113#Aチーム【生け贄の祭壇】
エスケープゲーム最後の部屋には、青森海斗・山形葵・福島美月、そして宮城陸の4人がいた。
宮城陸は、岩手拓巳との圧倒的不利な競争に勝ったのだった。
宮城陸は、わざと大きな足音をたて『追い付いたらなぶり殺しにする』と言ってみたのだ。
その後の岩手拓巳は、極度に狼狽して動きがもたつき、宮城陸に追い付かれ、片足を折られて脱落した。
そして、今の状況になっている。
ひとつ前の部屋【人減らしの薬】に比べて、部屋の面積はな25分の1程度だが、それでも大きめの部屋……部屋の中央には十字架が有り両側には人の手足を拘束できる鎖と輪っかが付いている。
壁側には4人が出てきた場所を起点に、左右の壁に短剣・槍・ハンマー・斧と言った武器が6組掛けられていた。
青森海斗は鎖を見て調べる……
「チッ……この部屋も1人減るのかと思ったが……2人分が拘束出来る鎖か……」
福島美月は、仏頂面で調べ物をしている宮城陸の周りで、ウロウロしている。
お礼を言いたいのだが、何となく宮城陸の表情が不機嫌に感じて声を掛けられない。
山形葵は初めは、この部屋の物々しさに息を飲んでいたが、死んだと思っていた福島美月が生きていて、更に宮城陸の側をチョロチョロしているのに気づいて、彼が何かしたんだと直感した。
宮城陸は、壁に掛かっている6組の武器を見て確信した。
(やっぱり巧く立ち回れば、6人全員が生き残れたのか……するとあの解毒薬は1本で2人分の助かる分量だったのか……それで黒線の意味が解った。しかし、何て意地悪な部屋だ……初見じゃあ気づかないだろ……するとこの部屋も、犠牲者を出さずに切り抜けられる方法が有るな……)
宮城陸は、短剣を1本取り、素早く腰に仕舞った。
そして、この部屋に入室してから約10分後アナウンスが流れてきた。
『ようこそ、最後の試練【生け贄の祭壇】へ……この部屋は中央の十字架に生け贄を2人捧げるだけで脱出用の扉が開かれます。なお、只今より1時間半経過しますと、この部屋は爆発します……それでは健闘を祈ります』
アナウンスの直後、青森海斗は、斧を手にして二人の女に話す。
「おい、お前ら……生き残りたい奴は前に出な……俺様の性処理として生かしてやるぞ」
既に青森海斗の中では宮城陸は、殺すことに決まっているようだ……
青森海斗と宮城陸を見る限り、斧を手にした青森海斗の方が明らかに強そうに見える。
しかし、『性処理』宣言されては、名乗りを上げるのに、戸惑ってしまうのも仕方ない。
宮城陸は、槍を手にした。
福島美月はオロオロするばかりで、山形葵は2人を交互に見ていたが、青森海斗の言葉で動いた。
「はっ! 面倒くせえ……みんな殺すか……」
青森海斗は先の2つの部屋で人間性を失ってしまった様だ。
「わ、私……死にたくないです……」
山形葵の言葉に、青森海斗はニヤリとした。
「いい判断だ……30日俺様と過ごすだけで5億……悪いが後の2人には十字架に繋がって貰おう……生きたままが良いか? それとも俺様が殺し……うおっ?」
宮城陸は槍を青森海斗に向かって投げた。
ただ、青森海斗の奇蹟とも言える反射で、投げた槍は、かすり傷しか与える事が出来なかった。
「きさまぁ!」
激昂して襲いかかる青森海斗だったが、宮城陸にはただの大振りなだけだった。
余裕を持って斧をかわして、隠し持っていた短剣を思いきり振り抜く。
ゴリッ!!
嫌な音が鳴る……その音とは青森海斗の手が短剣によって肉を切り骨を砕いた音だった。
「ぐぎゃぁぁぁぁぁぁ!」
宮城陸は、切れ味がよさそうな短剣だったのに、上腕を切り落とせなかった理由を考えていた。
(俺の想像していたほど、切れ味が良くないか、あいつが頑丈なのか……)
「い、痛い! 武器を2つも持つなんて卑怯な……」
「はっ、この場で卑怯だと? こんな馬鹿は殺すのに躊躇いが要らないから楽だな」
と短剣を振り抜く。
「わわっ、ま、待ってくれ……俺が悪か、ぎゃあっ!!」
宮城陸は2回短剣を振った。
1度目は足、2度目は足を狙った事で隙ができた首だった。
「カ、カヒュー……カヒュー……ゴポッ……」
青森海斗は屍となった。
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◇観戦会場◇
観戦者達は、この状況に大きな賑わいを見せていた。
「おお、宮城陸があの青森海斗を殺したぞ!」
「これはサバイバルゲームが楽しみですな。何せ、サバイバルゲームにはあいつらがいますからなぁ……」
「いやいや、今の見所は、もう1人の犠牲者の無様な姿を堪能する事でしょう?」
「山形葵が、どんな命乞いをするのか楽しみですな」
「しかし、宮城陸があっさりと、殺してしまうかも知れませんな」
「ところで皆さん……賭けの方は如何です? 私はハズレてしまいましたが……」
「この展開は予測出来なかった……」
しかし2人だけ、『宮城陸・山形葵』と『宮城陸・福島美月』が生存すると賭けていた者がいた。
何だかんだ、楽しく殺人ゲームを楽しんでいた観戦者達だった。
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槍を構えた宮城陸は、脅えて泣いている山形葵にこう言った。
「お前の出来る事は2つ……俺に殺されるか、自分で鎖に繋がるかだ……」
「うぅ……ぐすっ、ごめんなさい……助けて……」
山形葵には戦意は全く無い。
プロレスラーの青森海斗を、あっさりと殺してしまうくらい強いのだから、仕方の無い事だろう。
「そうか……選べないか……」
槍を振りかぶる……
「ひぃ!? い、いやあぁぁぁ!! 」
宮城陸は槍の先ではなく柄の方で、山形葵の腹を突いた。
「うぐっ」
踞ったところで背後に回り、頸動脈を締め上げ、山形葵は意識を手離した。
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私は、福島美月。
このエスケープゲームに生き残った。
でも、私は何もしていない……ただ脅えて泣いていただけ。
彼……宮城陸が私を、生かしてくれただけなのだ。
でもこの状況は素直に喜べない。
既に3人が死んでしまい、もう1人もこれから死んでしまう……喜べる筈が無い。
彼は、山形葵を鎖に繋ぎ止め、その後、大男も繋ぎ止めていた。
すると……ガチャン! と出口であろう扉の方から音が聞こえた。
多分鍵が開いたのだと思う。
彼は扉が開いたのを確認すると、不思議なことに十字架の所に戻って何か鎖をじっと見つめていた。
「そうか……そう言う事か……」
彼は楽しげに笑っていた。
どうして笑っているの? 理解できない。
すると彼が目の前にいた。
「きゃっ! な、何でしょうか?」
「えっと、お前……福本、福岡……」
「福島です……福島美月です」
彼は私の名前すら覚えていない……なんか落ち込む。
彼は、あることを私に言ってきた。
えっ? えっ? そ、そんな事出来るの?!
