだけだった。
そして、みんなの武器は磁力の通路で、壁や床に張り付き持っていけなくなった。
そう、石川まどかの槍を除いて。
彼女の武器の金属部分は少ないうえに、持ち方が床と壁から均等に離れた持ち方をしていたからだ。
こうして、槍一本分のハンデをもらいエスケープゲームをクリアしたのだった。
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サバイバルゲームは五日後……それまで、この何もない部屋で待機する事になる。
この部屋は、ただの待機場所だが、壁に鉄製の小扉が30個も有り、その中には一日分の食料が有った。
この鉄製の小扉は遠隔操作で解錠出来るようになっていて、一日に生存人数分の扉が開く仕組みになっていた。
部屋の隅に仕切りがあり、そこにはトイレとシャワーが設置されていたが、使える水は衛生上とサバイバルゲームに使えない様に、強力な消毒剤が混じっている。
トイレットペーパーは有るが、バスタオルは無く汗を流す程度の機能しか無かった。
そして六人分の衣類が置いてある。
ただそれだけの部屋だった。
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五日後……
生き残った『富山健太』『新潟秀次』『新潟雅子』『石川かなた』『石川まどか』のサバイバルゲームの時が来た。




