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124#Bチーム【人減らしの薬】

 真っ白な、とてつもなく広い部屋のど真ん中に、大きなテーブルが有り、その場に富山健太、福井麻紀の二人が、やけに大きな声で話していた。


 この大きな声が、只の空元気なのは誰が見ても判るほどだ。



 石川兄妹は、部屋を壁づたいにぐるりと1週した後は、新潟秀夫妻からギリギリ声の聞き取れる範囲の距離を置いて、座り込んだ。


 新潟夫妻の事が、非常に気になっている石川かなただが、自分の様な若者が、夫婦喧嘩に首を突っ込むのは躊躇(ためら)われる。

 それでも、動かないより増しだと思い、新潟さんをけしかけて奥さんの方に押してみた。


 2人はなんか色々はなしている。

 奥さんは泣いたり、青ざめたり、踞ったりしていたが、最後は泣きながら微笑み、距離を取った。

 和解には至らなかったて感じだけど、前進はしたみたいだ。


 おや、なんか体の調子がおかしいな……体の、特に足に力が入らなくなって来ている気がする……


 石川かなたが、違和感を感じていた時から約20分後。


 みんなが身体の不調を訴えていた。


 その時アナウンスが流れ出した。


『ようこそ、この【人減らしの薬】へ……現在この部屋には現在致死性の猛毒ガスが散布してあります。 とは言っても、解毒薬を摂取すれば簡単に助かる程度の毒ですが……』


 既に六人には自覚症状も現れ、致死性の毒も最初の部屋をくぐり抜けた者なら、嘘ではないと解る。


『先ず解毒剤を、一本差し上げます。誰か飲んでみてください』


 中央の部屋に有るテーブルに一本の小瓶が出現した。


 丁度そこには富山健太と福井麻紀が居る場所だった。


「わ、私が飲む! 私、死にたくない」


「待てよ、俺だって死にたくねぇ、俺に飲ませろ!」


 1つの小瓶を取り合う2人……非常に脆い造りの小瓶は取り合う衝撃で簡単に割れてしまった。



「「あ~っ!」」



 続いて流れるアナウンスは、罵声を浴びせ合う二人を待つはずも無い。



『これから解毒薬を置いている四つの小部屋を出現させますその小部屋には解毒薬が一本(・・・)置いてあります……解毒薬を飲んだら体調が戻るまでの二時間弱、休んでいてください……この部屋の試練はこれだけです。』



 このアナウンスの直後、部屋の四隅に一メートル四方の『小部屋』と言うより『大きな箱』と言った方が似合う物体が出現した。


 石川かなたは、一瞬で窮地に陥った事を理解した。

 新潟夫妻は離れ離れに座っていて、新潟夫は、左下、新潟妻は右下、富山健太と福井麻紀は中央部、僕とまどかは、右下寄りに位置していたのだった。


 全力で右上の小部屋に向かって、まどかの手を取り走る……しかし既に体は、思うように動かず、普通に歩く程度の速度しか出ない。

 

 石川兄妹が動き出してから、新潟夫妻もそれぞれ近い方の小部屋に向かって動く。


 そして、口喧嘩のせいか、出遅れた富山健太も左上の小部屋に向かって移動する。


「チッ……」


「待ってよ! 私死にたくない。健太! 私の事好きなら助けなさいよっ!」


「うっせい! いまそれどころじゃねぇ、お前はあっちに行けよ、空いてるだろ?」


 福井麻紀はちらりと右上の小部屋と石川兄妹をみた。


 ここで、福井麻紀が冷静な判断が出来たなら、右上の小部屋には福井麻紀の方が近いと判断出来ただろう。

 しかし、死の恐怖が判断を誤らせた。


「健太、無理! 助けて、助けてよ!」


「バカヤロー! あっちに行けば助かるじゃねぇか……もう知らねぇっ」

 と福井麻紀を無視して移動する。


 富山健太も冷静では無かった。

 福井麻紀を気遣い、今からでも右上に向かって移動すれば、石川兄妹よりも先に小部屋に到達したであろう距離だった。


 福井麻紀は富山健太を追いかけるように移動した。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 ◇観戦会場◇