私は驚いた。
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私は、意識を取り戻した。
どのくらいたったのかな、まだ生きているみたい……重い瞼を開ける。
目の前には、ハンマーを振りかぶった宮城陸の姿があった。
「い、いやあぁぁぁ!!」
再び目を瞑る。
ガキィィィィン!!
痛っ……あれ? 痛くない? 何で? どうして?
「やっぱりな……あと1・2回ってとか……」
えっえっ?何の話?
私は目を開ける。
やはり、目の前にはハンマーの持ち振りかぶった宮城陸の姿が……
「きゃあぁぁぁぁぁ!」
また目を瞑る。
ガキィィィィン! ……ジャラン……
今度は痛いどころか右手が自由なった。
恐る恐る目を開け、確認するとやはり私は十字架に繋がれていた……んだけど……右手の鎖が切れている……
何故?
「いちいち煩いな……もう一回寝ておくか?」
もう一度、気絶させようとする宮城陸を、福島美月が止める。
「それより陸さん、次左手をやりましょう」
元気な福島美月の姿を見た。
未だ状況を把握しきれていないけど、私を助けようとしてるのだけは、理解出来た。
「次は此処だ」
「はいっ」
福島美月が、斧を鎖1部分に宛がっている。
その斧を目掛けて、宮城陸がハンマーを斧に向かってフルスイングした。
ガキィィィィン!
「ひっ…………あっ」
く、鎖が……鎖に大きな傷が出来ている。
「もう一度だ」
「はいっ」
ガキィィィィン! ……ジャラン……
私の左手も自由になった。
私は助かるの? 情けないけど私は泣いてしまった。
……
…………
………………
「宮城さん、助かるのが解っていたなら、教えてくれれば良かったのに……」
「ふん……言っても信じねえよ」
無愛想な宮城さんに福島美月が質問してくる。
「陸さん、どうして山形さんを助けられるって知ってたんですか? どうしてですか?」
あっ宮城さん面倒くさそうな顔をしてる……
「あー、ぶっちゃけ上手く考えりゃあ、全部の部屋で誰も死なずにすむぞ……」
「「えっ?!」」
福島美月……福島さんでいいわよね、その福島さんと言葉が被った。
「さっきの部屋……武器が6本づつ有ったろ……それが答えだ……」
「???」
福島さんは未だ理解できないみたいね。
同じ武器が6本って事は、上手く立ち回れば6人とも、生存可能だったって事よね…… いったいどうやって……
でも、宮城さんが教えてくれた。
首輪の部屋では、3人づつ交互に鍵を取りに行って、それから解錠すれば2分かからないって言っていた。
解毒薬の部屋では、1本で2人分の解毒薬だろうって言っていた。
そして、十字架の部屋では鎖に脆い箇所があったと言う……
なんで、こんなに頭が切れる人が、町裏にたむろしているチンピラみたいな、佇まいをしさているの?
男は、外見じゃないって思いました。
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宮城陸は1つの失敗をした。
それは、これから行うサバイバルゲーム用に槍と斧を普通に持ち歩いた事だった。
(まさか、床と壁が協力な磁石になっていたとは……)
宮城陸が今後のためにと、持ち込んだ武器は床と壁に張り付いてしまったのだった。
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サバイバルゲームは5日後……それまで、この何もない部屋で待機する事になる。
この部屋は、ただの待機場所だが、壁に鉄製の小扉が30個も有り、その中には1日分の食料が有った。
この鉄製の小扉は遠隔操作で解錠出来るようになっていて、1日に生存人数分の扉が開く仕組みになっていた。
部屋の隅に仕切りがあり、そこにはトイレとシャワーが設置されていたが、使える水は衛生上とサバイバルゲームに使えない様に、強力な消毒剤が混じっている。
トイレットペーパーは有るが、バスタオルは無く汗を流す程度の機能しか無かった。
そして6人分の衣類が置いてある。
ただそれだけの部屋だった。
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5日後……
生き残った『宮城陸』『山形葵』『福島美月』の
サバイバルゲームの時が来た。