 富山健太と福井麻紀の浅はかな行動に大笑いする観戦者達。


 観戦者達は、富山・福井2名の醜い蹴落とし合いと、これから始まるであろう石川兄妹の譲り合い

を楽しみに、目の前の豪華な食事を食べるのを忘れ見ていた。



 1人がスクリーンを見て叫ぶ。

「おおっ、女が男に追い付いたぞっ。逆転か?」


 観戦者は次の映像を観て沸き出す。

 抜かれると判断した富山健太が、福井麻紀を殴り飛ばしたのだ。


「おいおい、少し前に10億で面白可笑しく遊び捲ろうと言っていただろ!」

「わはははっ、無様な程醜いな」

「このシーンの録画が出来ないのは、悔やまれますわね」

「わははっ、コイツらに人情ってないのか」

「おおっ!? 女の猛追が始まったぞ」



 距離の開いた富山健太と福井麻紀だが、殴り飛ばされた筈の福井麻紀が少しずつ距離を詰めていたのだった。




 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 富山健太は、助かった今も恐怖に震えていた。


 部屋の角にある小部屋に近づくにつれ、彼女である福井麻紀の聞いたことも無い声色。


「けんたぁ~ 赦さないっ。けんたぁ~、けんたぁ~」


 そして、小部屋にたどり着いた後も、部屋の前でずっと呪詛を、唱え続けていた。


  鼻と口、そして爪から血を流しながら、死ぬまで呪詛を唱え続けていた。




『おめでとうございます……念のため完全に解毒薬が効くまで、安全なこの部屋で御待ち下さい。』


 そんなアナウンスが聞こえていた気がするが、麻紀が怖くて、それどころじゃなかった。


 俺は扉が開くまで、ずっと震えていた。



 ……

 …………


 新潟秀次は解毒を飲んだ後、考え事をしていた。

 自分よりずいぶんと年下の男に諌められた。


 そして、妻の言い訳を少し聞く気になった。

 許してはいない……でも妻のあの涙……

 お互いの事は、生き残ってからまた話そう……そう言う事になった。

 妻の事を考えると、胸が痛くなる……


 あの動画に映っていた、あの妻の乱れよう……

 そして、死にそうなくらいに落ち込んで泣いていた、今見た妻の顔……


 本当に同一人物なのだろうか……

 運営の教えてくれた情報と、妻の話は一致していた。


 だけど、あの動画が、頭から離れない……


 僕はどうすれば良いのだろうか……


 最後に妻が小部屋に入ったのは見た……あの青年は助かったのだろうか、彼にはお礼を言っていなかったな……もし、彼も助かっていたなら『ありがとう』くらい言わないとな……



 ……

 …………


 新潟雅子は、解毒薬を飲み干した後、考えていた。

 あの人が、私の言い訳に耳を傾けてくれた。

 私を誘拐した後、生死を賭けたゲームに強制参加させられ、私の浮気をあの人に知られてしまった。


 泣いて謝ったけど、取りつくしまもない。


 理由はこの部屋に来て分かった。

 どうやってかは知らないけど、あの人の会社の社長との浮気現場を一部始終撮影されていました。


 私は足腰に力が入らなくなり座り込んでしまった。

 初めは脅されて行為に至ったのは間違い……


 でも、回数を重ねる内に悦んでいた自分がいた……つい先程それを指摘されて、私はとんでもない事をした事に今さら気がついた。


 でもあの人は『絶対に赦さない』から『赦した訳じゃないが、また話そう』になった。


 きっかけはあの青年、でもあの青年は生きているのだろうか……解毒剤を飲んだ後で、心配と思うのは今さらだけど、あの兄妹の居た場所は、完全に不利だったはず。


 出来れば、あの人との僅かな繋がりを保てたあの青年にお礼を言いたい。


 ……

 …………


 石川かなたは、まどかと一緒に同じ小部屋に入った。


 そこには解毒剤と思われる瓶がある……部屋の中央に出現し瓶より大きい。

 しかも、瓶の真ん中に黒い線が書いてある。


 石川かなたはやはりと思った。


 多分この解毒剤は2人分だ……だけどもし間違っていたら……絶対にまどかを死なせる訳にはいかない……


「お兄ちゃん、これ……2人分だよ、半分こしよう」


 当然まどかも気がつくよな……だけど、念には念を入れないと……



「僕もそう思うけど、まどか先に解毒剤を半分飲め半分で効果が現れたら僕も飲む」


「お兄ちゃん?! 」


「大丈夫心配するな」


「でも……」


「早く……」


「解った」

 まどかは、解毒剤と思われるドリンクを半分まで飲んだ。


 数分もしない内にまどかは

「お兄ちゃん、体の調子がよくなってきたよ、だからお兄ちゃんも、早く飲んで」

 

「ばか言うなまだ何分もたって無いだろ? 嘘をつくな」


「お兄ちゃん、だって……」


 ……

 …………


「お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん!」


 あっ……少し意識を失っていたのか……まどかをみる顔色が良くなってきている……トラップじゃないな……


 生死の、掛かったゲームだけど、運営は冷酷ではあるが、卑怯では無いみたいだ。


「お兄ちゃん、早く飲んでっ」


 妹に言われるまま、残っていた解毒剤を飲み干した。


 ……

 …………


 解毒薬を飲んで暫く経つと、小部屋のドアが開いて、

『次の部屋にお進み下さい』

 とのアナウンスが聞こえた。


 まどかはすっかり元気を取り戻したみたいだが、僕はタイムリミットギリギリだったのか、未だに調子が悪い。


 まどかに肩を借りながら、次の部屋に向かって歩き出した。




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